カルデアに見捨てられたので単独で特異点巡ります   作:脳みそ縛り

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レフ「爆弾が一つ足りない。せや、一番役立たずそうなの選んで生かしといたろ!」
そういう作品です


※描写の手直しをしました。また、別行動の理由を書き足しました。


第三特異点

 自慢じゃあないが、うちの家はそこそこに裕福な方であったと思う。

 家は屋敷で、庭には奇怪な模様が描かれるほどには広かった。それだけ大きい家を掃除をするのは母ではなくお手伝いさんであったし、父は数えきれないほどの本に囲まれていた、時々あるパーティーに向かう際の俺のおめかしは豪華だった。一人っ子だったから甘やかされることもなかったし、挫折も何度も味わった。かと言って厳しすぎることもなく、愛を確かに感じられる、そんな家だった。

 そんな家に生まれた俺はすくすくと育ち、親から学びながらも、魔術師となった。正確には魔術使いと呼ばれる人間なのだが、そんなことは大した問題ではない。重要なのは俺が魔術に関わっている人間だということだ。

 

 それは、2016年のことだ。人理は焼却され、世界は滅亡へと追い込まれた。

 それを救えるマスター候補生は世界に俺ともう一人の二人しか残らなかった。俺はマスター適正を持つ人間の、その片方になってしまったのだ。

 爆弾によるテロを受けたものの比較的傷の浅かった俺はコフィンの中で目を覚まし、サーヴァントであるダ・ヴィンチや医者であるドクターロマニの看護を受けることで、第一特異点から復帰。サーヴァントを召喚しマスターとなって、第一マスターである藤丸立花と共に竜の魔女を撃破。第二特異点も協力することでなんとか突破し、いよいよ折り返し付近ともなり第三特異点、その終盤に差し掛かった頃のこと。

 俺に不幸が降りかかった。

 

 メディアリリィは己に課された役目と言うのをよく分かっていた。だから呼び出す魔神柱を一体だけ済ませるようなことはしなかった。魔神柱は、別行動中である俺たちの所にも現れた。

 俺のサーヴァントはスナイパーだ、遥か遠く遠く、肉眼では目視は不可能なその場所に寸分の狂いなく当てられる。クラススキルである単独行動を持っていないからマスターが常に側に居なければダメな所がたまに傷ではあるが、スナイプ自体に支障はない。

 それを活かした役目を請け負って、こうやって群島の一つに構えていたのに、それがこんな形で裏目に出るとは思ってもいなかった。

 いや、こうなっても仕方ないのだろう。実際俺は自惚れていたのだ。サーヴァントの力を自分の物だと思って、サーヴァント自身の力を過信していたのだ。その隙をこうして良いように付け込まれてしまった。自業自得に他ならない。だから戦った。

 

 我が家の魔術で雀の涙程度の妨害しつつ、その隙を見逃すことがないサーヴァントと共に戦い、見事勝利した。サーヴァントと魔神柱は相討ちであったが、これはまだ問題ではない。申し訳ないと思う気持ちはあったが、カルデアを仲介として契約したサーヴァントは座に変えることなく、討たれたとしてもカルデアに帰ってくる。多少のタイムスパンはあるが、彼女とは無事再会を果たせる。

 帰ったら感謝の気持ちを表して、ちゃんとお礼の一つも言おう。帰るための報告のためにと魔術を行使しようとした、その時だった。

 森の奥から、その巨体が現れたのは。

 

 金色のタテガミ、妖しく光る紅の眼光、そして恐ろしいほどの魔力。合成獣(キメラ)が牙を向けて、天へと咆哮した。

 

 合成獣(キメラ)自体は大した脅威ではない、相手の弱点を的確に見抜く知能と研ぎ澄まされた野生の勘は恐ろしくはあるが、霊基向上したサーヴァントの敵ではない。知能は高くとも所詮は獣であることに変わりはないのだから。だが、こちらにもうサーヴァントはいない。攻撃するほどの魔力も残っていない。

 詰んでるとも言えるこの状況。だがまだ手段はある。

 戦闘服に積んであるガンドの機能を使い、その場を脱出しつつ、通信を行使した。

 

「ドクター、ドクターロマニ!」

 

《あぁよかった、無事だったんだね! 状況の報告は!?》

 

 息を切らしつつ報告を行う。魔神柱はサーヴァントと相討ちになったこと、キメラに襲われていること、そして攻撃に転ずる魔力も残っていないこと。その上で二つの提案をした。

 

「立花のサーヴァントをこっちに送れないか!? 従わない奴でもいい、とにかくキメラを妥当できるレベルの奴だ!」

 

《無理だ! 今立花君は魔神柱との戦闘中だ、向こうはメディアリリィもついていてしばらく決着は着きそうにない! 長期戦で向こうへのサーヴァントの配給を止めてしまって彼の身が危ない、しかも相手には聖杯もついてるんだ。手を抜くことなんて出来ない!》

 

「なら強制帰還だ、そっちはどうなんだ!」

 

《それなら問題ないはずだよ! 強制帰還準備!》

 

 随分と距離が離れたところで、木の幹に隠れて息を整える。最後にとんだハプニングが起こったが、なんとか無事今回も役目を果たせそうだ。そう、安心したところだった。

 

《だ、駄目です、帰還システムに異常! 強制退去以外始動できません!》

 

《なんだって!?》

 

 絶望の足音が聞こえてきたのは。

 

「……は?」

 

《レオナルド!》

 

《もうやってる! あぁくそなんだこれ、見たこともないバグだ! いやウィルスか!? くそっ、こんなの一時間や二時間で終わらないぞ!》

 

《ここはあらゆる時空域から隔離されたカルデアなんだぞ!? ウィルス混入なんてできる訳がない! 事前に仕込まれたバグだとしても、発症が遅すぎる!》

 

《だが実際にこうして問題は起きている! なにかしらの影響を受けたとしか考えられない!》

 

 ひたり、ひたりと聞こえてくる。

 

「……おい嘘だろ。強制退去しかないって、冗談じゃないぞッ。ドクター、向こうの戦闘は何時終わるんだよ!?」

 

《……すぐには終わらない、まだ光明すら見出だしてない状況だ。30分……いや、一時間……》

 

「そんなに逃げられるか! こんな小さな島で逃げ切れる訳ない! しかも海にも敵対生物がうじゃうじゃいるんだろ!? 泳いで逃げられない、いやそもそもあいつが泳げるかもしれないんだぞ!?」

 

《落ち着いてくれ、まだ救いがないと決まったわけじゃない。今スタッフ総出でウィルス撃退に全力で取り組んでいる。ダ・ヴィンチちゃんもいるんだ、きっとそう時間はかからない》

 

「勘弁してくれよドクター、そんな気休め言ってる場合じゃないのなんて分かってッ……!」

 

 言葉は最後まで紡げなかった。息が詰まったわけじゃない、先が思い付かなかったわけじゃない。突然の体の変調に、襲い掛かる違和感があまりにも大きすぎたから。体が少し軽くなったような感覚に、どこか物足りない空虚感。肩から伝わってくるような気がすると目線を向ければ、肩の四割ほどが消し飛んでいた(・・・・・・・)

 

「――――あ、あああァァァァァァあああああああッッッ!」

 

 熱い、熱いっ。熱いッ。傷口が熱した鉄棒を押し付けられているかのように熱い。痛みだとか、違和感だとかはもうどこぞへと吹っ飛んでいた。今は、ただただその熱に狂いそうになるしかなかった。

 

「肩が、俺の肩がァァァァあッ!」

 

 なんだこれは。どうすれば逃れられる、どうすれば終わる、どうすれば感じなくなるんだ。

 わからない、何がどうなっているんだ。

 そもそもどうして俺の肩はこんなことになったんだどうして俺はダメージを受けているんだどうして俺はこんな目に合わなきゃいけないんだ。

 混乱した考えを抑えることもできずただ絶叫をあげる。通信からは何も声が聞こえない、どうして何も言ってくれないんだドクター、あんたが役割を放棄するなんて間違ってる。

 その時、血に飢えた獣のゾっとする唸り声を耳が捉えた。

 

「ひっ……!」

 

 合成獣(キメラ)だ、間違いない。奴がすぐ側に来ているんだ。

 もう駄目だもう嫌だもう無理だ。逃げなければ、逃げなければならない。

 何処にだとか何時までだとかそんなこと考えてられない、逃げるんだ。死にたくない、まだ生きていたい。

 死にたくない、死にたくない。

 

 肩を押さえて走り出そうとして、力強い何かに引っ張られる感覚を味わう。いや、引っ張られるというより、引っ張ろうとしているがこちらの力が足りていない感覚に似ている。まるで固定されたかのような足を見てみれば、蛇が睨みを効かせて人の脚に牙を立てていた。牙は、俺の脚を貫通していた。

 

「ぎっ、ああああァァァァァァッ!」

 

 熱が二つに増える。思考が何も纏まらない。ただ心の底で、もう助からないんだなという絶望だけが、泥のようにあっては沸いてくる。

 俺はもう死ぬんだ。

 

「嫌だァッ! 死にたくない、死にたくない! 食われたくない、こんな死に方したくない!」

 

 声は届いても、聞き届けてはもらえない。

 獅子が口を開く、鋭利に作られたその二対の犬歯は、なんの抵抗もなく俺の肉を切り裂くだろう。そこから逃げる術はない、絶対的な死がそこにはあった。

 

「助けて、助けてっ! ドクター、ダ・ヴィンチ、立花、マシュ、アーチャー! 助けてくれェッ!」

 

《――大仁君》

 

 ドクターの優しい声が聞こえる。

 

《君の存在は、とても立派だった。世界を救うなんて重責、並の人間では耐えられないだろう。だから君は、本当によくやったと思う。前だけを見続けるその姿勢は、もう一人のマスターとして多くの者に希望を与えたことだろう》

 

「ドク、ター?」

 

 なんだ、その語りは。やめろ、やめてくれ。そんなことをしている暇があったらこいつをなんとかしてくれ! 俺を逃がしてくれ! 俺を助けてくれ!

 

《――――大仁 陣。お疲れ様。君のことを、絶対に忘れたりはしない》

 

 それは、俺の生存を諦めると断言したも同然だった。

 

「ふっ、ざけるなドクターッ。なんでだ、なんでそんなことできるんだよ! 同じ世界を救う仲間だろ、これまで頑張って来たじゃないか、なんでそんなに容易く俺を見捨てられるんだよッ!」

 

 死にたくない、死にたくないんだ。本当なんだ。嘘じゃない、俺はこんなにも生きたがってるぞ、見てわかるだろ聞いて理解できるだろあんたはドクターなんだから察することができるだろドクター。どうしてそんな顔で笑ってるんだ、どうして通信を切ろうとするんだ。

 やめてくれドクター、俺は死にたくない。見捨てないで。

 

「嫌だ、嫌だ! 死にたくない、食われたくない! こんなの理不尽だ、俺は立派に戦ったのに、俺は俺の役目を果たしただけなのに、なんでこんなことになるんだよ! あんまりすぎるだろ、報われなさすぎるだろ! こんなの、人の死に方じゃないッ!」

 

 ドクターは何も言わない、ダ・ヴィンチでさえも、カルデアのスタッフすらも。応えはない、ここで俺は一人で死んでしまうのだろうか。

 

「嫌だ、そんなの理不尽だッ!」

 

 どんな人類も必ず味わうであろう理不尽の重さ、痛み、辛さ。それは古くからも変わらないし、恐らくこれからも変えられない。こういう時、ジンクスを信じる人の気持ちが痛いほど分かる。何かにすがらなければ、何かのせいにしなければ、やっていられない。それこそ狂ってしまう。

 俺のせいじゃない、俺のせいじゃない。悪いのはなんだ、アイツらか、それともアイツらか。わからない、何も分からない。でも俺のせいじゃない!

 

「理不尽だ、理不尽だ、理不尽だ! 死にたくない、理不尽なんかのせいで……」

 

 牙が降り下ろされる。絶対に命を断つ、死神の鎌が如く。

 右手の呪いが、赤く熱を持った気がした。

 

「死にたくないッ!」

 

 光が迸る。視界が赤に染まり、黒が過る。最後に青空が一杯に広がって、

 思考が途切れた。




そのドクターは、大きく口を裂いて笑みを浮かべた。
背後には誰もいなかった。




アーチャーの単独行動についてご指摘していただきましたので、こちらでもその返答をば。描写した通り、大仁 陣のサーヴァントであるアーチャーに単独行動は付いていません。というのも、単独行動とはまた別の、限定的ではありますがそういうスキルを考えております。

「何も考えてないけど、適当に伏線っぽく書けば見逃してもらえるだろ! 勝ったなガハハ!」と思ってたら見事に突っ込まれて自分の情けなさと技術の低さを改めて思い知った所存であります。
 こういう作者が書くのでこれからも矛盾点やら今までの描写と食い違うような部分が頻繁に出てくるかと思いますが、どうかご容赦くださいませ。そして出来れば優しくご指摘くださると嬉しさのあまりちくわに巻かれた金メッキを脳内配達で送らせていただきますのでご期待ください。
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