「雪ノ下が?あいつもALOやってたのか。なんか意外だな。」
「うん。私も初めて知ったときはびっくりしたんだけどね。なんでも陽乃さんに無理やり押しつけられたんだって。ゲームの中だとわざわざ会いに行く手間が省けるし好都合なんだって。」
「つまりはあくまで連絡用ツールってことか。雪ノ下らしいな。」
「名目上はそういうことになってるんだけどね...」
「どういうことだ?」
「会えばわかるよ。ほら、あそこにいるのがそう。」
由比ヶ浜の指さす方向を見ると、そこには黒髪のケットシ―の少女が立っていた。彼女は少し釣り目がちで黒猫のようにつんとすまし顔でいるが、目の前をケットシーが通るたびに耳がピコピコしたり手がワキワキしたりしていて周りの注目を集めていた。
てか、あの猫好きはどう考えても雪ノ下だよな...
「おーい!そこの猫大好きフリスキーさん!こっちだこっち!」
大声で叫んでやると、雪ノ下は一瞬周りを見回した後すぐこちらに気づいて顔を真っ赤にして歩いてきた。
当然、周囲の注目を集めいているので見掛け上は何もせず、けれどしっかりとみぞおちを殴ってきやがった。そしてシステムの判定はセーフ。やっぱりこの欠陥は運営に報告する必要がありそうだ。
「何かしら、比企谷君。突然わけのわからないことを叫び始めて脳みそが腐ったのかと思ったわ。ああ失礼。始めから目は腐ってたわね。きっとそこから脳もやられたのでしょう。いい病院を紹介するからぜひ行ってみて頂戴。あなたの使えそうな部分は最大限有効活用してくれるわよ。それで多くの人が救われるならきっと名もなき臓器提供者として電子上の数値として生きていけるわよ。」
「余計なお世話だ。目は腐ってはいるがまだ脳まで到達はしてない。」
「ヒッキー、目が腐ってるって自覚はあったんだ...」
由比ヶ浜が苦笑いする。主にお前ら周辺の発言が原因なんだがな。
「ところで、本題はなんだ?わざわざ呼び出してくるってことはゲーム内で何か用事か?初めに言っとくが俺は今回あまりトラブルに関わりたくない。だから役に立たないと思うが一応聞いておく。用はなんだ?」
「それは助けないことを前提に話せってこと...?」
「仕方がないよ。だってヒッキーだもん。」
「そう言うこった。もしそれが嫌なら諦めて他を当たれ。」
俺が冷たく突き放すように言うと、雪ノ下は一瞬何かをこらえるように唇を噛むと話し始めた。
「実は最近、ゲームで私と姉さんが何者かに追い回されてるの。」
「それって、ストーカー...」
「ええ、そうね。私たちのパーティーのメンバーにまで手を伸ばしてきて...姉さんは運営に言ってはいるんだけど、付きまとい程度だと証拠が無いと動いてくれないらしいの。」
「だったら高レベルプレイヤーに討伐を頼んでみるとかはしたのか?」
「したけど、すぐに復活するから意味がないわ。おまけに、ストーカーもかなり強くて討伐隊が何人かやられたの。どうやら複数人でパーティーを組んでやってるようね。」
それを聞いて俺が思わず顔をしかめると、隣で由比ヶ浜も神妙な顔をしていた。
相手が油断していればこっちのものなんだが、複数人を同時に相手となると少し無理があるな...
おまけにゲームシステム上、復活があるということはいくら倒しても意味がないどころか戦った全員が顔を覚えられて復讐される恐れがあるということだ。相手にばかり有利な条件でさすがの雪ノ下もお手上げなのだろう。
「陽乃さんは何か言ってるのか?あの人なら相手に地獄を見せそうなものなんだが...」
「姉さんが得意なのはあくまで情報戦よ。一応、人並み以上に武術のたしなみはあるけれど、経験の差を覆すほどではないわ。」
「となると万事休すか...」
「あなたは何か案はないの?それを期待して呼んだのだけれど。」
「こういうことに関しては俺よりもっと得意なやつがいるんだよ。な、セレビス?」
「はい!そういうことならお任せください!」
俺の胸元からひょこっと顔を出したセレビスが元気よく返事をする。
「あら、ナビゲーションピクシー?それにしてもセレビスって名前は...」
「いい名前だろ?こいつにはぴったりだ。」
「卑屈が似合うのはどう考えてもあなたのほうでしょう... まあいいわ。あなた、どれぐらいの権限を持ってるの?一プレイヤーが持てる分だから大したものはないんでしょうけど。」
「いえ、さきほどご主人様に脅されてカーディナルシステムからいくつかの権限を奪ってきました!その際、私と同じナビゲーションピクシーのようなシステムが手助けしてくれたので容易に侵入することができました。
なので今の私は会った人物のプロフィールとダンジョンの地図の全体図表示など、いろいろとパワーアップしていますのできっとお役に立てます。」
「むしろ比企谷君のほうがストーカーになれそうな能力ね。」
「こんなちっちゃな子に犯罪を犯させるなんて、ヒッキー最低!」
「いや、俺もここまでしろと言った覚えはないんだが....」
俺も困惑しているのをよそに、セレビスはさっそく何やら操作を始めていた。
「何してるんだ?なんかたくさんのプレイヤーの名前が挙がっているが...」
「今回の件に協力してくれそうなメンバーのリストを作成してるんです。
そうですね... まず初めに黒の剣士さんから当たりますか。」
「いきなりの大物!?そんな人が助けてくれるとは思えないんだけど...」
「私も同意するわね。何の見返りもなく助けてくれるわけがないわ。それよりももっとほかのプレイヤーを当たったほうがいいんじゃないかしら?」
「いや、ここはこれぐらいがちょうどいい。ダメもとで言ってみて、そのことを本人が周りに言いふらしてくれたほうが敵へのけん制になる。これだけのハイレベルプレイヤーを集めてると勘違いしてくれたほうが都合がいい。よくわかってるじゃないか。
「ありがとうございます!さっそくこの調子で頑張っていきましょう!」
俺たちが意気投合していると、雪ノ下たちはそろってため息をついていた。
「ペットは飼い主に似るっていうけど...」
「こんなところが似なくてもいいのにね...」
「おーい!早くしないと置いていくぞ!次の目的地はアルンだ。結構な長旅になるぞ。今のうちのこの街で済ませておかなきゃならないことは何かあるか?」
「特にないわ。由比ヶ浜さんも、大丈夫よね?」
「うん!問題ないよ。」
「それでは、不肖このわたくしがナビゲーションを務めさせていただきます。」
セレビスの言葉を合図に俺たちは空へ飛び立った。
余談ですが、セレビスは「servile」をもじった感じで、意味は卑屈です。八幡の分身に相応しい(?)名前。