店に着くと、リズベットが外に出て俺たちを待ってくれていた。
「お帰り。買い物はどうだった?」
「とても楽しかったです。わざわざ気を使っていただいてありがとうございます。」
「元気になってくれたんならそれでいいよ。せっかくゲームやってるのに楽しめないなんてもったいないじゃん?」
「...それもそうですね。」
「でしょ?だからストーカーみたいなやつらが嫌いなの。せっかくゲームを楽しもうとしてるのにそれを邪魔しようとするなんて本当にひどい連中よね。」
こうしてみるとはリズベットが本当にこのゲームが好きなんだと実感させられる。そして雪ノ下もかすかに同意を示している。由比ヶ浜もぶんぶん首を縦に振っている。...やっぱりこいつは犬だな。
一方も俺はというと、実のところまだそこまで愛着がわいてない。なにせこちらはまだ初めて一日目の身だ。
これから楽しんでいこうというところにPKに出くわして今こうしてストーカーの一件に巻き込まれている。
どうやら俺はゲームの中でも息抜きはできない身らしい。
こうなってくると、俺がこのゲームを楽しめる日は来るのかと考えてしまう。うん。無理そうだ。
この一件が終わったらとっとと引退するかな... アミュスフィアは小町にでもやればいいし、手に入れたアイテムでレアなのはディズティたちに分ければいい。
「おーい。80000?大丈夫ー?」
「あ、ああ。少し考え事をしていただけだ。」
「そういえば君も開始早々PKにあったんだって?」
「ああ。何とか撃退したけど。」
「そういう意味じゃあ、君も被害者の一人かもしれないね。」
「単純に俺が不幸なだけだよ。システムエラーを引いたのがそもそもの原因だし。」
「そうやって自分にばっかり責任を集めてるけど、そこは普通にPKに怒ってもいいんじゃない?そうしないと楽しめないよ?」
「...考えておく。」
俺が答えをはぐらかすとリズベットはため息をついた。
「ま、今から会いに行くやつも何でも一人で背負い込もうとするやつなんだけどね。もしかしたら、80000のなかで何か変わるかもしれないよ?」
「ああ。そうかもな。」
嘘だ。この程度で俺の中の信念はそうそう変わらない。
PKも疎まれる行為ではあるが、このゲームでは禁止されていない。一方のストーカーは付きまとい行為の禁止がなされているからには当然アウト。
だから今回は雪ノ下のために動くことにした。それだけだ。
リズベットはこの話についてそれ以上何も言おうとはしなかった。
「それと、集まる人が増えすぎたから場所が店じゃ手狭になっちゃって。いまからみんなで移動するからついてきて。」
「え?ちょっと待ってくれ。いったい何人集まるんだ?」
「そうだね...ざっと10人ぐらい?たぶん、これからもっと増えるよ。下手したら今の倍以上は来るかも。」
「倍以上って...」
雪ノ下も予想以上の大ごとになって少し驚いている。俺だって集まって4、5人がいいところだと思ってたのに。
「やったね。これでいっきにストーカーを倒せるじゃん!よかったね、ゆきのん!」
「え、ええ...」
由比ヶ浜だけが無邪気に笑って雪ノ下が顔を引きつらせる。
「どうするの?あなたの作戦では少数精鋭で敵をかく乱するつもりだったようだけど。」
「いや、人数が多いに越したことはない...はずだ。それよりも、裏切りやスパイの可能性のほうが怖い。」
「それもそうね...やはり手の内をすべてさらすのは控えたほうがいいわね。」
「それなら、私が参加するプレイヤーの素性を調べましょうか?その中で安心な人にだけ本当の作戦を知らせるのがよいのではないでしょうか。」
「じゃあそれで頼む。それと、雪ノ下と由比ヶ浜は警備のローテーションを組むのを頼む。」
「わかったわ。でもあなたは何をするの?」
「黒の剣士は顔が広いらしいから、その伝手を辿って何個かギルドを調べてみる。大まかな目星はセレビスがつけてくれてるからそこからいくつか絞って調査すれば手掛かりは得られるはずだ。」
俺がそう言うと由比ヶ浜は少し心配そうな顔をした。
「大丈夫?それってヒッキーが結構危ないんじゃ...」
「安心しろ。いざとなったらすぐ潜伏スキル使うし、あとは黒の剣士が何とかしてくれるはずだ。」
「いっそすがすがしいまでの他力本願ね。それでこそチキン谷君の面目躍如よね。」
「ちょっとかっこいいところがあるかなって思ったらすぐこれだよ...だからヒッキーは友達ができないんだよ。」
散々な言われようだ。だが、俺が参戦しても足を引っ張るだけだから何もしないのが最善手だ。物事には役割というものがある。
俺はひたすら、卑屈を貫いて情報を集めるだけだ。
「そろそろ話し終わった?そろそろ行くわよ。」
「そういえば、どこに行くんだ?まだ場所を聞いてないんだけど。」
「あそこよ。」
リズベットが指さしたのは真上だった。つまりは空の上。
「世界樹の頂上か?だったら納得___」
「違う違う。あれよあれ。」
言われてよくよく目を凝らしてみると、そこには空に浮かぶ黒い鉄の城があった。
「あれは...?」
「新生アインクラッドよ。あそこにしりあいが借りてる部屋があるから、そこで会議をすることになってるの。」
「あ、あそこまで、飛ぶの...?ちょっと高すぎない?」
「大丈夫よ。今までみんなちゃんと飛べてたから。ほら、早く羽出して。」
由比ヶ浜が涙目でこっちを見てくるが俺にはどうしようもない。諦めろ。
「それじゃ、行くわよ?」
リズベットが飛び始めたのを見て、雪ノ下も後ろについて飛んだ。あいつ、飛行がめちゃくちゃうまいんだよな。アルンに来るまでもアクロバット飛行を披露してたし。ただしすぐにばてるのが難点だが。
「ほら、由比ヶ浜。行くぞ。さっきまで飛べてただろ?いまさら何を怖がってんだよ。」
「うう...ええーいっ!怖くない怖くない下さえ見なければ大丈夫...」
「見ろよ由比ヶ浜。人がまるでごみのようだぞ。」
「えっどんなかんじ?って高っ!怖いよ助けてー!」
空中で立ち往生した由比ヶ浜を放っておいて俺はリズベットたちの後を追った。
少しは高いところになれろ。雪ノ下なんてアクロバット飛行しながら魔法まで撃ってきてるぞ。って、魔法?
「ちょ、まて雪ノ下!なんで俺ばかり狙って___________」
「あら、間違えたわ。後ろから天然温泉の源泉のような視線を感じたから。」
「どんな視線だ!あと、間違ってたと思うなら魔法を詠唱するのをやめろ!」
こうしてる間もずっと打ってくる魔法にをぎりぎりで避けながら、俺は周囲の索敵を行なっていた。
『敵感知、3人か... 少し不利だが、やるしかなさそうだな。』
雪ノ下は俺をぎりぎりで外れるように魔法を追手に向けて連発していたが、一向にあたる気配がない。
相手との距離が開きすぎてすぐ避けられてしまっている。
「『ブラインド』っっ!」
周囲に煙幕を張るが、相手を巻き込めていない。
「食らえっ!」
懐から小刀を取り出してふるうと、熱風が巻き起こり煙幕を敵へと吹き飛ばした。
相手は慌ててよけようとするが、空中で立ち往生していた由比ヶ浜が機転を利かせて後ろから冷気の風を押しやって逃げ道をつぶした。
そこで横に逃げようとしたところをリズベットと雪ノ下が狙い撃ちした。
「ぐっ!?こいつら...」
「ちいっ!いったん引くぞ!」
そのまま離脱を図る二人を、由比ヶ浜の氷と俺のデバフで足止めする。
「観念しなさい。あたしは今そこそこ切れかかってるからね。」
「しっかりとリーダーの居場所を吐いてもらうわよ。」
二人の圧倒的威圧感の前に追手たちはなすすべもなく捕まえられた。」
これで一安心かと思ったその矢先、
「ヒッキー!後ろ!」
「まずいっ!?油断した!」
忘れていたもう一人が後ろからタガーで首元を狙ってきていた。とっさに避けれず、俺は無我夢中で魔法を繰り出した。
すると、来るべき攻撃は通らずに俺の手元には確かな感触があった。いける!
「反撃だあっ!」
カウンターに首筋を狙って一振りすると重たい感触とともに相手の首が飛び、青白い炎となった。
「これでホントに全員か?」
「ええ。それにしても大戦果ね。一気にボスへと近づくことができるわ。」
「くっそ...てめえら、プレイヤーを強制的に連行するとおれが運営に言えば即座にBANされっ...ひいいっ!!」
リズベットに胸ぐらをつかみあげられ、追手は情けない悲鳴を上げた。
「あんたねえ。ストーカーしといてよくそんなことが言えるわね。なんなら今ここで話させてもいいのよ?」
「落ち着いて、リズベットさん。そんなに怒っては相手の思うつぼよ。」
そして捕まえた追っ手を絶対零度の眼で見下した。
「これは任意同行よ。私たちが捜査のためにあなたたちから話を聞くために自分の意志でついてきた。そうでしょう?」
「は、はいいいいいいっっっ!」
「よろしい。ではついてきなさい。逃げたら承知しないわよ。」
精神的に完全に上に立った雪ノ下に逆らうこともできず、追手たちは反抗せずおとなしくついてきた。
「あの娘、いったい何者...?」
「うう...ゆきのんがこわいよ...」
「私もです...なんですかあの人本当に人間なんですか擬態したボスモンスターって言われたほうがよっぽど納得できます。」
「言うな。俺もだ。」
皆が雪ノ下におびえ、絶対にからかうのはやめようと心に誓った瞬間だった。