自分を責めてしまう話です。
刀袋を手に取った瞬間、何者かが自分の背後に立っていることに気がついた。
今まで感じたことのない異様な雰囲気。
それは、妖気だというのが俺にはすぐにわかった。
何故なら
「夏目、振り向くな」
いつもとは違う、強く命令するような口調で俺の父さんは言った。
言われた通り振り向かずただじっと刀袋を手に取ったままの体制で固まる。
「人の子よ。その刀を我に渡すのだ」
「いいか、その刀は絶対に離してはいけないぞ!夏目!」
「ええい、人の子がごちゃごちゃと五月蝿いわ!!!!」
まるで家に鉄球でも当てられたかのような音が響き渡り、妖気も先ほどまで感じていたものとは全く違う身体全体がまるで重りでも乗せられたかのように身動き一つ取れない程のものになっていた。
相手の正体は何だ?
強力な妖ものなのか?それとも......
「人の子よ、その刀を我に渡せ。さもなくば殺す」
俺は反射的に振り返ってしまった。
「嫌だ、これは渡さない」
そう、俺は確かにそう言った。妖ものに。
確かにそう言ったはずだった。
だが俺が言葉を発した所には何もいない。
いや、いないのではなく見えなかった。
その存在を見ることすらできなかった。
誰もいない......?
いや、だけどここに何者かがいるのは確かだ。
声は聞こえるし、妖気も感じる。
なのに、
「何で、見えないんだ......」
「見えなくて当然だ人の子よ。貴様には見る力もなくなってきているのが我には分かる」
「どういうことだ?!」
「そのままの意味だ。貴様の人の子としては特殊な力は衰退、いや、失われつつある。だから、あの者には見えても貴様には我の姿が見えないのだ」
力が失われつつある?
俺は、土宮家直属の息子であり後継の子供でもある。
そんな俺が妖者でさえも見えなくなった?
いや、見れなくなった?
自分の状況を理解するのに呆然としたまま突っ立っていた。
そして、気付いた時には刀袋は俺の手から消えていた。
「この刀は貴様が持つのに相応しくはない。かと言って貴様が持つ資格も初めからないのだがな」
「なっ?!いつの間に?!」
「取られた事実にも気づかない、か。笑わせてくれるな人の子よ。貴様はそれでもあの祠を代々守ってきた家系のものなのだろう?」
「そうだ。だが...今は違う」
そう今は違う。
俺のせいで土宮の名を落としてしまったのだから。
絵里先輩にあんなことを言っておきながら自分が一番誰の役にも立っていない奴だった。
頼りないのは自分だった。
その事が頭をよぎりさらに俺の思考も行動も止まってしまった。
強制的にシャットダウンされて再起動に時間のかかるPCの様に。
失われつつある力。落ちていく土宮の名。2つの現実と向き合わなければいけない時夏目はどうなってしまうのか。
次回は絵里先輩がまた出てきます