お前にふさわしいソイルは決まった!!   作:小此木

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遅くなりました。


第20話

 

 

 

大魔闘演武(だいまとうえんぶ)が始まる3カ月程前~

 

俺の名前は、"ブラック=ウインド"。

 

………って()は名乗ってる。

 

今はってのは、記憶喪失で自分の名前も思い出せない"名無しの権兵衛"ってのが、今俺の状況なんだな!これが!!

 

いや~、フィンガースやダフネの嬢ちゃん、村の皆とこの2年間自分の事を色々調べてみたんだが…

 

()()()()()()()って物騒な拳法が使える事と、やたら体が頑丈で、やろうと思えば数週間飲まず食わずでも生きていけるトンデモ人間ってことしか分からなかったぜ。」

 

って、自分で言ってて何じゃそれ!?俺、本当に人間!?飲まず食わずって、普通の生物止めてね!?…ま、まさか某宇宙帝国が開発した戦闘アンドロイドとか!?

 

「あ~、やめやめ。今まで散々色んな人と考えて分からなかったんだ。今更そんな事考えても、埒が明かねぇぜ。」

 

散々考えても分からなかったから、俺は旅に出た。そして今、

 

「唯一残っていた記憶の中から、十傑集(じっけっしゅう)走りってのを再現し、()()を爆走中なんだな、これが!!」

 

十傑集(じっけっしゅう)走りってのは、()()()()()()()にさせずに走ることをこう呼ぶんだぜ。この走りを体得するには4つのステップをクリアする必要がある。ま、此処じゃ割愛するがな!

 

 

 

 

 

一人の男が海上を滑るように走っていた。

 

「し、しまった!!キセルを持ってきてない!!十傑集(じっけっしゅう)走りの上級者なら必要不可欠だったのに!!」

 

彼にとって大事な記憶に関する事を見つける為の旅だが、当の本人は気楽にそんな事を言っている。

 

「くっそ~!今度街を見つけたらキセルを購入せねば!!って俺、お金なかったんだ!!む、村での自給自足がこんな所で裏目に出るとは…」

 

彼、ブラックは悩む。キセルをどうやって手に入れるかを。……海上を走りながら。

 

「ま、人に会ったら何とかなるさ!!」

 

そう口に出しあっけらかんとしながら彼は、何処か町が無いか海上を走りながら探すのであった。

 

 

 

 

■□■□

 

 

 

 

海岸沿いにある少し廃れた建物から、女性たちの声が漏れている。

 

「クソッ!黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の奴ら、私達が女だけのギルドだからって舐めやがって!!」

「アラーニャ…」

 

此処は女性だけで結成されたギルド、人魚の踵(マーメイドヒール)

 

「あんな奴ら蹴散らして「アラーニャ!!」ご、ごめんリズリー…」

 

言い争っているのはドレッドヘアの女性のアラーニャ・ウェブと、パーマの掛かった髪のぽっちゃりした女性リズリー・ロー。

 

「あいつ等のやり方が気に入らないのは私も同じさ。でも、私らは5人しかいない少数ギルド。あいつ等を相手取るにはいささか人数が足りないよ。」

「で、でも!これ以上街の皆がひどい事されるのを黙って見てられないよ!!」

 

海辺に近いこの街に黄昏の鬼(トワイライトオウガ)がやって来たのは2年ほど前。以前ギルドがあった場所を、奇妙な拳法家と大男、トカゲのバケモノ達によって奪われて此処に逃げて来たらしい。当時出来たばかりだった人魚の踵(マーメイドヒール)は、彼らを快く向かい入れ2つのギルドで街を守って行こうと思っていた。

 

が、

 

「よう嬢ちゃん。羽振りが良さそうだな?俺達にも分けてくれないか?…無論、断れば分かっているだろうな?」

「ひぃぃぃ!!」

 

街で見かけた少女を脅し、金を巻き上げ、

 

「おいジジイ!誰が此処で商売していいと言った!!するなら俺達へ10万ジュエルの許可金と毎月2万ジュエル上納しやがれ!!」

「なんじゃと!?」

 

勝手に地主に成り代わり商売だけじゃなく、街全体を数の利を生かし管理しだした。

以前のギルド…根城にしていたところは、恐らく奴らの蛮行を目の当たりにした正義の味方が追い出したのだろうと街の人々は考えた。だが、転がり込んで来られた街の人々にとっては、いい迷惑だ。彼らもただ黙って見ているわけではなかったが、数が多いうえに魔法を使える彼らを追い出すには街の人々と彼女達では無理な話だった。評議院にも何度か視察に来てもらった。が、視察日は非公開なのだが、どう云うわけかその日は必ず彼らは大人しくしていた。恐らく評議院の中に彼らと通じている者がいるのだろう。

 

「2年間あちき達は耐えた!でも、もう!これ以上耐えられない!!」

「ベス…」

 

三つ編みの髪にそばかすが特徴のベス・バンダーウッドが、今まで抑えていた感情をさらけ出した。

 

「分かったわ。二人がそこまで言うなら、今まで行って来た評議院への報告は今日で中止し別ギルド…青い天馬(ブルーペガサス)へ助けを求めましょう。」

「なら、直ぐにでも連絡が必要ね。私かベスが連絡役。リズリーとリサが…「た、大変だ!!」ど、どうしたの魚屋のおじさん!?」

 

ギルドで黄昏の鬼(トワイライトオウガ)への対応を話し合っていたリズリー達の所へ、彼女達を気に掛けてくれている魚屋の店主が駆け込んで来た。

 

「さ、さっき大通りでルーちゃんが黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の連中に絡まれちまった!!」

 

店主の話も(ろく)に聞かないまま4()人はギルドから飛び出して行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、何か変わった拳法を使う兄ちゃんに助けられたんだけどよ…って、リズリーちゃん!?話は最後まで聞いてくれー!!」

 

店主は彼女達を追ってまた大通りへと駆けていく。

 

「ハァ!ハァ!!もう年かな?」

 

息切れしだした自身の年齢を考えながら。

 

 

 

 

■□■□

 

 

 

 

「助けてくれてありがとう!!ルーは〝ルー・ルピス〟って言うんだよ!!」

「ルー・ルピスか良い名前だな!!(……何だ?以前聞いたことのあるような名前だ。)」

 

海上を走っていたブラックは、丁度近くに見えたこの街に寄っていた。無論、キセルをどうにかして購入する為だ。

 

「おっと、俺の名は〝ブラック・ウインド〟ってんだ。ここいらに〝キセル〟って…えぇっと、煙を出す短い木みたなもんって売ってないか?」

「…う~ん、ルーは知らない。」

「分かった。教えてくれてありがとよ、ルー。変な奴には気を付けろよ!じゃあな!!」

 

ブラックは、次の人にキセルがこの街で売っているか聞く為その場を後にしようとして、

 

「これ以上、ルーに手を出すんじゃない!ぽっちゃりナメちゃいけないよ!!」

 

ぽっちゃり…していないパーマの掛かった髪の女性に頬を殴られ、

 

「私の糸魔法で拘束してやる!!」

 

蜘蛛の様な糸に拘束され、

 

「いっけー!あちきのニンジンミサイル!!」

 

ニンジン型のミサイルの雨に遭い、

 

「私の魔力を水の魔法に変えて…お願い!ルーを守って!!」

 

水に呑まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「申し訳、ありませんでした!!」」」」

「ごめんなさい。ブラックサマ。」

 

4人の女性とルーが水浸しになったブラックへ頭を下げた。

 

「いや~、怪我も無いし誤解も解けたから構わねぇよ!!」

 

当の本人はそんなに気にしていない様子。

 

「それでも、貴方にルーが襲われていると間違えて殴ってしまったわ。…傷は、あら?無傷?(…おかしい、私は本気で殴ったハズよ。無傷なんて!?)」

「ま、服が破れて、ビショビショになっただけだ。気にしなさんな!じゃ、俺はキセルを探しに「居たぞ!アイツだ!!」…はぁ、行けそうにないな。」

 

ブラックが動き出そうとした時、先程蹴散らした男が仲間を10人程連れ仕返しに戻って来た。

 

「俺の弟分を痛めつけてくれたらしいな!!」

「俺達に舐めた真似しやがって!唯で済むと思うなよ!!」

 

彼らはブラックへ詰め寄ろうと近づいて来た。

 

「…兄さん、私達があいつ等を相手するから、そのうちに逃げ「おいでなすったか…!滅刺(メイス)!!」てぇ!?」

 

ブラックはリズリー達の前に一瞬で出て来たと思ったら、男を含めた全員を目にも止まらぬストレートで倒していった。

 

「あ、アンタ何者…」

「な~に、只の通りすがりのモンだ。あいつ等あっちから来たな。ゴミ掃除と洒落込みますか!!」

「ま、まっ…行っちゃった。」

 

リズリーの静止も届かず、ブラックは一人で黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のギルドがある方向に走って行ってしまった。

 

「……。」

「あ、あの人一人で行っちゃったよ!リズリー!何呆けてんの!?強そうだったけど一人で100人を超えるギルドに殴り込みに行くなんて自殺行為よ!!」

「あ、あちき達も行こうよ!!ルーの恩人を見殺しなんてあちき出来ない!!」

「ルーもブラックサマを助けたい!!」

「最悪、倒れた彼を連れて逃げるのも視野に入れておきましょう。私も戦う覚悟をしましたから…行きますよリズリー。」

 

アラーニャ、ベス、ルー、()()がリズリーへ彼を追いかける事を促す。

 

「…分かったわ。私達人魚の踵(マーメイドヒール)をナメちゃいけないよ!!」

 

彼女達は走る。黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のギルドへ。

 

 

 

 

 

男の声が聞こえた。

 

『我は無敵なり、』

 

力強く、その声の前では誰も反論出来ない。

 

『我が〝拳〟にかなうものなし、』

 

その声に黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のギルド員達は、恐れ、逃げ惑う。

 

『我が一撃は無敵なり!!』

 

そして、街全体を揺るがすような衝撃が起きた。

 

霊悪(レイア)!!』

 

 

 

 

彼女達が到着したころには全てが終わっていた。

 

「嘘、でしょ…。」

「ま、まさか…。」

「あわわわわ。」

「すごーい!ブラックサマ!!」

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のギルドが跡形もない…。」

 

ガレキの上に立つ一人の青年。その周りには100人を超えるごろつきが倒れていた。

 

「ありゃ?アンだけ啖呵を切ってたのに、こいつ等口だけかよ!!」

 

いや、確かに黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の中には口だけ威勢のいい事を言って、大した実力の無い輩も多い。だが、それを含め全員を相手取って()()なのは異常だろう。

 

「おお、嬢ちゃん達。(わり)ぃけど、キセルってどっかに売ってない?後、こいつ等拘束するの手伝ってくれないか?」

 

この日黄昏の鬼(トワイライトオウガ)は二度目の壊滅を期した。今度は追い出されるのではなく、評議院の管理する独房の中なので、これ以上彼らからの被害が出る事は無いだろう。

 

「これがキセルです。それと、ルーを…ひいてはこの街を助けて頂きましたので、それは差し上げます。」

「いや~、なんか(わり)ぃな嬢ちゃん。でも、只より高いものはないって言うからな。なんか手伝う事あるか?」

「じゃ、じゃあ、ルー達に拳法教えて!ルー、もっともっと強くなってリサ達を守るんだ!!」

「ちょっとルー!!」

「良いぜ!じゃ、今日から少しの間俺の技術を伝授するぜ!!俺の名はブラック・ウインドよろしく!!」

 

ブラックはこのルーのお願いを快く承諾。

 

「はぁ、私はリズリー・ロー。リズリーって呼んでよ。」

「私はアラーニャ・ウェブ。アラーニャって呼んで色男さん。」

「あちきはベス・バンダーウッド。ベスって呼んでね!それと、野菜は好き?」

「私の名前はリサ・パツィフィース。リサって呼んでください。」

「…じゃ、今日からよろしく!それと、野菜は好きだぜ!!(…リサ、リサ?どっかで聞いた事ある名前だな。…ダメだ。思い出せん。)」

 

こうしてブラックは人魚の踵(マーメイドヒール)にしばらくやっかいになることになった。

 

接収(テイクオーバー)ウルフ・ソウル!!」

「じゃんじゃん攻めてこい!!」

 

ルー・ルピスの得意とするのは、変身魔法の接収(テイクオーバー)。半狼化し、その四肢と咆哮で戦う。

 

「ウォーターアロー!!」

「連発して制度が落ちてるぜ!刃拳(ハーケン)!!」

 

リサ・パツィフィースが良く使用するのは水魔法。変幻自在で様々な使い方が出来るからだそうだ。

 

そして、あっと云う間に3カ月が過ぎ、今日ブラックに鍛えられた人魚の踵(マーメイドヒール)は、大魔闘演武(だいまとうえんぶ)の本選に出場した。

 




ルーとリサは本人ではなく、似ているだけです。所謂パラレルワールドの人物です。
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