【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
※今話は下記SSのエピソードを流用しております。
興味のある方は先にご覧下さい。
#82486
『Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~』
第108話
やりたいことは その8 ~フリーズ~
決勝トーナメント進出ならず…。
タイムアップ直後は、観客席もグラウンドの中と同様の…なんとも言えない重苦しい空気に包まれた。
それでも、この試合に関して言えば、負けたわけではない。
寧ろ、不可解な判定があり、一人少ない状況で良く戦った。
それはみんな理解していた。
だから、泣き崩れ、挨拶もままならない選手に対し、すぐに健闘を讃える惜しみない拍手が送られ…それは彼女たちがピッチから消えるまで止むことはなかった。
応援に訪れたμ'sたち15人も同じだった。
選手の姿が見えなくなるまで、立ち上がり拍手で見送った。
「お疲れさまでした!」
「応援、ありがとうございました!」
ひとりきり、そのほとぼりが冷めると、穂乃果たち一行は、周囲にいたサポーターから握手を求められた。
そしてなにも戸惑うことなく、極々自然に、彼女たちもそれに応えた。
この試合が行われていた間は、芸能人だろうと一般人だろうと関係なく『同じ仲間』として、一体となり日本を応援した。
海未などは声を枯らし、話す言葉が聴きとれない。
それほどピンチに悲鳴をあげ、ゴールに絶叫した。
TVの中継が絡んだ『ゲスト的な観戦でない』ことはサポーターも理解していたようで、彼らからすれば、真剣に声援を送っていた彼女たちに『本気』を見たのだろう。
それが感謝の言葉になって現れたのだった。
熱い激闘の余韻は冷めやらぬまま…しかし、やがて彼らは現実の世界に戻されていく。
いつまでも、ここに留まるわけにはいかない。
会場をあとにするサポーターの青い波は、出口へと吐き出され、スタンドの観客席が、徐々に露(あらわ)になっていく。
μ'sの周囲にいた彼らも帰り支度を始めたが、ふと我に返り、思い出した。
日本を応援していた同志が、超有名人であったことを。
「あの…最後に一緒に写真、いいですか?」
こんなチャンスは滅多にない。
アクアスターとA-RISE…そこに滅多に絡むことがない浅倉さくらがいて…なおかつ、つい先日『再結成は不可能』と報じられたμ'sが全員揃っているのだ。
それはそうだ。
このチャンスを逃さない手はなかった。
「ええ、いいわよ。問題ないわね?」
彼らの要望に、意外とあっさりとツバサが返事した。
特に打ち合わせをしたわけではないが、彼女の狙いは何となくわかった。
だから
「いいんやない」
と希が代表で返事をしたが、μ'sのメンバーは誰も否定しなかった。
そこから、しばし記念撮影大会が行われ、彼らは大満足な様子で会場をあとにした。
「それじゃあ、私たちもこれで失礼するわ」
ツバサがμ'sに声を掛ける。
「これで…って、日本に帰っちゃうの!?」
「ごめんなさい、高坂さん。本当はもっといたいのだけど、スケジュールの都合で…」
「こう言うとなんだが、今日もかなり無理をして来たんだ」
「でも、もう1日くらいなんとかなならないのかな?せっかくここまで来て」
「穂乃果ちゃん、そんなん言ったらいかんよ…」
「そうだけどさぁ」
「私たちはこういうスケジュール、馴れてるし、気にしないで。国内にいても分刻みで動く日もあるし、ツアーだと四国~北海道~関西~九州~関東みたいな日程もザラだから」
と、あんじゅ。
「ひょえ~…」
「目が回る忙しさにゃ…」
「まぁ、そういうことだから…残念だけど。また、時間を見つけて会いましょ」
「ツバサさん…」
「私たちも…」
「えっ、アクアスターの2人も?」
「そして、私も…」
「さくらさんも?…そっか…みんな芸能人だもんね…」
穂乃果は…A-RISEは別としても…アクアスターと浅倉さくらの気さくな雰囲気に、ついそのことを忘れていた。
考えてみれば、普段の生活では決して交わることのない3人なのだ。
「また、会ってもらえますか?」
意外なことに、そう言ったのはめぐみだった。
「えっ?」
「そんな不思議そうな顔をしないでください…こういう言い方すると少し恥ずかしいですけど…これも何かの縁だと思うので…」
「ズバリ、友達になってください!!」
はるかはめぐみの言葉を遮るように、いきなり頭を下げながら、右手を出した。
その様子があまりに唐突過ぎて、プッとみんなが吹き出す。
「…なにか…変ですか?」
「い、いえ、そんなことないわよ。でも、ちょっと、穂乃果っぽかったかも…」
と絵里。
「へっ?私?」
「うん、なんか急に宣言しちゃう感じが」
「う~ん…ことりちゃんが、そう言うならそうなのかなぁ」
「仕方ないわねぇ。そんなに言うなら、友達になってあげてもいいけど…」
にこがアクアスターの2人を交互に見る。
「…」
しかし、ノーリアクション…。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
変な間を断ち切ったのは、穂乃果だった。
はるかの差し出した手を、ガッチリと握る。
「アタシはスルー!?」
「さすがアクアスター!にこちゃんの扱い方を心得てるにゃ!」
「合ってました?」
「マニュアル通りの完璧な『弄り』やね!」
「なんで初対面のアンタたちに弄られなきゃいけないのよ!」
「わぁ、すみませ~ん」
「海未さん、助けてくださ~い!」
はるかとめぐみが、おちゃらけて逃げるフリをする。
その姿を見て笑う面々。
「こらこら、2人とも、こんなところでやめなさい!」
と、さくらが注意する。
「わぁ、さくらさんって、ウチの絵里ちゃんか海未ちゃんみたいだね!?」
「え?」
「ビシッとしてる!」
と穂乃果が言う。
「そうかしら?まぁ、元々は、つばさと一緒にこの子たちの教育係だったから…。今はあんまり絡まないけど、私にとっては妹みたいなもので」
「そっか!はるかさんも、めぐみさんもことりたちの、ひとつ下なんだっけ?ずっと活躍してるから、あんまりそういう感じがしなくて」
「そうなの、仕事場じゃしっかりしてるから…。でも、普段はわりとこんななの。だから、友達になってくれるのは嬉しいんだけど、ダメなところがあったら、ちゃんと指導してあげてね」
「わかったにゃ!」
「アンタが返事するんじゃないよ!」
「凛も同い年でしょ!」
「そ、そうだったにゃ…」
にこと真姫に同時にツッコまれた凛。
その様子が可笑しくて、一同は再び笑いに包まれた。
「じゃあ、そろそろ…」
ツバサが腕時計にチラッと目をやった。
「あっ…うん…」
「あ、そうそう、大事なことを言い忘れてたわ」
「えっ?」
「今年のクリスマスにチャリティーライブをやる予定なの。まだ詳細は決まってないんだけれど」
「チャリティーライブ?へぇ、素敵だね…」
「良かったら出ない?」
「へっ!?」
「1日だけの再結成!」
「クリスマスに最高のプレゼントになると思うぞ!」
「悪くない話でしょ?私たちの永遠のライバル…μ'sの皆さま!」
「えぇ~!?」
「ごちそうさまでした」
「かよちん、美味しかったね」
「うん!」
スタジアムで観戦を終えた一行は「せっかくここまで来たのだから…」と『花陽の同意を得て』近くの繁華街で夕食を摂った。
「良かったわ、今日は花陽が『フリーズ』しなくて」
「ま、真姫ちゃん…」
「あの時は、本当に大変立ったんだから…」
「そうにゃ!凛なんか、かよちん死んじゃった…って思ったんだから」
「ウチが『ご飯屋さん』まで、抱っこして連れてってあげたんよ」
「皆さま、その節は、大変お世話になりまして…」
「『米国に来て、なんでお米が食べられないの…』とか『お米(コメ)ーターがゼロになった』とか、あれは名言やね!」
「うぅ…」
「今はどうしてるのですか?」
試合終了直後から比べれば、海未の声はだいぶ戻っている。
「は、はい。今はあっちでもネットで日本のお米を買えるんです」
「ひょっとして自炊してるのですか」
「3食は無理ですけど…」
「凄いね、花陽ちゃん!」
「いえいえ、ことりちゃん。自分の身は自分で守らないと…です」
「あはは…そうなんだ!」
「それにだいぶ、白米を食べなくも我慢できるようになりましたし…」
「本当に?またあんな思いはしたくないからね!」
「ごめんね、真姫ちゃん。でも3日くらいなら…」
「そんなに変わらないじゃない!」
「そうかな?」
「でも、あの花陽が…ずいぶん逞しくなったものね…」
「そりゃあそうだよ、絵里ちゃん!『親がなくとも子は育つ』って言うし」
「それなら、どうしてあなたは、いつまで経っても成長しないのでしょうか…」
「まぁまぁ、海未ちゃん、それは置いといて…」
「アタシからみると、昔のドジで頼りない花陽のまんまだけどね」
「うん、にこちゃん…花陽は変わってないですよ、なんにも。…っていうか、特にみんなの前に来ると、昔の自分に戻っちゃいますね」
「それでいいのよ。アイドルと食事以外でテキパキ、キビキビと動く花陽なんて、花陽じゃないもの」
「うん、そうだね」
「えっと…真姫ちゃんとことりちゃん、花陽のことを軽くバカにしてません?」
「誉め言葉よ、誉め言葉。みんな。アンタのぽわーんとしたところに、癒されてるんだから」
「さっきも、スタンドから走り降りてくるとき、転んじゃってたよね?」
「ぴゃあ!ことりちゃん、見てましたか!」
「みんな見てたにゃ~!」
「でも、花陽ちゃんらしい…って、みんな『ほっこり』したんよ」
「お恥ずかしい…」
花陽は顔を赤らめて下を向いた。
「ねぇねぇ、だけどさ…花陽ちゃん、太ったでしょ!?」
「ぴゃあ!」
「穂乃果、いくらなんでもそれは花陽に失礼です!」
「いやいや、甘いな穂乃果ちゃんは…」
「希ちゃん?」
「花陽ちゃんは、太ったんやなくて、またバストが大きくなった…んやろ?」
「ワシワシしなくてもわかるんですか!?」
「『E』から『F』にレベルアップ?」
「はい、実は…でも、そこ以外は変わってないんですよ…。はっ!ご、ごめんなさい」
「ちょ、ちょっと、誰に対して謝ってるのよ」
「にこちゃんに決まってるにゃ!」
「だから、凛!アンタも仲間のクセに、お約束のボケはやめなさいって!」
「私は敢えて触れないでいたんだけど…」
と、花陽の胸から視線を逸らす真姫。
「そうそう。虚しくなるだけにゃ」
「べ、別にそうは言ってないでしょ!」
「まぁまぁ、女の魅力は胸の大きさだけやないんから…」
「だからぁ!それも!毎度毎度、アンタが言っても嫌みにしか聴こえない!っつうの」
「ですが、やはり、羨ましいです…花陽、なにをすれば、そうなるのですか!?」
「う、海未ちゃん?」
「ど、どうしたん?」
「あ、いえ…一度しかない人生ですから、アレなのですが…豊かな胸というものも、それはそれで女性にしかない特権で…」
「は?」
「大は小を兼ねるといいますし…」
「?」
「…!!…ハッ!私は何を言ってるいのでしょうか…すみません、今の話は忘れてください!」
…まぁ、確かに海未の言う通りなんだけどさ…花陽ほどとは言わないけど、にこももう少し大きければ、人生変わってたかも…
…う~ん、凛だって、かよちんみたいな身体になりたかったにゃ…
…まぁ、私も興味がないわけじゃないけど…豊胸まではしたくないし…そんな薬も出回ってるらしいけど、医学的根拠がないって言うし…
「みんな難しい顔をしてるわね…」
「実は海未ちゃんと同じこと考えてるんやない?こればかりは、ウチもえりちも助けてあげられないけど」
「そんなに悩むことかしら」
「えりち、それはみんなには禁句やで!」
「あ、そ、そうね…」
「穂乃果ちゃん!」
「なに、花陽ちゃん?」
「すごく言いにくいのですが…」
「うんうん…」
「穂乃果ちゃんの方が、太ったと思うんだけど…」
「花陽、その通りです!穂乃果、こういうのをブーメランというのですよ」
「なるほど…そういうことやね?」
「?」
「つまり、穂乃果ちゃんは…花陽ちゃんを仲間に率いれようとしたんよ」
「!」
「あははは…」
「残念ながら、穂乃果には仲間がいなかった…と」
「うぅ…ヒドいよ、花陽ちゃん!裏切り者め!」
「わ、わたし?」
「ですから、自業自得です!それとも私がダイエットメニューを作りましょうか?」
「さぁ、次、行こう!次!レッツゴー!!」
「それで誤魔化せると思ったら大間違いです!」
…あぁ、この感じ…
…やっぱり、このメンバーは楽しいなぁ…
花陽は久々の仲間と過ごす時間に、感慨深げだった…。
~つづく~