【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
交代でシャワーを浴びながら、異国の地で行われたジェンガ大会は深夜にまで及び、日付が変わった頃に就寝となった。
おやすみなさい…と各人、ジャンケンによって割り振られた部屋に入る。
「凛…もう眠っちゃった?…」
小声でそう呼んだのは、顔に入念なパックを施した、にこ。
隣には、枕を抱いて猫のように丸まって寝ている凛がいる。
小柄な2人には、キングサイズのベッドはあまりに大きく、持て余しているように見える。
「…んぅん…なぁに、にこちゃん…いい感じで…眠ったとこだったのに」
むにゃむにゃ…と凛。
「あ、ごめん…」
「…どうしたにゃ?…ホームシック?…」
「ぬわんでよ!…その状況で、よくそういう言葉が出てくるわね…」
「…違うんにゃ?…」
「さっきの話よ!アタシたちが、このあと、どうするかっていう…」
「あぁ…その話か…むにゃむにゃ…にこちゃんはまだ未練があるんにゃ?…」
「未練ってわけじゃないけど…」
「凛はとっくの昔に、諦めてるにゃ…」
「そ、そうなの?い、いや、にこもそんな話、今更と思うわよ。でも、ほら、ちょっとでも、可能性があるなら…少しはその気になってもいいかな…なんて…」
「無理、無理…」
「うっ!…そんな無下に否定しなくも…」
「無理にゃ~!どんなに頑張っても、にこちゃんはかよちんのおっぱいにはなれないにゃ~!!」
「わかってるわよ!そりゃあ、アタシだって、もう少しあれば…って思って…る…わ…って、何の話よ!!そうじゃなくて、A-RISEが言ってたチャリティライブの話!1日くらいなら、復活するのもアリかな?って、にこは思うわけ。もちろん、9人全員参加が大前提だけど…」
すぴー…
「…って、寝てるんかい!!」
…まぁ、いいわ…
…あんまり変なことを言って、みんなを惑わせるのはどうかと思うし…
…それに中途半端に、それをやったら、戻れなくなるかも知れないし…
「おやすみなさい」
にこは自分に言い聞かせるように、呟くと、静かに目を閉じた。
…にこちゃん…ゴメンね…
…凛にその話をされても、答えられないにゃ…
…でもにこちゃん、本当はやりたいんだね…
…凛も…
…凛も少しはそう思うけど…
…少し?…少しかな…
…ごめん…
…やっぱり、ちょっと、わからないや…
…おやすみなさい…
「ことりちゃんは、A-LISEの話、どう思うん?」
「チャリティーコンサートの話?」
希は「そうやね」と頷いた。
こちらはB室。
2人はまだ就寝の態勢には入っていない。
ルームランプだけ点けた薄明かりの中、お互い枕を抱きしめながら、ベッドの端に横並びで座っていた。
もちろん、ことりは自分専用の枕だ。
「う~ん、急に言われてもわかんないなぁ」
「ウチも…」
「でもね、本当言うと、ときどきμ'sのメンバーをイメージしながら、衣装のデザインはしてるんだ。季節ごとっていうか、イベントごとっていうか…もう誰も着ないってわかってるのに…ね」
「でも、それは今後の仕事に役立つんやない?」
「うん!…だけど…ちょっと違うかな?『希ちゃんだからこういう感じ』…だとか…『絵里ちゃんならこうだよね』…とか…人物が先に出てきちゃって…どうしてもμ'sなの、イメージは。…心のどこかで、やっぱり、みんなに着て欲しいって思ってるのかな…」
「着て欲しい…だけ?」
「えっ?」
「…たまに夢に出てくるんよ…。ステージの上からA-LISEに呼ばれて…それで『あれ?ウチなんで客席にいるんやろ?早く行かなきゃ!』って、慌てて向こうに走るんやけど、着いたら誰もいなくて…。それで『あっ!』て目覚めて…『あぁ、ウチ、もうそっちの人間やないやん!』って」
「希ちゃん…」
「これって未練なんやろか?」
「ことりも、似たような夢は見ますよ。ステージの上で歌って踊って…でも、それが夢だった…っていう夢」
「複雑な夢やね」
「起きてもまだ夢の中なのかな…って思っちゃたりして」
「うふふふ」
「えへっ」
「不思議やね…もう全部『やり切ったって』思ってたんやけど…」
「そうだね…」
そう言ったきり2人はしばし黙りこんだ。
「まぁ、今、考えても…ね?今日は寝ますか」
「うん!」
「それじぁ、おやすみ…」
「おやすみなさい…」
2人はベッドに入ると、希がランプの明かりを消した。
それから少しして…
「…ことりちゃん…」
希が小さな声で、囁く
「…はい?…」
「…後ろから…ギュってしていい?」
「えっ!」
「ウチ、こう見えて寂しがりやなんよ…」
「うふっ!いいですけど…でも、ワシワシはなしですよ」
「え~、いいやん!」
「希ちゃんがワシワシしたら、ことりもワシワシしちゃいますよ!」
「大歓迎やけど」
「あはっ!…でも、本当はことりじゃなくて、花陽ちゃんが良かったんでしょ?」
「ありゃ、意地悪なことを言うんやね?…でもそういう、ことりちゃんもウチより花陽ちゃんが良かったんやない?」
「ん?…えっと…」
「…」
「…」
「あっ!なら、花陽ちゃんをえりちの部屋から連れ去ってきて、ウチら2人の間に入れれば一件落着やない?」
「うん!それだ!」
「…」
「…」
「ね、寝よか」
「う、うん…」
「じゃあ…」
「お、おやすみなさい…」
「おやすみ…」
そしてC室。
「真姫ちゃんと2人きりって、すごく新鮮だね」
「別に、寝るだけだし、そんな意識することじゃないでしょ?」
「それはそうだけどさ…」
「さっきも言ったけど、私の安眠を邪魔するようなら、容赦なく部屋から追い出すから」
「頑張るぞ、おう!」
「何の気合いよ…まぁ、でも…すぐセクハラしようとする希よりはマシかしら。いつ襲われると思うと、本当に眠れないんだから」
はっくしょん!
「おや?隣の部屋からくしゃみが…真姫ちゃんの話、聴こえてたりして」
「まさか…。それより、どうするつもり?」
「えっ?」
「A-LISEの話」
「なんだっけ?」
「もう、これだから穂乃果は…しっかりしてよ!チャリティライブのこと」
「あっ、あぁ、その話ね」
「海未が嘆くのもよくわかるわ」
「えへへ…」
「笑ってないで、答えなさいよ…」
「…でもさ、その前に…なんで穂乃果に訊くの?」
「なんで?って…アナタ、リーダーでしょ?」
そう言ってから、真姫は何かに気付いた。
「あっ…」
「ほら!ね?μ'sは今なくなっちゃんだから、穂乃果がリーダーっておかしいでしょ?」
「…確かにそうね…まぁ、μ'sだった時から、穂乃果がリーダー…ってことがおかしかったけど」
「そういうことじゃなくて…」
「こういうことは、やっぱり、まずは隣の人たちに相談するべきね…」
「よし、じゃあ今から…」
「よしなさいよ!今、そんな話をし行ったら、今晩徹夜じゃすまされないわよ!」
「そ、そうだね」
「こんな話を振った私が悪かったわ」
「私はやりたい!」
「えっ!?」
「もうスクールアイドルじゃないけどね…」
「穂乃果…」
「あ、ほら、それはもちろん、全員参加できたら…だよ。でも、みんな都合があるし、難しいとは思うけどさ…」
「そうね…」
…考えてもみなかったわ…
…ううん、うそ…
…いつか、また…って、ずっと思ってた…
…けど…
…そんな日なんて、来るハズないって…
…もう、なんなのよ!…
…こんなこと考え始めたら、また眠れなくなるじゃない!…
…A-RISEのバカ!…
真姫は「はぁ~…」と大きく深い溜め息をついて、頭を抱えた。
~つづく~