【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

103 / 173
sweet&sweet holiday

 

 

 

「花陽、絵里、今日はありがとうございました」

 

「海未ちゃんこそ、お疲れ様でした」

 

「結果は残念だったけど、私は楽しかったわよ。サポーターの声に合せて応援したり、手拍子したり、選手のプレーに一喜一憂したり…柄にもなくキャーキャー叫んじゃったわ」

と絵里。

 

「はい!花陽も後半からしか観られませんでしたが、楽しかったです」

 

「そう言って頂けると、私も少しは気が楽になります」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「元はと言えば、私が原因でこのようなことになったのですから…」

 

 

 

「海未ちゃん…」

 

 

 

『その件』について、直接海未と話すことはなかったが、花陽もある程度の内容は把握していたし、今回のツアーの主旨も理解していた。

 

だが、合流してから誰一人、その話を表立ってしなかったので、花陽もずっと触れずにいた。

 

もしかしたらメンバーは、海未が言う『御祓(みそぎ)』や『けじめ』はスタジアムで終わらせ、それ以降は純粋にμ'sとして楽しむ時間としたのかも知れない。

 

そう考えると、ここに来てからジェンガまでの一件(ひとくだり)も、海未に内緒で打った『小芝居』だったのではないか。

 

ただ寝るのではなく、μ'sがμ'sらしく過ごす為に。

 

花陽はそんなことを思った。

 

 

 

「いいじゃない。過程はどうであれ、結果として9人が集まるキッカケとなったんだから。それに日本は負けちゃったけど、つばささんは活躍したし…海未の責任は充分果たしたわよ」

 

「だといいのですが…」

 

「はい!」

 

「花陽は、相当無理をしたのではないですか?仕事は大丈夫ですか?」

 

「えへへ…気にしないでください。困ったことがあったら、助け合うのがμ'sですから。それに期せずして、A-LISEやアクアスターの皆さんとも会えましたし」

 

「それは恐らく希が、画策したのだと思いますが…」

 

「かも知れないわね。でも、彼女たちだってここに来る理由はあったんだし、それは考えなくていいんじゃないかしら…それより」

 

「つばささんの言葉ですよね」

 

花陽は絵里の言いたいことをすぐに理解した。

 

「チャリティライブの話ですか」

 

海未も同様だ。

 

「そう。あなたたちはどう思う?」

 

「私は…興味深い話ではあると思います。ですが…現実的には難しいのではないでしょうか」

 

「花陽は?」

 

「私ですか?私は…うぅ…困ったな…えっと…やりたいか、やりたくないかで言えばやりたいです!」

 

「ハッキリ言ったわね」

 

「アメリカでだいぶ鍛えられました。向こうは『Yes』か『No』かで、曖昧な返事は厳禁ですから」

 

「大変ですね…」

 

「えへへ…あ、でも、その…ライブが『できるかできないか』は別です!」

 

「そうね…私も花陽と同じ意見だわ。週刊誌に書かれた…私たち内部の不仲説、μ'sとA-RISEのファン同士の対立…そういったことを払拭できるチャンスだと思うし…逆にツバサさんたちが気を使ってくれたんだと思うけど」

 

「はい…」

 

そのことは『当事者である』海未が一番理解していた。

 

「だから、検討する価値はあると思う」

 

「だけど絵里ちゃん、膝の具合は?」

 

 

 

絵里は幼い頃に膝を故障し、それが元でバレリーナの道を諦めている。

 

以降、膝に負担が掛かるような激しい運動は避けてきだが、スクールアイドル活動はメンバーに内緒で、だましだましやってきた。

 

それが明らかになったのは、高校卒業の直前であり、μ'sが活動を継続しなかった理由のひとつにもなっていた。

 

 

 

「花陽、心配してくれてありがとう。1曲、2曲踊るくらいなら、別に問題ないわ。ただ、ステージで中途半端なものは観せたくないから、まぁ…やる!となったら、力が入っちゃうと思うけど」

 

 

 

高校を卒業したらスクールアイドルではなくなる。

 

歌もダンスも『高校生だから』という甘えは許されない。

 

ラブライブ優勝チームとして、やるからにはその名に恥じぬよう、クオリティを保たなければならない。

 

いや、それ以上のものにしなければいけない。

 

9人揃ってこそμ's。

 

みんながそう思っている以上、膝の故障を理由に練習の不参加や、途中離脱などして、メンバーの足を引っ張りたくない。

 

パフォーマンスに妥協を許さない絵里としては、それも継続しなかった理由のひとつであった。

 

 

 

「無理はいけませんよ!」

 

「あら?海未も心配してくれるの?…でもそういうあなたが一番厳しいでしょ?」

 

「私ですか?」

 

「そういえば昔、花陽がね…私より海未の方が怖い…って言ってたわ」

 

「ぴゃあ!!え、絵里ちゃん!唐突になんてことを…」

 

「なるほど。花陽は私のことを、そのように見ていていたのですね」

 

半笑いで花陽を見る、海未。

 

「あぅ…昔の話です…」

 

「な~んて…。でも亜里沙が言ってたわよ。花陽の指導も結構厳しかったって」

 

「へっ?そ、そうですか?…でも、まぁ、そうですね…やっぱり、ただの仲良し集団にはしたくなかったっていうか…μ'sも絵里ちゃんと海未ちゃんがいてくれたから、まとまってたと思うので、そこは見習いたいな…と。2人みたいにはなれませんでしたけどね…」

 

「それでいいののです。花陽は花陽なんですから」

 

「はぁ…」

 

「それで…どうするの?」

 

「ライブの話ですか?私たちだけじゃ…」

 

「はい…」

 

「そうね…じゃあ、またにしましょうか。今日はもう遅いし…」

 

「そうですね」

 

「順番はどうします?」

 

「順番?」

 

「誰がどこに寝るか…」

 

「私は別にどこでもいいけど…年齢順でいいんじゃないかしら?」

 

ということで、3人がベッドに横たわる。

 

「明かりは…消しちゃいけないんですよね」

 

絵里は、暗闇とかお化けとかが苦手だ。

 

「あ、花陽、私のことをバカにしたでしょ?」

 

「いえいえ、絵里ちゃんのそういうとこが、可愛いなって」

 

スタイル抜群の美女が見せる弱点、隙…幼さ。

 

花陽はこのギャップに胸がキュンとなる。

 

「可愛いだなんて…恥ずかしいわ」

 

「えへっ!」

 

「では、寝ます!」

 

海未はそう宣言すると、仰向けになり、身体を一直線に伸ばした。

 

 

 

…海未ちゃんは寝るとき姿勢まで、ちゃんとしてるんですね…

 

…余計疲れそうです…

 

 

 

花陽は、横目で海未を眺めながら、そう思った。

 

「花陽、どうかしましたか?」

 

海未がその視線に気付く。

 

「あ、いえ…はい、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

絵里、海未、花陽がそれぞれ上を向いて、目を閉じた。

 

ところが、思い直したようにムクッと上半身を起こすと、自分の右にいる絵里、左にいる花陽を交互に見た。

 

「海未?」

 

「海未ちゃん?」

 

「いえ…」

 

そう言ってもう一度、2人を見る。

 

「すみませんが、花陽、場所を替わってもらえないでしょうか?」

 

「へっ?」

 

「い、いえ…なんとなく今日は端の方が寝つきが良さそうだと思ったものですから…」

 

「は、はい…別に構いませんが…」

 

「では、お願いします」

と海未は、花陽と場所を入れ替える。

 

「?」

 

隣同士になった絵里と花陽は不思議そうに顔を見合わせた。

 

 

 

…やはり、こうやって横たわって、並んで較べてみると…私の胸は絶望的にまっ平らですね…

 

…このまま2人に挟まれて寝ると、なんとなく夢見が悪い気がします…

 

 

 

これまでの言動から推測するに…μ'sの中で一番胸の大きさを気にしているのは、にこでも凛でもなく…どうやら海未であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝…。

 

 

 

「おはよう…花陽…早いわね」

 

眠た気に目を擦りながら、絵里が起きてきた。

 

「おはようございます。絵里ちゃんこそ…」

 

「私は目を覚ましたら花陽がいなかったから、もしかして…と思って」

 

「花陽は飛行機の関係で一足先に帰りますので、自分の支度だけは終わらせておこうと思って」

 

「…で、食事の準備まで?」

 

「あはっ!これは『ついで』です。この食材だとこれくらいしかできなくて」

 

「これは…フレンチトースト?」

 

「パンは牛乳を混ぜた溶き卵に浸してありますので、あとは焼くだけです」

 

「こっちの卵は?」

 

「ハムエッグにしようかと。卵、卵になっちゃいますけど。あとはサラダを盛り付けて…コーンポタージュを温っためれば、準備OKです」

 

「ハラショー!!充分過ぎるわ。まぁ、穂乃果じゃちょっと怪しいかなと思って、私も早めに起きたつもりなんだけど…あなたには敵わないわ」

 

名指しされた穂乃果は、昨晩のジェンガ大会で最下位となり、その罰ゲームとして朝食の準備をすることになっていた。

 

しかし、まだ起きてこない。

 

「いえいえ、ですから、あくまでこれはついでなので…」

 

「助かるわ」

 

「どういたしまして」

 

「花陽は不思議な娘ね」

 

「?」

 

「普段は絶対に守ってあげなくちゃ!って思うくらい可愛い『妹』なのに、でも時おり凄くしっかりした『お姉さん』で…」

 

「えっ?」

 

「雪穂ちゃんがよく言ってたわ。『なんで私のお姉ちゃんは、花陽先輩じゃないんだろう…』って」

 

「それは花陽も言われましたけど…なんで絵里ちゃんが?」

 

「それはそうよ。週二か週三くらいで家に来るんだもん。それで亜里沙と共に、今日はなにをしました、今日はなにを教わりました、今日もお姉ちゃんが海未先輩に怒られました…って2人が全部報告してくれるの」

 

「あはは…なんとなく、想像が付きます。それに付き合う絵里ちゃんも大変でしたね」

 

「でも、亜里沙が目をキラキラさせて話すから、それを見ると嬉しくて…」

 

「あ、はい…」

 

「あなたが先輩でいてくれて、本当によかったわ」

 

「花陽ひとりじゃないですよ…」

 

「そうね…。でも、亜里沙も雪穂ちゃんも『花陽先輩』には、全幅(ぜんぷく)の信頼を置いていたわ」

 

「なんか、照れますね。そんな話、初めて聴きました」

 

「初めて話すんだもの。だって、そんなこと、2人きりになった時でくらいしか言えないでしょ?…それで…雪穂ちゃんからは、さっきの言葉を何度聴かされたことか…」

 

「雪穂ちゃんには、そういうことを言っちゃダメだよ!って何度も言ったんですけど」

 

「まぁ、それは私だから言ったんだと思うけど…」

 

「はぁ…」

 

「だけどね、私もそう思うことがあるの」

 

 

 

「?」

 

 

 

「花陽が、お姉さんだったらな…って」

 

 

 

「え、えぇっ!」

 

 

 

「花陽は独りっ子でしょ?」

 

「はい」

 

「兄弟姉妹(きょうだい)が欲しい…って思ったことない?」

 

「…なくはないです…。だから、みんなと知り合って、先輩はお姉さんだと思ってるし、後輩は妹だと思ってます」

 

「なるほどね。私は姉でしょ?だからお姉さんがいたらな…って思うことがあるの」

 

「意外です」

 

「そうかしら?わりと兄姉あるあるじゃないのかしら?それは妹は妹で大変なことはあるかもだけど…逆に上は上で頼る人っていないでしょ?甘えたい時だってあるじゃない」

 

「それは確かに…」

 

「私にとって花陽はそういう存在なの」

 

「花陽が?…」

 

「優しくって、暖かくって、柔らかくって…」

 

「それは希ちゃんだって…」

 

「そうね。でも、希は…同志なの。戦友って言ってもいいかな?お姉さんとはちょっと違うのよね…」

 

「そういえば、昔、希ちゃんも絵里ちゃんのこと、そう言ってました」

 

「でしょ?」

 

「はい」

 

「でもね…花陽には甘えられるの。あの時もそうだったわ。初めてあなたに、膝の故障の事を打ち明けた時も」

 

「…」

 

「私は感情が昂って、取り乱して…あのあと凄く自己嫌悪に陥ったんだけど…あれ、相手が花陽だったから、そうなったんだと思うの。他の娘だったら、ああはならなかった。それで気付いたの…『私は花陽に甘えちゃったんだ』って」

 

「そんなおだてても、なにも出てきませんよ」

 

花陽は恥ずかしげに頭を掻く。

 

「希もにこも、同じことを思ってるわ。妹と姉の属性を併せ持つ、不思議な娘…って」

 

「はぅ…」

 

花陽の顔は真っ赤になり、耳から煙が吹き出しそうだ。

 

「だから…夜はありがとう。お陰でぐっすり眠れたわ」

 

「はい!いきなり抱きついてくるので、ちょっとビックリしましたけど…」

 

「『甘えさせて』もらっちゃった!みんなが言うように、本当に気持ちよかったわ」

 

「お、お役に立てたなら…なによりです」

 

「機会があったら、また一緒にお願いしたいわ」

 

「は、はい…」

 

「でも、先約でいっぱいかしら?」

 

「えっと…その…」

 

「うふふ…気長に待つわ」

 

「はぁ…」

 

「これも、理由はわからないけど海未が場所を替わってくれたお陰ね」

 

 

 

「おはようございます!」

 

 

 

「あ、海未ちゃん、おはようございます!」

 

「お、おはよう」

 

 

 

…ビックリしたわ!…

 

…今の聴かれてなかったかしら…

 

 

 

「2人とも早いですね」

 

「ええ、まぁ…それより、海未、大丈夫?少し魘(うな)されていたみたいだけど…」

 

「えっ?私が魘されていた?…はて、なんのことでしょう…ええ…大丈夫ですよ」

 

 

 

…高野さんが私を捨てて、絵里と花陽を連れ去っていく夢を見た…などとは、とても言えませぬ…

 

 

 

「なんか、難しい顔をしてますけど」

 

「触らぬ神に祟りなし…そっとしておきましょう」

 

花陽と絵里は、アイコンタクトでそう会話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、みなさま、花陽はアメリカに戻ります」

 

「今度はいつ会えるにゃ?」

 

「ごめん、凛ちゃん、それはちょっと…」

 

「お仕事、頑張ってね」

 

「ありがとう、ことりちゃん」

 

「私は冬休みになったら、アメリカに旅行に行くから、その時に会いましょ」

 

「あ、真姫ちゃん、ずるいよ!穂乃果も連れてって!」

 

「それくらい自分で行きなさいよ」

 

「え~!!」

 

「え~…じゃないわよ!あなたに何回一晩で蹴られたか」

 

「それは本当にゴメン!夢の中でサッカーしてて…」

 

「なにそれ?意味わかんない」

 

「それより穂乃果は、改めて花陽に言うことがあるでしょう?」

 

「え~、それは穂乃果がやろうと思ったのに、花陽ちゃんが早く起きしすぎるから…」

 

「一番最後に起きてきて、何を言ってるんですか!」

 

「海未ちゃん、またそういうことを言ったら、花陽ちゃんが帰りづらくなっちゃうよ」

 

「ことり…それはそうですが」

 

「今度日本に戻ってきたときには、必ずうちに来なさいよ!こころたちが会いたがってるんだから」

 

「はい、にこちゃん。妹さんに宜しくお伝えください」

 

「体調に気をつけるんよ!頑張りすぎは身体に毒やからね」

 

「希ちゃんも…」

 

「そうやね!」

 

「あ、タクシーが来たにゃ…」

 

 

 

「ではでは、みなさん…」

 

そう言って花陽はタクシーの後部座席に乗り込むと、後ろを振り返り、メンバーが見えなくなるまで手を振り続けた。

 

そして、海未以下8人もタクシーが見えなくなるまで手を振った。

 

 

 

このあと彼女たちは、希のアテンドで、少しだけ観光をして帰国の徒についた。

 

 

 

 

 

 

一方、日本では…

 

 

 

 

 

 

高野梨里と夢野つばさの会見が、開かれようとしていた。

 

それは残念ながら…2人を祝福するような…和やかな雰囲気…という感じではない。

 

それは『あの男』が、そこにいるからだった…。

 

 

 

 

 

~第2部 完~

 

 





自分自身に向けて、唄います!

♪本編よりサイドストーリー 進める癖は直しなさい…







▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。