【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
これまでのあらすじ
オレの名は高野梨里。
20歳。
『横浜・F・マリノス』に所属するJリーガーだ。
チームでは控えに甘んじているが、オリンピックの予選に召集されたオレは、4得点5アシストと大活躍。
特に、勝てば本大会出場が決まるという試合で、ロスタイムに『ジョホールバルの再来』と呼ばれる決勝ゴールをあげ、その名を全国に知らしめた。
自分で言うのもなんだが、今、ノリにノっている期待のMFだ。
オレには『夢野つばさ』という女友達というか…彼女というか…まぁ、そんな感じの『知り合い』がいる。
本名は藤綾乃。
オレは幼い時から『チョモ』って呼んでいる。
小学校の5~6年の時に同じクラスだったが、卒業後は別々の学校に進む。
まったく接点がないまま1年が過ぎた中2の春…オレたちは一度だけ、偶然、地元の公園で再会したことがあった。
その日がなければ、今のオレたちはこういう関係になってはいない。
それが運命…神様の悪戯ってやつなんだろう。
彼女は母親から受け継いだ良質なDNA…整った顔立ちとスラリとした長身…を活かし、中学2~3年時にモデル『AYA』として…既に小中学生のカリスマと呼ばれていた同い年の『浅倉さくら』…と『C.A.2(キャッツ)』というコンビを組み…ローティーンのファッションシーンをリード、一世を風靡する。
高校1年時には、事務所の後輩『星野はるか』『水野めぐみ』とバンドスタイルのユニット『シルフィード』を結成。
『夢野つばさ』名義で左利きのギタリスト兼ヴォーカルとして音楽活動を開始。
事務所の戦略も当たり、シルフィードは音楽界の賞レースを総舐めにし、レコード大賞では最優秀新人賞を受賞。さらには紅白歌合戦の出場も果たした。
しかし、直後にオレはチョモから『サッカー選手へ転身したい』と『内密の相談』を持ちかけられる。
以前、再会した際「何かあったら相談に乗るよ」と言ったのを覚えていたらしい。
芸能活動と並行してフットサルをしていた彼女だが、サッカーはやはり似て非なるもの。
…というわけで、サッカーの用語からルール、テクニック、その他、何から何まで教え込んだのが、このオレである。
チョモは、オレが羨むほどの器用さと不断の努力で、知識も技もあっという間に身に付けていく。
そして、オレのレクチャー最終日。
お互い昔から『密かに好意を寄せていた』ことに知り…それまでの『師匠と弟子』の関係から…一線を越えた。
迎えた4月。
彼女は『様々な偶然に導かれ』地元の女子チーム『大和シルフィード』の一員となる。
元々、小学生時代はバレーボールのウイングスパイカーとして、オリンピック出場を目指しており、特待生で中学に進学したほどの運動神経の持ち主。
陸上選手だった父親から受け継いだ身体能力…高い跳躍力と強烈な左足のシュート…を武器に、攻撃的なポジションの選手として、シルフィードを牽引する存在となっていく。
同じチームに所属する『緑川沙紀』とは同い年で、当初は『JKコンビ』と呼ばれていたが…今では某漫画の主人公とその友人になぞらえ『つばさ&みさき(=ゴールデンコンビ)』と称されるペアに成長。
オレと同様に、2人揃って女子の日本代表…『なでしこジャパン』に選出されると、見事アジア予選を勝ち抜き、オリンピック出場を決めた。
ところが…である。
オレはオリンピックの合宿を控えた1週間前に、交通事故に巻き込まれてしまう。
トレーニングを終え、帰宅途中、交差点で信号待ちしているところに、正面衝突した1台の車が、その弾みで突っ込んできたのだ。
オレは隣にいた…恐怖で身体が固まってしまっている美女…を車に直撃されないよう突き飛ばした。
これで自分も上手く避けられれば良かったのだが、運悪く、身体はボンネットに乗り上げ、頭から落下。
軽度の頚椎損傷を負ってしまう。
とはいえ、全治6ヶ月。
これでオレのオリンピック出場は絶望的ものとなった。
ちなみに、運転していたのは16歳の少年。
本人は足を折っただけらしいが、同乗していた同い年の少女は、その場で命を落としたとのことだった。
話はこれで終わらない。
オレが突き飛ばした…事故から救った…美女というのが、元スクールアイドル『μ's』の『園田海未』だというのだ。
そういうことに疎いオレは、彼女がどれほどの有名人か知らなかったが、μ'sは『伝説』とか『カリスマ』とか呼ばれていて、あの『A-LISE』が「永遠のライバル」と語るほどのグループだ…とチョモから教わった。
幸い、彼女は掠り傷程度で済んだと聴き、喜んだオレだったが、直ぐに不安がよぎる。
そして、その予感は…残念なことに的中する。
彼女に対する誹謗・中傷が始まったのである。
オレが彼女(園田さん)を助けた → 彼女が自分から避けてれば、オレは負傷しなかった → 避けられなかった彼女が悪い…ということだ。
一見すると、この三段論法は成立しているように思えるが、実は違う。
根本がおかしい。
悪いのは事故を起こした加害者であって、オレたち2人は被害者なのだ。
まったくもって非はない
だがネット上では、これを皮切りに、ここぞとばかりに口汚い言葉で溢れかえる。
同じμ'sファンの中でも『推しメン』『アンチ』とあるらしく…つまり彼女のことを好いていなかった連中が、攻撃を開始したのだ。
それに自称『オレのファン』が追従する(そういう輩をオレはファンとは認めていないが)。
さらにまったく無関係な…おそらく野次馬的立場のやつらが便乗して、ことを大きくしていった。
言葉での攻撃は彼女へのみならず、元メンバーのファン同士…あるいはμ'sとA-LISEのファン同士のネガティブキャンペーン合戦へと発展していく。
挙句の果てには、彼女たちのプライバシーに及ぶような記述まで散見されるようになった。
元カリスマスクールアイドルとはいえ、今は解散して一般人として暮らしている彼女たち…このままでは日常生活に影響を及ぼすおそれがある。
それを受けて園田さんは、オレを負傷させてしまったことと、メンバーに迷惑を掛けてしまったこととで、精神的に追い込まれていく。
そんな彼女を救おうと立ち上がったのが、チョモこと夢野つばさと、かつてμ'sファンだったという星野はるかと水野めぐみ(アクアスター)、そしてA-LISEだった。
彼女たちは夢野つばさの「オリンピック壮行会」に園田さんを招き、事態の収束に向けて、全面協力することを約束する。
その甲斐あって、加熱していたファン同士の争いは沈静化した。
これで一件落着か…と思いきやマスコミがこの騒ぎに目を付けた。
『週刊 新文』が3大スクープと称し、特集を組んだのだ。
ひとつはオレと夢野つばさが恋仲であるということ。
ひとつは『あの人は今!?』と銘打ち、μ'sメンバーの近況をリポートしたもの。
そして最後は…園田さんこそがμ's解散・分裂の元凶であり、その彼女はライバルであったA-LISEへの合流を単独で企ており、さらには夢野つばさが不在の間、オレと密会している…というものだった。
なんてふざけた記事だ!
ひとつ目、ふたつ目は百歩も千歩も譲ってやるとしよう。
結婚するかどうかは別として、チョモとオレはそういう仲だし、今まで気付かれなかっただけで、特に隠すつもりもない。
μ'sメンバーの近況も…まぁ、ファンが知りたいと望むのであれば、完全否定することはできない。
だが、みっつ目は…
完全な捏造だ。
これは看過できない。
どこかで正す必要がある。
しかし…
ただでさえチョモは、オリンピック直前でナーバスになっている。
加えてオリンピックに出られない『師匠のオレ』に対して、引け目を感じている。
そんな状態のときに…つまりこのタイミングで下手にコメントするのは得策ではない。
火に油を注ぐようなものだ。
今はサッカーに集中させよう。
オレも園田さんも同じ想いで、敢えて貝になることと決めた。
こうしてオリンピックは開幕する。
予選グループを1敗1分で迎えた最終戦。
園田さん率いるμ'sとアクアスター、浅倉さくら…そしてA-LISEが現地に飛んで声援を送る。
初戦で肩を痛めた夢野つばさは、必死のプレーで2ゴールを挙げた。
だが試合に勝利し、フランスと勝ち点で並ぶも…得失点差でわずか1及ばず、敗退。
決勝トーナメント進出とはならず、失意の帰国となったのだった…。