【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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つばさと一問一答

 

 

 

 

「では、高野さん、スタンバイお願いします」

 

サッカー協会のスタッフが、オレに声を掛ける。

 

この会見は、セッティングからなにから、全て彼らに取り仕切ってもらっている。

 

オレは車椅子に乗せられると、看護師に押されて、病院内に設けられた会見場へとやってきた。

 

そこには中継用のTVカメラが1台と、それを操作するカメラマン…とスタッフ数名。

 

オレの目の前には会議用の長机と、その上に置かれた複数のマイク、ボイスレコーダー…そして大き目のTVモニター。

 

『記者会見』は『向こうで』行われ、オレはそれを通じて、受け答えをする段取りになっている。

 

 

 

オリンピック期間中は『チョモ』に連絡を取らないと決めていたオレだったが、こっちでの状況が諸々変化した。

 

ブラジル戦での敗戦を受けての、ヤツの精神面や…負傷した肩のことも心配だった。

 

いくら、オレのことで不安にさせたくはなかったとは言え、この状況で何もしないのは、あまりに薄情過ぎる。

 

一応手術も無事に終わったので、少しでも安心させたいとも思って、オレはヤツと連絡をとった。

 

 

 

チームが負けたこと…それ自体は、まだこのとき2試合残していたし、そこまで悲観的ではなかったが…やはり肩の痛みについては…相当なものだったらしい。

 

脱臼や骨折はしていないが、腱(すじ)を伸ばしたようで『動かない』と言っていた。

 

足を使うサッカーという競技において、肩の負傷はあまり関係ないのでは?という人もいるかも知れないが、走るという動作は肩が動かなければ、致命的である。

 

「フランス戦はスタメンから外れることになると思うけど、勝たなきゃいけないときに力になれない…それが悔しい」とこぼしてた。

 

 

 

そして、このときに帰国後の打合せをした。

 

オリンピック期間中にも関わらず、ヤツが所属する『飛鳥プロ』、もしくは現地に芸能関係のリポーターや記者が詰め掛け『騒動の真相について』問い質(ただ)そうとしているらしい。

 

やれ『国の代表だ!』『やれメダルを獲得してこい!』とか言いながら、選手が試合に集中できる環境を作ってあげられないマスコミに対し『どういうことよ!』という憤りを覚える。

 

せめて大会が終わるまで、待ってあげられないものか?…。

 

だからそんな状況を受けて、ヤツは帰国後すぐに会見を開くと言った。

 

いずれは、オレたちのことは明きらかになったのだろうし、それはやむを得ないとオレも同意する。

 

なにより、園田さんのことがある。

 

であれば

「オレも同席する」

と伝えると、ヤツはエラく驚いた。

 

別々に会見を開くよりは、同時に行ったほうがいい。

 

あとから都合のいいところだけを切り貼りされて、テキトーな報道をされるなら、生中継でやってしまおう…オレはそう考えていた。

 

 

 

ヤツと手短に、会見する内容の擦り合わせを行った。

 

あとは飛鳥プロとサッカー協会にその旨を伝え、それぞれの『専門家』が段取りをした…というわけだ。

 

 

 

読めなかったのは、その日程である。

 

オレも『この日になる』とは想定外だった。

 

本当ならツーショットで会見したかったが、病院から外出許可が下りなかった。

 

仕方なく、このような2次元中継という、異例の会見になったわけである。

 

 

 

向こうの会場にヤツが現れた。

 

一斉ににフラッシュが焚かれる。

 

ヤツの姿が金色の光に包まれ、神々しくも、禍々しくも見えた。

 

一礼して着席すると、部屋は静けさと、もとの明るさを取り戻した。

 

 

 

》まずは、夢野選手、オリンピックはお疲れ様でした。

 

先ほどまでとは違い、芸能レポーターが複数いるようだ。

 

その女性の声には、ワイドショーなどで聞き覚えがあった。

 

》初めてのオリンピック、終わってみて、率直な感想をお聴かせください。

 

「はい…そうですね…ただただ悔しい…ですかね。オリンピックどうの、個人がどうのではなく、やはりプレーするからには全試合勝ちたいと思っているので」

 

》とはいえ、オリンピックの舞台というのは、特別なものだったんじゃないですか?

 

》プレッシャーのようなものはありませんでしたか?

 

「試合前、整列して国歌を聴いたときはいよいよだなとは思いましたけど、プレー中はあまり感じませんでした。メダルを持って帰って来ていれば、オリンピックに出たという実感もあるでしょうけど」

 

》日本からも多くのサポーターが訪れました。

 

何人かが交代で質問している。

 

「そうですね。その声援は正直、力になりました。ありがとうございます」

 

》最終戦には、お仲間の浅倉さくらさんやアクアスターも来てましたね?

 

「…みたいですね…あとから聴きました」

 

》試合を振り返ってください。まずブラジル戦ですが…ちょっとイヤな形で先制されました。しかし、その直後、素晴らしい超ロングのループシュートを放ちましたね?

 

「GKが前目にポジションしていたので思い切って狙ったのですが…残念ながら防がれてしまいました」

 

》あれで「日本イケるぞ!」と雰囲気になったのですが。

 

「決まっていれば、そうですけど…入らなかったので…すみません…」

 

》しかし、0-2とされてから、ゴール前に放り込んだクロス…シュートのようにも見えましたが…そこに緑川選手が走りこんできてPKを得ました。これはどちらが蹴る…とかそういうのはあったんですか?

 

「沙紀とベンチを見たら、監督が手を小さくパタパタさせてたので…『つばさ』らしいわよって」

 

厳(いか)つい監督がしたその仕種を思い浮かべて、記者たちから笑いが漏れた。

 

》見事なゴールでした。

 

「なにも考えずに、思い切り蹴っただけです」

 

》そして…どうても訊かずにいられないのは…やはりあのシーンです。後半22分、CKで夢野選手が空中戦に挑んだところ、我々の眼からは明らかに故意のファール…膝蹴りを受けたように見えました。ご自身はいかがでしたか?

 

「…接触プレーがあったのは事実ですが…それ以上のことはわかりません」

 

》しかし、ファールを取らなかった審判と相手DFには、日本国民が強い怒りを持っています。

 

「…そうですか…私たちを応援してくださるのと同じくらいに、審判にも相手選手にもリスペクトしてほしいな…と思います」

 

》ですが、そのプレーで左肩を負傷、フランス戦はスタメンを外れることとなりました。

 

「上手に受身を取れなかった、私の責任です」

 

》そこまで卑屈になる必要はないんじゃないですか?悪いことは悪い、ダメなことはダメだと、しっかり声を上げるべきだと思いますが?

 

さっきの会見でも『コイツ』は、度々イラッとさせる質問をしていた気がする…。

 

「そのあたりは、協会の方にお任せしておりますので…ただ…そうですね…物騒な言動は謹んで頂きたいです」

 

》わかりました。では話しを進めましょう。フランス戦ですが、ベンチから戦況を見守ることになりました。どのような想いでしたか

 

「どのような想い…ですか?『勝って!』としか…」

 

》「私を出せ!」とは思いませんでしたか?

 

「それは…監督が決めることなので…」

 

》日本を代表するエースとして、ちょっと弱気じゃないですか?もっと、ガツガツいかないと!気合が足りないと思いますが。

 

「私…ですか?…気合はあったんですけどね…」

 

》そして、南アフリカ戦はスタメン復帰。2ゴールを奪い、面目躍如という活躍でした。まず先制点は緑川選手とのコンビプレーでもぎ取りました。ノールックのヒールパスを受けての、素晴らしいミドルシュート。

 

「そうですね。あの形は普段からやってるプレーなので…。沙紀がいいタイミング、いい位置に出してくれました」

 

》その後、これも日本中が怒ってるわけですが、不可解なPKの判定があって、坂巻選手が退場となってしまい、苦しい戦いを強いられることになりました。

 

「ちょうど私がピッチの外にいるときのプレーでしたので…シュートを止めたGKの深山さんに感謝ですね」

 

》ビッグセーブでした。

 

「はい」

 

》そしてロスタイムに2点目が生まれます。シュートフェイントからの見事なコントロールショットでした。

 

「ありがとうございます」

 

》一部ではあのプレイ『ある男子選手の得意技では?』などとも言われてますが?

 

「…ご想像にお任せします…」

 

》後半、南アフリカに1点返され…フランスの得点経過なども耳にしていたと思います。最後、あと1点届きませんでした。

 

「そうですね」

 

》後半40分ごろだったと思いますが、夢野選手が鮮やかなターンを決め、ペナルティエリアに侵入する場面がありました。その時、相手DFの足が掛かったように見えたのですが、そのまま『倒れずに』シュートを放っていきました。結果、ボールはポストに当たり、こぼれ球を緑川選手、白瀬選手が続けざまにゴールを狙っていきましたが、決まりませんでした。あれですね、そのまま倒れていればPKだったと思うのですが。

 

 

 

…さっきの記者だ…

 

 

 

…こういうことを言うバカがいるとは思っていたが、まさかこの場で出てくるとは…

 

…アレ、ヤツの身体能力だから倒れなかったんだぜ…並みの選手なら、飛んでたと思う…

 

…オレにはあのときにヤツの気持ちがわかる…

 

…あの流れからいって仮に倒れたとしても、主審がPKを取ってくれたかどうか…

 

…日本が先にPKを獲られただけに『アテツケ』と思われなくもない…

 

…つまり、逆にシミュレーションを取られた可能性が高い…

 

…それに仮にPKをゲットしても、その時点で『得点が入る』わけではない…

 

…日本が向こうを止めたように、向こうだって日本を止めないとは限らない…

 

…だったら、流れに逆らわずに、あそこは迷わずシュートだ!…

 

…その判断に誤りはなかったと思うが…

 

…左肩の負傷の影響か、スタミナ切れだったのか、最後、もうひと踏ん張りできなかった…

 

 

 

「PKかどうかはわかりませんが…あのシュートを決めていればいいことで…それができなかったことは、私の力不足です」

 

 

 

…さすがチョモ、百点満点の回答だ…

 

 

 

》3戦で3ゴール。この結果については?

 

「自分のゴール云々よりも、やはりチームが決勝トーナメントに進めなかったほうが悔しいですね」

 

》なるほど…。さて、ここからは少し話が戻るのですが、大会直前に一部週刊誌によって、熱愛の記事が出ましたが、このことは何か影響があったでしょうか?

 

 

 

…本当はそっちがメインでお集まりなのでしょう?…

 

 

オレは心の中で毒付いた。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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