【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

109 / 173
直接対決!

 

 

 

 

ここまでの話は『オレたち自身のこと』であるし、いずれバレたであろうから、まぁ、仕方ないと思っていた。

 

しかし、この先の話は違う。

 

まったく無関係な人が巻き込まれているのだ。

 

ジョークなど必要ない。

 

 

 

「今、話があった通り、報道された人は、僕とともに事故に巻き込まれた被害者です。幸いにも彼女は掠り傷程度で済みましたが、心に負った傷という点では僕と変わりません…。そして、その人が見舞いに来てくれたのは事実ですが、そのを行為を否定するような記事に対しては、強い憤りを感じています」

 

「同感です」

 

モニターの向こうでチョモが頷いた。

 

》しかし、私の取材に対し、その人は「命の恩人以上の何か」を心の内に秘めていることについて、否定しませんでしたよ?

 

 

 

…私の取材に対し?…

 

 

 

オレは…姿は見られないが、その声の主が誰だか悟った。

 

「…なるほど…あなたが週刊 新文の柏木さんですか…」

 

》私をご存知とは…光栄です。

 

「さっき退席させたれた『セクハラ記者』は別として…あなたもちょくちょく失礼な質問をしていましたね?気にはなっていましたが…そこにいるとは…」

 

》いますよ、当然。

 

「まぁ、それならそれで、話が早いです。あなたにはいろいろ言いたいことがありましたし、その為にわざわざこの会見を開いたようなものですから」

 

》おもしろい…どうぞ。

 

「先ほども言いましたが、僕と彼女は共に被害者という立場で顔を合わせています。それはそこにいる夢野つばさも承知してますし…当然疚しいことなどもしていません。もっとも、この身体じゃ、したくてもできませんがね…」

 

思いっきり皮肉を言ってやった。

 

「記事には夢野つばさが不在時に面会しようとしたことについて『泥棒猫』のように書いてありましたけど、そうなった経緯(いきさつ)は、さっき彼女が述べた通りです」

 

「そうです。私が彼がヒマをしていると思うので、話相手くらいになって頂ければ…とお願いしました。それが軽率だというなら、謝りますけど」

 

「それに、その人は有名なスクールアイドルの元メンバーだったかもしれませんが、今は普通の大学生です。一般人を無理やり巻き込むようなことは、やめませんか?」

 

》しかし、その一般人が、高野梨里、夢野つばさ、アクアスター、A-LISEとコンタクトしているのです。興味があるじゃないですか…『何が起きてるんだろう』ってね。だからこそ、記事として成立するのです。我々は新聞記者ではありませんのでね、中立・公正の報道なんてことに興味がないんですよ。読者の知りたいことを代わりに取材しているだけで…。偏った考えであっても、それを見て読者が是か非か、判断の材料にしてもらえればいい。

 

「つまり嘘を書いてもかまわないと?」

 

》嘘は書きません。ちゃんと取材に基づいて記事にしていますよ。ただし、その結果事実と違うことがあるかもれませんが…。なるほど、今回の『園田海未』さんの件はおっしゃる通りかもしれませんね。でしたら次号で訂正を入れましょう。

 

 

 

…ここでわざわざ固有名詞を出してきやがった!…

 

…卑劣な野郎だ…

 

 

 

会見は、急遽、オレとコイツとの1対1の対決の場となった。

 

 

 

》では、せっかくなので、私もこの場を借りて質問を。まず、サッカーの男子代表も残念ながら予選リーグ敗退となりましたが、この結果をどう思われますか。

 

 

 

…急にまともな質問をしてきた…

 

…何か意図があるのか?…

 

 

 

「1勝1敗1分で4チーム並んだわけですから、実力は拮抗していたと思います。できれば決勝トーナメントに進んで欲しかったですが」

 

オレは言葉を選びながら、慎重に答えた。

 

》高野選手が出ていれば、勝てたと思いますか?

 

 

 

…なるほど…

 

…オレを挑発して、失言を引き出そうって腹か…

 

 

 

「勝負の世界に『タラ・レバ』はありませんから、僕が出ていたとしても結果がどうだったかわかりません。ですが『オレが出てても結果は同じですよ』なんていう選手は、いないんじゃないですかね?」

 

》活躍する自信はあった…と。

 

「さっき、彼女に対し、あなたが言ってたんじゃないですかね?『もっとガツガツいかないと』『気合いが足りないんじゃないですか』って。出るからには、自分を信じて闘うでしょ…それは。

 

》代役として入った本間選手のプレーは、どう映りました?

 

「僕は評論家じゃないんで、その件についてはコメントを控えさせて頂きます」

 

》つまり、評価に値しないと?

 

「煽りますねぇ。…一緒にプレーもしていないので、他人のことをとやかく言う資格は私にはありません。それに…勘違いされてるかも知れませんが、サッカーは個人競技ではありません。総括すべきはチームとしてどうだったか?で、個々ひとりだけの問題ではありませんよ」

 

これは常々俺が言っていること。

 

代表メンバーから外れるとわかった時にも、一番始めにそう思った。

 

》私はね、やはり高野選手がいなかったのは大きいと思うんですよ。なんと言ってもチームの中心人物だったわけですから。ただ単に選手が1人代わったということではなく、それによって戦術から連携まで、大きく変わってしまう…これが響いたと。

 

「個人的に…そういう評価をして頂けるというのは、サッカー選手として嬉しいことではあります。しかし、自分の実力は…ひとまず置いておいて…今回の戦いにどれくらい影響があったのか…まぁ、迷惑を掛けたな…とは思いますけど…そのあたりは監督や代表メンバーに訊いてください」

 

 

 

》ズバリ、戦犯はあなただと思いますよ、高野さん。

 

 

 

「!」

 

 

 

…戦犯?…

 

 

 

オレの心の中で、何かがざわめいた。

 

 

 

》あなたが怪我さえ負わなければ、こうはならなかった。夢野つばさ選手も精神的なダメージを受けることがなく、もっといいパフォーマンスで試合に臨(のぞ)めたでしょう。つまりあなたは男女ともの…予選敗退の元凶となったことになる。

 

 

 

…何を言い出すんだ?…

 

 

 

「ふぅ…随分な極論をぶっこんで来ましたね…まぁ、怪我をしたのは自己責任ですし、否定はしませんけど…戦犯とは言葉が過ぎませんかね?」

 

》一緒に巻き込まれた園田さん、それと目撃者等の話によりますと…あなたは突っ込んできた車を避けれたにも関わらず、事故に遭われた。なぜ、逃げなかったのですか?

 

 

 

…あぁ?…

 

…質問の意味が理解できないんだが…

 

 

 

「そこに逃げそびれた人がいたからです」

 

》フフフ…『そこに山があるから』…まるで登山家みたいなセリフですね。

 

「笑うポイントではありませんが?」

 

》それで、その逃げ遅れた人が園田さんなんですよね?

 

「あの…いいかげん、固有名詞を出すのはやめませんか?彼女には何の罪もない!」

 

徐々にオレの語気が荒くなる。

 

》つまり、そうなのですね?

 

「何が言いたいんですか!?」

 

》あなたはたった一人の女性を庇ったことにより、自分自身のサッカー選手としての将来を棒に振っただけでなく『日本国民の夢』『男女の決勝トーナメント進出』そしてその後発生したであろう『何百億円という経済効果』…そういったもの全てを消してしまったのです!!これは日本国に対する背信行為でしょう!?

 

 

 

「!!」

 

 

 

…大丈夫か、コイツ!?…

 

 

 

目の前にいたら、ぶん殴っていたかも知れない。

 

いや、心の中では、ヤツの顔面にストレートをヒットさせていた。

 

だがコイツはモニターの向こうだ。

 

それが救いだった。

 

そうでなければオレは暴力事件を起こして、警察のお世話になっていたかも知れない。

 

もちろん、目の前にいても、今のオレには力いっぱい殴ることなどできないのだが。

 

退席したセクハラ記者…アイツの方が数倍マシに思えた。

 

うっすらと『暴論だ!』とかいう声と、会場が騒然となっている様子が伝わってきた。

 

 

 

「目の前に困っている人がいた…。本能的に身体が動いた…。ただ、それだけのこと…」

 

オレの心の中のざわめきが、音を立てて大きくなっていく。

 

 

 

》偽善ですよ、それは。

 

 

 

「偽善?…彼女が…轢かれればよかった…とでも?」

 

 

 

》自分の身は自分で守るものです。他人を庇って自らが命を落とすなんて、本末転倒ではありませんか。美談でも何でもありませんよ…

 

 

 

「ふざけるなぁ!!!」

 

 

 

オレは腹の底から叫んだ。

 

マイクを通じて拾った声は、ハウリングを起こしたであろう。

 

こんな怒りは、生まれて初めてかもしれない。

 

事故に遭って怪我の状況を知った時ですら、こんな感情は出てこなかった。

 

いや、ずっと抑えていた…隠していたのかもしれない。

 

どこかで爆発させたかった…のかもしれない。

 

でも、できなかった。

 

それがここにきて起爆剤に点火した。

 

 

 

「悪いのは、車を運転していたガキじゃねぇか!!同乗していた女子じゃねぇか!!その親だろうが!無免許でも運転できる車だろうがぁ!!日本経済の損失?知ったこっちゃねぇよ!そんなことを考えながらプレーしてる選手は、ひとりもいねぇよ!!」

 

 

 

「た、高野くん!!」

 

オレの傍で見守っていてくれた代表の広報…小野さん…がオレを止めに入る。

 

 

 

》あなたは加害者のことをどれだけ知っているのですか?なんの根拠もなしに、そういうことを言っていいんですかね?

 

「あぁ!?加害者の事情だぁ?知るか!」

 

「高野くん、もういい!相手にするのはやめなさい!…おい、会見は中止だ。回線を切れ!!」

 

「小野さん!!」

 

「わかってる!気持ちはわかる!だが、これ以上付き合っちゃいけない!」

 

「うぉおおお!!!」

 

オレは荒ぶる感情を抑えきれず、机の上にあったマイクやらボイスレコーダーを全て払い落とした。

 

勢いでオレも車椅子から落ちた。

 

落ちてなお『欲しいものを買ってもらえない駄々っ子』のように、手をバタつかせた。

 

オレは看護師とスタッフに『取り押さえられる』と、そこから意識がなくなった。

 

 

 

 

どうやら鎮静剤を射たれたようだった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。