【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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悩みは尽きないのです…

 

 

 

 

オリンピック観戦後、一泊して観光を終えた(花陽を除く)μ's一行が日本に戻ったのは、高野梨里と夢野つばさの会見の翌日だった。

 

5年前、海外ライブから帰ってきたときは、自分たちが知らないうちに『スター』となっており、空港に着いたとたんサイン攻めにあった。

 

それに較べれば、今回はあまりにも静かな帰国である。

 

「ふん!『小庭沙弥さまとその仲間たち』が戻ってきたっていうのに、随分寂しいじゃない」

とにこ。

 

もちろん、本気で言っているわけではない。

 

しかし、彼女たちも、A-LISEたちと一緒に観戦していたことが、国内で話題になっていることは知っている。

 

にこはそのあたりを加味して「もしかしたら」と思ったようだ。

 

 

 

もっともこれは『μ'sへの関心が薄い』ということではない。

 

前回と違い派手なライブを行ったわけでもないし、仮に彼女たちに気付いたとしても『今は一般人であるメンバー』に、サインや写真をねだるというのは、どうなんだ?…という話である。

 

「あっ!μ'sだ…」くらいに、遠巻きに眺めるのが『極めて常識的な反応』と言えた。

 

 

 

それよりもなによりも『昨日の今日』ということもあり、街中は『その会見』の話題で溢れていた。

 

2人が語った内容もさることながら、やはり『放送事故』ともとれる…高野が暴れて、会見が打ち切られた…という前代未聞の事態はインパクト大だったようだ。

 

当然、このことはすぐにμ'sのメンバーの目にも耳にも入った。

 

 

 

…高野さん…

 

 

 

海未は今すぐにでも駆けつけたいと思ったが

「ちょっと、様子を見た方がいいんやないかな?あれだけ高野さんが無関係って強調してくれたんやから、今、行くのは逆効果やと思うやけど…」

と希に止められた。

 

 

 

…そうですね…

 

…そうなのですが…

 

 

 

海未はその助言に従うことにしたが、納得したわけではなかった。

 

 

 

希だって、海未の気持ちがわからないではわけではない。

 

むしろその想いは痛いほどわかる。

 

だけど、今、直接逢いに行くのは得策ではない。

 

 

 

希たちメンバーが彼女たちなりに全力で海未を守ったように、高野も精一杯海未を守った。

 

だが、その中で、新たに彼女を不安にさせる要素が発生してしまった。

 

 

 

…いい感じで、危機を乗り切ったと思ったんやけどなぁ…

 

 

 

希が心の中で呟いたこと…それは他のメンバーも感じていた。

 

 

 

 

 

「だったら現地に行って、夢野つばさを直接応援したらいいんじゃない?」…そう言い出したのは真姫だった。

 

それを聴いて、往復の飛行機と観戦チケットの手配をしたのは希。

 

しかし彼女は、それだけでなくA-LISEにも声掛けをしていた。

 

そして、その話がA-LISEからアクアサクラスターへと伝わった。

 

 

 

当初は『ただただ真剣につばさの応援をしよう!』と始まった計画だが、そこにμ'sみんなで行くことにより、不仲説が払拭できるのでは?という想いが重なった。

 

さらにA-LISEと合流することにより『海未ひとりが抜け駆けしようとしている』という、間違った情報も正すことができる…と考えた。

 

加えてμ'sとA-LISEの距離感を示すことにより、お互いのファン同士の『不毛な争い』に終止符が打てるだろう…とも思った。

 

アクアサクラスターの3人が合流したことは『嬉しい誤算』『スペシャルボーナス』みたいなものだが…彼女たちが加わったことにより、このツアーの価値は一段と高まった。

 

 

 

試合後、A-LISEの綺羅ツバサが、サポーターとの写真撮影の依頼に、心地よく承諾したことも、全ては先述した計算に基づくものだ。

 

いや、こういう書き方をすると、極めて狡猾的な印象を持たれるかもしれないが…そもそも両者にはなんのわだかまりもないので、純粋にこの騒動を終息させるべくの最善の策だったと言えよう。

 

 

 

そして、それが奏功し、もはや2度と見ることがないであろう『(μ's、A-RISE、アクアサクラスターの)スリーショット』が『奇跡の集結』と呼ばれ、大きな話題になっているのだった。

 

 

 

一部…本当にごく一部だが…それでも、それを信じていない連中がいる。

 

「デキ過ぎ」「八百長」「作られた真実」「情報操作」…彼らはそんな言葉を口にする。

 

それはそれで、仕方のないことだ。

 

100%『右向け、右!』などという世界は存在しないのだから。

 

 

 

ちなみに、その写真の中に「『夢野つばさがいれば完璧』だったのに」という声も多く見られる。

 

それは、実は彼女たちも思っていたことである。

 

 

 

一方で…

 

 

 

「建物は完成と同時に崩壊が始まる」という伝承を例に挙げ「最後の1人が加わる=解散への序章」だとし、これはこれでいいのだと主張する者たちも少なくない。

 

『奇跡の集結』が『奇跡の終結』になってしまう…。

 

なるほど、言い得て妙だ。

 

 

 

いずれにしても『週刊 新文』の記事の…海未に対する疑惑…その半分は誤り…捏造であるということは、概ね解決することができた。

 

 

 

残りの半分は『高野梨里』と『夢野つばさ』が会見で明かした通りだ。

 

高野と海未は、以前からの知り合いでも、付き合っていたわけでもなく、偶然その場に居合わせた被害者であり、彼女は事故に関しては何の非もないこと…。

 

病室への訪問は、純粋に命の恩人の見舞いをしようとしただけで…併せて、それはつばさからも依頼をされていたこと…。

 

 

 

これで海未にまつわる問題は表面上、オールクリア。

 

 

 

会見があのような形で終わり…それはそれで、高野のことは心配ではあるのだが…しかし、これで海未を苦しめる『直接的な心の呪縛』は、ほぼ取り除かれた。

 

 

 

あとは…彼の復帰を待つしかない。

 

こればかりは時間が掛かる。

 

高野梨里がピッチの上で躍動し、輝きを取り戻した時、海未にも本当の安堵が訪れるのだろう。

 

 

 

こうして、ひとまず海未救出作戦は終息したかに見えた。

 

 

 

 

 

ところが…

 

 

 

この作戦にも副作用があった。

 

あの話題が再燃したのだ。

 

 

 

それが『μ'sの再結成』である。

 

 

 

観戦前の時とは打って変わって、急に現実味を帯びてきた話。

 

『μ'sは内部分裂状態』『海未はA-LISEに合流か?』なんて言われていた彼女たちが、異国の地ではあるが、全員揃ったのだ。

 

ファンは…希、絵里、にこ、ことり、真姫、そして凛の当時と変わらない姿に驚き…バッサリと髪を切った海未に驚き…いまや国内で見ることが難しいと言われる『天然記念物』の花陽の姿に驚き…記事の通り太ってしまった穂乃果に驚いた。

 

新文の記事などで、その近況を知った彼らも、SNSに挙げられた写真やオリンピックの中継で見た『実物の姿』に、興奮を隠せないでいる。

 

 

 

ネット上では、それぞれのファンが、μ's解散から5年余りの思いを書き込んでいく。

 

好意的なコメント7割、批判的なコメント3割というとこか。

 

その3割は「想い出は想い出の中であるべき」というまとも(?)な意見もあったが、やはりというべきか「劣化した」だの「太った」だの、逆に「変わってないのが気持ちわるい」だの「JKだから価値があったのであって、BBAになったμ'sに興味はない」などという厳しい言葉が並んでいた。

 

そして、例によって例の如く、自分の推しメン以外に対する、誹謗・中傷の類も散見された。

 

特に今回は穂乃果に対する風当たりが強い。

 

確かに体型は…であるが、今の彼女は一般人である。

 

その彼女を口汚く罵ることは、好ましいこととは言えなかった。

 

 

 

…とはいえ、大半はμ'sの活動再開を望んでいるらしい。

 

そんな話題は、すぐにファン以外の『部外者』にも飛び火した。

 

これまでそういうことに無頓着だった…あるいは本人の意図を汲んで無関心を装っていた周囲の人々も、やたらこの話題を仕掛けるようになってきた。

 

その問いに対しては

「どうかなぁ…」

とお茶を濁すメンバーたち。

 

穂乃果などは、妹の雪穂からも「もったいぶらなくてもいいじゃん」などと言われる始末。

 

だが、誰もその答えを用意していない。

 

 

 

まだA-LISEが誘ってきたチャリティライブの話は誰も知らないが、μ's復活の機運が高まっているのは、メンバーもひしひしと感じていているのだった…。

 

 

 

 

~つづく~

 


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