【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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ビルの街にガオー

 

 

 

 

会見後…高野の新たな敵は、思わぬところから現れた。

 

彼の発言の中に…『メーカーの責任』…というワードがあったのだが、これに自動車業界が噛み付いたのだ。

 

「今回の事故について、我々には責任がない」

「車を移動ツールから凶器に変えるかどうかは、運転手の資質の問題であり、それを『メーカーの責任である』と訴えた高野くんの発言は看過できない」

とコメントを発表したのだ。

 

確かに…

 

意識回復後の『オフィシャルコメント』を作る際、代表の広報である小野が、高野に『交通事故については極力触れないほうがいい』とアドバイスしていた。

 

だが、まさか現実にこんな反論が出てこようとは考えてもいなかった。

 

 

 

高野が意図したところはもっと大局的な話であって、個々のメーカーを批判するつもりなど毛頭もない。

 

もちろん、自動車業界もそんなことはわかっているはずだ。

 

だが、誰かが焚き付けたのであろう。

 

高野が所属しているチームのユニフォームの胸には、堂々と親会社である『NASSAN』のロゴが入っている。

 

これを問題視した者がいたようだ。

 

つまり彼は、間接的に雇い主を批判した…というわけだ。

 

 

 

困ったのはチーム関係者である。

 

本来なら「不問に処す」と言いたいところだが、彼が今後、真剣に批判を強めるようであれば、なにかしらの処分も考えざるを得ない。

 

それだけにあの発言はスルーしてほしかったのであるが、Jリーグでいえば他にも、浦和(三菱)、名古屋(TOYOTA)、広島(MAZDA)なども親会社(もしくはメインスポンサー)が自動車メーカーである。

 

海外に目を向ければ、SUZUKIやHONDAもスポンサーになっている。

 

そんな事情もあってか、業界としては彼の発言を巡って「おかしな論議が起きないよう」先手を打ったということなのだろう。

 

 

 

ところが、今度はこの自動車業界の出したコメントが反発を招く。

 

交通事故で被害を受けた本人、または亡くなった人の遺族などで作る有志の団体が、声を荒げたのだ。

 

彼らにとって、被害が大きかろうが小さかろうが事故は事故であって、許せるものなどひとつもないかもしれないが、その中でも無免許運転や飲酒運転など『特に悪質な事故の被害に遭った人々』は、加害者に対して『殺しても殺しきれないほどの恨み』を持っていた。

 

「『車を凶器に変えるかどうかは、運転手の資質の問題』というが、メーカーに責任がないというのは間違いで、彼らはそうさせないための努力を怠っている。それは国も同じだ」

と主張する。

 

 

 

もう半世紀以上も前になるが…

「♪あるときは正義の味方 あるときは悪魔の手先…」

と歌われたのは鉄人28号だったか…。

 

感情を持たない機械(ロボット)は、操縦者の心ひとつで善にも悪にもなる…ということである。

 

業界の出したコメントは基本的にこれと変わらない。

 

 

 

正論である。

 

 

 

似たような言葉は、しばしばアメリカでも聴く。

 

銃の乱射事件が起きるたびに、規制だなんだと、その在り方が問題になるが、結局彼らはこの言葉の前に抵抗できずに終わる。

 

『銃が人を殺すのではない、人が人を殺すのだ』

 

全米ライフル協会の標語である。

 

これを『銃』ではなく『車』と入れ替えてみるとどうだろう。

 

なるほど両者の言っていることは同じである。

 

ただし、間違っちゃいけないのは、車は『火器』ではない。

 

使用目的がまるで違う。

 

いかに安全にするか?を極めなければならない。

 

 

 

確かに、ここ数年の…自動運転、もしくは高齢者の(アクセルとブレーキの踏み間違いによる)事故などに対する技術革新…などは目覚しいものがある。

 

ドライブレコーダーも普及し、事故の検証などには大いに役立っている。

 

『勝手に目的地に連れて行ってくれる車』も、夢物語ではなくなった。

 

そのうち『運転免許』などという概念はなくなるかもしれない。

 

 

 

しかし、それはまだまだ先のこと。

 

車の開発は進んでいるが、法とインフラが追いついていない。

 

 

 

法と言えば、道交法は性善説に立った上で施行されているが、今の社会、そんなものは破綻していると言っていい。

 

ルールもマナーもモラルも「守られないこと」を前提にしなければならない。

 

悲しいことだが『正直者が馬鹿を見る』世の中なのだ。

 

 

 

高野は、会見のあと病室を訪れたつばさに対し

「チョモの親父さんのことも頭にチラついちまって…」

と語った。

 

つばさ…藤綾乃の父親も飲酒運転のトラックに撥ねられ、亡くなっていた。

 

 

 

彼は直接、彼女の父に会ったことはない。

 

綾乃と知り合ったときには、既に故人であった。

 

 

 

彼女の父親も、何の落ち度がないまま、この世を去っている。

 

その無念たるや…。

 

綾乃もその母親も、何事もなく暮らしているように見えたが、立ち直るまでに相当の時間を要したことを、高野は付き合うようになってから聴いた。

 

あの時の叫びの中には、そんな想いも含まれていたらしい。

 

 

 

ちなみに…綾乃の父親を撥ねた加害者は、危険運転致死傷罪に問われ、求刑懲役8年に対し…懲役6年の実刑判決が下った。

 

刑期を全うしたのなら、彼女が高校に上がった前後には、出所していることになる。

 

綾乃の記憶によれば、加害者からは謝罪のような言葉はなく…反省している様子もなかったという。

 

そのような者に、こちらからアプローチする気は一切なかったようで、その後については不明だ。

 

当然ではあるが職場は解雇され、一家は離散した…と風の噂で聴いたとのこと。

 

果たして彼は、心の底から改心し、二度と同じ過ちを繰りかえさないと誓い、日々過ごしているのだろうか。

 

 

 

それでも、まだ彼女たちは恵まれている。

 

加害者が大手宅配業者のドライバーで、業務中に起こした事故であったことから、多額の賠償金を得ることができたのだ。

 

金で、不自由になった身体や亡くなった人が帰ってくるわけではないが、被害者やその家族にも今後の人生がある。

 

『加害者憎し』の感情とは別に、生活を保証してもらう権利はある。

 

その為の民事裁判だ。

 

 

 

しかし…今回の高野の事故のように加害者が未成年、無免許であれば、保険金などアテにはできない。

 

そうなると、通常はその両親へと責任が及ぶものだが…まだその少年の家庭環境などバックグラウンドは明らかにされていないが、果たして賠償金の支払い能力があるかのどうか…定かではない。

 

支払いを命じても、自己破産されたらそれで終わりだ。

 

泣き寝入りするしかなくなる。

 

 

 

今回、声を荒げた有志は、そういう悔しい思いをしてきた人々の集まりだった。

 

「運転免許を差し込まなければ始動しない車」

「本人認証システム」

「ドライバーからアルコールが検知されたら始動しない車」

 

どれも今の技術的なら、そう難しくないと思われるが、これまでそのような車は市場に出回ってはいない。

 

※自動車メーカーの飲酒運転防止車両については、開発はされているが実用化に至っていない。

※『アルコール・インターロックシステム』という後付の装置があるが、日本では設置の義務化はされておらず、普及率は極めて低い。

 

 

 

彼らはそこを指摘している。

 

これらが進まない一番の理由として「1台あたりの車体価格の上昇」が挙げられている。

 

製造コストが上がれば、それは車体価格に反映させざるをえない。

 

若年層の自動車離れが進む中、メーカーにとって、それは死活問題となることは容易にわかる。

 

価格が上がることに対しては「そういったこととは無関係のユーザー」から、反発もあるだろう。

 

一部の無法者の為に、なぜ我々の負担が増えるのだ!と。

 

しかし、これは自分が不幸にならないため、自分が不幸にしないため…相互の理解を深めて必要がある。

 

これだけ長い間、飲酒運転が根絶されないのであるから、もはやドライバーのモラルだけに頼るわけにはいかない。

 

だからこそ

「(ハード面において)掛けられるストッパーは全て装備してほしい。いや、しなければいけないのだ!」

というのが、業界のコメントに反発した人々の主張なのである。

 

無免許、飲酒運転…ゼロにはならないだろうが、そういう車がないよりはマシ。

 

それでも抜け道を探して…あるいは車を改造したりして運転する者はいるだろう。

 

だが、そこまでするのであれば、重罰も覚悟の上…死亡事故など起こそうものなら、それはもう殺意を持った犯行だといっていい。

 

つまり、そういうことだ。

 

 

 

高野が放った言葉の波紋は、じわりじわりと全国へ広まっていくのであった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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