【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
会見から2週間ほどが過ぎた。
オレの発言を受けて、いろんなところから取材の申し込みがあるらしいが、今は全て断っている。
ちなみに『それ』は、直接オレに来るわけではない。
これまでは、オリンピック期間中だったこともあり、代表の広報の小野さんに諸々協力してもらっていたが…オレは芸能活動をしておらず、個人のマネージャーもいないので…この間から所属チームの広報…『内舘さん』…に対応を一任している状況だ。
自分が発言したことについては、なんの間違いもないと思っているが、匿名で書き込むネット上のそれとは違い、多少なりとも名前が知られている身だ。
良くも悪くも、それなりに影響力があることがわかった。
元々、こういうことがイヤでブログだとかSNSだとか、自ら余計な情報を発信していなかったワケだが、今後についてはより一層、言葉を選びながら…ということになる。
故に、しばらく落ち着くの待つとした。
それでも「発言したことに対する責任は?」とか詰め寄ってくる人もいるらしいが…「じゃあ、誤った報道を垂れ流すアンタら責任は?」と問いたい。
そういえば、今のところ『週刊 新文』から、訂正もなければ謝罪もない。
まるで『そんなことは報道していないかのように』あれ以降ダンマリを決め込んでいる。
こっちが名誉毀損で訴えない限り、しらばっくれるつもりなのか?
まぁ、オレとしてはそんなことで余計な体力を使いたくないんで、このままでも構わないんだが…この静けさが逆に不気味だ。
何か、新たなネタを仕込んでいる?そんな感じがする。
さてオレはといえば、世の中の喧騒をなるべく遮断し、今は自分のリハビリ(マッサージ)に集中している。
おかげさまで…寝たままの状態ではあるが…ガチガチに凝り固まって動かなかった脚は、何とか自力で曲げ伸ばしできるくらいまで回復した。
ベッドから車椅子に、ひとりで乗り移れるようにもなった。
上半身はまだ、負傷した首に負荷が掛かるから、あまり力を入れてはいけないとのことで、指先ひとつで移動ができる(コントローラーの付いた)電動車椅子が、当面のオレの相棒だ。
ようやく一歩前進って感じ。
これで看護師の手を煩わすことなく、気分転換に院内を動くことができる。
…とはいえ、病院で気分転換ができるところなんて、そう、ない。
せいぜい、屋上に行って日を浴びるくらいが関の山である。
いや、それも大事なことなのだが。
…とうことで、美人の理学療法士さんとは、これでお別れということになった。
しかし、これといってオレたちの関係が進展することもなく、この日を迎えてしまった。
例えオレに彼女がいたとしても『頭の中だけであれこれ楽しむ』分には許されると思ってるんだが…それは勝手な言い分なのだろうか?
やっぱり、それでも浮気って言うのかな?
…という訳で、いよいよ明日から、気分も新たに本格的なリハビリが始まる。
そのリハビリと共に、並行して進めていかなければならないのが民事裁判の準備である。
加害者の少年の法的責任は、ある程度司法に委ねるとして…いわゆる『オレ個人に対する責任と補償は、誰がどう取ってくれるんだ!?』って話である。
その指標になるのが、賠償金ってヤツだ。
残念ながら、こっちの方は、それで解決するしかない。
金銭で失われた時間が帰ってくるわけではないが、それ以外、やりようがないのだ。
当然ながら、オレにそんな知識はないので、弁護士はチームから紹介された『内舘さん』を雇うことにした。
これまでも数多くのスポーツ選手の事件や事故等における訴訟、弁護に携わってきた、その筋のスペシャリストらしい。
チョモからも紹介されたが『この件』は、その千島さんの方がいいだろうと判断した。
来週中にも打ち合わせをしたいと考えていて、日程を調整しているところだ。
で…
その加害者であるが…当然オレは警察から『名前だけ』は聴かされていた。
だからネット上で特定された少年の『氏名』が『正解である』と知っている。
正直、彼らの調査能力には感心させられた。
現場に居合わせなければ、顔すら確認することができないと思うのだが…何を基に調べたのか、よくもまぁ、いとも簡単に身元を割り出したもんだ。
…レクサスのナンバーか?…
オレの乏しい推理能力では、それくらいしか思い付かなかった。
正面衝突して、こっちに向かってきた車が、黒のレクサスだった。
オレはその時の様子をスローモーション…というよりは、コマ送りのフィルムのように覚えている。
園田さんを突き飛ばし、ジャンプしたところまでは…。
…だとしても、素人がそんなに簡単に、調べることができるのか?…
『オレと事故に巻き込まれたのが園田さん』だと特定された時にも感じたことだが、個人情報なんて言葉は『死語』なんだと思う。
この少年も例外じゃない。
名前だけでなく、住所や顔写真のほか、ご丁寧に彼の素性まで晒されている。
これはこれで、由々しき事態だとオレは思う。
この少年が未成年であるため、彼の両親には監督責任があるとしても…(直接、事件・事故に関わっているなら別として、そうでないのであれば)二等親以上の人たちの生活に影響が出るのは問題だ。
事故に対してオレに同情してくれるのはわかるし、もし自分だったら…と憤る気持ちもわかる。
だが『裁く権利がない人』が、その親族についてどうこう言うのは、かなり筋違いだ。
度を越せば、逆に名誉毀損で訴えられる。
加害者を庇うつもりはないが、普段『プライバシーの侵害だ』などと叫んでるわりには『自分たちのことを棚に上げて…』と思うわけで…。
そうそう、プライバシーの侵害って言えば、気になることがある。
TVの街頭インタビューとか野外ロケとかで、最近、通行人の顔にボカシが入ることが多い。
オレは、アレにすごい違和感を覚えている。
確かに、別に映してくれと頼んでいるわけではないだろうし、諸事情で絶対に映りたくない人もいるだろう。
スタッフもそこにいる人全員に声を掛けて、許可を貰うわけにはいかないのだろうから、ある意味『肖像権で訴えられないようにする為の自己防衛』だというのはわかる。
しかし、一昔前までそんなことはなかったのだから、一般人の意識が高まったということか。
そうなると、そのうちスポーツを見ている観客も、全員ボカシが入るんじゃないかと思う。
別に映りたくて行ったんじゃない、純粋に観戦に行ったんだと。
…そういえば、この間、ローカルアイドルが男性と野球観戦しているとことを中継で抜かれて、問題になってたっけ…
今回のオリンピックでは、逆にA-LISEたちが上手くその辺を利用して、μ'sとの不仲説払拭に利用したわけだが…。
すまん。
すぐに話が横に逸れるのが、オレの悪いクセだ。
話を元に戻そう。
…で、何が言いたいか…っていうと、自分のプライバシーには敏感なくせに、他人のプライバシーについては、土足でドカドカと入り込んでくるヤツが多いってこと。
事故後、園田さんの名前を晒したヤツも同じ。
そのうち、強烈なしっぺ返しを喰らうのでは…と思ってる。
オレなりの忠告だ。
そんなお節介な彼らのお陰で、オレは少年の名前以外の情報を、警察に訊くこともなく得ることになる。
100%信じるわけにはいかないが、恐らく、それほど間違っちゃいないのだろう。
》少年の名前は『那須龍一』という。
》16歳。
ここまではオレも聴かされていた情報。
この先は、ネットに晒されている話をまとめたものだ。
》幼少期に両親が離婚し、以後、母親に育てられる。
》しかし、その母親の再婚相手と反りが会わずに、中学から不登校に。
》その頃から、離婚前の旧姓である『青山』を名乗るようになる。
》時を同じくして恐喝や強盗未遂などを繰り返すようになり、何度か補導される。
》ただし、組織には属しておらず当初は一匹狼だったが、徐々に仲間が増えていき、地元では『青龍』の名で知られようになる。
》そして、この春から、建設作業員として働いていた…。
…ふ~ん…
…青山龍一で『青龍』ねぇ…
…『成龍』ならジャッキー-=チェンなんだけどなぁ…
オレは自分の名前にコンプレックスがある為、ついつい人の名前も気になってしまう。
…と言っても、別に姓名判断なんかは信じちゃいない。
基本的にアレは漢字が使える国のみ通用する話だし、男性でも女性でも結婚して姓が替わったらどうなるんだ?ってことで。
まぁ、それを信じる、信じないはその人の勝手で、あくまでオレが否定しているだけなんだが…『読み方』とか『字面(じづら)』はすごく気になる。
以前にも話したことがあるが、もし自分の子供に名付けるとしたら…読み方がわからないような当て字…キラキラネーム…なんてのは論外だし、あまり良くないようなことを連想させる名前も却下だ。
変なあだ名が付いて、虐められるのも可哀想だし。
こんなことを言ったら、少年には失礼だが…
『青龍』だなんて、いかにも『そういう道』に進みそうな名前じゃないか。
すまん。
これは完全にオレの偏見。
人を名前で判断しちゃいけない。
だけど、そういう印象を持たれないためにも、名前って大事だなってつくづく思う。
それはさておき、この時はまだ、彼の家庭環境が『オレたちの運命に深く絡んでいた』なんて、これっぽっちも想像していなかったのだが…
~つづく~