【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「そういえば、園田さん。μ'sが再結成するとかしないとか騒がれてるけど…」
「あっ!」
3人は一瞬、顔を見合わせた。
「いえ、騒がれているだけで、何も…」
と園田さん。
「そうなんだ」
「うん。A-LISEからは誘われてるんだけどね」
「穂乃果!」
「穂乃果ちゃん!」
「あっ!」
「A-LISEに誘われている?」
「えっと、今のは…できれば聴かなかったことに…」
「もう遅いですよ…」
園田さんが呆れた顔をして、高坂さんを見た。
「秘密の話…なんだ?」
「はい…。ですが、高野さんならお話してもよいかと」
「いや、無理には訊かないけど」
「いえ、是非ともご意見を伺いたく」
「ん?」
「私たちも迷っていて…参考になればいいかなって」
「そういうことなら…。役に立つかどうかは保障できないけど」
「実は私たち、A-LISEから年末に開催を検討している『チャリティライブに出ないか?』と誘われているのです。まだファンの方は知らない話ですけど」
「ですが、正直どうしたらよいものかと」
「…っていうと?」
「『やるべきか、やらざるべきか、それが問題だ』」
と南さん。
何故か芝居チックだ。
「はい。ことりの言うとおりハムレットみたいな心境なんです…」
「やればいいのに」
「えっ?」
園田さん、高坂さん、南さんがオレを見る。
「ん?…あ、オレは観たいなぁ…なんて…。あ、いや…あくまでも個人的な意見だけどさ…」
「ところが、そう簡単にはいかないんですよ」
高坂さんが、オレの肩をポンポンと叩く。
「まぁ、そうなんだろうねぇ。そう簡単にいけば、悩むこともないだろうから」
「ええ…。諸々問題がありますので」
「μ'sファンのオレから言わしてもらえば…観たい!」
「μ's?」
「ファン?」
「ですか?」
「そんな驚くこと?…まぁ『にわか』なんだけどさ。いや、にわかだから余計なのかな」
「…とおっしゃいますと?…」
「えっと…オレ、園田さんたちを知って…今更ながらなんだけど過去の動画を観させてもらってるんだ」
「μ'sのですか?」
「うん。ほら、つばさも昔から知ってた…っていうし、はるかちゃんもめぐみちゃんもファンだった…っていうから、どんなもんかなと思って…」
「穂乃果たちはあんまり観ないよね?」
「はい」
「どうして?」
「恥ずかしい…と言いますか」
「うん、それもあるし…色々『粗い』っていうか。そういうとこに目が行っちゃって。反省ばかりになっちゃうんだよね」
「そうそう!もっと、ここはこうだったかな?とか、あそこはこうだったのかな?とか…もう、歌うことも踊ることもないのに…ね」
南さんの声が、少し寂しそうに聴こえた。
「そうかな?…言葉は悪いけど、当時は普通の高校生だったわけでしょ?作詞も作曲もして、衣装も作って、歌って踊って…それ以上、何を望む?って感じだけど」
「あの時は、無我夢中で何もわからずやっていたから…。でも、改めて今見ると、色々反省点はあるんです」
「へぇ…そういうもんかね…」
「それに、今の娘たちの方が全然レベルは高いし」
「それは高坂さん、違うと思うな…。サッカーでもなんでもそうだけど、日に日に技術は進歩していくんだから、そんな比較は意味がない。大事なのは『その時代にどうだったか?』ってことでしょ。『マラドーナ』と『メッシ』を較べて、どっちが凄いって訊かれても、答えは出せないよ」
「マラドーナ?」
「メッシ?」
「…?…」
…彼女たちにはわかりづらい例えだったか…
「ま、まぁ、とにかくオレはまったくの素人だからさ、偉そうなことを言うはどうかと思うけど…その…スクールアイドルとして、道を切り開いてきた…熱さみたいなのが、パフォーマンスから伝わってきて…はるかちゃんたちがファンだった…とか、A-LLISEが永遠のライバル…って言ってる意味がわかった気がするよ」
「恐縮です」
「特に…園田さん!」
「えっ!?は、はい!」
「あ、μ'sの中では、園田さんしか顔を合わせたことがなかったから、特に目線がそっちに行っちゃうんだけど…」
「は、はい…なんでしょう?」
「あんなにキラキラした笑顔で踊ってたんだね!」
「…!!…あぁ…なんか…お恥ずかしい…」
「普段の園田さんも、知的な感じで素敵だけどさ…あんな楽しそうな表情見せられたら、大抵の男はやられちゃうよね?ギャップありすぎだよね…」
「…あぅぅ…」
そう言うと座っていた彼女の上半身はよろめき、隣にいる南さんへと寄りかかった。
「…って園田さん?どうかした?」
「褒められすぎて、恥ずかしくなっちゃたんだよね…」
南さんが、笑いながらそう教えてくれた。
「特に高野さんから…」
「穂乃果!余計なことは言わないでください!」
ムクッと彼女の上半身が起き上がった。
意外と喜怒哀楽が激しい人だ。
「つばさから聴いたんだけど、μ'sってさ、ほとんどの人は生で観たことないんでしょ?」
「う~ん…そうかな…名前を知ってもらった時には、解散しちゃったから…。それまで応援してくれてた人は別として、あとから知った人たちは…」
「だよね。つまりそれって『オレ』と一緒でしょ。昔から応援してた人は複雑かも知れないけど…観てみたいと思うよ…『生μ's』」
「…」
「…」
「…」
「実はね、隠してたけど、オレ、今、結構興奮してるんだ。『画面の中の人が目の前にいる』って」
「いえいえ、私たちから見れば、夢野つばささんが目の前にいる方が、よっぽどすごいことだと思うんですけど…」
と南さん。
「だよねぇ」
高坂さんが相槌を打つ。
「初めはね、やっぱりドキドキしたよ。『おぉ!夢野つばさだ!』みたいな。さすがに今は慣れたけど。あ、いや、オレの話はどうでも良くて…えっと…ライブの話だよね?一応『にわか』なりに勉強してるつもりなんだけど…ファンの中でも意見が割れてるよね…再結成賛成派と反対派と」
「はい」
「まぁ、どっちの意見もわかるけどなぁ」
「…私たちもやりたい気持ちがないわけではないのですが…」
「みんな別々の道を歩いてるし…難しいかな?って…」
「ネックになるのはそこ?」
「はい。特に花陽などは、今、生活の拠点がアメリカですし」
「それはなんとでもなると思うけどね」
「えっ?」
「単純にスケジュールの問題だけなら、どうとでもなるよ。現にオリンピック観戦は全員揃ったんでしょ?」
「ええ…それはそうですが…」
「どっちかって言えば、物理的な事より、気持ちの問題じゃないかな?」
「!」
「μ'sってさ、もう二度とやるもんか!って感じで解散したの?」
「いえ、そんなことは…」
「喧嘩別れしたわけでもないよね?」
「はい」
「やってみたい気持ちはある?」
「ゼロではないかと…」
「なら、やればいいんじゃない?身体が動かなくなったら、やりたくてもできないんだから…」
「あっ!!」
3人の表情が、一瞬、曇った。
「そりゃあさ、ファン全員を満足させることなんて無理な話だよ。それぞれ考え方とか、想いとか違うんだし。でもさ、これだけの人が支持してるなら、オレはやった方がいいと思う」
「…」
「…」
「…」
「ごめん、ごめん。これはあくまでもオレの考えだから」
「いえ、貴重なご意見を頂き、ありがとうございます」
「もしさ、そういう機会があったなら…オレを呼んでくれないかな?」
「えっ?」
「ダメ?」
「い、いえ!もちろんですとも!!」
「じゃあ、約束ね!」
「は、はい!」
「ちなみにオレのリクエストは…『STRT:DASH』と『No Brand Girls』かな」
「えっ?」
「『♪悲しみ閉ざされて泣くだけの君じゃない 迷い道やっと外へ抜け出せたはずさ…』『♪壁は壊せるはずさ 倒せるはずさ 自分からもっと力を出してよ…』…前者は園田さん、後者はオレってとこかな?」
「あっ…」
「『No Brand Girls』は、前に園田さんが教えてくれたんだよね。自分が作った歌詞にこういうのがあるんです!って。そこからかな、ちょっと聴いてみようかな…って思ったのは」
「えっ?海未ちゃん、そんなこと話してたの?穂乃果、聴いてないんだけど」
なぜか高坂さんはニヤニヤして、園田さんを見ている。
「べ、別に…隠していたつもりはありませんが…」
「みんな、園田さんの作詞なんでしょ?」
「全部ではないですが…」
「なんで今まで知らずにいたんだろう…。心に響く、勇気付けれれる歌詞が多いよね」
「あ、ありがとうございます」
「好きだよ。園田さん…」
「な、なんと!!」
「…の歌詞」
「歌詞…ですか…」
「ん?」
「いえ…」
「オレの本心を言えば…」
「は、はい!」
「全部ライブで観てみたい」
「ぜ、全部ですか!?」
「1曲、2曲じゃなくて…全部」
「た、体力が持たないよ」
「大丈夫、高坂さん。まだ若いんだから!…って、オレも同い年か」
「うぅ…無理…」
「穂乃果、泣いているのですか?」
「もしそんなことになったら、海未ちゃんにどれだけ扱(しご)かれるんだろうって…自然に涙が…」
「泣くほどのことですか!」
「泣くほどのことだよう!」
高坂さんが脚をバタバタさせる。
その様子に、南さんがオレを見て笑った。
いつもこうなんですよ…そう言っているようだ。
「それにしても高野さんが『好きだよ、園田さん』とか言うから、海未ちゃんが告白されたのかと思っちゃった」
「な、なんてことを言うんですか」
「えっ?オレ、園田さんの『歌詞』ってちゃんと言ったでしょ?」
「え~…ことりは聴こえませんでしたよ!」
「こ、ことり!」
「だよね?だよね?良かったねぇ、海未ちゃん!」
「穂乃果!!」
「あ、あれ?なんかオレ、おかしなことを言っちゃった?」
「い、いえ…この2人が、なにか勘違いしてるみたいで…もう、いい加減にしてください!」
「でも、海未ちゃんはさ、高野さんのこと…」
「穂~乃~果~」
「うわっ!逃げろ!」
「こら!ちょっと待ちなさい!」
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ここで鬼ごっこは…」
「穂乃果が逃げなければ追いかけません」
「海未ちゃんが追いかけなければ、逃げないよ!」
「もう、2人とも…」
「なんかよくわからないけど、園田さんも意外と子供っぽいとこがあるんだね?」
「はい。特に海未ちゃんは、穂乃果ちゃんの事が大好きなので」
「あぁ、さっき言ってたね。喧嘩するほど…だっけ?」
「はい。お互い性格は『水と油』って感じなんですけどね。どこか惹かれあうものがあるみたいで」
「南さんは水?油?」
「ことりですか?卵黄かな」
「卵黄?」
「はい。水と油と卵黄を一緒にすると『混ざり合う(ように見える)』んですよ。ちなみにお酢と油と卵黄だと、マヨネーズになります!」
「へぇ…そうなんだ」
「海未ちゃん!ストップ、ストップ!」
「なんですか!?」
「ほら、あっち!あっち!」
「あっち?」
「ことりちゃんと高野さんが、なんかいい感じなんだけど…」
「えっ?あっ…」
「どうしよう、海未ちゃん。高野さんが盗られちゃうかも」
「こ、ことりがそんなことするハズがありません!」
…もっとも…高野さんの方は怪しいですが…
海未は穂乃果との鬼ごっこを一時休戦して、ベンチへと戻っていった…。
~つづく~