【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
『絶句…熱愛中の二人を襲愕の大スクープ』
高野が海未たちと会ってから、数日後…しばらく鳴りを潜めていた『週刊 新文』が、再び動き出した。
》先日、我々は高野梨里選手と夢野つばさ選手の熱愛について報じたが、今回はその続報である。
》だが、このカップルの『あまりに数奇な人生』を知った我々は、恐れおののき、言葉を失った。
》これを運命と呼ぶなら、それはあまりに過酷なものである。
》果たして2人の薬指を繋ぐのは『幸せの赤い糸』なのか…それとも…
》次週、衝撃の事実が明らかに!!
そんな惹起の見出しが今週号に躍る。
「おいおい、今度は何事だ…」
と高野。
病室を訪れていたつばさも「さぁ…」と首を傾げた。
特に新たな取材を受けたわけでもなく、まったく見当が付かない。
お互い、前回の記事について、訂正もお詫びもないまま続報とは…と思ったが、逆に『驚ほど大仰な見出し』を見て、半分は笑ってしまった。
「実はオレたち、兄妹(きょうだい)だったとか?」
「まさか」
「従兄妹(いとこ)?」
「それもないわよ。だったら、どっちも親が知ってる話でしょ?」
「前世で何かあったとか?」
「何かって何よ?」
「例えば…オレがお前に襲われてたとか…」
「へぇ…そういうことを言う?」
「じゃあ、なんだよ?」
「知らないわよ」」
「まったく気持ち悪いな…勝手に人の『運命』を語るなっていうの」
「うん、なんなんだろうね…」
そして翌週。
売店で買って来た新文を、つばさがおそるおそるページを開く。
そして2人は…見出し通りの…いやそれ以上の衝撃を受けたのだった…。
病室でつばさが、高野の傍らで新文の記事を朗読する。
》『サッカーの男子オリンピック代表候補』だった『高野梨里選手(以下、高野)』が、トレーニングからの帰宅途中に事故に巻き込まれたのは、合宿を目前に控えた6月某日のことだった。
》その後については、読者の皆さんもご周知の通り。
》我々のスクープにより高野と『なでしこジャパンのエース』でもあり、音楽ユニット『シルフィード』のメンバーでもある『夢野つばさ選手(以下、夢野)』の熱愛が発覚。2人は会見を開き、交際中であることを認めた。
》その際、高野選手は我々の記者に対し「事故の責任を追及するのがマスコミの役割」と声高に訴えたことは、記憶に新しいとこだろう。
「待て待て、そうは言ってないだろう。『事故の被害者が悪者扱い』されるのが、おかしいんじゃないか…って話で」
「ホント、いい加減ね」
「まぁ、親父に言わせれば『話題のすり替え』はヤツらの『常套手段だ』っていうけどな…」
》その中で高野選手は自動車メーカーの責任についても問うたが、この発言に対し業界は「事故を起こす・起こさないは、運転手の資質の問題」と突っぱねた。
》しかし、このコメントに対し、交通事故被害者の遺族などで作る有志団体が、「メーカー側も国も、無免許運転や飲酒運転の防止策を怠っている」と猛反発しており、物議を醸していることも、読者の皆さまはご存知であろう。
》今回の事故に関して、国、自動車業界、メーカーにどれくらいの責任割合があるかはさておき、ハード面、あるいはソフト面において、もう一度『安全対策、安全意識』の喚起を促すという意味では、評価できる発言であった。
…何様目線だよ!…
》ところで高野は、横浜F・マリノスに所属するJリーガーであるが、そのチームの筆頭株主といえば『日産』である。皮肉なことに、その日産は長い間、無資格の従業員が完成車を検査していたとして、国内工場の出荷が停止になるという、前代未門の事態に及んでいる。
》まさに『安全の根幹』に関わる問題で、自動車業界は『運転手の資質』と言ったが、これは逆にユーザーから『企業の資質』を問われても仕方がない。むしろ無免許運転や飲酒運転防止策以前の話である。長い間、このようなことを放置していた(もしくは見抜けなかった)自動車業界は赤っ恥を掻いた形になった。
》だが困ったのは高野である。自らメーカーの責任を問うた身だ。交通事故で命の危険を晒された上、所属チームの筆頭株主が『車の安全』を軽視しているのであれば、このチームに居続けることは無理がある。いや自主退団するべきである。そうでなければ、言動不一致…自らの発言と整合性が取れない。果たして…高野の選択肢はいかに?去就が注目されるところである。
「…って書いてあるけど?」
苦笑いしながら、つばさが高野を見た。
「正直これは、難しい問題だ…。まさかこんなことが起きるとは想像もしてなかった…想定外」
「だよね…」
「基本的に、親会社は親会社、チームはチームって言いたいとこだけど…ちょっと、状況は厳しいかな…。それより、復帰できるかどうかもわからないし…」
「そんなこと言わないでよ…」
「あっ?…あ、すまん。ただ…回復状態によっては『解雇』だってあり得るんだ。『公傷扱い(練習や試合中の怪我)』ではないからな」
「でも…」
「まぁ、そうなったらゼロからチャレンジするさ。拾ってくれるチームを探すよ」
「それは大丈夫だと思うけど…梨里を放っておくチームなんてないよ」
「楽観視はできないさ。故障明けの選手なんて、実力未知数だからな。」
「…」
「だけど…ほら…あれだ。今、マリノスにいても出場機会がないし、やっぱサッカー選手は試合に出てナンボだから…元々『移籍』ってことは頭のどこかにはあったんだよ。もちろん実力でレギュラー奪うのがベストだし、オリンピックで活躍して『見せ付けてやろう』と思ってたんだけどね…」
「移籍?どこに?」
「オレは神奈川で生まれ育ったから地元に拘るなら…川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、横浜FC、SC相模原、YSCC横浜…FC町田ゼルビアもあるな」
「町田は神奈川じゃないでしょ?」
「いや神奈川だろ」
つばさはそれを聴いて笑った。
※あとがき参照
「それはさておき、今、この状況になったら贅沢は言ってられないさ。地方だろうが、地域リーグだろうが…行ったところで、全力を尽くす。そこから這い上がってやるよ」
「うん、そうだね」
「目標は海外リーグだからさ」
「海外…か…」
つばさは高野の目をじっと見た。
「なに?」
「ん?もしキミが海外に行ったら、私はどうしたらいいんだろう…って」
「あん?」
「もしこの先、2人が一緒になったら…その時、私はサッカー続けられるのかな?それとも専業主婦?海外には…キミだけ単身赴任?」
「あ…」
「…なんてね…一瞬考えちゃった」
「…」
高野も少しの間、彼女を見つめていたが、ふと思い出したように言った。
「お前も海外でプレーすりゃあいいんじゃないの?」
「ん?」
「イングランド、スペイン、フランス、ドイツ…ヨーロッパに行けば、大抵女子リーグもあるから」
「確かに…」
「いや、現実問題として、お前の方が先に海外に移籍してる可能性の方が高いか」
「えっ?」
「オリンピックで活躍して、世界にもアピールできたし」
「海外…私が?…」
「そんな意外そうな顔するなよ。すっげー身近なとこにフランスリーグ帰りの『羽山優子』って先輩がいるじゃん」
「それはそうだけど…自分が行くなんて、考えてもいなかった…」
「これからオファー…くるんじゃね?」
「そうしたらどうしよう?」
「オレは受けるべきだと思うけど…まぁ、お前がどうしたいかだから…」
「…」
つばさは、しばし黙り込んだ。
「その時はその時だ。今、考えてもしかたない」
「う、うん…」
「…ってことはアレか。愛車のエルグランドも手放さなきゃ…か」
と高野は呟くと、はぁ…とひとつ大きなため息をついた。
「えっ?車!?」
急に話題が変わり、つばさはビックリした顔をする。
「あぁ、この記事のことだよ。下手したら、オレが車に乗ること自体、非難されたりしてな…」
…なんだ、私のことをもっと真剣に考えてくれてるのかと思ってたのに…
「どうかしたか?」
「ううん…でも、車は別にいいんじゃないの?」
「わからん。充分ありえる話だ。もう、今の世の中、クレームを付けたもん勝ちみたいなとこがあるからな…何にどうケチが付くかわからない」
そう言って高野は笑ったが、半分は真面目にそう思っていた。
「…で…これが『驚愕の大スクープ』?」
「まだ続きがわるわ」
「だろうな…」
つばさは再び、朗読を始めた。
~つづく~
※高野とつばさの地元…神奈川県大和市は相模原市、座間市、海老名市、綾瀬市、藤沢市、横浜市…そして東京都町田市と隣接している。
※地理的に言うと町田市は神奈川県に『突き刺さっており』、この『町田=神奈川』は周辺住民の間では昔から親しまれている『定番ネタ』である。