【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
中学2年生に進級する前の春休み。
部活の完全オフ日を利用し『チョモ』こと…『藤綾乃』は南青山に来ていた。
(一般的な女子と比べて)上背がある綾乃は『サイズが合わないから』との理由で、ガーリーなファッションを避けてきた。
そんなこともあり、中学に入ってから、1年365日、ほぼ毎日ジャージで過ごしている。
綾乃の母…『久美子』にとって、娘のそれは見るに耐えられなかったらしい。
「たまにはオシャレも楽しまなきゃ!それに今の時代、アスリートだって、ヴィジュアルは大事よ!」
と、半ば強引に引っ張ってきた。
この界隈に自分の職場がある為、どの店に、どんな服があるか、久美子は熟知している。
南青山から表参道にかけて、数件の店を段取り良く廻り、あっと言う間に、荷物がいっぱいになった。
さすが元モデルで、現ファッション誌の編集長…母が選んだ服に、文句の付けようがない。
…でも、着るヒマがないよ…
両手に紙袋を持った綾乃は、母に感謝しつつも、心の中でそう呟いていた。
母の久美子は「ちょっと、銀行に用がある」と、その場を離れた。
綾乃は歩道の脇に置かれたベンチに座り、ジェラートを食べながら、戻るのを待つ。
その時…
「写真撮らせてもらってもいいですか?」
と綾乃は声を掛けられた。
見ると、そこには2人の男性。
絵に描いたような、デコボココンビ。
小柄で小太りの中年はカメラを、長身で細身の若者は、大きな板を持っている。
綾乃はそれが『レフ板』だと、すぐにわかった。
…撮影?…
「原宿で仕事が終わって帰ろうとしたら、綺麗な娘がいるな…って」
「はい、わかるんですよね…そういうの」
「どう?1枚、撮らせてもらっていい?」
綾乃は返答に困った。
そもそも『格好いい』と言われたことはあっても『綺麗』などと言われたことがない。
だから、これは詐欺なんじゃないかと疑った。
もしくは『ドッキリ』なのかも知れない。
とにかく、この場から立ち去らねば…と思っているところに、久美子が帰ってきた。
そして、2人に言う。
「『シゲさん』『マツくん』ウチの娘をナンパしないでくれる?」
「久実ちゃん!?」
「藤さん?」
なんと2人は、久美子と同じ出版社の同僚だった。
久美子のファッション誌がアラサーをターゲットにしているのに対し、2人は『J-BEAT』というローティーン向けの雑誌の、カメラマンとアシスタントだ。
「久実ちゃんの娘さんか!…そりゃあ、綺麗なハズだ」
「さすがに服のセンスが違いますね」
「あぁ、職業柄、遠くからでもすぐにわかる」
「それにしても…藤さんに、こんな大きい子供がいたんですね?知らなかったです」
「大きい…って、身長のことかしら?綾乃はこれでも、中2よ!」
その言葉に「とてもそうは見えない!」と驚く2人。
そして「折角だから」と久美子の勧めもあって『記念撮影』をした。
突然始まった撮影会に、たちまち辺りに人だかりができる。
「誰?」
「モデル?」
…いや、違うんだけど…
綾乃は恥ずかしさと緊張のあまり「笑って」というリクエストに応えられず、逆に少し怒ったような表情で、カメラに収まった。
しかし、これが一週間後、大問題になる…。
春休みが終わり、始業式。
綾乃の学年は4クラスある。
登校してから、掲示板に貼り出された名簿を見た。
つまりクラス替え。
その割り振りに、一喜一憂している生徒たち。
半数以上は、知らない名前。
綾乃は人見知りではないが、かと言って、初対面の人に馴れ馴れしく話掛けるタイプでもない。
それなりの緊張感を持って、教室に入る。
その時…先に中にいたクラスメイト数人から、突き刺さるような視線を感じた。
「?」
顔は見たことあるが、会話したことはない。
しかし、単なる初対面だから…という理由だけではない…鋭い視線。
おはよう…と挨拶する綾乃。
おはよう…と返答はあった。
それ以上の進展はなし。
綾乃はすぐに、クラスメイトとなったバレー部の仲間と合流した為、それ以上の会話しなかったが…
彼女たちは、その後もチラチラと様子を窺っているようだった。
…なんか、感じ悪いなぁ…
朝からブルーになる綾乃。
「どうかした?」
「えっ?べ、別に…」
「それならいいけど…。今日から新入部員が入ってくるわよ!」
「そうだね!」
「負けないようにしないと!」
「よし!頑張るぞ!」
気合を入れ直し、綾乃は半日を終える。
このあとは、昼食を摂り、部活だ。
仲間とその準備をしていると…朝のグループのひとりが、綾乃に近付いてきた。
「あなた…確か、藤…綾乃さんだったよね?」
「そうだけど…」
「やっぱりそうだ!」
「なにか…」
「ちょっと来て!」
「えっ?」
彼女は綾乃の腕を掴むと、グループがいる自分の席と引っ張っていく。
「えっ?えっ?なに?」
「これ、あなたよね?」
彼女が自分のカバンから取り出し、机の上に置いたのは、一冊の雑誌。
タイトルは『J-BEAT』だった。
~つづく~