【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

12 / 173
Winning wings ~表参道~

 

 

 

 

中学2年生に進級する前の春休み。

 

 

 

部活の完全オフ日を利用し『チョモ』こと…『藤綾乃』は南青山に来ていた。

 

 

 

(一般的な女子と比べて)上背がある綾乃は『サイズが合わないから』との理由で、ガーリーなファッションを避けてきた。

 

そんなこともあり、中学に入ってから、1年365日、ほぼ毎日ジャージで過ごしている。

 

綾乃の母…『久美子』にとって、娘のそれは見るに耐えられなかったらしい。

 

「たまにはオシャレも楽しまなきゃ!それに今の時代、アスリートだって、ヴィジュアルは大事よ!」

と、半ば強引に引っ張ってきた。

 

 

 

この界隈に自分の職場がある為、どの店に、どんな服があるか、久美子は熟知している。

 

南青山から表参道にかけて、数件の店を段取り良く廻り、あっと言う間に、荷物がいっぱいになった。

 

 

 

さすが元モデルで、現ファッション誌の編集長…母が選んだ服に、文句の付けようがない。

 

 

 

…でも、着るヒマがないよ…

 

 

 

両手に紙袋を持った綾乃は、母に感謝しつつも、心の中でそう呟いていた。

 

 

 

母の久美子は「ちょっと、銀行に用がある」と、その場を離れた。

 

綾乃は歩道の脇に置かれたベンチに座り、ジェラートを食べながら、戻るのを待つ。

 

 

 

 

 

その時…

 

 

 

 

 

「写真撮らせてもらってもいいですか?」

と綾乃は声を掛けられた。

 

見ると、そこには2人の男性。

 

絵に描いたような、デコボココンビ。

 

小柄で小太りの中年はカメラを、長身で細身の若者は、大きな板を持っている。

 

綾乃はそれが『レフ板』だと、すぐにわかった。

 

 

 

…撮影?…

 

 

 

「原宿で仕事が終わって帰ろうとしたら、綺麗な娘がいるな…って」

 

「はい、わかるんですよね…そういうの」

 

「どう?1枚、撮らせてもらっていい?」

 

 

 

綾乃は返答に困った。

 

 

 

そもそも『格好いい』と言われたことはあっても『綺麗』などと言われたことがない。

 

だから、これは詐欺なんじゃないかと疑った。

もしくは『ドッキリ』なのかも知れない。

 

 

 

とにかく、この場から立ち去らねば…と思っているところに、久美子が帰ってきた。

 

そして、2人に言う。

 

 

 

「『シゲさん』『マツくん』ウチの娘をナンパしないでくれる?」

 

「久実ちゃん!?」

 

「藤さん?」

 

 

 

なんと2人は、久美子と同じ出版社の同僚だった。

 

久美子のファッション誌がアラサーをターゲットにしているのに対し、2人は『J-BEAT』というローティーン向けの雑誌の、カメラマンとアシスタントだ。

 

「久実ちゃんの娘さんか!…そりゃあ、綺麗なハズだ」

 

「さすがに服のセンスが違いますね」

 

「あぁ、職業柄、遠くからでもすぐにわかる」

 

「それにしても…藤さんに、こんな大きい子供がいたんですね?知らなかったです」

 

「大きい…って、身長のことかしら?綾乃はこれでも、中2よ!」

 

その言葉に「とてもそうは見えない!」と驚く2人。

 

そして「折角だから」と久美子の勧めもあって『記念撮影』をした。

 

 

 

突然始まった撮影会に、たちまち辺りに人だかりができる。

 

「誰?」

 

「モデル?」

 

 

 

…いや、違うんだけど…

 

 

 

綾乃は恥ずかしさと緊張のあまり「笑って」というリクエストに応えられず、逆に少し怒ったような表情で、カメラに収まった。

 

 

 

 

 

しかし、これが一週間後、大問題になる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春休みが終わり、始業式。

 

 

 

綾乃の学年は4クラスある。

 

登校してから、掲示板に貼り出された名簿を見た。

 

つまりクラス替え。

 

 

 

その割り振りに、一喜一憂している生徒たち。

 

半数以上は、知らない名前。

 

綾乃は人見知りではないが、かと言って、初対面の人に馴れ馴れしく話掛けるタイプでもない。

 

それなりの緊張感を持って、教室に入る。

 

 

 

その時…先に中にいたクラスメイト数人から、突き刺さるような視線を感じた。

 

 

 

「?」

 

 

 

顔は見たことあるが、会話したことはない。

 

しかし、単なる初対面だから…という理由だけではない…鋭い視線。

 

 

 

おはよう…と挨拶する綾乃。

 

おはよう…と返答はあった。

 

それ以上の進展はなし。

 

 

 

綾乃はすぐに、クラスメイトとなったバレー部の仲間と合流した為、それ以上の会話しなかったが…

 

彼女たちは、その後もチラチラと様子を窺っているようだった。

 

 

 

…なんか、感じ悪いなぁ…

 

 

 

朝からブルーになる綾乃。

 

 

 

「どうかした?」

 

「えっ?べ、別に…」

 

「それならいいけど…。今日から新入部員が入ってくるわよ!」

 

「そうだね!」

 

「負けないようにしないと!」

 

「よし!頑張るぞ!」

 

 

 

気合を入れ直し、綾乃は半日を終える。

 

このあとは、昼食を摂り、部活だ。

 

 

 

仲間とその準備をしていると…朝のグループのひとりが、綾乃に近付いてきた。

 

 

 

「あなた…確か、藤…綾乃さんだったよね?」

 

「そうだけど…」

 

「やっぱりそうだ!」

 

「なにか…」

 

「ちょっと来て!」

 

「えっ?」

 

彼女は綾乃の腕を掴むと、グループがいる自分の席と引っ張っていく。

 

「えっ?えっ?なに?」

 

 

 

「これ、あなたよね?」

 

 

 

彼女が自分のカバンから取り出し、机の上に置いたのは、一冊の雑誌。

 

 

 

タイトルは『J-BEAT』だった。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。