【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
》さて冒頭の話に戻るが、高野は会見の席で、マスコミに対し大きな挑戦状を叩きつけた。今回は我々『週刊 新文』がその代表として、ジャーナリズムの原点に立ち返り、彼の言う『事故の責任』を追及することとした。
》今回の事故の被害者は高野と、元スクールアイドル『M's』のメンバーで現在は大学生の『Sさん』である。2人が以前から顔見知りだったかどうかはさておき、信号待ちをしていた高野とSさんのところに、信号無視をして衝突した1台の乗用車が弾みで突っ込んできたというのが、概要である。
》この件においては『無免許運転していた少年』に大半の原因があるということは道理である。では、なぜ彼はそのような行為に至ったのであろうか。彼の家庭環境や生い立ちを追って、つまびらかにしていこう。
》事故を起こしたのは『志賀龍一』という16歳の少年である。
「…実名報道か!?…」
「…そうみたい…」
「チッ!」
高野は舌打ちをした。
「…続けるよ?」
「あ、あぁ…」
》加害者は未成年であるが、既にネット上では氏名が特定されており、削除しきれないほど拡散しているので、今更匿名にする理由は見当たらないだろう。
》そして誰が加害者なのかを明らかにすることにより、不特定多数に向けられる疑いの眼差しを正し、風評被害を未然に防ぐことができる。
》従って未成年であることを理由に情報を隠すのではなく、むしろ無実の青少年を守るために、氏名を公開するべきであるということをご理解頂きたい。
…ふん!詭弁だな…
…なら、オレたちに対する一連の報道はなんなんだよ!…
高野は露骨にイヤな顔をした。
》少年は幼少期に両親が離婚し、その後の親権は母親が持った。
》母親は2年後に再婚するが、新しい父親と少年は反りが合わず、小学校高学年頃より、家庭でも学校でも反抗的になり、度々、暴力を振るっていたという。
》小学校を卒業後は、中学に進学するも実質不登校で、朝からラブホテル街をうろつき、出てきたカップルを待ち伏せ。『口止め料』と言って現金を脅し取るなどの悪事に手を染めていく。
》養父への反発か、この時期から『旧姓』の『青山』を名乗るようになり、傷害や強盗未遂事件で何度か、補導されている。
》離れて暮らす実父と、頻繁に接触していたとの噂もある。
》『非行』については当初、単独での行動が多かったようだが、徐々に仲間が増えていき、最終的には14~5人程度のグループになっていたらしい。
》その仲間には、自ら『青山龍一』を縮めて『青龍』と呼ばせていたらしい。我々はそのうちのひとりから、話を訊くことができた。
》「(ラブホテル街で繰り返していた恐喝について)昼、夜問わず、入口の前にいれば、結構、普通に歩いてきますよ。それで、出てきたところを押えるです。大抵はその場で『支払らわせて終わり』です。男に財布出させて、中を見て、入っている札を抜く。それ以上は、深追いすれば逆にやられますからね。それくらいがちょうどいい。狙い目は…やっぱ明らかに『エンコー』してたっていうオッサンですかね。どんな仕事してるか知りませんけど、オッサンほど金持ってますから。オンナからは獲りませんよ。だって、そいつらはまた男を連れてくるかも知れないじゃないですか」
》要は美人局(つつもたせ)の派生型である。彼の話によると、多いときには1日に10万円以上にもなったという。
》「2~3時間居れば、何組かは出てくるんで。別に1日中そこにいなくてもいいですし、楽に稼げましたよ。ただ、噂が広まっちゃって、真似するヤツが出てきたり、サツが巡回するようになっちゃって…。パクられるヤツも出てきたし、そろそろヤベーかなって、オレらは手を引きましたけど」と悪びれることもなく語る。
》「青龍ですか?ちょっとなに考えているかわからないとこがあって…。気にいらないことがあると、仲間でも殴る蹴るはありましたよ…。車の運転ですか…それは、さすがに…でもあんなの、アクセル踏めば走るじゃないですか…別に難しいことじゃないんじゃないですか?…えっ、事故?あぁ、知ってますよ…運が悪かったんじゃないですかね」と述べる。
》『無免許運転』の上『信号無視』をして、衝突事故を起こし、3人の死傷を出した少年に対し『運が悪かった』と言われては、身も蓋もない。車の運転も『ゲーム感覚』だったのではなかろうか。
》同乗していた少女について尋ねると「詳しくは知らない」としながらも「エンコーしてたん娘じゃないですかね?」と言葉を濁した。
》少年はこの春から、建設作業員として働き始めたが、素行は悪く、現場でも手を焼く存在だったようだ。
》我々の取材に対し責任者である親方は「…えっ?青山龍一?あれは使い物にならなっかたねぇ。返事はしねぇし、時間は守らねぇし、癇癪起こすし、最悪だな。根性がねぇやな。なんとかしてやろうと思ったけど、なんともならなかったよ。普通はよ、どんだけ中坊のときにいきがってても、周りは『ヤンチャ上がりのヤツ』ばっかりだからさ…先輩はある意味、絶対なんだよ。そういう道を歩いてきた兵(つわもの)の集まりだろ?ガキが楯突けるような世界じゃないのさ。…いや、だけど、みんな仕事に関しては真面目だし、必死だよ。オレたちの仕事をバカにするヤツがいるかも知れないけど、働かないでプラプラしてる連中に較べれば、よっぽど一生懸命頑張ってるよ。…ただアイツはねぇ…1ヶ月、もたなかったんじゃないか?勝手に来なくなっちまったんだから、解雇だよ、解雇!…へぇ、あの事故起こしたの、アイツだったの?…まぁ、ウチには関係ないけど…冗談じゃないよ、ここで働いていたなんて名前出さないでくれよな。同乗してた女の子?さあねぇ…」とにべもない。
》その後も『関係者』に当ってみたが、一様に今回の件での関わりを否定。背後に組織などはなく、彼単独での行動(事故)であった可能性が高い。
》では、少年と少女の関係は?車の所有者は誰なのか?なぜその車を入手できたのか?
「まぁ、細かい話はアレだけど、ここまでは概ねネットで晒されてる情報と大して変わらないな」
高野は少しイライラした感じで呟いた。
》その前に、この少年について調査していくと、驚くべき事実がわかったので、まずそちらから報告しよう。それこそが高野梨里選手と夢野つばさ選手を繋ぐ『数奇な運命』だと言っても過言でない。
…いよいよ本題か…
》少年が幼少期に両親が離婚したことは、先に述べた通りであるが、その理由は少年の父親が起こした『交通事故が原因』だというのだ。
》彼の父親は、自身が5歳の時、勤務中に飲酒運転で、横断歩道を渡っていた男性を撥ねて死亡させており、危険運転致死罪で実刑6年の判決が下っていた。その父親が服役中に母親は離婚し、少年を引き取った。
》従って彼は(籍は抜けていたとは言え)父と2代に渡り、死亡事故を引き起こしたことになる。
》さて、この話で「ピン!」ときた読者は、相当の芸能通か、又は夢野つばさファンかも知れない。夢野も小学4年生の時に父親を、同様の事故で亡くしているのだ。
》ただし、これだけなら、だからどうした…という話である。交通事故の死亡者は年間3万人前後いる。さほど、驚くべきことではない。
》だが少年の父親と、夢野の父の加害者が『同一人物』だとしたら、どうだろう。話は別ではないか?
「えっ?」
「マジか!?」
朗読していたつばさと、それを聴いていた高野が同時に声を上げ、思わず顔を見合わせた。
「パパを轢いたのが…」
「コイツの父親だぁ!?」
「…」
「…」
しばしの間、病室を沈黙が支配した。
少し声を震わせながら、つばさがその先を読み進める。
》我々はその事実を知った時、唖然として言葉を失った。そんな韓流ドラマのようなことが、現実にありえるのかと。しかし、これは紛れもない事実である。
》つまり少年の父親は、夢野つばさの父の命を奪い…自身は夢野つばさの恋人の命を奪おうとしたのである。これが計画的に仕組まれたことでなければ、なんと言おう。まさにこれこそが『呪われた運命』というのではないだろうか!!
》蛙の子は蛙。離れ離れに暮らしていようとも、少年には確実に『悪魔の遺伝子』が引き継がれていたのであった。
「…『呪われた運命』とか『悪魔の遺伝子』ってのは、大袈裟だけど…さすがにこれは…オレも驚いた…」
「…そんなことって…」
そう言うと、つばさの目からポロポロと光るものが落ちた。
それは、あまりに突然訪れた感情。
父親を亡くしてから人前で泣かない…泣くときは湯船の中…と決め、ずっとそれを貫いてきた『綾乃』であったが、この涙は不意を突かれて、止めることができなかった。
「ご、ごめん!ちょっと、お手洗いに行ってくる!!」
つばさは、両手で顔を覆いながら、部屋を走って出て行った。
「チョモ!?」
高野はそう叫んだものの、あとを追いかけることはできない。
行った先がトイレであるのなら、戻ってくるのを待つしかなかった。
…それはショックだなぁ…
…自分の父親を殺した男の息子が、今度はオレを殺しかけたんだからなぁ…
…もうひとつショックなのは…
…この少年が、父親から何も学んでないってことだな…
…同じ道を歩んでどうするんだよ…
高野はつばさの心中をおもんぱかる。
そして、これ以上、彼女に朗読させるのは酷だと、雑誌を手に取り、自ら黙読し始めた。
》そこで、まず我々はこの少年の家を訪れた。しかし、インターホンを押しても応答がない。近所の住人によれば、事故が起きてから、姿を見ていないという。夜中に荷物をまとめて出て行ったとい目撃情報もあった。いずれにしても、今はここには住んでいないようだ。
》次に、商社の営業をしているという養父の職場を訪ねた。仕事が終わるのを待って駐車場に現れたところを直撃したのだが「私には関係ない。息子でもなんでもありませんので」と、足早に車に乗り込み、走り去ってしまった。
…関係ない…か…
この言葉を見た高野に…怒り…悲しみ…哀れみ…いろんな感情が溢れてきて…そして虚脱感に襲われた。
…どいつもこいつも、ろくなもんじゃねぇ…
心の中で吐き捨てた。
~つづく~