【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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この世界は哀しみに満ちている

 

 

 

 

 

しかし、記事はこれで終わりではなかった。

 

正直、もうどうでもいいと思ったが、つばさはまだ戻ってこない。

 

高野は仕方なく、記事の続きに目を通した。

 

 

 

》我々はもうひとり、この事故に関わるキーマンを取材した。それは少年の実父である。彼は今、4年余り前に刑期を終えて、関東圏内の某所で一人暮らしをしている。定職にはついていないようだ。

 

》散歩に出てきたところに声を掛けると「ここまでくるとはね…」と苦笑いした。どういう要件か悟った様子だ。近くの公園のベンチに腰を下ろし、話を訊いた。単刀直入に事件について質問してみると次のように語った。

 

》「息子が死亡事故を起こしたことは聴いたよ。残念だよね。だけどさ、一緒に乗っていた女の子はシートベルトしてなかったみたいじゃない。ダメだよね、それは守らなきゃ」と、いきなり被害者を批判した。

 

》すかさず我々が、そもそも無免許運転に原因があるのでは?と指摘すると「その車は息子が盗んだの?違うでしょ?誰だか知らないけど、子供にそんな自動車(オモチャ)を渡した方が悪いんだよ」と予想外の言葉が返ってきた。

 

》さらに過去に自身が起こした事故の被害者の娘が『夢野つばさ』であることを伝えると「へぇ…その子供が?それは知らなかった…ふ~ん、そう…親はなくても子は育つんだねぇ。あぁ、なら、伝えてほしいな…オレは悪くないと。アンタの父ちゃんが勝手に車の前に出てきたんだよ」と言ってのけた。

 

》しかし飲酒運転であったことは明白で、実刑判決が下り服役していたわけである。そんな言い訳は通用しない。それでも「冗談じゃない、オレは酔っ払ってなんかいなかったんだよ。あんな間違った判決、未だに納得しちゃいねぇよ。そのせいで、オレは仕事をやめさせられ、家族はバラバラになっちまったんだ。怨んでも怨みきれないね」と語気を強めた。

 

》さらに10年の時を経て、今回の事故が『リンク』したことを告げると「息子がその恋人を轢きかけただって?偶然とは言え、凄いね。ははは…その2人はよっぽど前世でオレたちに悪さしたんじゃないの?」とのたまう始末。まったく反省の色がない。これには普段、鋭く対象者に切れ込んでいく弊記者も、呆れて二の句が出なかったという。

 

》出所してからほぼ無職だというこの父親。1~2ヶ月に一度、息子から生活資金を貰っていたらしい。その金とはもしや…。「そんなことは訊くだけ野暮ってもんよ。いいじゃねぇか、それが親孝行ってヤツよ。デキた息子だろ?」と我々に自慢する。

 

》話を訊き終え、帰り支度を始めると、彼は右の手のひらを我々に向け「取材料」と言ったのだった。

 

 

 

…クズ過ぎる…

 

…当事者でなければ、笑っちゃうかもしれない…

 

…或いはそのイキっぷりに感心していたかもしれない…

 

 

 

…よくは知らないが、この親父も初めは真面目に働いていたのだろう…

 

…子宝にも恵まれ、幸せに暮らしていたのだろう…

 

…だが、どこでどう間違ったのかアルコールの誘惑に負けてしまった…

 

…そして、いつからか運転中に飲酒をするようになり…ついに人を殺めてしまった…

 

 

 

…刑期通りに出所しているところをみると、服役中はそれなりに真面目に過ごしていたのだろう…

 

…ただ、それはあくまで表向きの態度で、内心は違ったってことだ…

 

…もしくは出所してから、考え方が変わったか…

 

…アル中?…

 

…心神耗弱状態?…

 

…『被害妄想』…『逆恨み』…そんな感情に支配されているようだ…

 

…息子の事故を知ってこうなったのか…以前からこうだったのか…

 

…まともな思考回路ではないことは確かだ…

 

 

 

…それと…

 

 

 

…この親父にチョモの話をしたのは間違いだったんじゃないか?…

 

…夢野つばさは市井に溶け込んでる一般人ではない…

 

…狙おうと思えば、いつでもどこでも、狙うことができる…

 

…まさか、そんなことは起きないと思うが…。

 

 

 

…少年にとっては、こんな父親でも愛おしかったのだろうか…

 

…甲斐甲斐しく生活資金を援助していたとは…

 

…そこはに恐らく彼にしかわからないこと理由があるのはずだ…

 

…新しい父親とは馴染めなかったらしいが、彼にとっては幼き日の…父親との楽しかった想い出だけが『現実(リアル)』だったのでは…

 

…きっと大好きだったんだろう…

 

…もしかしたら、この父親は子煩悩で親バカだったのかも知れない…

 

…いい想い出というのは、どんどん美化される…

 

…少年が旧姓を名乗ったのは、単なる反発だけではなく、自分は『青山の息子』だという、彼なりのアイデンティティだったのか…

 

…そして、父親も唯一、自分に寄り添ってくれる息子が心の支えだったということか…

 

 

 

記事を読んだあと、この父親に一瞬『殺意を抱いた』高野のだったが、冷静になってみると、少しだけ胸が苦しくなった。

 

 

 

…なんか、切ない…

 

 

 

それぞれにそれぞれの立場がある。

 

 

 

…しかし、この話を美談にするつもりはない…

 

…彼が父親に渡していた生活資金というのは、恐らくクリーンな金ではない…

 

…人々を脅したり、傷つけたりしながら奪った金だ…

 

…どんなに親子の絆が固かろうと、それとこれとは別の話…

 

…そして自らの不法行為により、人を殺めてしまったという事実…これはそんな言葉でごまかすことはできない…

 

 

 

「ごめん…ちょっと、ワケがわからなくなっちゃって…」

 

高野がそこまでの記事を読み終わり、そんなことを考えていると、つばさが病室に戻ってきた。

 

目は赤いが、涙は止まっていた。

 

 

 

「あぁ、オレもワケがわからない…特にこの親父はかなりヤバい」

 

高野が呟く。

 

「そうなの?」

 

「できれば、お前には読ませたくない。気分が悪くなるだけだ」

 

 

 

「えっ…」

 

 

 

「こんなヤツに殺されちまったんだったら、親父さんも浮かばれない…」

 

 

 

「梨里…」

 

 

 

「事実は小説より奇なり…か。確かにビックリする話ではあるが…オレは殺されちゃいない。生き残った。そう簡単に『数奇な運命』で片付けられてたまるかよ!!」

 

高野は吐き捨てるように言った。

 

 

 

つばさは新文を手にとる。

 

「オレはやめておいた方がいいと思う。だけど、被害者の知る権利ってのもある。だから、どうするかは自分で決めろ。ただし…読むなら限りなくブルーになることは間違いないから、覚悟しておけ」

 

「…わかった…」

 

そう言うとつばさは、逡巡することなく黙読を始めた。

 

 

 

「…そうなんだ…」

 

「読み終わったか…」

 

「うん…キミの言った通りね。ワケがわからないわ…でも…ちょっと哀れかな…」

 

「どっちが?」

 

「2人とも…。人を撥ねておいて、この期に及んで謝罪の言葉もない父親もそうだし、何が正しくて何が悪いのか判断できない少年もそうだし…」

 

「哀れか…」

 

高野はその言葉を呟くと、黙り込んでしまった。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

「あ、ねぇ…この続きって読んだ?」

 

この部屋の…時間が止まりそうなくらい澱んだ空気を嫌うかのように、つばさが高野に訊いた。

 

「続き?いや、まだ…」

 

「ここまで来たんだし、折角だから最後まで読もうか?」

 

「あ、あぁ…そうだな…」

 

 

 

》さて、ここまでは少年の生い立ちを中心に、事故に至った背景を探ってきたわけだが、ここからは前半に挙げた疑問を解明していこう。

 

》まず、車に同乗して亡くなった少女であるが、少年のようにいわゆる『不良』であったか?というと、少し違う。彼女は幼小中高一貫教育の有名私立校に通っていた『お嬢様』である。この春からは高校生となっていた。

 

》成績は悪くなく、学校でもトラブルはなかったようだが、近所の住民によれば、中学生頃から夜遊びが激しく、度々朝帰りする姿を目撃したという。

 

》我々が独自に入手した情報によると(前述の少年の仲間が語った通り)中学2年生の頃から援助交際を繰り返しており、その時に少年とは知り合ったことが判明。当初は少女も『強請られる立場』だったようだが、その後、徐々に『友人のような関係』へとシフトしていったと見られる(美人局のビジネスパートナーだった可能性もある)。

 

》そして驚くべきことに、この少女の父親が事故車両の持ち主であったのだ。

 

》その人物こそ都内で不動産業を営む会社社長Y氏(66歳)である。父親は金融業で財を成した実業家で、そのセレブな生活ぶりは、何度かTVでも紹介されているのため、目にした方も多いだろう。

 

》Y氏には死別した前妻との間に3人、再婚した後妻(37歳)との間に1人の子供がいるが、この子が亡くなった少女であった。

 

》我々は、なぜ少年がその車を運転するに至ったのか?その謎を解くためY氏を直撃したが、彼は終始無言を貫きはコメントを得ることはできなかった。

 

》とある関係者からの話によると、自宅には高級外車などが7~8台ほどあり、Y氏以外にも家族(息子、娘)が乗車していたとのことで、現在警察が当時のカギの管理状況などを含め、捜査中だという。

 

 

 

「援交ねぇ…そういう家庭環境なら、小遣い稼ぎってワケでもなさそうなんだけどなぁ」

 

「だよね」

 

「ストレスか?」

 

「ストレス?」

 

「あぁ。少年と違って、こっちの記事はネットほど詳しく書いちゃいないけど、上3人は相当優秀みたいだし…1人だけ腹違いとか、その後妻が台湾人だとか、まぁ、そんなことが色々あったのかもしれないな。これはオレの想像だけど」

 

「なるほどね…」

 

「だからって、同情するつもりは一切ないけど」

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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