【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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繋がった点と点

 

 

 

 

「あ、まだ次のページに記事の続きがあった…えっと…」

 

 

 

》ところで、このY氏だが…実は夢野と浅からぬ縁がある。

 

 

 

「えっ!?」

 

読み上げていたつばさ自身が、驚いた。

 

「おいおい、またかよ」

 

「私は何も知らないけど…」

 

 

 

》Y氏は4人兄妹弟(きょうだい)の長男である。その直ぐ下の妹の息子(つまり甥)は、某IT関連企業の代表取締役である。会社はスクールアイドルの甲子園といわれる『ラブライブ』のメインスポンサーであり、自身は大会をアキバドーム開催までの規模に引き上げたメンバーの一人でもある。我々の記事でも取り上げた『M's』の海外ライブを成功に導いた影の立役者とも言われている。

 

 

 

「…うそ?…」

 

「知ってるの?」

 

「知ってるも何も…これって『水谷』さん…」

 

「水谷?」

 

 

 

》そして今は夢野が所属する女子サッカーチームのスポンサーでもある。

 

 

 

「あっ!」

 

「そうなの…」

 

 

 

有名女子サッカー選手を何人も輩出していたとはいえ、まだ地域リーグで戦っていた『大和シルフィード』。

 

そこに夢野つばさは、諸々の縁(えにし)と当時の社長の熱意により、半分『広告塔』の役割を担って入団した。

 

広告塔とはつまり、つばさの知名度を持って、チームの運営資金を集めること…すなわちスポンサーの獲得である。

 

その結果、胸には(アーティストのシルフィードとして)CM曲でタイアップした菓子のロゴが入り、背中にはIT関連企業の名前がプリントされた。それ以外にも数社がスポンサーとして付き、アマチュアチームとしては充分過ぎるバックアップを得たのだった。

 

つばさは選手兼リポーターとしてWebを通じて、チームのニュースを発信することを任されていたのだが、まさにそこに関わっていたのが件(くだん)のIT企業であったわけである。

 

 

 

「チームの公式行事とかで直接会ったこともあるし…」

 

「…世の中、狭いっていうか…逆にお前の顔が広いってことだろ?これを人脈と言っていいかどうかは知らんけど…少なくともサッカー界と芸能界と、両方に身を置いているわけだし」

 

「う、うん…まぁ…」

 

「確かにこの記事の内容が本当なら、ちょっと気味が悪いなとは思うけど…」

 

「よくわからなくなってきたわ…」

 

「こういうときは関係図を書くのが一番だ。何か書くものは?」

 

つばさが自分のバッグからボールペンとメモ帳を取り出した。

 

「まず、オレ…チョモ…」

 

高野の言葉に従い、つばさが書き取っていく。

 

「チョモの親父さん…で…事故死させたのが青山某っていう」

 

 

 

「青山正義(まさよし)」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「覚えているわよ『犯人』の名前くらい」

 

「正義ねぇ…今となっちゃ、皮肉な名前だな…。それで、その息子が、今度はオレを襲ったと…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「さらに、同乗して亡くなった少女がいて、この父親の妹の息子が、つばさのチームのスポンサー様だった…と、こういうわけか」

 

「そうだね…」

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

「まぁ、この水谷って人は、事故とは直接関係ないからな、こじつけって言えば、こじつけだろ」

 

「う、うん…そうだよね」

 

「この少女の親父まではさ、管理責任があると思うけど」

 

「だよね…それより…」

 

「実はまだ続きがあるみたいで」

 

「何の?」

 

「記事の…」

 

「あん?」

 

「さっき、一瞬文字が見えちゃったんだけど、そっちの方が気になって…」

 

「ん?」

 

 

 

》さらにY氏の6歳下の弟(60歳)はB学園の学長をしているが、この学校はかつて夢野が中学1年生時に在学していた学校である。夢野は2年生からモデルとして活動を始めたため、『ゲー校』に転入しているが、その背景には『雑誌に掲載された写真』を巡って学校とトラブルとなり、退学を迫られたとう経緯がある。この辺りの夢野の経歴については、読者の皆さまの方が詳しいかもしれない。

 

 

 

「学長の苗字は『横山』だったはず」

 

つばさがポツリと呟いた。

 

 

 

…ネットに晒されてた少女の名前は…横山春蘭だったか…

 

 

 

高野も心の中で呟いた。

 

 

 

つばさの脳裏には『あの日のこと』は、今もハッキリ焼き付いている。

 

母親とJ-BEATの編集長の永井と学長室に出向き、屈辱的な『判決』を受けた日のことを。

 

 

 

…確かに、あそこでああならなければ、今の私はないわけだけど…

 

 

 

時折、あの時、実質『退学を言い渡された』ことが良かったのか、悪かったのか自問自答することがある。

 

答えは永遠に出ないのだろうが、今は歩んできた人生が概ね上手くいっているので、そのこと自体怨むような考えは持っていない。

 

逆に少し感謝さえしていた。

 

しかし、その次の文字を読み進めていくうちに、つばさはその気持ちを握り潰されていく。

 

 

 

》B学園は規律に一際(ひときわ)厳しい学校として有名だが、果たして身内(学長からすれば少女は姪にあたる)が起こした、破廉恥かつ無法極まりない行動に、教育者としてどう説明責任を果たしていくのであろうか。

 

》もうひとつ。実はこの学長と、当時、高校のバレーボール部の顧問であった学長の次男(29歳)には、大きな嫌疑が掛けられている。4年ほど前に在学中の女子部員が自殺したのであるが、その原因が顧問の性的虐待ではないかという疑惑が持ち上がっているのである。

 

 

 

「!!」

 

 

 

…まさか?…

 

 

 

つばさはもちろんのこと、高野もピン!ときた。

 

 

 

「…弘美?…」

 

 

 

》女子部員の名前は『Hさん(享年17歳)』。小学生の頃からバレーボールの才能に恵まれ、背は低いながらも将来を嘱望されたセッターであった。中学は特待生としてB学園に進学。(先に述べた通り、途中で転入してしまった為)1年だけだが夢野とはチームメイトでもあり、レギュラーセッターを争い切磋琢磨していた中だという。しかし、3年時に全国制覇を果たすも、高校に進学した翌年、膝を故障し、残念ながら選手生命は絶たれてしまう。それでもマネージャーとして部に残り、スタッフとして懸命に部を盛り立てていたのだったが…ある日、とある場所で遺体となって発見されたのである。遺書はなかったが、現場の状況から自殺と見られている。

 

》当初は『膝の故障を苦にした挫折』が原因と見られていたのであるが、最近になって遺族が、Hさんは当時の顧問から性的虐待を受けていた旨の話を友人から聴いたとして、弁護士と共に独自に調査を開始。この度、その容疑が固まったとして告訴する準備を進めているという。さらに学長はこの事実を把握していながら、隠蔽したのではないかとも言われているが…今のところ両者とも関与を否定しているらしい。いずれにしても今後、この名門校が一大スキャンダルに晒されることは間違いない。

 

 

 

》余談ではあるが、Y氏から見て一番下の弟(51歳)は、高野の父(47歳)と同じ大学の出身で先輩にあたる。お互いテニスサークルに所属しており、面識はあったと思われるが、さすがに2人との間になんらかの因果関係を見つけ出すまでには至らなかった。

 

 

 

》しかし、いかがであったろうか。これらの事実を突詰めていくと、夢野はY一族に振り回されてきたことがわかる。

 

》高野梨里と夢野つばさ…日本のサッカー界を引っ張る若きエースたちは、このように複雑に絡みあった数々の奇妙な縁(えにし)の中で生きていたのだ。これを『数奇な運命』と言わずして、なんと言えよう。

 

》今回の特集は我々にとって、非常に興味深いものであった。しかし、これで終わりではない。まだ明かされていない謎がある。そして、新たに生まれた疑問もある。この先も総力を挙げて、それらを解明していこうと思う。もしかしたら、まだ2人には、思いもかけないような事実が隠されているのかもしれない。判明次第、適宜報告しよう。

 

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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