【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「それは海未ちゃん、2人の問題やと思うから…放っておくしかないんやないかなぁ。えりちはどう思うん?」
「私も希と一緒ね。心配なのはわかるけど、海未がどうこうできる問題じゃないと思うわ」
「それはそうなのですが…」
海未からみて、こういう話を真剣に相談できるのは、μ'sの年長者しかいない。
しかし、うち2人は社会人。
言葉は悪いが、一番時間が取れそうなのが、まだ大学生の絵里だった。
絵里は3年時には必要な単位を全て取得しており、今は就活中である。
しかし、既に何社か内定をいるらしく、この時期それほど焦っている様子はない。
さすが元生徒会長である。
そこで海未は病院を出てから、絵里に連絡を取ったところ『おまけ』に希が付いてきたというわけだ。
希は、たまたま仕事が休みだったらしく、絵里とショッピングを楽しんでいるところだった。
そこで3人は、とあるカフェで合流して…冒頭の会話となったわけである。
「なんだかやるせないのです。お互いがお互いのことを思いやっているのに、2人の気持ちが擦れ違っているようで」
「そやなぁ…高野さんも迷ってるんやろうね?このままの関係でいるべきか…それともやめるべきか」
「!!」
「記者会見の内容とか、今までの海未ちゃんの話とか聴いてて思ったんやけど、やっぱり高野さんには『男としてのプライド』っていうのがあって、それが邪魔してるんやないかな」
「男の…プライドですか?」
「高野さん、言ってたやん…『格差婚とか言われたくない』って」
「はい、それは確かに…」
「マスコミへのリップサービスもあったかもやけど…意外と本心なんやかいかな?」
「そうね…。本来なら『オレに付いてこい』って言いたいところだけど…でも、現状は自分がいつ復帰できるかどうかもわからない状態…。ジレンマみたいなのはあるかも知れないわね」
「…」
「一方、つばささんはサッカーを辞めて、高野さんを支える覚悟があったんじゃないかしら…」
「海未ちゃんやったら、どうするん?」
「えっ?」
「海未ちゃんが、つばささんの立場やったら」
「私…ですか?…私なら…サッカーを辞めます!」
「好きな人の為に尽くす?」
「はい」
「海未らしいわね」
「そうやね…。でも、それが重すぎると相手の男性に負担になることもあるんよ」
「そ、そうなのですか?」
「だから恋愛は難しい…ただ好きって言うだけじゃ成り立たないの…」
「…希も絵里も、さも経験があるような言い方ですけど…」
「それは海未ちゃんよりは…」
「ねぇ?」
2人は意地悪く微笑んだ。
…なんでしょう、この屈辱感は…
…私だって好きな男性くらい…
…あ、いえ…ダメです…
…高野さんは、つばささんの…
海未は、一旦、目の前にある抹茶ラテを口して、気持ちを落ち着かせた。
「でも海未ちゃんも覚えておいた方がいいかも。…ウチ、読んだんやったか、聴いたんやったか忘れてしもうたんやけど、好きな言葉があってな…『恋から醒めたとき、それでも好きでいられるのが愛』…なんやって」
「ハラショー…」
絵里は感心した様子で希を見た。
「…奥深いですね…」
海未もその言葉を、心の中で反芻する。
「お互いがぶつかって、わがままを言い合って、弱点や悪いとこ、イヤなところとかが見えて…それでも許してあげる…好きでいられる…ってことが本当の愛…ってことやね」
「海未と穂乃果の関係みたいね」
「絵里!?」
「ほんまやね」
「私はそういうつもりはありません。ただの幼馴染みといいますか、腐れ縁といいますか…ちゃんと見ていないと何をするかわかりませんので、監視してるだけなんです」
「保護者ってことかしら?」
「はい!」
「なら、それは親子『愛』やん」
「親子…ですか…」
…だとしたら、私はいつになったら子離れできるのでしょうか…
「『Like』と『Love』の違いって、そういうことなのね…さっきの希の言葉…よくわかるわ」
「そういう意味では、海未ちゃんが高野さんに言ったように、一旦、本音をぶつけ合うのは大事やと思うけど」
「はい…」
「でもやっぱり、私たちが口を出す問題じゃないわよ」
「…そうですね…」
「…そやけど、なるようになるんやないかな?…続くにせよ、続かないにせよ、お互い納得した上で、解決するんやないかと思うんやけど…」
「…はい…だとよいのですが…」
つばさのスマホが鳴った。
…梨里?…
「もしもし…」
出ようか、やめようか、20秒ほど迷った末、応答した。
「…あぁ、オレだ…」
「…なに?…」
「一言、どうしても伝えたいことがあって電話した」
「えっ?」
「黙って聴いてほしい」
「…う、うん…わかった…」
「オレは…オレは…お前のことが…好きだ…」
「い、いきなり!?」
「その気持ちに…変わりは…ない…。だから…本音を言えば…オレのそばにいて欲しい。…お前を…自分だけのモノにしたい」
「り、梨里…」
「園田さんに言われたよ。ちゃんと本音をぶつけた方がいいってね」
「海未さんが?」
「あぁ、だから、大事なことだからちゃんと言うよ。本当は今すぐにでも結婚して…毎日お前とエッチがしたい!!」
真剣な話でも、すぐにこういうことを言ってしまうのが、高野梨里という男だ。
つばさは…いや綾乃はそんなこと百も承知している。
「…ばか…」
つばさはいつものように呟いた。
「だけどさ…オレが今、相、対しているのは『夢野つばさ』なんだよ…」
「えっ?」
「オレの前にいるのは…藤綾乃じゃないんだ」
「なに?どういうこと?」
「お前の存在が、オレにはデカくなりすぎたってことだ」
「…意味がわからない…」
「オレさ…昔からチョモだけには負けたくないって思ってて…でも唯一自慢できたのはサッカーしかなくて…そのサッカーさえも先を越されて…今のオレには誇れるものは何も残されていないんだ」
「そんなことないよ!だって、リハビリはまだ始まったばっかりだし、これから復帰して、活躍して、海外に行くんじゃない!!なに、弱気なことを言ってるのよ?」
「もちろん、そうするつもりだ。だけど、今、この状態で『お前にサッカーを辞めてくれ』とか『日本に残れ!』…なんて言える権利も資格も…オレにはない」
「えっ…」
「もっと言えば…日本中…少なくともサッカー関係者や、サッカーファンが夢野つばさに掛ける期待を、オレのわがままで消すわけにいかないし…今のオレは『藤綾乃』の夫になれたとしても、『夢野つばさ』の夫になれる自信はない」
「何を言ってるの?私は私…」
「世間がそういう目で見てくれないさ」
「意気地なし!!」
…目の前にいたら、平手打ちを喰らってたな…
…セイラさんがカイを叩いたように…
高野はガンダムに出てくるワンシーンを思い出した。
「…正解だ…」
「正解?」
聞き間違いかと思い、つばさはその言葉を繰り返した。
「その通りだ」
「えっ?」
予想外の反応に、戸惑うつばさ。
「オレは…お前が小さい頃からオリンピックに出ることが夢だったのを知っている。そして種目は違えど、その夢は叶った。だけど、お前はそれに満足しているのかといえば、絶対NOなんだよ…。オレにはお前があんな中途半端な不完全燃焼な状態で『満足している』『悔いがない』…なんて思ってるとは考えられない。だから、もっともっと上手くなって、もっともっと上を目指してほしいんだ」
「…」
「…なんていうのは、言い訳で…」
「えっ?」
「いや、間違いなくそう思ってる。だけど、それと同時に、もうお前は、オレに関わらない方がいいんじゃないかとも思ってる」
「!?」
「別に新文の記事を気にしてるんじゃない。そんなつもりはない。ただ…お前の中で、オレの存在が負担になるようであれば、それはオレの生き方に反する。お前の人生はオレのものじゃない。お前はお前で生きるべきだ…と思ってる…」
「…そんな、カッコいい言葉…キミには似合わないよ…」
「ごめん…電話だから言える…」
「…そう…だとしたら…私こそ…ごめんなさい…かな…」
少し間を空けたあと、今度はつばさが謝った。
「ん?」
「梨里のことを言い訳にしてた…」
「あん?」
「私も海未さんから電話が掛かってきて、同じこと言われちゃた。お互い気を使いすぎだって。でも、それじゃ、大事なことは伝わらない…って」
「あぁ…そうだな…」
「怖かったんだ、海外に行くのが…怖かったんだ、ひとりになるのが…」
「…チョモ…」
「だって、私は…ずっと、優しい仲間に囲まれて生きてきたから。さくら…萌絵…かのん…沙紀…優子さん…そして、キミ…。私はみんなに支えられてここまで来た。だけど…向こうに行ったら誰も助けてくれない!向こうに行ったら…向こうに行ったら…。だから、本当はキミに『行くな』って言ってもらいたかったの…止めて欲しかったの…」
「…」
「梨里の気持ちは、凄く嬉しかったよ。だけど…自分の弱さを認めたくなかった…だから…」
「だったら、最初からそう言えよ…」
「前に言ったでしょ?私、女っぽくないよって」
「バカ、それとこれとは別の話だろ?」
「また、バカって言った!」
「オレは四六時中言われてるけどな」
「…でも…意気地なしは…本当は…私だったのね…ぐすっ…」
「…!!…泣いてる?」
「そんなこと訊かないでよ…デリカシーなさすぎ。そういう男はモテないぞ…」
「強がるなよ。…いいんだぜ、泣きたいときは泣けば。電話の向こうじゃ、お前を抱きしめてやることはできないけどさ。泣き終わるまで、付き合ってやるよ」
「…キミのくせに偉そうだよ…」
「そうだな…何様目線だ…って話だよな…」
「梨里…」
「先に行ってろ。オレもあとから追う」
「それは…」
「やっぱり、お前は…オレにとって『永遠のライバル』だ。また、目標になっちまったよ…」
「…えっ!?…」
「頑張れよ!応援してるぜ!」
「…あっ…うぅ…うっぐ…」
「オレもゼロから出直して、代表に復帰して、海外に移籍して…それくらいになったら…そうだな…それくらいになったら…おっぱいの大きなお姉ちゃんを探そうかな?」
「…ふふふ…ぐすっ…最低ね…」
泣き笑い。
「あぁ、最低だ。だけど、これからは…そんな想いをしなくて済む。良かったな…」
「…どうして…そういうことを言うの…どうして…」
「上手い電話の切り方を知らない…」
「じゃあ、私から電話を切るから…」
「あぁ…」
「ちゃんと最後まで聴いてて…」
「あぁ…わかった…」
「ばか!ばか!ばか!ばか!ばか!ばか!ばか!ばか!…りさとのばかぁ~!!…うわぁん…ばかぁ…うっぐ…うっぐ…りさとの…ばか…ばか…ば…か…」
つばさは、ずっと高野に『ばか』と言い続けた。
そこは風呂場ではなかったが…泣きながら…ずっと…。
それを高野は黙って聴いていた。
泣き声が聞こえなくなるまで…いつまでも、ずっと…。
~つづく~