【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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水の星が愛をこめて

 

 

 

 

「はい、高野で…」

 

 

 

「高野さん!いつ退院されたのですか!?」

 

応答しようとした高野に対して、電話の向こうの相手は、名乗りもせず、喰い気味に言い放った。

 

 

 

「そ、園田さん?」

 

「先ほど病院を訪ねたら『もう退院されました』と」

 

 

 

…しまった!…

 

…下手に迎えに来てもらっても…と思ってたから、事後報告にしようとて…

 

 

 

…そのまま忘れてた…

 

 

 

「それは、その…サプライズってヤツ?園田さんをビックリさせたくて…」

 

「そんなサプライズは要りません!」

 

「ご、ごめん…決して悪気はなかったんだけど…」

 

「…でも、良かったです…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「無事、退院されて…」

 

 

 

「あ、あぁ、お陰さまで…」

 

「おめでとうございます!」

 

「あっ…うん、ありがとう」

 

「…ということは…」

と一拍間が空いた。

 

海未の隣に誰かがいるようで、囁くような声が聴こえたあと、

「…か、快気祝いをせねばなりませんね…」

と彼女は言葉を続けた。

 

「えっ?いいよ、そんな大袈裟なこと…」

 

「大袈裟ではありません!!…えっと…さ、再来週の土曜日などいかがでしょうか?」

 

「聴いてる?オレの話…快気祝いなんて…」

 

「では、せめて一緒にお食事だけでも…これまでの事を何かしらの形でお礼を致したいのです」

 

「気持ちはありがたいけど…」

 

「ご迷惑でしょうか…」

 

「いや、そういうことじゃ…」

 

海未の困った顔が、頭の中に投影される。

 

 

 

…あまり頑なに断るのも悪いか…

 

 

 

「…えっと…再来週の土曜日?」

 

「はい、23日です」

 

「あれ?その日は…サッカーを観に行こうかと思ってたんだ…」

 

「サッカーですか!?」

 

「天皇杯って知ってる?元日に決勝が行われるんだけど」

 

「はい、なんとなくは…」

 

「それの準決勝があって…」

 

「高野さんのチームが出られるのですか?」

 

「いや、残念ながら、うちはとっくに敗退した。でも、まぁ、地元のチームで、試合会場も川崎だから…」

 

 

 

「ご一緒します!!」

 

電話の向こうから、囁きが聴こえたあと、海未が力強く返事した。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「あ、いえ…私もこの間、つばささんの試合を生で観させて頂いたのですが、その時、いたく感動致しまして…」

 

「えっ…あぁ…まぁ、構わないけど…」

 

「本当ですか!?」

 

「サッカーファンが増える…っていうことはいいことだと思うし。普及活動も選手の役割として大事だから…」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「でも、寒いよ?暖かい格好でこないと…」

 

「大丈夫です!」

 

「ちなみに、そこに誰かいる?なんとなく、別の人の声が…」

 

「は、はい友人が…」

 

「あぁ、良かった。幻聴かと思ったよ」

 

「いえいえ…あ、それで…できれば、隣の者も一緒に行きたいと申しておるのですが…」

 

 

 

「友人って…南さん?」

 

 

 

「違います!!」

 

速攻で否定する海未。

 

 

 

…やはり、高野さんの頭の中にはことりが?…

 

 

 

「…あ、ごめん。オレの中では園田さんの友達って言ったら、南さんと高坂さんだと思ったから…」

 

「いえ、それは確かにそうなのですが…」

 

「わかった。じゃあ、その人の分も含めて、チケット3枚取っておくよ」

 

「は、はい!宜しくお願い致します!」

 

 

 

 

 

「…うまくいったじゃない…」

 

海未の隣で話を聴いていた真姫が、優しく声を掛ける。

 

「はい。まさか、こんなにトントン拍子に話が進むとは思いませんでした…ですが…真姫がいてくれなければ、途中で会話が終わってました」

と言ったとたん、海未はへなへなと腰から崩れ落ちた。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「…緊張の糸が切れました…」

 

 

 

…海未にしてはよくやったわ…

 

…でも、こんな調子じゃ先が思いやれるわね…

 

 

 

真姫は海未の身体を引っ張り上げながら

「しっかりりなさいよ…これからが勝負なんだから」

と励ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「萌絵…何見てるの?」

 

忘れてられているかも知れないが『星野はるか』の本名は『田中萌絵』である。

 

「えっ、あぁ、かのん…今年のラブライブの本大会に残ったチームの動画…」

 

そして『水野めぐみ』は『阿部かのん』。

 

仕事をしていない時は、お互い本名で呼びあっている。

 

 

 

「そっかぁ…今年ももう、そんな時期なんだね。自分達のことで手一杯で、なかなかそこまで気が回らなかった…」

 

「そうだね。いろんなことがあったけど、1年間あっと言う間だったね」

 

「まぁ、私たちは、ここからがもっと忙しくなるけど…」

 

「うん…」

 

「それで、どう。今年のスクールアイドルは?」

 

「まぁ、どこもそんなに変わらないかな。特にこれ!ってところは」

 

「μ'sとA-RISEがインパクトありすぎだっだんたよ!」

 

「そりゃあ、スクールアイドルの先駆者だしね。それに比べれば…全体的なレベルは上がってるけど、どうしても二番煎じ、三番煎じに見えちゃうのよね」

 

「あははは…それは仕方ないよ。『スクールアイドルの大会』だもん」

 

「楽曲もパフォーマンスも似たり寄ったりで…だから、結局は、いかにビジュアルがいいか…ってことが、勝敗を分けるんだと思うんだけど…」

 

「毎年のことじゃない」

 

 

 

「その中で…」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「ひとつだけ『引っ掛かるチーム』がいるんだ…」

 

「引っ掛かるチーム?」

 

「これなんだけど…」

 

 

 

「『アクオス』?」

 

 

 

「『Aqours』って書いて『アクア』って読むんだって」

 

 

 

「!!」

 

めぐみはハッとして、思わずはるかの顔を見た。

 

 

 

「『目の付け所が違うでしょ?』…ってことではないみたい…」

 

 

 

「アクアねぇ…」

 

 

 

星野はるかと水野めぐみのユニットは、正式には『アクアスター from シルフィード』という。

 

サッカー選手に転身してから、すっかり音楽活動はご無沙汰している夢野つばさだが、実はシルフィードから籍が抜けたわけではない。

 

そもそもシルフィード自体、解散しているわけではない。

 

つばさが、いつでもこの世界に戻ってこられるように、名前は残してある。

 

 

 

実は結成当初から『シルフィードのオプション』として、デュオで活動することは計画されていた。

 

そのうちのひとつが『アクアスター』である。

 

これが、つばさとはるかなら『ドリームスター from シルフィード』となり、つばさとめぐみなら『アクアウイング from …』となる。

 

「そこはアクアドリームじゃないんかい!」

と突っ込みたいところだが、確かに『水の夢』だと意味不明だ。

 

まぁ『水の翼』もどうかと思うが。

 

 

 

それはさておき…

 

 

 

水野めぐみは『アクア』という単語に反応した。

 

「それはね…全国数千あるスクールアイドルの中で、そんな名前はいくらでもあるだろうけど…」

 

「敢えてパロディっぽく付けることもあるしね…」

 

「『新井's』とかでしょ?」

とめぐみ。

 

「『U's』っていうのも見たことある」

 

「うん、いたかも…だから、アクアがいようが、スターがいようが、別に構わないけとは思うけど…確かに一瞬『ん?』とはなるわね…」

 

「でもね、私が引っ掛かったのは、名前だけじゃないんだな…これが。この『Aqours』…東海地区代表なんだけど…構成人数は…3年生と2年生と1年生がそれぞれ3人ずつで…」

 

「結構な大人数じゃない…って、その編成は…」

 

「やっぱり、そう思った?…絶対意識してるよね」

 

「それは確かに引っ掛かるわ…」

 

めぐみは興味深そうに、はるかが見ているタブレットの画面を覗きこんだ。

 

 

 

「色々、突っ込みどころが満載のメンバーよ。μ'sファンの私からすれば、ちょっと喧嘩売ってるんじゃない?って感じなんだけど…」

とはるかは半分笑いながら、彼女たちにメンバーのプロフィールを見せる。

 

「この『鞠莉』って娘は…さしづめ絵里さんってとこかしら」

 

めぐみは画面を見ながら、はるかに問う。

 

「百歩譲って、ハーフってとこまでは許すとして…理事長ってなに?理事長って!」

※絵里はクォーターである。念のため…。

 

「…理事長なの?この娘が?…凄いね、それ…」

 

「その時点で、もうなんか、おかしいでしょ?」

 

「う~ん、まぁ…」

 

「それで…リーダーの娘が『高海 千歌』だって…どう?この『高坂穂乃果』さんと『園田海未』さんを、足して2で割りました…みたいな名前は」

 

「本名…だよね?…」

 

「しかも『高』で始まって『か』で終わるとか…」

 

「それは、偶然だと思うけど…」

 

「それに…多分『賢い、可愛い、タカミーチカ』とか言ってるわよ」

 

「ぷっ!それは流石にないんじゃない?」

 

「まだまだ!ほら…この『果南』って娘なんて…」

 

「あっ!確かにこれは…『穂乃果』さんと『南』さん…だね…」

 

「でしょ?」

 

「う、うん…」

 

「この娘は『梨子』だし』

 

「えっ?『にこ』さんまでいるの?」

 

「『りこ』だってさ」

 

「たはは…りこ…ね」

 

「ちょっとイラッとしない?」

 

「そこまでは…。まぁ、萌絵のμ's愛が強いのはわかるけど…。それこそ、芸名じゃないんだし、そんなことでケチ付けるのは可哀想だよ」

 

「わかってるけどさ…」

 

「あら?この娘は…『花陽さん』?どうしてここに?アメリカにいるんじゃ…」

 

「期待通りのリアクション、ありがとう」

 

「真面目に、本人かと思った」

 

「だとしても、高校生のワケないじゃない。他人の空似…ってヤツみたいよ」

 

「へぇ…世の中にはよく似てる人がいるんだねぇ」

 

「私たちも、A-RISEに似てるって言われたけど…あくまでも雰囲気が…だもんね。ここまで激似だと、さすがに驚きだわ…」

 

「Aqoursか…面白いチームね。…で…実力はどうなの?」

 

「見てみる、地区大会の動画…」

 

そう言うとはるかは、ライブの映像を再生した。

 

 

 

めぐみは9人のパフォーマンスをジッと観た。

 

 

 

だが…

 

 

 

…えっ!?…

 

…飛び道具?…

 

 

 

最後の最後で顔をしかめた。

 

 

 

「やっちゃったかぁ…」

 

めぐみは少し怒ったように呟いた。

 

 

 

「かのんもそう思った?」

 

 

 

「萌絵がイラついてる本当の理由は…ロンダートからのバック転…これじゃない?」

 

 

 

「正解…」

 

 

 

「そうだね…私もこれは必要なかったと思う…」

 

「でしょ?もう、これ一発で、それまでのパフォーマンスが台無しだもの。全部持っていかれたわ」

 

「インパクトはあったかも知れないけどね」

 

「なんだかんだで地区大会は、トップ通過だから『素人受け』はしたかもね。…でも、なんか違うのよ。わからないけど…この娘たちのアピールポイントはこれじゃないでしょ!…」

 

 

 

…萌絵…

 

 

 

悔しそうに話すはるかの気持ちが、めぐみにはわかる。

 

メンバーの名前に文句を言いつつも、同じ『アクア』を名乗る者同士。

 

少なからず肩入れをしていたのだが…彼女からしてみれば期待を裏切られた格好だ。

 

 

 

「中途半端!やるなら全員!それなら『チームの個性』って認めてあげるけど、アレはない!技は派手だけど、小手先のテクニックに走っただけで、歌に熱さが伝わらない!バック転だって付け焼き刃感が出ちゃってるし…」

 

「まぁまぁ…萌絵は別に審査員でもないんだから、そこまで熱くならなくても…」

 

「忘れてない?今年のラブライブの優勝者は、A-RISEのチャリティライブへゲスト出演するってこと」

 

「あっ!」

 

「ひょっとしたら『私たちとの』競演もあり得る…。もちろんμ'sとも…」

 

「でも…」

 

「わかってるよ。別にだからどう…って話じゃないけど…せっかくいいモノ持ってるんだから、勿体ないじゃない。頑張ってほしいな…っていう、愛のムチ!」

 

「それは直接言わなきゃ伝わらないけど…」

 

「言わないわよ、余計なことは。アドバイスなんかしたら他のチームに悪いし…平等じゃなくなるから…」

 

「うん」

 

「まぁ、本大会でどんなパフォーマンスをしてくれるのか…見守ろうとは思うけどね…」

 

 

 

…Aqoursか…

 

…μ'sのメンバーだったら、なんて言うのかなぁ…

 

 

 

 

 

~つづく~

 





今回のタイトルの元ネタがわかった人、手ぇ上げて!

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