【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「A-RISEからファンの皆様へ 一足早い『クリスマスプレゼント』」
と題され、HP上で発表があったのは、12月の2週目のことだった。
「『μ's』チャリティライブ出演決定のお知らせ!!」
「私たちA-RISEとしても、μ'sとの競演は永年待ち望んでいたことなので、今からとても楽しみです!」
詳細は後日…とした上で
「お互い、最高のライブにしようと盛り上がっていますので、ファンの皆様もご協力宜しくお願い致します。~Merry X'mas~」
と締め括られていた。
最後の文章は、半年前に起こった『ファン同士の不毛な抗争』を受けてのメッセージだろう。
いわば、牽制球である。
この『A-RISEサンタ』からの一足早いクリスマスプレゼントに、ネット上は騒然となる。
お祭り騒ぎだ。
勝手に『歌ってほしい曲ランキング』の投票まで始まった。
「お姉ちゃん、ついに発表されちゃったね!」
「う、うん…」
「なんだか、雪穂が興奮してきちゃったよ」
「まだ、3ヶ月も先なんだから、今からそんなんだったら、もたないよ」
穂乃果は、隣の部屋から飛び込んできた妹に、そう言って笑った。
だが、その笑顔に元気がない。
「でもさあ…やっぱり…またμ'sが観られるなんて…スゴイよ!スゴすぎるよ」
「雪穂はいつも、ここでみんなに会ってるじゃん」
「そうだけどさ、それとこれは別だよ。それも、A-RISEと競演なんでしょ!?夢みたいだなぁ…」
「…」
「どうしたの?」
「ねぇ、雪穂…あのさぁ…お姉ちゃんの代わりに、ステージに立たない?」
「えっ?」
「お願い!代わって!雪穂なら全曲フリも完コピしてるし…髪型変えれば、遠くからならわからないと思うし…」
「なに言ってるの!?…もしかして…お姉ちゃん…怖いの?」
「…」
「出た、出た。お姉ちゃんは普段、能天気でガサツでいい加減なクセして、こういう時になると、いきなりテンション低くなるんだから」
「能天気で、ガサツで、いい加減は余計だよ」
「そうは言っても、μ'sのリーダーはお姉ちゃんなんだから、しっかり引っ張っていかないと」
「だってさぁ…5万人だよ、5万人!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんなら」
「うぅ…」
「それで…何を歌うの?」
「それはこれから…」
「ふ~ん…ネットで見ると…『スノハレ』が今のところトップだね?」
「スノハレかぁ…でもチャリティライブは春だからね」
「雪穂は何が観たいの?」
「私?そうだなぁ…私は…μ'sがみんな揃って歌ってくれれば、なんでもいいよ」
「雪穂…」
「だって、もう二度と観られないと思ってたから」
「うん…そうだね…」
「だから…」
「だから?」
「ダイエット頑張ってね!」
「あ…」
「もう、雪穂のお姉ちゃんだけデブったなんて言われないでね!」
妹はそう言うと、自分の部屋へと戻っていった。
「余計なお世話だよ~だ!」
子供のように「べぇ~」と下を出し、穂乃果はその姿を見送った。
「アキバドームでライブかぁ…」
…どうなっちゃうんだろ…
穂乃果はゴロンとベッドに横たわると、ひとり静かに天井を見つめた。
「やるんだって?ライブ…」
凛より30cmほども背が高い男が、彼女に訊いた。
「うん」
「へぇ、それは楽しみだな。ってことは…ああいう衣装を着てステージに立つんだ?」
「それはまだわからないよ」
「そもそも、まだ当時の衣装って持ってるの?」
「一応ね」
「マジ?じゃあ、今度着てみてよ!!」
「…」
凛は見上げる位置にある男の顔を、睨みつけた。
「なんだよ…」
「エロいこと考えてるにゃ」
「そりゃあ…考えるでしょ!」
「あれは『そういうこと』に使っちゃいけないんだから!」
「オレ、あれがいい…ウェディングドレスのやつ!」
「バカぁ!それは一番ダメなやつにゃあ!!」
「そんな大きい声で怒らなくてもいいじゃんか…ん?…一番ダメなやつってことは、他の衣装ならいいってこと?」
「…一回、死んでくるといいにゃ…」
凛は呟くように言い放った。
「アイドルがそういうことを言っちゃいけないなぁ」
「アイドルにそういうことを言わせる『武藤』が悪いにゃ」
「アイドルだから、そういうことをしてみたいんじゃん!それこそが彼氏の特権だろ」
「…凛はまだ武藤のこと、彼氏と認めてないけど…」
「それはないんじゃな~い…。オレが凛のことをどれだけ好きか…」
「わかった!わかったから、静かにするにゃ!…とりあえず、この話はおしまい!早くラーメン食べに行くにゃ」
「…またラーメン?…たまには違うところに行こうよ」
「イヤなら来なくていいよ。凛、ひとりで行くから…」
そういうと、凛は先にスタスタと歩き始めた。
「…仕方ねぇなぁ…」
凛の彼氏…武藤…は、大きなストライドで慌ててあとを追った…。
「お姉ちゃん、チャリティライブの告知、出たよ!見た?」
「見たわ」
「うわぁ、どうしよう、どうしよう…」
「どうしようって、別に亜里沙が出るわけじゃないんだから」
姉はアタフタする妹を見て、思わず微笑んだ。
「そんなに嬉しい?」
「もちろん!当日、お姉ちゃんの歌う姿を見たら…亜里沙、涙が止まらないと思う」
「大袈裟ね…」
「大袈裟じゃないよ。雪穂も同じ事言ってたもん」
「そっか…。そんなに喜んでくれるなら、私も参加を決めた甲斐があるわ」
「だけど、ちょっと心配もしてる…」
「えっ?」
「お姉ちゃんの膝…」
「!」
「ライブの途中で『あの時の穂乃果さんみたいに』倒れたりしたら…だから、あんまり激しい曲は…」
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。何を歌うかはこれから決めるんだけど、ちゃんとみんなに迷惑を掛けないようにするから」
「うん!約束だよ!」
「約束するわ」
「あとは…穂乃果さんか…」
「ん?」
「ダイエット…」
「…それは亜里沙が心配することじゃないでしょ?」
「でも、雪穂が言ってたよ。『前みたいに海未さんが管理してくれるわけじゃないから、今回はマズイかも』…って」
「うふふふ…穂乃果はああ見えても、やるときはやる娘よ。仮にもμ'sのリーダーだったんだし…」
「うん、そうだよね!」
「それより…亜里沙…」
「なに?」
「私の替わりに、ステージに立ってみない?」
「えっ?…」
「亜里沙が憧れてくれたμ's…でも私たちのわがままで、結局一緒に歌ってあげることができなかったでしょ…だから、せめて1回くらいは、どこかのタイミングで…なんて思ってたんだけど…」
「いやだなぁ、そんなこと言わないでよ!お姉ちゃんのいないμ'sなんてμ'sじゃないんだから、亜里沙が替わりなんてできるわけないよ」
「…」
「でもね…」
「?」
「もしチャンスがあるなら、μ'sと一緒に歌って踊りたい…なんて。お姉ちゃんと一緒に」
「ハラショー…」
「えっ?」
「ううん、なんでもない…」
…それもアリかもね…
「にこ姉ぇ」
「なぁに?ここあ」
「これ、本当なの?A-RISEのチャリティライブに出るって…」
「本当よ」
「!」
「4年ぶりに『にこにー』が、復活するのよ!」
「どうして、そんな大事なことを黙ってるんですか!?」
「決まってるじゃない、アンタたちの驚く顔が見たかったからよ!」
「…アホくさ…」
「ちょっと、虎太郎、今『アホくさい』って言ったわね?」
「さ、さぁ…」
「にこ姉ぇに歯向かったらどうなるかわかってるわね?今月のお小遣いあげないから」
「それは、マジ勘弁!!」
「今さら遅いわ」
姉は勝ち誇った顔で弟を見た。
「…あの、お姉様…」
「なに?こころ」
「μ's…ということは、花陽姉さまも出られるのでしょうか?」
「当然でしょ!」
「うわぁ!当日、お逢いできますかね?」
「う~ん、どうかしら…」
「オレも逢いたい!」
「私も!」
「あのねぇ、実の姉を差し置いて、なんで花陽の話になるのよ!?」
「それは、もう何年もお逢いできてませんし…」
「オレも花陽姉ちゃんと、全然一緒に、風呂に入れてねぇし」
「入るかぁ!!アンタ、いくつになったと思ってるのよ!」
「8歳!」
「威張るな!!まったく、ガキが色気付いて…これだから、男はイヤなのよ」
「お姉様、頑張ってくださいね。こころは…今のお姉様も好きですが…やはり『宇宙No.1アイドル にこにー』が大好きでしたから、この歳になってまた観られるなんて、感激です!」
「嬉しいことを言うじゃない!こころだけよ、そう言ってくれるのは」
「そんなことないよ!ここあだって、にこ姉ぇのこと応援してるんだから」
「本当?」
「当時はまだちっちゃかったし、正直、ハッキリは覚えてなかったけど…今回は、シッカリ記憶しておこうって思ってるよ」
「ここあ…」
「まぁ、みんなの足を引っ張らないようにしろよな。オバサンなんだから」
「虎~太~郎~…」
「わぁ、ジョークだよ、ジョーク!これ以上の小遣いカットはマジ勘弁!」
「仕方ないわねぇ…バツとして『ニッコニッコニー』を、10回!」
「マジか!」
「別にやりたくなければ、やらなくていいけど…」
「…ニッコニッコニー…ニッコニッコニー…」
「感情がこもってない…」
「わかったよ、やればいいんだろ!『ニッコニッコニー!ニッコニッコニー!…』」
「顔が笑ってない」
「ニッコニッコニー」
「手の角度が…」
「ニッコニッコニー!ニッコニッコニー!…」
こうして虎太郎は、にこの玩具と化していくのであった…。
~つづく~