【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
A-RISEのチャリティライブに、μ'sが参加を決めてから、初めての打ち合わせ。
穂乃果はA-RISEの所属する事務所に呼ばれた。
今日は海未も一緒だ。
2人は応接室に通されると、程なくして、綺羅ツバサが現れた。
「スゴイ反響よ!『主客転倒』…って言うのかしら…私たちが開くイベントなんだけどね。μ'sの問い合わせばっかり」
彼女たちの顔を見るなり、ツバサはニコッと笑った。
「なんか…すみません…」
「いいのよ、高坂さん。こうなることは予想できたし。それだけファンも待ち望んでいた…ってことでしょ?」
「ありがたいことですね…」
「どうぞ…冷めないうちに…」
ツバサが、テーブルの上のコーヒーを2人に勧めた。
「あ、はい…頂きます…」
ひとしきり雑談をしたあと、ツバサが話を本題に移す。
「さて…前に概要については、簡単に説明させてもらったけど…」
「はい」
「出演するのは…『VIVACE』『春雪うさぎ』『Short hair grammars』…」
いずれも新進の若手アイドルグループ。
「それと、来春デビューする私たちの事務所の新人と…今回のラブライブの優勝チーム…あとはアクアスターと…μ'sと…私たち」
「いっぱい出るんですねぇ…」
穂乃果は規模の大きさに目を丸くした。
「まぁ、私たち以外は『ほぼ素人』だけど」
「いやいや、素人『は』私たちですから…」
ポリポリと頭を穂乃果。
出演グループのメンバーはμ'sに比べれば、平均年齢は低い。
とはいえ、彼女たちはプロだ。
とても比較対照とはなり得ない。
「私はそう思ってないけど…」
「えっ?」
「私はいまだにμ's以上のグループはいないと思ってるもの」
…それはそれで、なかなかのプレッシャーなんですが…
…はい、これは中途半端なことはできませんね…
海未に視線を送った穂乃果。
さすがに長い付き合いだ。
彼女はその意図をすぐに察した。
「それで、時間配分なんだけど…」
「はい」
「トータル3時間のステージで、私が1時間15分、アクアスターが45分、μ'sが30分で、残りの5グループで30分…ざっとこんな感じ」
「μ'sで…」
「30分ですか?」
「現役アイドルを差し置いて…」
「はい、それはいくらなんでも失礼かと…」
2人が交互に意見を述べる。
「それは大丈夫。彼女たちは本来、ドームに立てるほどの実力なんてないのだから。つまり、こちらが招待してあげた…ってこと」
「はぁ…」
「それに相手がμ'sなんだもの、文句は言えないわよ。アイドルやってる娘で、あなたたちを知らない人はいないんだから」
「…」
「むしろ同じステージに立てるだけで、光栄…そう思ってるわ」
「ツバサさん、それは誉めすぎです…」
「うん。なんかムズムズしてきちゃったよ…」
と穂乃果は身体をくねらす。
「…1曲4分として…フルフルなら8曲はできる計算かしら」
「えっ?…お、多すぎません?…」
穂乃果はツバサの顔を見る。
だが
「そんなことないわ。これだけの期待を受けているのに、1曲で『はい、サヨウナラ』なんて、できないでじゃない。そんなことしたら、暴動が起きるわよ」
と彼女は意に介していない。
「それにしても…8曲なんて…」
「これが『最初で最後』かも知れないでしょ。それとも、これを機に…活動を再開する?」
「う、いや、それは…」
「だとしたら、足りないくらいだと思う…。時間は別にどう使ってもらっても構わないわ。多少はMCの時間だって必要だろうし」
「MC…」
「μ'sの復活を待ち望んでいたファンに、挨拶くらいはしたほうがいいんじゃない?」
「あ、それは確かにそうですが…」
「それに、ちょっと、考えてることもあって…」
「考えてること…ですか?」
「そうね…まだ、教えられないけど…」
「はぁ…」
「高坂さんたちには次の打ち合わせまでに、候補曲を挙げてきてほしいの。そうねぇ…最大で8曲、最低5曲」
「最大で8曲…」
「最低5曲…」
「…とはいえ、いくらμ'sと言えども、30分通しは厳しいかな…とは思うから、分割した形になるかも知れないけど」
「はぁ…」
「それと…これがステージの形」
とツバサが図面を渡す。
「うわっ!大きい…」
「…ですね…」
「照明とかの演出はこっちで合わせるから、これを元に、どんな曲でどんなパフォーマンスをするかイメージしてみて」
「海未ちゃん…なんかスゴイことになってきちゃったね…」
「はい…」
2人はコーヒーを飲み干すと、次回の打ち合わせ日を確認して、事務所をあとにした。
「私たちって持ち歌、何曲あったっけ?」
穂乃果が帰りの道中、海未に聴く。
「公式に発表しているのは10曲余りかと…」
「えっと…まずは『START:DASH!!』でしょ」
「はい」
「『これからのSomeday』『Wonder zone』『僕らのLIVE 君とのLIFE』『No brand girls』…『ユメノトビラ』…それと…」
「アキバの利き米コンテストで『愛してるばんざーい!!』も披露してますね」
「あぁ、そうだった!あとは…「Dancing stars on me!」でしょ…『Snow halation』『KiRa-KiRa Sensation!』『僕たちは今のなかで』…『Angelic Angel』『SUNNY DAY SONG』…こんなところかな?」
「『Love wing bell』が抜けてますね」
「あぁ、そっか!穂乃果は歌ってないから忘れてた…」
「これで…14曲ですか…」
「結構、歌ってるねぇ」
「はい」
「それにしても…最低5曲って…ツバサさんも無茶言うよねぇ」
「はい。ですが、考えようによっては『この中から1曲』と言われても選定に迷いますが、5曲でしたら、多少は幅を持たせられるかと」
「いやいや、そういうことじゃなくて」
「?」
「体力的な問題だよ。今までのライブだって、そんなに歌ったことないでしょ?」
「それは確かにそうですね…」
「どこかで休憩がほしい…」
「はい、絵里の膝のこともありますし…何を歌うかも含めて、その辺りはA-LISEとも相談したほうがよいですね」
「ダンス無しにしない?」
「い~え!!やるからには全力です!そんな失礼なことはできません」
「…あははは…だよね…」
「穂乃果はこれを機に、少し自堕落な生活を改めたらいかがですか?」
「う、うん…まぁね…」
「私がトレーニングメニューを組みましょうか?」
「…え、遠慮しておくよ…それは自分で何とかする…。そ、それより、海未ちゃん、今年のクリスマスだけど…」
穂乃果はそれ以上の話になると、かなり不利になると思い、話題を180度変えた。
「はい?」
「23日って大丈夫だよね?」
「…23日?…」
「ほら、ことりちゃんと3人でクリスマスパーティーしようって…」
「…はい、言ってましたね…」
と一旦、返事をした海未だが、すぐにハッして叫ぶ。
「に…23日はダメですぅ!!」
「うわぁ、ビックリした!そんな大きな声を出さなくても」
穂乃果は海未の声を驚いて、後方に大きく跳んだ。
「す、すみません…ですが23日は…きゅ、キューヨーが…」
「お休みするの?」
「いえ、休養でなく急用です!」
「えぇ!?」
「24日ではダメでしょうか?」
「確かにクリスマスイブはそうなんだけど、その日は日曜日だから…って23日にしたんじゃん!」
「はい、そうでした。それはその通りです!ですが…すみません…その日はどうしても…」
穂乃果のことだ…「高野とサッカーを観に行く」…などと言えば…「私も行く」…と言いかねない。
普段であれば、それはそれで、心強かったりもするのだが、今回は真姫が一緒に付き合ってくれることになっている。
現時点において…少なくともこの件に関しては…穂乃果よりも真姫の方が信頼度が高い。
「本当に申し訳ございません」
海未は何度も頭を下げた。
「まぁ、海未ちゃんがそう言うんじゃ仕方ないか…」
意外にあっさりと穂乃果はそれを了承した。
いくら穂乃果が自由奔放、天真爛漫とはいえ、もう21歳である。
多少は分別の付く、大人になっているようだ。
「本当に申し訳ございません」
もう一度海未は同じ言葉を発した。
「いいよ、いいよ…これで海未ちゃんに貸しがひとつできた!…ってことだもんね」
…あぁ…
…屈辱です…
海未は、ニヤッと笑った穂乃果から視線を逸らせる。
三つ子の魂百までも。
一瞬、穂乃果の成長を感じた海未であったが、それが誤りであったことを、直ぐに思い知らされたのであった。
~つづく~