【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
ここは静岡県の伊豆半島西部にある…とある高校。
その名は『浦の星女学院』と言う。
その中のアイドル研究部…の部室には、黒澤ダイヤとルビー、そして高海千歌がいた。
先日、アクアスターが動画を見てダメ出しをしていた…スクールアイドル東海地区代表『Aqours』のメンバーである。
もちろん、本人たちは一切、そんなことは知らない。
「ついにμ'sの出演が、正式に発表されましたわ!」
A-RISE主催のチャリティライブの告知を見たダイヤが、興奮気味に話す。
「はい、お姉ちゃんの言う通りでした」
妹が相槌を打つ。
「観られるんだね、生で!」
千歌も気持ちは昂(たかぶ)っているようだ。
「恐らく、チケットは史上類を見ないほどの争奪戦になるハズです!これは鞠莉さんの力を借りてでも、入手せねばなりません!!」
「ノー サンキューで~す!」
「鞠莉さん!?」
そのタイミングで部屋に入ってきたのは、現役の女子高生でありながら、この学校の理事長でもある小原鞠莉。
資産家の娘でもある。
「ダイヤさ~ん、μ'sが見たいのはわかりますが、私たちはオーディエンスとしては行きませ~ん」
「?」
「ウィナーとして、一緒にステージに立つので~す!」
「!」
今年のラブライブの優勝者は、そのチャリティライブに出演できるという特典がある。
「そ、そうですね。もちろんですわ」
とダイヤ。
「学校の廃校は阻止できなかったけど…それでラブライブに出る意味があるのかな?って思ったけど…そうだよ!観る側じゃなくて、同じステージに立つんだよ!」
「千歌っち、その通りで~す!気持ちをリセットして、まだまだファイトです」
彼女たちの学校は、少子化などの影響もあり、入学志願者が激減し、廃校…正式には近隣の学校への統合…の危機にあった。
そこに立ち上がったのが、千歌である。
彼女は…かつて音ノ木坂を救ったμ's…と同じように、スクールアイドルを始めて、学校を内外にアピールし、入学志願者を増やそうと奮闘したのだった。
その甲斐あって『Aqours』は、東海地区予選をトップ通過。
本大会への出場を果たす。
しかし…
肝心要の入学志願者の応募は、定められた期限までに人数が足らず、目標は達成できなかった。
本末転倒。
スクールアイドルを続ける意味を見失いかけていた。
それでも、ラブライブで優勝すれば、その歴史に学校名を刻める。
そう思って、前を向くことにした。
そこに見えた、新たな光。
希望。
それがμ'sとの競演。
ダイヤとルビィの姉妹は、幼い頃からアイドルが好きだった。
μ'sについては、小学生の時にアキバで、偶然遭遇した絵里と花陽にサインを貰ったこともあり、他のメンバーの誰よりも思い入れが強い。
千歌にしても、そもそもスクールアイドルを始めようと思ったキッカケが、μ'sのライブ映像を観たことことであり、以降、憧れの存在として、その影を追い求めていた。
つまり、彼女らにとって『μ'sと競演する』というのは、活動を続ける意味では、充分なモチベーションになり得るのだった。
「ダイヤさん、μ'sには、何を歌ってほしい?」
「私ですか?そうですね…と思いましたが…選べないですわ!どれも素晴らしいので、1曲に絞ることなどできません」
「そこを敢えて言うと?」
「敢えて…ですか…」
「私は『START:DASH!!』と『ユメノトビラ』かな」
「2曲じゃないですか」
「あっ…そうだね…。でも、この2曲には思い入れが強くて…」
千歌がスクールアイドルを始めようとと思ったのは『START:DASH!!』の映像を観たのが始まりだった。
そして『ユメノトビラ』は、彼女がμ'sみたいになりたい!と本気で思った曲。
梨子が『Aqours』に加入するキッカケも、この曲が絡んでいた。
いわば彼女にしてみれば、自分をスクールアイドルに導いた曲であると言っていい。
その事情を知っているダイヤも
「千歌さんらしい選曲ですわ」
と頷いた。
「そういえばさ、全然関係ないけど『ユメノトビラ』とさ、サッカー選手の『夢野つばさ』って似てるよね?」
千歌くらいの世代になると、つばさがカリスマモデルであったことや、音楽活動をしていたイメージはあまりない。
彼女の肩書きはサッカー選手なのだ。
「ふふふ、ブッブー…ですわ。千歌さん、甘いです」
「えっ?」
「『ユメノトビラ』のタイトルは、元々『ユメノツバサ』だったらしい…と、この間、アクアスターが語っているのを雑誌で読みました。作詞した海未さんの頭の片隅に、彼女の名前があったようなのです。ですから、似てるのは当然なのです!」
「へぇ…そうなんだ…」
普段、クールなイメージが強いダイヤであるが、μ'sの話題になると、途端に熱くなる。
「千歌さんもμ'sファンを名乗るなら、それくらいのことを知っておいてください!」
「は、はぁ…ごめんなさい…」
「まぁまぁ、お姉ちゃんほどμ'sに詳しい人はいないんだから、仕方ないよ」
「それはそうですが…」
「ルビィはねぇ…『Wonder zone』かな。メイドさんの衣装で踊ってるんだけど『あぁ、これが東京なんだ』って感じで…」
「そうですね、あの衣装は『アキバならでは』ですものね」
妹の発言に、目を細める姉。
少し機嫌は良くなったらしい。
「それで、ダイヤさんは?」
「敢えて1曲と言われたら…『Snow halation』ですわ」
「おぉ!」
「歌詞はもちろんですが、なんと言っても、あの演出が、とてもステキだと思います」
「うん、イルミネーションがパーッて一瞬にして『みかん色』に変わるんだよね。あれは確かに綺麗だなぁ…」
「内浦は暖かいので、冬になっても、雪など降りませんから、私たちでは、まず考え付かない歌詞ですし」
「なるほど。そうだね…こっちは雪って、あんまり降らないもんね」
「うん。ちょっと上の方…御殿場とか行くと雪降ってるのに、下ってくると全然だもんね」
ルビィは千歌の言葉に同意した。
内浦とは沼津市内にある地名で、彼女たちが、今いる場所を指している。
沼津は『>』の形をしていて、丁度凹んだ真ん中あたりに内浦はある。
ちなみに御殿場は、そこから北に位置しており、直線距離にして30㎞ほどしか離れていないが、海辺の内浦に比べれば標高が高い。
実は東名高速道路の一番高い標高は、この御殿場付近なのである。
※454m
市街地もほぼ同じくらいの高さにある言っていい。
御殿場は、夏は濃霧が発生し…冬は富士山からの吹き下ろしの風が、身を切る寒さとなる。
「そういえば、あっちはこの間、雪がチラついたって、誰かが言ってたなあ…」
「もう、そういう時期なのですね…」
「早いねぇ」
「はい」
「ちなみに、ファンが選ぶ『μ'sに歌ってほしい曲ランキング』でも『スノハレ』は1位みたいです」
ルビィは自分のPCを2人に見せた。
【μ'sに歌ってほしい曲ランキング】
1位:Snow halation
2位:Angelic Angel
3位:START:DASH
4位:ユメノトビラ
5位:KiRa-KiRa Sensetion!
6位:愛してるばんざーい!
7位:No brand girls
8位:Dancing stars on me!
9位:僕らは今のなかで
10位:僕らのLIVE 君とのLIFE
11位:Wonder zone
12位:SUNNY DAY SONG
13位:これからのSome day
14位:Love wing bell
「季節を問わず人気の曲ですが、やはり『スノハレ』は強いですわね」
「そうだね。夏に集計したら、また変わってくるかも知れないけど…」
「はい」
「お姉ちゃん、『Angelic Angel』は海外ライブの影響なのかな?」
「そうですね…これでμ'sの名前を知った人も多いでしょうし」
「千歌ちゃんが推してる2曲が上位に入ってるね」
「『スタダ』は3人と9人の2パターンが公開されてますし、4位、5位は共にラブライブで披露した曲ですから、知名度的にも高いのでしょう」
「なるほど」
千歌はダイヤの説明に頷いた。
「ちなみに13位と14位は、9人全員で歌っている曲ではないので、そこが伸び悩んでる原因かと」
「だから逆に、全員で歌ってるところを観てみたい…ってルビィは思います」
「そういう人もいるでしょうね」
「12位のは?」
こうなると、全曲解説を聴きたいと千歌は思った。
「…どちらかというμ's単体の曲というよりは、今や『ラブライブのテーマソング』となっていますので」
「ふむふむ」
「意外なのは『愛してるばんざーい!』が上位にいることですかね」
「えっ!どうして?」
「はい、この中では唯一ダンスがありませんので、ライブということを考えれば、物足りないのではないかと」
「それでも6位だよ?」
「ですからそれは…つまりμ'sが歌でも勝負できるグループだった…ということだと思いますわ」
「!」
「あのA-LISEと並び称される『伝説のスクールアイドル』ですから、当然といえば当然ですけど」
ダイヤは、まるで自分のことのように胸を張った。
「でも、お姉ちゃん、改めてこうやって見ると…やっぱり1曲なんて絞れないね」
「はい。できれば全部歌ってほしいくらいですわ」
「そうしたら、どういう順番で歌うのかな。やっぱり最初は勢いをつける為に、バーン!って曲を持ってきて、真ん中はしっとり聴かせて、最後はドカーン!て爆発して…って感じ?」
「まるで千歌さんが歌うみたいですね」
「でもそういうのって考えるのすごく楽しいよね」
「はい」
「…全曲か…」
「どうしたんですか」
「ん?…うん、ルビィちゃん…私たちもいつか、そんなライブができたら素敵だろうな…って」
「あっ…」
「これまで発表した曲、これから作る曲…全部で何曲になるかわからないけど…歌って、歌って歌いまくって…アンコールもあって…なんてね…」
「そんなこと…夢のまた夢ですわ」
「そうだね、夢だね…でも、叶えられない夢じゃない…」
「…千歌さん…」
「…千歌ちゃん…」
「…なあぁんてね!!…まずはラブライブの優勝を目指して!」
「はい、がんばルビィです!!」
「はい!突き進みますわよ!」
「オフコース!目指すはラブライブのチャンピオンです」
「!!」
「鞠莉さん!」
「…いたの忘れてた…」
「3人ともトゥ ホットで~す。向こうをルックしてください。みんな中に入れなくて困ってま~す」
そう言われて3人が向けた視線の先には、室内に入るのを躊躇した残りの部員の姿があった。
「なにしてるの?みんな…」
「なにって…ねぇ…」
と曜。
「うん、私たち、そこまでμ'sのこと詳しくないし…なんか会話の邪魔しちゃ悪いかなぁ…なんて」
梨子がそういうと、果南と花丸、善子が頷いた。
どうやら、彼女たちのμ'sに対する想いは『沼津と御殿場』くらい温度差があるらしい。
~つづく~
ランキングは偽物です。