【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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真姫ちゃん 川崎 かきくけこ

 

 

 

 

12月23日…土曜日。

 

 

 

地元で真姫と待ち合わせた海未は、電車に乗って川崎へと向かった。

 

天皇杯準決勝の試合開始時間は、15時である。

 

高野とは

「最寄り駅の武蔵小杉で30分前に待ち合わせ」

となっている。

 

指定席である為、そんなに早くこなくても大丈夫とのことだった。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「いくらなんでも早すぎない?このまま行ったら1時半前には着いちゃうんですけど…」

 

真姫が時計を見ながら言う。

 

だが

「いえ、早く着くに越したことはありませんから」

と海未。

 

にべもない返事。

 

 

 

もっとも、真姫も性格的には海未に近いものがある。

 

いい加減なことは嫌いなタイプだ。

 

 

 

…まぁ、そうね…

 

…モタモタされてイライラするよりはマシかも…

 

 

 

彼女の言うことに理解を示した。

 

 

 

最寄駅に着くと、フロンターレのレプリカのユニを着ているサポーターでごった返していた。

 

天皇杯初優勝に向けて、彼らも燃えている。

 

 

 

その人波を避け改札を抜けた海未が

「えっ!?」

と驚き、一瞬立ち止まった。

 

だが、すぐに小走りをする。

 

 

 

「えっ!?ちょ、ちょっと…」

 

真紀は虚を衝かれ、慌てて後を追う。

 

 

 

その先には、キャップを被った、サングラス姿の男。

 

スマホを弄っていた。

 

 

 

「お待たせしました」

 

海未に声を掛けられ、男はドキッとした様子で彼女を見る。

 

高野だった。

 

真姫は、写真で彼のユニフォーム姿は見たことはあったが…実物に会うのは初めてだ。

 

 

 

…この人が?…

 

 

 

幼い頃は小さくて、それがコンプレックスになっていた高野だが…今は176cmもある。

 

おまけにサッカー選手の割には細身の為、その立ち姿はモデルのようにスッとしていた。

 

彼女が想像していたキャラクターとは違ったようで、ジッと彼の容姿を眺める。

 

 

 

「あ、紹介が遅れました。こちらが私の友人の…」

 

「に、西木野真姫です」

 

唐突に紹介され、慌てて名乗る真姫。

 

「あっ、初めまして。高野です。今日は寒い中、わざわざ…」

と高野はキャップとサングラスを外して、彼女に挨拶をした。

 

「い、いえ、こちらこそ…ご無理を言って…」

 

「あれ?西木野さん…って言った?もしかしてμ'sの?」

 

「はい。学年では私の後輩なのですが…μ'sのメンバーに限っては上下関係があまりないもので…」

 

「なるほど…それで『友人』って言ったのか…。じゃあ、そう言えばいいのに…。動画で見るより、大人っぽいね」

 

「そ、それは…もう何年も前のものだし…」

 

 

 

…な、なによ…

 

…いきなり大人っぽいだなんて…

 

 

 

…って、私が緊張してどうするのよ…

 

…私は海未の付き添いで来ただけなんだから…

 

 

 

「それにしても園田さん!?早すぎじゃない?オレ、14時半待ち合わせって言わなかったっけ?」

 

「はい、仰いましたが…そういう高野さんこそ!…私はお待たせしては申し訳ないと思い、早めに来たのですが…」

 

「えっ?い、いやぁ、オレも今来たところだから…思いのほか早く準備ができちゃって…することもないし…」

 

 

 

…嘘ね…

 

 

 

真姫は直感的にそう思った。

 

 

 

…海未が早く来ることを見越して、待っていたんだわ…

 

…サングラスを外して挨拶したり…わりとちゃんとしてるじゃない…

 

 

 

意外…そんな表情だ。

 

 

 

「さて、どうしよう。開場はしてるから、入れるのは入れるけど、寒い中待つのはいやでしょ?少しお茶して時間を潰す?」

 

「いえ、私は構いませんよ。試合前のだんだんと盛り上がっていく雰囲気は嫌いではありませんし」

 

「そう?西木野さんは?」

 

「お任せします」

 

「うん…じゃあ、行こうか?」

 

「はい」

 

 

 

武蔵小杉駅から等々力競技場までは、歩くと20分くらいかかる。

 

その為3人は駅からシャトルバスに乗り、会場へと向かった。

 

 

 

高野が取った席は、メインスタンドの中列だった。

 

これくらいの位置の方が、ピッチ全体が見やすい。

 

 

 

「さて、どうやって座ろうか」

 

「どう…と申されますと?」

 

「オレ個人としては…左右に園田さんと西木野さんが座ってくれると嬉しいんだけど…いわゆる『両手に花』ってヤツ?」

 

「はぁ…」

 

 

 

…相変わらずですね…

 

 

 

海未は心の中で苦笑する。

 

 

 

…こういうことをサラッと言うのね…

 

…軽いわ…

 

 

 

真姫は、一瞬眉間にしわを寄せた。

 

 

 

「わ、私は端でいいわ。今日は海未の付き添いできたのだから」

 

「付き添い?」

 

 

 

…って、それは言っちゃいけないんだったっけ…

 

 

 

「い、いえ…」

 

「まぁ、そうだね。オレを挟んだら2人の会話がしづらいもんね?じゃあ、園田さんが真ん中でいい?」

 

「は、はい」

 

「あ、そうだ。お腹空いたら言って。温かいのなら、うどんとかあるし…まぁ、味はね、こういうとこのだから、保証はしないけどさ」

 

「ですが、思いのほか今日は暖かいですよ」

 

「でも、これからグッと冷え込むよ…。真面目な話、風邪をひかれても困るし、無理しなくていいからね?」

 

「お気遣い頂きありがとうございます」

 

「西木野さんも」

 

「はい」

 

「先に、これ渡しておくよ」

 

 

 

「ブランケット?」

 

「カイロ?」

 

 

 

「無いよりはマシでしょ?」

 

「用意がいいのね」

と真姫は少し感心した。

 

「これくらいはね…」

 

「すみません。では、ありがたく使わせていただきます…。ところで、高野さんはどちらを応援されるのでしょうか?」

 

「心情的には地元だからね…青いユニフォームのフロンターレだけど…どっちが勝ってもあんまりオレには関係ないから…まぁ、今日は完全中立の立場で」

 

「そうなのですね…」

 

「そうそう、ここだけの話だけど…オレ、チームを退団したんだ。自分から辞めてきたんだけどね」

 

 

 

「!?」

 

「!?」

 

 

 

「内緒だよ」

 

 

 

「それは一体?」

 

 

 

「まぁ、簡単に言うと『一回全部リセットして、イチから身体を鍛えあげて、パワーアップして、ピッチに戻ってくる』ってことかな。今月末には正式に発表されるんじゃないかな」

 

 

 

「…」

 

 

 

「そんなビックリした顔しないでよ。いや、そうなるだろうな…って思って、先に伝えたんだけどね」

 

 

 

「…高野さん…」

 

 

 

「チームのマネージャーにも言ったんだけどさ…オレ、確かにオリンピックの予選では世代別の日本代表に選ばれたけど、マリノスじゃ控えだったんだよねぇ。レギュラーじゃなかったワケ。…ってことはつまり、もっとレベルアップしなければ、到底、日本代表にはなれないってこと。つばさみたいに、海外に行ってプレーすることなんて、夢のまた夢」

 

「海外…ですか…」

 

「そういう意味じゃ、この半年間は、自分を見詰め直す『いい機会』だったんじゃないかな…って思うんだ。だから、オレは園田さんに出会えてことに感謝してるんだ」

 

 

 

…へぇ…

 

…いいこと言うじゃない…

 

 

 

真姫は横目で、海未の顔を見た。

 

 

 

「…そのようなことを仰られたら…私はなんと申し上げればよいのでしょう…」

 

戸惑っている。

 

「『その通り!私のお陰よ!』って、それでいいよ」

 

「…でも…」

 

「…前に言ったじゃん、園田さんは何も悪くない…って。起きてしまったことは、元には戻らないんだ。だったら、どうやっって前に進むか…それしかなんだよ」

 

 

 

…なるほど…

 

…海未が人として尊敬できる…って言ってたけど…

 

…口先だけじゃない…ってことね…

 

…夢野つばさが付き合ってただけのことはあるわ…

 

 

 

「それに、あんなことが起きなければ、西木野さんとも出会うことはなかったろうし」

 

 

 

「えっ?私?」

 

不意に名前が出てきて、真姫は思わず声を上げた。

 

 

 

「こういうのを『類は友を呼ぶ』っていうのかな?会う人、会う人、みんな美人で正直『ドキドキ』しちゃうんだよねぇ。映像だとさ、動いてるから雰囲気しかわからないけど、実際、こやって目の前で見ると…本当、感動しちゃうなぁ」

 

 

 

…前言撤回…

 

…こういうとこが信用ならないのよね…

 

 

 

とはいえ、面と向かって美人だなどと言われ、悪い気はしないようだ。

 

真姫は顔を赤らめて、そっぽを向いた。

 

 

 

それに気が付いたのか、海未は

「そうですか?つばささんに較べれば真姫など…」

とつい、口を滑らせた。

 

 

 

「ん?」

と高野。

 

 

 

「えっ?」

と真姫。

 

 

 

「い、いえ…その…つばささんのような方とお付き合いされていたのに『私たち』など…と…」

 

 

 

…海未、一瞬、私のことを否定したでしょ?…

 

 

 

真姫も、それはそれで複雑らしい。

 

 

 

「そういうこと?いやいや、そんなに謙遜しなくても…。この間も言ったよね?μ'sの何が凄いって、タイプは違うけど9人もいて、全員が全員、みんな美人だってこと。それこそが奇跡だよね…って」

 

 

 

…まぁ、否定はしないけど…

 

 

 

心の中で頷く真姫。

 

 

 

「あと、お会いしてないのは…東條さんと…絢瀬さん…小泉さん!」

 

 

 

…はい、μ'sが誇る巨乳トリオです…

 

 

 

海未はこの間見た夢を思い出し、それをかき消すかのように手を頭の上で手を振った。

 

 

 

「ん?Wi-Fiでも飛んでる?」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

どうやらこのギャグは、彼女には通じなかったようだ。

 

 

 

…あら?待ってください…

 

…会ってないのは希、絵里、花陽?…

 

…誰か忘れられているような…

 

 

 

同じ事を真姫も思ったようだ。

 

 

 

「あっ…」

 

そして同時に声をあげた。

 

 

 

 

 

「はっくしょん!はっくしょん!」

 

「にこ姉ぇ、風邪か?オレに感染(うつ)すんじゃねぇーぞ」

 

「うるさいわね、わかってるわよ!にこ姉ぇは人気者だから、いつでもどこでも誰かが噂をしているの!」

 

 

 

…どうせロクなことじゃないけどさ…

 

 

 

にこはそんなことを思いながら、鼻をかんだ。

 

 

 

 

 

「はくちょん!はくちょん!」

 

「凛は可愛いくしゃみをするなぁ」

 

「そんなこと、誉めなくていいにゃ」

 

「寒い?暖めてあげようか?」

 

武藤は凛に向かって、両腕を拡げた。

 

「大丈夫!風邪じゃないから」

 

「可愛くないねぇ…」

 

 

 

…まったく…

 

…可愛いいって言ったり、可愛くないって言ったり、どっちなの?…

 

 

 

…はっきりするにゃ…

 

 

 

凛は首を傾げて、彼を見た…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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