【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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ふたりハピネス

 

 

 

 

「すっかり遅くなっちゃったね」

 

高野は2人に詫びた。

 

 

 

観戦していたゲームは点の取り合いになり、3-3のまま延長に突入したが、それでも決着せずPK戦にもつれこんだ。

 

両チーム5人ずつ蹴って全員成功。

 

サドンデスに入り迎えた8人目。

 

先行の鳥栖の選手が見事決めたのに対し、川崎の選手はこれを外してしまい、ようやくこの戦いに終止符が打たれた。

 

 

 

3人は試合会場を出る。

 

「バスを待つのは大変だから」と観客の流れに身を委ねて、駅まで歩くこととした。

 

「久々に長いPK戦だったなぁ」

 

「永遠に終わらないかと思ったわ」

と真姫。

 

「オレは…リアルタイムじゃないけど14人目までいったPKを見たことがあるよ。浦和と名古屋の試合だったかな…」

 

「それは凄いわね…」

 

「いやぁ、それにしても悪かったね。こんなに寒い中、付き合せちゃって」

 

「観たい…ってお願いしたのは私たちだし。それに…そこそこ楽しめたから…」

 

高野は事情を知らないが、真姫は今日、海未の付き添いで来ている。

 

正直、サッカーにはあまり興味がないのだが、それでも合計6ゴールも生まれた派手な撃ち合いと、手に汗握るPK戦を見終わって、多少は満足している様子だ。

 

「どちらを応援していたわけでもありませんが、PK戦というのは心臓に悪いですね」

 

海未は緊張感から解き放たれ、少しホッとした表情になった。

 

「オレも経験あるけど、蹴る前は吐きそうになる。決めて当然と思われてるからね…『外したらどうしよう』って方が頭を支配するんだ」

 

「高野さんでもですか?」

 

「高野さん『でも』…って」

 

「す、すみません…高野さんは余り悲観的な考え方はしない人だと思っていましたので…」

 

海未は申し訳なさそうに、彼を見た。

 

 

 

…失言です…

 

…気を悪くさせてしまいました…

 

 

 

だが、高野はまるで気にも留めていないようで

「あははは…そんなにオレって能天気に見える?見えるか」

と言って、もう一度笑った。

 

「そういう意味では…」

 

「こう見えて、サッカーに対しては結構真面目なんだぜ。まぁ『反省はするけど後悔はしない』がモットーだから、過ぎたことは仕方ないって、開き直るようにはしてるけど」

 

「はい」

 

「それでもPKはやだなぁ…。これまで何回蹴ったかわからないけど…できれば蹴りたくない」

 

「そういうものなのですね」

 

「最後、外した選手は、結構引きずるだろうなぁ…」

 

高野は同業者として、その気持ちをおもんぱかった。

 

 

 

「さて、それはそうと、こんな時間になっちゃったね」

 

15時から始まった試合。

 

まともに終わっていれば17時には終了する予定だったが、なんだかんだで1時間以上オーバーしている。

 

「お腹空いたよね?ご飯食べに行こうか?」

 

「えっ?あ、はい…」

 

戸惑いながらも、返事をした海未。

 

元々は『快気祝い』という名目で食事に誘ったのは彼女たちだったが、サッカーを観戦することになってからは、主導権を握っているのは高野だった。

 

そして『食事をして帰る』ところまでが、今日の予定であった。

 

 

 

ところが

「ごめんなさい、私はこれで失礼させて頂くわ」

と真姫。

 

 

 

「えっ?帰るのですか!?」

 

想定外の発言に、海未は慌てて彼女の顔を見た。

 

 

 

「このあと、予定が入ってるの…。ちょっと時間が押しちゃったから…」

 

「では、わたしも…」

 

「あら、海未はいいじゃない…空いてるんでしょ。それに、最初高野さんを誘ったのはあなたなんだから、ここで帰ったら、それは失礼だと思わない?」

 

 

 

…じゃあ、あとは頑張ってね…と真姫は目配せをした。

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

「高野さん、そういうわけで…今日はありがとうございました」

 

「えっ、あぁ…残念だなぁ。もっと色々話したかったんだけど」

 

「それは…また、今度ということで…」

 

 

 

「あ、ねぇ…ひとつだけ訊いていい?」

 

 

 

「な、なんですか?」

 

 

 

「もう、曲、作らないの?」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「いや、深い意味はないんだけど。オレは音楽ってさっぱりだから…楽器できるだけでも凄いなって思ってて…尚且つ、作曲までするんだから…その要素だけで惚れちゃうよね…」

 

 

 

「!」

 

 

 

…まさか真姫も対象なのですか!?…

 

 

 

…い、いきなり、何を言い出すのよ!?…

 

 

 

高野が放った「惚れちゃう」という言葉に、海未も真姫も敏感に反応した。

 

 

 

「才能あるんだから、勿体無いな…ってね」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「あ…駅に着いちゃったよ…西木野さんは本当に帰っちゃうの?」

 

「えぇ」

 

「そっか…じゃあ、申し訳ないけど…」

 

こくりと頷く真姫。

 

「気を付けて帰ってね…本当は送って行ってあげたいところだけど…」

 

「ひとりで帰れますから…」

 

「うん…わかった。ライブ…期待してるよ」

 

「そうね。楽しみにしてて…」

 

そう言うと彼女は2人に別れを告げると、改札の奥へと姿を消した。

 

 

 

 

 

「さて、オレたちはどこに行って、何を食べようかね…。園田さんは好き嫌いある?」

 

「い、いえ…特には…」

 

「こっちの方には遊びにくる?」

 

「いえ、あまり…」

 

「横浜は?」

 

「数えるほどしか…」

 

「そうなの?あ、じゃあ中華街行かない?ここからなら1本だし…30分くらいかかるけど…」

 

「あ、はい…お任せします…」

 

「OK!じゃあ、ちょっと待って…大きいとことじゃないけどさ…美味しいお店があって…先に予約を入れておくから…混んでるとは思うけど…」

 

高野はそう言うと、スマホを取り出し、店に連絡を取った。

 

 

 

「1時間後くらいなら大丈夫だって…電車乗って、歩いて…なんだかんだで丁度いいくらいかな?まだ、お腹大丈夫?」

 

「えっ、あっ、はい…」

 

高野に訊かれ、海未はそう返事をしたものの、実は緊張していて腹の空き具合などよくわかっていない。

 

それどころか、真姫がいなくなってから思考回路が止まっている。

 

ただ無性に喉が渇いていることだけはわかる。

 

それが、単に空気が乾燥しているから…だけじゃないこともわかっている。

 

トイレに行きたくなるのを避けるため、観戦中は水分をとることを控えていた海未であったが

「すみません。ちょっと飲み物を買ってもよろしいでしょうか…」

と声を上げた。

 

「あ、あぁ、ごめん、ごめん!そうだよね、何がいい?」

 

「いえ、自分で買いますから」

 

「まぁまぁ、そう言わず…あったかいお茶でいいかな?」

 

高野は海未の言葉を無視して、自販機に金を入れた。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、すみません。では、お言葉に甘えまして…」

 

「やだなぁ…たかがそれくらいのことで、そんなに畏(かしこ)まらないでよ…」

 

「はぁ…」

 

「でも、それが園田さんなんだろうねぇ…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「キチッとしてるなぁ…って」

 

「堅苦しいですよね」

 

「あれ?そう捉えた?褒め言葉のつもりだったんだけど…」

 

「えっ?」

 

「どんなに美人でもさ、礼儀を知らない…とかさ、歩き方がだらしないとかさ…そういうのオレ、ダメなんだよね…付き合うとか、付き合わないとか、そういうことを抜きにしても」

 

「はぁ…」

 

「その点、園田さんは非の打ち所がないっていうか…」

 

「いえいえ、私など…」

 

「オレの親父なんて『今時の若い人には珍しい』ってベタ褒めしてたよ」

 

「お恥ずかしい」

 

「挙句の果てには『ヨメを貰うなら、ああいう娘がいいぞ』とか言い出す始末で…」

 

 

 

「!」

 

 

 

…ヨメと仰いましたか…

 

…お嫁さん?…

 

…私が…高野さんの…

 

 

 

「どうかした?」

 

「い、いえ…」

 

「勝手なことを言うよね」

 

「は、はい」

 

「選ぶ権利があるもんね」

 

 

 

…そうですね…

 

…私など…

 

 

 

「園田さんにも」

 

 

 

「わ、私ですか!?」

 

 

 

「それはさ、園田さんみたいな才色兼備で、大和撫子みたいな人は理想だけど…『誰が好き好んでアスリートのヨメになるか!』って話だよね。それも何億も稼いでるような選手ならともかく。苦労しかしない!っていうの」

 

 

 

…今、理想と仰いましたか?…

 

…私が…

 

…理想…

 

 

 

すでに高野の話は、あまり海未の耳には届いていないようだ。

 

 

 

「おっと、電車が来た…乗れるかな」

 

ホームは観戦を終えたサポーターで溢れている。

 

入ってきた下り電車のドアが開いた瞬間、どっと彼らが車内に流れ込んだ。

 

 

 

「うぉ!園田さん大丈夫?」

 

 

 

「は、はい!」

 

この状況に海未も我に返った。

 

 

 

高野は必死に彼女が押しつぶされないように、スペースを確保しようとしたが…

 

「ぬお!」

 

負けた…。

 

 

 

「あっ…」

 

そして同時に声をあげる。

 

 

 

満員の車内で2人の身体が、密着した。

 

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「だ、ダメです…」

 

「ダメ?」

 

「いえ、だ、大丈夫です…」

 

「変なとこ触っちゃったらゴメン」

 

「…もう…遅いです…」

 

 

 

気付けば高野の左肘が、海未の胸の辺りに触れていた…。

 

 

 

…は、破廉恥です!…

 

 

 

そう叫びたい海未であったが、この状況では致し方ない。

 

 

 

恥ずかしさと、満員の車内の暑さで、彼女の顔は真っ赤に染まり、全身は汗でびっしょりとなった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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