【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

144 / 173
触れた手がまだ熱い…

 

 

 

 

 

「混んでたねぇ…あんまりオレも電車って乗らないからアレだけど…クリスマスってこともあるのかな?」

 

最寄り駅に着きホームに降りた高野は、海未にそう声を掛けた。

 

だが彼女は

「…はい…」

と答えるのがやっとの様子。

 

ぐったりとしている。

 

「大丈夫?」

 

それを見て高野は心配気に訊く。

 

「は、はい…車内が暑くて…ちょっと『のぼせた』ようになってしまいました…でも、もう大丈夫です」

 

 

 

…のぼせた原因はそれだけではありませんが…

 

 

 

「確かに暑かった…」

 

それだけに、外に出たときの気温差が激しい。

 

「うぅ、寒っ!これ、気をつけないと風邪引くパターンだな」

と高野。

 

 

 

駅を出て歩き始めた2人の前に、突如として派手な作りの建物が現れた。

 

『ここから中華街です』と見るだけでわかる。

 

と同時に、あちこちから湯気と食欲を誘う香りが漂ってきた。

 

 

 

「中華まん、食べる?…って言いたいところだけど…これから食事だからなぁ…」

 

「は、はい…そうですね…」

 

 

 

…穂乃果でしたら、あと先、考えずに飛びつくでしょうね…

 

 

 

海未はそんなことを思いながら、高野のあとを歩く。

 

 

 

人出が多い。

 

まごまごしていると、すぐにはぐれてしまう。

 

 

 

…花陽でしたら「誰か助けてぇ!」と言いながら、知らぬ間に姿を消しています…

 

 

 

海未の頭に、再びそんな光景が浮かぶ。

 

 

 

「前に進むのも難儀だね…」

 

「そうですね…」

 

「ごめん、ちょっと右手を出して!」

 

「はい!?」

 

海未は言われるまま、深く考えずに、高野に向かって腕を伸ばした。

 

 

 

「!!」

 

 

 

高野はすぐさま、彼女の手首を掴んだ。

 

「高野さんの手、暖かいです」

 

「今の今まで、カイロ握ってたから」

 

「えっ?」

 

「オレ、冷え性なんだよ。1月生まれだけど、寒いのは苦手でさ…。だから、この時期の試合は、手袋が欠かせなくって…」

 

「そうなのですか…」

 

「いや、そんなことより…行くよ!離れないで」

 

その掛け声と共に、海未を引っ張るよう歩き始めた。

 

 

 

…えっ?…

 

…あぁ、高野さん…

 

…強引すぎます…

 

 

 

海未も彼の手首を掴み返すと、何度も行き交う人にぶつかりながら、必死にその歩を進めた。

 

 

 

どれくらい歩いただろうか。

 

高野の足が止まった。

 

心なしか、人通りも減った感じがする。

 

メインの通りから、ひとつふたつ筋を入ったようだ

 

それでも人がいないわけじゃない。

 

『わさわさ』した具合が、若干少なくなった…そんな程度だ。

 

 

 

「着いたよ!あんまり大きくもないし、綺麗でもないけどね…味は間違いないから」

 

そう言って高野が店に入ろうとした、その時だった…。

 

 

 

「あれ?海未ちゃんやない?」

 

 

 

「!!」

 

 

 

…なぜ、あなたがここにいるのです!?…

 

 

 

海未にとっては聴き慣れた声、聴き慣れたイントネーション。

 

普段であればどうということもないのであるが…今、この瞬間だけは会いたくなかった…そんなところだろう。

 

 

 

「こんなところで、なにしてるん?」

 

「ひ、人違いではないでしょうか…」

 

「海未ちゃんも面白いことを言うようになったんやね…って…おや?」

 

 

 

2人はお互いの手首を掴んだままだった。

 

彼女の視線は海未の手元へから、反対側の人影へと移る。

 

 

 

「むふふ…そういうことやったん?」

 

 

 

「なにがですか!」

 

海未が怒ったように振り返る。

 

 

 

そこに立っていたのは、想像通り希であった。

 

 

 

「なにがって…」

 

希は再び、彼女の手元に目を落とす。

 

 

 

「!!」

 

海未は慌てて手を離した。

 

 

 

「ち、違います!!こ、これは、その…高野さん、説明してください」

 

 

 

「えっと…」

 

これまで黙って様子を見守っていた高野が、ようやく希の方を見た。

 

 

 

「あっ!…あなたはひょっとしてμ'sの…」

 

 

 

「はい、東條希です」

 

 

 

「あっ…初めまして…高野梨里です」

 

 

 

「あなたが高野さん…へぇ、ウチのこと、知っててくれてるんやね」

 

「もちろんです!一応μ'sファンを名乗っているので、これくらいは…。『にわか』ですけどね。でも動画は何回観たことか…確か東條さんはハロウィーンの曲でセンターでしたよね?」

 

希が歳上だと理解した上で、高野は言葉を選びながら話す。

 

「うれしいなぁ…ちゃんと観てくれてるんや。ウチ、結構『胸の印象しかない』って言われることが多いんやけど」

 

「それは、まぁ、普通の男なら、目が行っちゃいますよ。逆に見ないようにする方が不自然だと思うし」

と高野は、希のそこに目をやった。

 

決して露出度の高い服を着ている訳ではないが、それでもそのボリュームは人並外れていることがわかる。

 

「貧乳フェチなら別ですけどね」

と付け加えた高野。

 

「まぁ、正直な人やね」

 

希は嫌がる素振りも見せず、ニヤッと笑った。

 

 

 

…な、なんですか、これは!?…

 

…ま、正夢ですか?…

 

 

 

海未は以前に見た夢を思い出し、キョロキョロと辺りを見回した。

 

 

 

…絵里はいないようですね…

 

 

 

「ん?海未ちゃん、どないしたん?」

 

「い、いえ、なんでもありません…」

 

 

 

「それより海未ちゃんが、色々お世話になりまして…」

 

「いやいや、とんでもないです…こっちこそ、色々ご迷惑をお掛けしてしまって…」

 

「迷惑だなんて、そんなことあらへんよ…」

 

 

 

「そ、それより、なぜ希がここにいるのですか!」

 

海未は話が軌道修正されたことにホッとしつつ、彼女がここにいる謎に迫った。

 

 

 

「ん?それはそっくりそのまま、海未ちゃんに訊きたいんやけど…」

 

「実は、彼女が『快気祝いをしましょう』って誘ってくれたんですよ。あ、オレ、退院したんで」

と高野がフォローする。

 

「あ、そうなん?おめでとうございます」

 

「あ、どうもです…。それで…」

と、彼は今に至るまでの事情を話した。

 

 

 

…真姫ちゃんがねぇ…

 

 

 

「なるほど…」

 

希はなんとなく彼女がとった行動の意図を察し、この状況を理解した。

 

 

 

「なので、先ほどのは…決して手を繋いでいたわけではありません」

 

「まぁまぁ、海未ちゃん…そんな、ムキにならんでも…」

 

 

 

…海未ちゃんやし、そんな大胆にはなれんよね…

 

 

 

「それで、希は?」

 

「ウチ?ウチは…リサーチやね」

 

「リサーチ…ですか」

 

「ほら、ウチ、旅行会社に務めてるやんか。その企画のひとつで『年末年始を中華街で過ごす』っていうのを考えてるんよ」

 

「へぇ…」

 

「もちろん、今年は間に合わへんから、来年に向けての話やけど」

 

「はぁ」

 

「それで、このお店に調査に来たってわけやな」

 

 

 

「そんな偶然がありますか!」

 

 

 

「偶然?」

 

 

 

「あ、オレたちも今からここで食事をしようと思ってて…」

 

 

 

「あるんやねぇ…」

 

希は海未の顔を見ると二ヒッと笑った。

 

「そやけど…ウチ、お邪魔みたいやし、別のお店を探そうかな」

 

 

 

「えっ?」

 

海未は思わず声を上げた。

 

 

 

「折角ですから、ご一緒しませんか?」

 

 

 

「高野さん?」

 

 

 

「別に2人も3人も変わらないでしょ?元々は西木野さんと3人のつもりだったんだし」

 

「え、でも…悪いやん…」

と言いつつ、希は海未を見る。

 

「高野さんよければ、私は構いませんけど…」

 

海未は若干俯きながら、そう答えた。

 

 

 

 

 

店内に入ると、3人で食事ができるよう高野が上手いこと都合をつけた。

 

 

 

…ですが、考えようによっては、希がいてくれて助かったかもしれません…

 

…高野さんと2人きりというのは…やはり…

 

 

 

本来はここに真姫がいるはずだった。

 

しかし彼女は気を利かせたのだろう、帰ってしまった。

 

いや、もしかしたら初めからそのつもりだったのかも知れない。

 

それが海未にとって良かったのか悪かったのか…。

 

そう思っていたところに希が現れた。

 

高野の言葉を借りるなら「起きてしまったことは元にはもどらない。大事なのはこれから先どうするか」とうことである。

 

海未はそう思い、彼女の出現を前向きに捉えることにした。

 

 

 

「そやけど、高野さん。ほんまに海未ちゃんを助けてくれてありがとう。ウチはその時、海外にいて…事故のことは少し後から知ったんやけど、それでも一瞬、血の気が引いてしまって…」

 

「東條さん、その話はもういいですよ。こっちこそ、それをきっかけにμ'sの皆さんに迷惑を掛けたんだし…お互い『行って、来い』ってことで」

 

「迷惑だなんて…。むしろ、あのことがあって、何年ぶりかに全員揃ったり、今度のライブが決まったりと、ウチらにとっては恩恵しか受けてないって感じやけど」

 

「そう思ってもらえるなら、ありがたいです。…ということで…事故云々の話はこれで終わりにしましょう」

 

「そやね。それと、東條さんは堅苦しくてイヤやな…希って呼んで」

 

「の、希!?」

 

 

 

…私でさえ、まだ『園田さん』なんですよ…

 

…なぜ、初対面のあなたが『希』になるんですか!…

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「い、いえ…」

 

 

 

「それにしても、まさかこのタイミングでまたμ'sの人に会えるとは…ちょっとツキ過ぎて怖い」

 

「大袈裟なんやぁ」

 

「このままの勢いで、絢瀬さんと小泉さんにも会っちゃったりして」

 

 

 

…ですから、2人忘れてますって…

 

 

 

そこは何故か冷静な海未。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまぁ」

 

3人が食事を終えると、高野が大きな声で、厨房の奥にいる店主に挨拶をして店を出た。

 

 

 

「あの…本当によろしいのでしょうか…」

 

「ウチの分まで払わせてしもうて…」

 

「まぁ、こういう時は男に華を持たせるものじゃない?」

 

「いえ、そもそも『快気祝いをしましょう』とお誘いしたのは私なのですから…」

 

「とはいえ、学生さんに払わすわけにはいかないでしょ?大丈夫、こう見えてもプロのサッカー選手だったんだから、そこそこのお金は持ってるよ」

 

高野はアハハと笑った。

 

「すみません、では、お言葉に甘えまして…」

 

「ごちそうさんです…」

 

「とても美味しかったです」

 

「ほんまやね。ウチも口コミの情報を頼りにきたんやけど、想像以上の美味しさやった」

 

「店主のおっちゃんがね、中国人なんだけど、変に込むのを嫌がって、ずっと取材拒否してるんだよね…。だから、今日みたいに常連には融通を利かせてくれたりもできるんだけど」

 

「なるほどやね…」

 

「希さん、ダメだよ、ネットで大々的に紹介なんかしちゃ」

 

「うぅ…難しい注文やけど…では、秘密ということで」

 

「よろしくおねがいしま~す」

 

高野はそう言うと大袈裟に一礼をした。

 

 

 

 

 

~つづく~

 






訳あって連投しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。