【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「園田さん?どうしたの改まって…」
「!!」
高野の言葉を聴いたとたん、海未の神妙だった顔が、突然険しくなった。
「なに?なに?」
「はい。大事なことをお伝えする前に、一言申し上げます」
「は、はい…」
高野は海未の初めて見る表情に、少しビビッている。
「私のことは…『園田』ではなく『海未』と呼んでください!」
「はい?」
「これからは海未でお願い致します」
「えっ?あ、あぁ…いや、でも、そんな馴れ馴れしくは…」
「先ほど、希には『希さん』と仰っていましたが…」
「そ、そうだっけ?」
「なぜ、初対面の希には『希さん』と言えて、私はいつまで経っても『園田さん』なのでしょうか!」
「そ、それは…園田さんの雰囲気が『園田さん』って感じで、軽々しく『海未さん』などと言ってはいけないような気がして」
「イヤです!」
「…えっ…」
「そんな気の遣われ方は…イヤです…」
「えっ…う、うん…わかった。園田さんがそう言うなら、今後は海未さんと呼ぶようにするよ」
彼女の悲しげな表情に、高野は折れた。
「はい!お願いします!」
海未の表情が、一瞬崩れた。
「あ、あぁ…。それで伝えたい話って…」
「はい…」
海未は頷くと、数回深呼吸をした。
「私が高野さんに助けていただいてから、半年が過ぎました。その間、今日(こんにち)まで様々なことがあり、長いようでもあり短いようであり…」
「そうだね…」
「色々な経験もさせて頂きました」
「うん」
「その中で…近頃、私の中で、どうしても抑えられない気持ちがあることに気が付きました」
「…」
「できれば…そのまま…胸にしまっておきたかったのですが…」
「…」
「…すみません…このままでは…私…どうにかなってしまいそうで…」
「園…あ、いや…海未さん…」
「私、園田海未は…高野さんのことが…高野さんのことが…」
「ストップ!!」
高野は立ち上がって海未を制した。
「!!」
「ちょっと待って!」
「高野…さん?…」
「海未さん、早まっちゃいけない!その先はまだ言っちゃいけない!」
「なぜですか!」
「そう思わせた、オレが悪い」
「どういうことですか?」
「多分、海未さんは『雰囲気に流されてるだけ』なんだ。ああいうことがあって、現実が見えなくなっている。オレは海未さんが想っているような、男じゃない」
「そんなことありません!」
「そんなことあるさ。そりゃ、クリスマスの夜に、こんなデートみたいなことをすれば、勘違いもするって!そう思わせるようなことをした、俺が悪い」
「勘違いではありません!」
「海未さん!」
「ずっと苦しかったのです…。電話で高野さんの声を聴くだけで、胸が締め付けられました。高野さんの顔を想うだけで、頭がどうかなりそうでした。生まれて初めてでした…このようなことは」
「いや、だから…それは…なんだっけ…あ、そうそう『吊り橋効果』ってやつでしょ?」
「はい、メンバーにも初めはそう言われました」
「ほら」
「違うのです。何度かお会いしているうちに…高野さんの人柄に触れていくうちに…私の中で、どんどん高野さんのことが膨れ上がっていったのです。それは単なる一過性の感情ではないのです」
「…」
「高野さんが私のことを、どう想われているかはわかりません。…ですが…ですが、私はいつか、この気持ちを伝えたいと思っていました。…真姫も希も…それをわかっていて…後押しをしてくれたのです」
「…そうなんだ…」
「後悔はしたくありません。ですから…」
「待って!」
「高野さん」
「30秒…いや1分、時間が欲しい。今、その気持ちに『どう応えていいか』考えるから…」
「…はい…。『どんな答えでも』受け入れる覚悟はできております」
「わかった…」
彼らの乗った観覧車のゴンドラは、間もなく頂点に到達しようとしていた。
海未は遠くに見える…青白く光るベイブリッジをボーッと見つめながら、その時を待った。
「いいよ。時間だ…」
高野は合図をすると、海未の横に立つ。
彼も同じように外を見た。
2人の顔が、ガラスに反射して並んで映る。
そのまま外を見ながら海未が呟いた。
「私、園田海未は…高野梨里さんのことが…好きです…」
海未は…ガラスの向こうの夜景を見ていたが…言い終わった瞬間、その目を閉じた。
…あぁ…
…ついに言ってしまいました…
ゴンドラ内が静寂に包まれる。
ほんの数秒のことだったが、海未にはそれが、何時間にも感じられた。
「オレも…」
そう高野が口にした瞬間、彼女は弾かれるように目を開けた。
反射しているガラス越しに、彼の顔を見る。
「オレも…海未さんのことが…好きだ…」
「高野さん!」
ポロリ…と涙が落ちた。
「でも…オレはきっと、あなたのことを傷つけてしまう…迷惑をかけてしまう」
「高野…さん?…」
「今のオレは無職だし、怪我が完治したとしても…果たしてサッカー選手としてプレーできるかどうかもわからない。こればかりは気持ちだけじゃどうにもならないから…」
「はい」
「だから、そんなオレを好きになった…ってことは、海未さんにとって不幸なことだと思うんだ」
「バカにしないでください!」
「ん?」
「私は高野さんがサッカー選手だから好きになったのではありません。もちろん、復帰して活躍されることは願っておりますが、正直、それがどれだけ大変なことかはわかってるつもりです」
「…海未さん…でもオレと付き合えば、どうしたって『夢野つばさ』が付いて回るよ」
「はい。つばささんと比較されては、私が勝てる要素なぞひとつもありません。ですが…高野さんが好きな気持ちだけは負けません。それに…」
「それに?」
「つばささんに後を託されたのは、私ですから。他の人には譲れません」
「あははは…オレ、そんなに価値ないけどな…でも、マスコミがうるさくなるかも」
「覚悟してます」
「…」
「なんでしょう?」
「そんなこと言われたら、抱きしめたくなっちゃうじゃん…」
「あっ!…あの…それは…その…」
「…って感じで、オレ、めちゃめちゃスケベだけど…大丈夫?」
「つ、つばささんからは…口だけと聴いてます」
「ぶっ!なんだそれ?いつ、そんな情報交換を…」
「そ、それは内緒です」
「でも、さっきだって希さんの胸から目が離せなかったし…」
「仕方ありません。希のあれは、私でも目のやり場に困ることがありますし」
「できれば…触ってみたい…と思ったりするし」
「お、思うだけなら…勝手になさってください…」
「我慢できずに…襲っちゃうかも…」
「それはさすがに許しません!!というか、そこまでいったら犯罪です」
「…だよね…」
「ならば…その分、私を愛してください!…」
「…」
「…」
「…なんか、今、凄いことをサラッと言ったけど…」
「あっ…」
「海未さんが望むなら、毎日毎日、いっぱいいっぱい愛しちゃうけど」
「は、破廉恥です!」
「それこそ、あんなことやこんなこともしてみたいし…」
「ですから破廉恥です!!破廉恥すぎます!!」
海未は高野に向かって、平手打ちを見舞った。
咄嗟の反応。
『パブロフの犬』状態と言ってもよい。
だが、さすがは高野。
スッと身体を沈めると、その右手をかわして、彼女の背後に回った。
海未も負けじと身を翻し、高野と対峙する。
「観覧車の中で暴れたら、危ないって…」
「それはわかっていますが…高野さんがあまりにも…その…いやらしいことを言うものですから…」
「でも、多分、この性格は変えられないよ…」
「会社だったら、セクハラで訴えられます。『Me too』で、ネットに告発されます」
「好きの人の前ならいいんでしょ?」
「好きな人?…いえ、でも…度を過ぎるのは…」
海未は自分の気持ちを打ち明けてから、初めて高野の顔を正面から見た。
高野も真っ直ぐ、彼女の目を見つめた。
「ごめんなさい、高野さん…」
海未は彼の名前を呟くと、静かに目を閉じた。
…恥ずかしいです…
…こんなところで、私は何をしてるのでしょう…
…ですが…
…ですが…
頭の中でこういうシーンを想定して、何百回もイメトレは行ってきた。
シミュレーションはバッチリだ。
もっとも希がいれば
「海未ちゃん、それは妄想って言うんやけどな」
と言われそうだが。
「…海未さん…」
高野は彼女が目を閉じた意味を理解し、肩を引き寄せる。
海未は小刻みに震えており、その緊張が高野にも伝わってきた。
「…メリークリスマス…」
そう言って高野の唇が、海未のそこに触れようとした…
まさにその瞬間だった…。
「はい、お疲れ様で~す!暗いですから、足元、気を付けてお降りください」
無情にもタイムアップの笛が響いた。
ゴンドラの扉が係員によって開けられ、2人だけの時間は終わりを告げた。
「あははは…なんて間の悪い…」
「は、はい…」
「残念ながら『クリスマスプレゼント』はお預けとなりましたぁ!」
「え、えぇ…」
「それとも…もう1回乗って…続きをする?スタートから始めれば、もっと『いいとこ』まで進めるでしょ」
「は、破廉恥です!」
ぶん!
海未の右手が呻った。
バシッ!!
同時に高野が大きく吹っ飛ぶ。
今度はかわしきれなった。
「きゃあ!!高野さん!!」
自分で叩いておいて、自分でビックリする海未。
…オレ、もう一度、入院するかも…
~つづく~