【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「ごめんよ。勝手なことをして」
高野は、先ほどの撮影の件を海未に謝った。
「い、いえ…」
「一応、オレもプロのサッカー選手だったからさ、なるべくファンは大切にしてあげなきゃ…っていう気持ちがあって…」
「はい」
「黙って写真撮るヤツとかさ、馴れ馴れしく話し掛けてくるようなのは論外だけど、礼節をわきまえている人には、ちゃんと対応してあげたいな…って」
「そうですね。そういうところが高野さんは立派だと思います」
「しかし、アレだね…これだけ人がいて、案外気付かれないものだね」
「いえ、私は別に有名人でもなんでもありませんので…」
「謙遜しちゃって…。『灯台もと暗し』ってヤツかな?まさか、その聖地に本人がいるはずないだろ!…っていう」
「はぁ…ですが、私はもとより、高野さんが気付かれないのが不思議です」
「オレ?そんなもんじゃない?スポーツ選手なんて、ユニフォーム着てなきゃ、意外にわからないものだよ。…それに、オレなんて既に忘れ去られた存在だし…」
「そんな寂しいこと…言わないでください…」
そう言われてしまうと海未も返す言葉がない。
「あ…悪い、悪い…こういうこと言うと、気ぃ使うよね。以後、注意する」
「はい」
「じゃあ、気を取り直して…もう少し歩きますか…」
「はい」
2人はおみくじを引いたり、お守りを買ったり、縁日の餅などを食べたりして、ひとしきり初詣のイベントを楽しむと、神田明神をあとにした。
「今日はお疲れ」
「いえ、高野さんこそ。こちらまで来ていただいて」
「いいの、いいの」
「申し訳ございません。本当はもっとご一緒したいのですが」
「でも、その格好じゃあ、何するにしても、なかなか難しいでしょ」
このあと、どこかで着替えるなら別だが、振り袖姿では、何も出来ない。
「すみません」
海未は謝った。
「別に気にしないで。1年に1回のことでしょ?海未さんの貴重な晴れ着姿を拝めたわけだし…それはそれで仕方がないじゃん。次に会うときは動ける服装で…ってことで」
「はい、そうですね」
「それじゃあ、気を付けて」
「あ、待ってください!」
「ん?」
「肝心なことを忘れてます」
「なんだっけ?」
「今日は高野さんの誕生日です」
「そうだね」
「ですから…その…プレゼントが…」
「えっ、いいよ。そんなことしなくても…気持ちだけで充分だよ」
「そういうわけにはまいりません!本来であれば、高野さんが欲しいものを差し上げたいのですが」
「海未さん!」
「!!…破廉…いえ…その…」
「あ、ウソウソ…でもないか…。ほんとは『姫初め』といきたいとこだけどね…晴れ着が着れなくなっちゃうとマズイしね」
…着付けなら、自分でできますが…
…言わないでおきましょう…
「きょ、今日は…その…まだ…心の準備が…」
「プッ!だから、冗談だって。いいよ、本気にしなくても」
「ですが…本気にします…」
プーッと海未は膨れた。
…あははは…
…海未さん、可愛い…
高野は、海未の恥ずかしがる顔が好きらしい。
「…あの…それで、これを…」
「これは?」
「私たちのオリジナルCDです」
「オリジナル?」
「はい。μ'sとして公式に発表した曲は十幾つあるのですが、それ以外のもユニット用に作ったり、諸々の都合でお披露目できなかった曲がございまして…」
「へぇ」
「恥ずかしながら…私のソロも入ってます…」
「おぉ!それは貴重だね。って言うか、そういうこともしてたんだ?」
「はい。ユニットですとか、ソロですとか…企画としてはあったのですが、なにせ活動期間が短かったもので…」
「それはそうだよね。あれもこれもじゃ大変だよね」
「高野さんには、何か『身に付けるものを…』とも思ったのですが、好みもわかりませんし、安物をプレゼントするわけにもいかないので…。今の私には、これくらいしかできず申し訳ございません…」
「いいんだよ。海未さんは海未さんなんだから。そっか、うん…ありがとう、あとでゆっくり聴かせてもらうよ」
「はい…あ、あの…次はいつ、お会いできますか」
「えっ?あ、あぁ…そうだなぁ…それは海未さんの都合次第じゃない?オレは基本的に『無職さま』だから、今は予定なんてどうとでもなるし。むしろ海未さんの方が、学校もあるし、ライブの練習もあるし…で大変でしょ」
「えぇ…それはそうですが…」
「オレはいいよ。毎日でも会いに行くよ」
「そんな、無理はなさらないでください」
「そうでもないよ。チョモとなんか、日中会うのが難しかったから、結構夜中に…あっ、ごめん…イヤだよね、そういう話は。デリカシーがないなぁ…」
「いえ、構いませんよ。つばささんのことは、避けて通れませんですから」
「構わないわけないじゃん。ダメなとこはダメって指摘してくれないと…」
「高野さん…」
「…っていうことで…また連絡ちょうだい。オレ、あんまり束縛するの好きじゃないし、されるのも好きじゃないから…そんなにマメにメールだ、LINEだ…って交換するタイプの人間じゃないけどさ」
「はい。わかりました」
「ほんじゃ!」
と高野は手を上げると、背を向けて歩き出す。
海未はその姿を見送った。
今日は、そこでここは終わるハズだった。
ところが…
高野は数歩進んだところで、膝から崩れるようにして、うずくまった。
後ろから狙撃されたようにも見えた。
「!!」
海未が慌てて駆け寄る。
「高野さん!!」
「だ…大丈夫だ…。ちょっと躓いただけだから…」
だが、そうでなかったことは、容易にわかる。
海未は、高野の顔のしかめ具合を見ても、ただ単に転んだわけではないと察した。
腰砕けというか…突如、力が入らなくなったような、そんな感じだった。
「立てますか?」
「…あぁ…」
高野はそう答えたが、海未は肩を貸して、彼が起き上がるのを手伝った。
そして、近くにあったベンチまで連れて行った。
「高野さん!?」
「大丈夫だ…ちょっと、ピキッて…身体に電気が走ったっていうか、なんていうか…」
「それって…」
…まさか…
…後遺症ですか…
「心配ない…今まで、こんなことなかったから…ちょっとびっくりしただけで…。でも、大丈夫…少し休めば…」
「病院へ行きましょう!」
「大丈夫だって…大袈裟にすることじゃない」
「でも!」
「前に医師(せんせい)からは、ちゃんと言われてるから。『痛みがゼロってことは、まずありえないって』。コイツとは、ずっと付き合っていかなきゃいけないらしいから…その度に病院なんて行ってられないだろ?」
「だとしても、1回診てもらうべきです!この近くに、真姫の病院がありますから…」
「正月早々、迷惑を掛けるわけにはいかない」
「そんなこと言ってる場合ですか!!」
「まぁまぁ、落ち着いて!」
「何故、私が諭されなきゃいけないんですか?」
「ん?」
「高野さんの、身体のことですよ!」
「…そうだね…ふう…大丈夫…落ち着いたから…」
「高野さん…」
海未は、心配と疑いの眼差しで彼を見た。
それに気付いた高野は
「ダメだな…できれば海未さんのいないところで起きて欲しかったのに…まさかこんなタイミングで来るとは…」
と顔を伏せた。
「このタイミングで良かったです。私の知らないところで起こっていたら、手助けのしようがありません」
「海未さん…」
「そんな悲しい思いは…したく…ありません…。それに…何かあったら次は私が助ける番です」
「…そっか…そうだな…ありがとう…」
「いえ、そんな…」
「それにしても、びっくりした。一瞬何が起こったかと思ったよ」
「私も驚きました」
「でも、これで心の準備はできた。次はもう大丈夫」
…だと良いのですが…
海未は心配そうに高野を見る。
彼は彼女に向かって微笑むと
「じゃあ」
と帰宅した。
…本当に帰してしまって良かったのでしょうか…
約2時間後、高野から『無事に家に着いたよ』とLINEが入り、ホッと胸を撫で下ろす海未だった。
~つづく~