【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
高野は前の車との距離を保ちながら、言葉を続けた。
「体格的な優位性ってことで、仮に…ってするけど『欧米人と日本人の子』が『1/2』として…その子が欧米の人と結婚して生まれた子供が『1/4』、さらにその子が欧米人と結婚してできた子供は『1/8』?…つまり『最初の日本人』からすれば『ひ孫』になるわけだけど…7/8が外国人のDNAでも、日本で生まれ育てば『日本人』なんだろうか?」
「それは…」
「ちょっと想像してみて。何十年後かに、海未ちゃんが弓道を教えようとしよう…日舞でもいいや」
「はぁ…」
「その教え子の容姿が、みんな『見た目 絢瀬絵里さん』なの。海未ちゃんみたいな大和撫子の中に、絢瀬さんがひとりいる…んじゃないんだよ?その逆。絢瀬さんしかいない中に、海未ちゃんがひとりしかいないの」
「…確かに、ちょっと…変な感じがしますね…」
「でも、近い将来、そうなる可能性があるわけだよね?」
「…」
「サッカーだって、もしかしたら『見た目 黒人選手』が11人、日本代表としてピッチに立ってる可能性が、ないわけじゃない」
「…はい…」
「ところが、これって海外じゃ、別に珍しいことでも何でもなくてさ」
「えっ?」
「日本って島国だし、移民を積極的に受け入れているわけでもないし、植民地になったこともなくて…故にほぼ『単一民族みたいなもの』だから、今みたいな話になりゃ、さすがに違和感しかないけど…欧米各国なんて、もうグチャグチャじゃん。サッカーで言えばさ、フランス代表とかオランダ代表とかは結構アフリカ系の黒人選手は多いし、ブラジル代表だって半分くらいはいるかも知れない」
「えぇ…まぁ…」
「だからそういうことを考えてると、最近思うんだ。日本代表、○○国代表って何?って。近い将来、ワールドカップとか、オリンピックとか国別対抗戦ってなくなるんじゃね?って」
「すごく興味深いことを仰いますね」
「そう思わない?グローバル化だ、ボーダレスだって叫ばれてる中で、○○人っていう定義を統一しなければ、なんでもありって話でしょ?」
「はぁ…」
「話は少し逸れるけど、既に卓球なんかはさ、欧州の団体戦出場3人のうち2人が中国からの帰化選手…みたいな。どの国が出てきても、中国からの帰化選手しかいない…なら、国別の争いにする必要ないよね…って」
「サッカー以外にもお詳しいのですね」
「あ、親父の影響でね」
「でも、仰ってることは、なんとなくわかります」
「ホント?まぁ、海未さんならわかってくれるんじゃなかと思ったから、オレも話してるんだけどさ」
「はい」
「それと、もうひとつ危惧してることがあって…」
「なんでしょう」
「『普通の日本人であることが、差別される』時代がくるんじゃないか…ってこと」
「えっ?」
「まず『普通の日本人ってなんだよ』…って話は置いておいて…さっきの話に戻るけど、良質な体格的DNAを求めていくには、欧米人の血を濃くしていけばいい…」
「そう単純ではないと思いますが…」
「そう!そうなんだ!ハーフやクォーターの人が、必ずしも全員トップ選手か?っていうというと、そうじゃないところが面白いんだけどさ。サッカーでも一応、代表になった選手はいるけど、世界レベルかどうかというと…。いや、オレが言うのも失礼な話なんだけど」
「何か原因があるのでしょうね?」
「そうなると、本人のやる気とか環境なのかな…とも思うけど…。ただ『日本人の骨格・肉体改造論肯定派』は、今の時代決して少なくないと思うんだ。そして、その考えが主流になって『日本人同士の間にできた子供など、役立たずだ』なんてことになったら?」
「!」
「『選民思想』ってヤツ?」
「まさか…」
「ガンダムに出てくるギレン=ザビは『スペースノイドは選ばれた民であり、ジオン国民はその優良種である』として、ブリティッシュ作戦を敢行し、地球圏の人口の半数を死に追いやった」
「ガンダムのことは良くわかりませんが、仰っていることはなんとなく理解できます」
「戦後は…ハーフとは言わないで『混血児』とか『あいのこ』って呼ばれてたらしいけど、それが原因でいじめとか差別とか相当あったらしいんだよね。それがそのうち逆に『そうじゃないこと』が理由で、虐げられる日がくるかも」
「…だとすれば、それはホラーですね…」
「でも、その虞(おそれ)がない、わけじゃない」
「…」
「それでね…一番初めの話に戻るんだけど」
「なんでしたっけ?」
「『日本人って何?』」
「あ、はい…」
「園田さんって、ご先祖様、何代先まで遡れるの?」
「さぁ、どうでしょう?…家計図はあるようですが、しっかりと見たことは…。私がはっきりと認識しているのは6代くらい前ですが…」
ヒューと高野は口笛を鳴らした。
「さすが、良家のお嬢様…家計図があるんだ…」
「よしてください…それがどうかしましたか?」
「オレは昔、高野って苗字の由来を何気なく調べたことがあってね…そうしたら『紀国造(きのくにのみやつこ)あるいは百済族の高野朝臣(たかののあそみ)の子孫』って出てきたんだ」
「いずれも7世紀前後の豪族ですね」
ヒューと高野は、再び口笛を鳴らした。
「すごいね!」
「その辺りは私が専攻している日本文学の、守備範囲でもありますので…」
「へぇ…なら、百済とは?」
「簡単に言えば古代の朝鮮半島にあった国家の名前とでも言えばよいのでしょうか」
「正解!ってことは、高野の名前のルーツが本当にそこにあるとすれば、オレの遠い遠いご先祖さまは朝鮮からの『渡来系帰化人』ってことになる」
「…」
「もしかしたら、今、あっちにいる人たちと、ご先祖様は同じかもしれないってこと」
「そうかも知れませんし、そうじゃないかも知れません。ですが、そんなことを言えば…」
「だよね。初めから日本列島にいた人は誰か?ってことになっちゃう」
「はい」
「だから、日本人の定義って何?ってなる。法律上の話じゃなくてね」
「…」
「つまり、オレは『見た目 日本人』らしい人たちが何代か交わって…結果、日本で生まれて日本で育ったから『日本人だと思って生活している人』ってことなんだよねぇ」
「とても複雑な話になりました…」
「あははは…そう思う。オレも自分で話してて、収集が付かなくなってきた」
「とても興味深いお話でした。それに高野さんがとても面白い人だということも、よくわかりました」
「そう?」
「ですから、お話を聴いてて飽きなかったですし、渋滞中もイライラせずに済みました」
と海未はニコッと笑った。
「海未ちゃんは、少し変わってるわ」
「なぜです?」
「普通、こんな話をしたら『引く』でしょ…。2話も使ってするもんじゃない」
「なんですか?2話…って」
「あ、いや…」
「…そうですね…人種とか、民族とか、国家とか…そういうもので争ったり、優劣をつけたりというのは、もしかしたら不毛なことなのかもしれますんね…」
「…っていうと『ワールドカップいらねぇじゃん』ってことになっちゃうんだけどね」
と高野は笑った。
「ありゃりゃ…これは随分と派手にやらかしたねぇ…」
高野のエルグランドが事故現場に到着する。
3車線の道路は1車線に規制され、それが500mほど続いていた。
車3台が絡む事故…とラジオでは言っていたが、おそらく、その最初の車であろう…原型をとどめていない『それ』…が、レッカー車に吊り上げられている最中だった。
その前方に、巻き込まれたと思われる車が2台。
こちらも、側面…あるいは後方が激しく損傷しており、その衝撃の強さがわかる。
既に救急車は立ち去ったあとのようだが、お亡くなりになった方が出たと思わせるには充分な『惨状』だった…。
~つづく~
チャリティライブまで、あと2話です。
しばし、お待ちを。