【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
首都高を降りた高野のエルグランドは、左にハンドルを切ると、目的地をグルッと周りこむようにして走り、駐車場へ辿りついた。
元々の到着予定時間は開門の30分前まであったが、事故渋滞の影響で1時間半遅れ…今は10時になろうとしていた。
「平日だっていうのに、こんなに混んでるんだ…」
と高野は、駐車場の車の数を見て呟いた。
「いえ、平日なので、この程度かと…」
「そうなの?ふ~ん、暇人が多いんだね」
「日本全国、土日が休みではありませんから」
「なるほど。それは確かにそうだ」
2人は車を降りて、園内に向かう。
「何年ぶりだろ?中学の遠足で来て以来だから…『高野梨里、6年ぶり2度目の来場』…」
高野はまるで、ワールドカップの出場国をアナウンスするかのように言った。
「6年ぶりですか…つばささんとは?」
「来てない!来てない!ヤツはチームメイトとかと来てるみたいだけど…」
「遊園地自体は?」
「まあ、それは何回か…でもここは、ほぼ初心者って言っていい。…ということで、今日は海未ちゃん、よろしく!オレは黙って後ろをついていくから」
「はい、かしこまりました!それではまず、目ぼしいアトラクションのファストパスを取りに回りましょう」
「お、おう…」
「高野さんは、苦手なものはありますか?」
「煮物はあまり好きじゃない」
「アトラクションの話です」
「苦手なもの?乗り物ってこと?」
「はい」
「全般的に回転系は得意じゃない…コーヒーカップとか。目が回る…とうよりは、気持ちが悪くなる」
「メリーゴーランドとかは?」
「それくらいは平気だけど、この年齢の男が乗るものじゃないでしょ」
「そうでもないですよ。ここに来たら、老若男女関係なく、皆さんはしゃいでますので…」
「ま、まぁ…」
…確かにオレより(年齢が)上の男の人でも、楽しそうに被り物してるもんなぁ…
…オレにはできん…
「帽子買います?」
「い、いや、オレはいい…。そういう海未ちゃんは?」
「わ、私もそういうのはあまり…」
「だよね!」
「はい…」
2人はお互いの顔を見て笑った。
「ちなみに高野さん…ジェットコースターは?」
「そこまで苦手ではないと思うけど…」
「ちなみに以前いらっしゃた時は、何に乗られましたか」
「どこも混んでて、あんまり乗ってないんだよね…えっと、確か…あぁ『It's a 相撲 world』!」
「『small』です」
「…とか…『ボーンヘッドマンション』?」
「『ホーンテッド』…ですね」
「あぁ、あとあれだ!『バックドラフト』」
「それはここではありません…」
「…熊が歌うアトラクション…」
「はい、それはあります」
「…で、寝た記憶がある…」
「うふふ…本当に何も乗ってないのですね…わかりました。では行きましょう!」
丁度、園内では午前のパレードが行われる時間であったが、それには目もくれず、あちこちと走り回る。
『仕切り屋 海未』の本領発揮!というところか。
そして
「少し早いですが、お昼を食べてしまいましょう」
と高野をランチに誘い、ひとしきり腹ごしらえをした。
「海未ちゃんも、こういうところって好きなんだ?」
「私もしょっちゅうは来ませんが…年に1~2回程度でしょうか…。童心に帰る…といいますか、来ればつい無邪気にはしゃいでしまいます」
「へぇ」
「なんですか?意外…という顔をされていますが…」
「どっちかといえばインドアのイメージだし、常に冷静沈着な感じだし、海未ちゃんがそうしてる姿が想像できないなって。お化け屋敷とか入っても、逆に退治しそう」
というと、その姿を脳内に投影したのか、高野は笑い出した。
「あ、高野さん。それは酷いです。こう見えても、私、怖がりなんです」
「嘘?」
「本当です。その…お化けだとか、幽霊だとかは、非科学だと思いますし、信じてはおりませんが…それでもやはり、そのような話は、あまり気持ちの良いものではありません」
「『悪霊退散!!エイ!エイ!』って言いながら、御札を貼ったり」
「しません!」
「矢で射貫(いぬ)いたり」
「しません!」
「炊飯器の中に閉じ込めたり」
「しません!ってなんですか、それは…。勝手に変なイメージを付けないでください」
「あははは…海未ちゃん可愛い」
「ぶっ!…と、唐突に何を言い出すんですか!」
「良かった、良かった。元気になってくれて、本当に良かった」
「高野さん?」
「さて、お昼も食べたし、遊びますか!!…ってどこから周るかわかんないけど」
と高野はテーブルの上のゴミを片付けて、席を立った。
「最初は『ステッチ・エンカウンター』ですね」
「なにそれ?」
「画面の向こうにいる『ステッチ』が、お客さんと直接会話して、盛り上がるというアトラクションです」
「へぇ」
「前回、来たときは穂乃果が弄られて、それはそれは大変なことになりました」
「そうなんだ。確かに彼女、そういうの物怖じしなさそうだもんね…」
「はい…あ、ここです…」
「いやぁ、いっぱい乗ったし、いっぱい見たねぇ。お土産も買ったし…これでオレは、当分の間ここに来る必要はないかも…ってくらい」
「はい。なんだかんだで10時間近くいましたから」
「あ、でも…海未ちゃんはまた来たいよね?」
「そうしたら、次は『シー』に行きましょう。こちらよりはグッと大人っぽくなります。私も向こうはまだ、あまり行っておりませんので」
「なるほど」
「あの…」
「ん?」
「私と1日いて…疲れませんでしたか?」
「全然、全然!正直、アトラクションはそれほど…だったけど、海未ちゃん見てるのは楽しかったよ。なんだっけ?初っぱなのヤツ…穂乃果さんがどうとか言ってたら、海未ちゃんが弄られてるし」
「はい。ですが、そのせいで高野さんと一緒にいることがバレてしまいました」
「構わない、構わない。別に隠してることじゃないし…それに誰も気付いてなかったし」
「はぁ…」
「なんか知らないけど写真も撮ってくれたし」
「それはそうですが…」
「カヌー漕いだら『お姉さん、競技やられてました?メッチャ本格的ですよね?』とか言われてるし」
「…恥ずかしかったです…」
「確かにプロみたいな漕ぎ方だった」
「つい、ムキなってしまいまして…」
「スプラッシュマウンテンは、海未ちゃん、超ビショ濡れになってるし」
「どうして同じ席に座ってるのに、高野さんは濡れないのですか」
「日頃の行いの差ってヤツじゃない?」
「うぅ…納得できません…。お陰でこんなに派手なパーカーを着替えで買うハメになってしまいました」
「あははは…似合ってると思うよ。とても普段の海未ちゃんらしくないけど…っていうか、μ'sの衣装はもっと派手じゃん」
「あれはステージの上…と割り切っておりますので…」
「え~…じゃあ、プライベートでミニスカートとか履いてくれないの?」
「それは…その…」
「見たいなぁ…生で!」
「もう…すぐにそういうことを言うのですから」
「ごめん、ごめん。でも、海未ちゃんが魅力的な人じゃなきゃ、そういう気にもならないよ。」
「あっ…と、とにかく、車で来て良かったです。この格好では電車で帰れません」
「車に乗ったらさ、濡れた服、バッグから出してね。後ろの席に置いといて、エアコン入れときゃ、乾くでしょ」
「いえ、だいぶ乾いたと思いますが」
「いいから、いいから…」
「はぁ、すみません…」
「あ、ねぇ…あの観覧車って『シー』にあるの?」
「えっ?あれですか…いえ、違います。あれは『葛西臨海公園』の中の施設ですから、別物ですね」
「へぇ」
「乗りたいのですか?」
「ううん。ただ単に、なんだろうな…って思っただけ」
「結構、間違えている人もいるみたいですけどね」
「そうなんだ…っと、車はここか。行き過ぎるところだった。ちょっと待ってね、大急ぎで車、暖めるから」
「あ、はい」
高野はエンジンを掛けると、すぐにエアコンの風量をあげた。
「海沿いだから、風は強いし、まだこの時期は寒いねぇ」
「そうですね。春まではもう少しですけどね…」
「あっ!今日は…家まで送っていくよ」
「えっ?いえ、そういうわけには…」
「別に遠慮しなくていいよ。神田だっけ、御茶ノ水だっけ?あの近辺でしょ。東京駅で降ろすのも、家に行くのもそう変わらないじゃん」
「そ、そうなのですが…今日は…その…」
「?」
「の、のぞ…の家に泊まると家族には…」
「ノゾキの家?」
「希です!」
「…あ、そうなの?…あ、なんだ、希さんの家に行けばいいんだ。だったら早く言ってくれれば…結構遅い時間になっちゃったけど大丈夫?電話しておいたほうが良くない?」
「ち、違います!希の家にはいきません!」
「ん?」
「ですから…その…今日はバレンタインデーですし…初詣の時には…でしたので…」
「!」
「…と思いまして…」
「…」
「…覚悟は…決めて参りました…」
「ぶっ!」
「!!」
「それは海未ちゃんらしくない冗談だなぁ!そうだね、今日はバレンタインデーだね。でも嘘を付いていい日じゃない。それはエイプリルフールだ」
「それくらいのことは知っています」
「だったら、今すぐ希さんに電話して、泊めてもらうように頼んだ方がいい」
「高野さん…」
「気持ちはスッゲー嬉しい。なんなら、今ここで襲いたいくらい」
「あっ…」
海未は顔を赤らめた。
「でも、もし海未さんが本当にそう想ってくれてるとしても…ライブが終わるまでは待とう」
「高野さん…」
「『願掛け』みたいなものかな?」
「えっ?」
「いや、正しい表現かどうかはわからないけど…あと2週間でしょ?ライブ」
「は、はい…」
「今『しちゃう』と、それしか考えられなくなっちゃうよ」
「そ、そんな『ふしだら』なことには…」
「だよね。海未ちゃんに限ってね…とも言い切れないんだな…」
「…」
「悪いね。折角その気になってくれたのに…」
「あ、いえ…私の方こそ…少し焦ってしまったみたいで」
「本当はね?メッチャしたいんだよ!今、ここでしちゃいたいくらい」
「何度も強調しなくても…」
「でも周りの目もあるしね…」
「!?…ここでって、この中でですか!へ、変態です!!」
「あははは…」
「わ、笑いごとではありません」
「そうだね…ごめん。オレがこういうこと言い過ぎるからいけないんだよね」
「あ、はい…あ、いえ…その…」
「まずは海未ちゃんは、ライブに集中!OK?」
「は…はい…」
「何?泣かなくてもいいじゃん…」
「す、すみません…なぜか涙が…私もワケがわかりません…」
「きっと、アレじゃない?『目がゴミに入った』ってヤツ」
「『ゴミが目に入った』です!」
「…」
「…」
「あははは…」
「ふふふふふ…」
「よし、じゃあ、車、出すよ」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
それから数分後。
…海未ちゃん寝ちゃったよ…
…まぁ、このシートで、この車内温度だと…
…そうなるよね…
…チョモも毎回このパターンだったし…
…にしても…
…色っぽい…
…やべぇ、オレ、本当に変態になっちゃいそう…
~つづく~
次話はいよいよチャリティライブ当日です。