【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

157 / 173
代役ヨーソロー

 

 

 

 

「曜ちゃんが!」

 

「代役ぅ!?」

 

 

 

「すごいよ、曜ちゃん!」

 

「はい、まさかまさかの大抜擢ですわ!」

 

「がんばルビィです!」

 

盛り上がる千歌、ダイヤ、ルビィ。

 

 

 

「代役?私が?」

 

しかし、当の本人は困惑気味だ。

 

 

 

「希、それはいくらなんでも、失礼よ」

 

「そやけど、えりち…今、ここにいないのは花陽ちゃん…そして、ここにいるのがソックリさん…いないのが凛ちゃんでも成り立たたんし、優勝したのがAqoursやなかったら…やっぱり成り立たんし」

 

「…なんか、ミステリー小説のトリックみたいズラ…」

 

 

 

「…これを『スピリチュアル』と言わずして何とするぅ!!」

 

 

 

「何か悪いものでも食べた?」

 

希の芝居掛かった口調に、にこは呆れながら、ことりに訊いた。

 

「ちゅん、ちゅん!」

 

彼女もどう答えたらいいかわからず、そう言って誤魔化すしかなかった。

 

 

 

「すみません、訊きそびれましたが、なぜ花陽さまはいないのでしょうか?」

 

「まさか『漆黒の闇』へと葬り去られたとか?」

 

「善子は黙ってるズラ」

 

「ヨハネでしょ!」

 

「『漆黒の闇』?『ヨハネ』?」

 

「あ、希さま、今のは気にしないでくださいませ」

と言ったあと、ダイヤは善子を睨み付けた。

 

 

 

「?」

 

 

「かよちんは、アメリカから今日の午前中に帰国予定だったんだけど、飛行機のトラブルでまだ、空港に着いてなくて」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「それで穂乃果ちゃんと海未ちゃんが、そのことを相談しにA-RISEのところに行ってるの」

 

凛とことりの説明を聴いて、Aqoursのメンバーも、ことの重大さに気付いたようだ。

 

 

 

「間に合うんですか!?」

と千歌。

 

 

 

「それが…」

 

絵里は言葉を濁した。

 

 

 

 

「えりち…最悪の事を考えれば、頼んでみる価値はあるんやないかと思うんやけど…」

 

「ちなみにアンタ、この中で歌える曲はある?」

と、にこはセットリストが書かれた紙を曜に見せる。

 

「は~い、私は全部踊れま~す!」

 

「千歌さんではありません!曜さんが訊かれてるのです」

 

「…たぶん、この曲ならイケると思います…」

と曜はその中の1曲を指差した。

 

「OKわかったわ!それなら話は早い」

 

「にこ…」

 

「絵里、この娘に迷惑かけるつもりはないけど、希の言う通り、最悪の場合は想定しておくべきだと思う。曲順を入れ換えて…あとは、この『にこさま』の超絶ラブリーなMCで時間を稼げば…」

 

「にこちゃんがMCなんてしたら、すぐにみんな寝ちゃうにゃ…」

 

「なんですって!?」

 

「にこ!凛!…あっ、ごめんなさい…わかったわ…曜さん…と言ったかしら?」

 

「はい…」

 

「そういう事情なの…。もし良かったら…協力して頂けないかしら?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「曜ちゃん!?」

 

 

 

「ヨーソロー…であります!!」

 

 

 

「それは…OKって意味かしら?」

 

「はい。だって、自分たちの衣装以外にμ'sの衣装も着れるかも…ってことですよね?はい、やります!やります!頑張ります!」

 

「あ、ありがとう…」

 

急にテンションが高くなった彼女を見て、μ'sのメンバーは「?」という表情をした。

 

 

 

「あ、そうなったら、練習しておいた方がいいよね。曜ちゃん、楽屋に戻ろう!では、μ'sのみなさん、のちほど」

と千歌は、曜の手を引っ張るとドアを開け飛び出していった。

 

 

 

「ちょっと、千歌さん!」

 

「千歌っち!」

 

「千歌!」

 

年長者3人が、次々に彼女の名前を呼んだが、戻ってくる様子はない。

 

 

 

「た、大変申し訳ございません。お騒がせいたしまして…」

と頭を下げるダイヤ。

 

「ううん…こっちこそ、変なお願いをしちゃって…」

と絵里も頭を下げた。

 

「では、一旦自分たちの楽屋に戻りますので…」

 

果南が音頭を取り、Aqoursのメンバーは一礼して部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

「あの千歌っていう娘、穂乃果みたい…」

 

「えりち?…うん…そうやね。なんて言えばいいんやろ…猪突猛進?」

 

「うふふ…そうかも…」

 

 

 

 

「みんな!お待たせ!」

 

「お待たせしました!」

 

 

 

「…って言うてたら、ご本人登場…」

 

 

 

「へっ!?穂乃果?…なになに?…」

 

 

 

 

 

「…ということで、A-RISEには事情説明の上、出演順や曲順については、臨機応変に対応頂けるよう頼んできました」

 

「迷惑を掛けるわね…」

 

「何言ってるのよ!?元々今日は、私たちμ'sの為のライブみたいなもんじゃない。それくらいのことは当然でしょ!」

 

「…なんて、A-RISEの前じゃ、一言も言えないクセに」

 

「うるさいわねぇ!」

 

「にこっちも、凛ちゃんもその辺にしときぃ。今は、そんなんしてる場合やないんよ」

 

「…ごめん…」

 

「…すみません…」

 

 

 

そのあともμ'sの楽屋には、一緒に出演するアイドルたちが、代わるがわる訪れ、彼女たちに挨拶をしていく。

 

そして、全員が全員『伝説のスクールアイドル』と対面できたことに感動し、興奮状態で部屋を出ていくのであった…。

 

 

 

「そろそろ落ち着いたかしら?じゃあ、私たちも準備を始めましょう!」

 

絵里がパン!パン!と手を鳴らすと、メンバーの表情が一変した。

 

スイッチが切り替わった…そんな感じだ。

 

 

 

「花陽のことは心配だけど、今、考えても仕方ないわ。むしろ、このスリルを楽しみましょう」

 

「えりち…」

 

「スリルを楽しむ…ですか?」

 

「だってそうでしょ?泣いても笑っても、これがμ's最期のステージなんだから」

 

「…そうだよ!うん!楽しもう!」

 

「穂乃果…」

 

「その…曜さんだっけ?その娘が歌ってるうしろから、花陽ちゃんが出てきたら面白いよね」

 

「ご本人登場にゃ…」

 

「それはそれで趣旨が変わってしまいますが…」

 

「とにかく、アタシたちはできる範囲でベスト尽くす。この期に及んで四の五の言っても始まらないし」

 

「お客さんを笑顔にさせるのがアイドルだもんね?」

 

「ことり、わかってるじゃない!」

 

「その為には、まず自分たちが楽しむ…ってことでしょ」

 

「真姫ちゃんも随分ポジティブになったもんやね」

 

「あ、当たり前でしょ。何年あなたたちと付き合ってると思ってるのよ」

 

「それじゃあ、改めて…言っちゃおうかな…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「ファイトだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャリティライブは、定刻より10分遅れで開演した。

 

 

 

オープニングはA-RISEの『Shocking Party』だ。

 

いきなり、ステージの上から吊られて降りてくるという、派手な演出。

 

少し焦らされたこともあり、会場のボルテージは一気に上がった。

 

 

 

「皆さん、こんばんは!A-RISEです!!」

 

 

 

どわ~っと地鳴りのような歓声が、場内に響く。

 

 

 

「まずは私たちの代表曲『Shocking Party』を聴いて頂きました」

 

「今日はちょっと天気が怪しくて、みんなちゃんと来てくれるか心配だったけど…完全にフルハウスね!」

 

「凄い熱気だ…こっちも、みんなに負けないくらいのパワーで歌って踊るから…今日はよろしく!」

 

3人のアップがREDの巨大ヴィジョンに映されるたび、それぞれのファンが彼女たちの名前を叫ぶ。

 

やはりA-RISEは、押しも押されもせぬトップアーティストなのだ。

 

 

 

綺羅ツバサが今日のイベントの趣旨を改めて説明する。

 

「…そして、この呼びかけに、大勢のアイドル、アーティストが集まってくれました。どうか、それぞれのファン同士、尊重しあって、争いごとのないように…3時間と短い時間ですが、みんなで盛り上がっていきましょう!!」

と観客に訴えたあと、立て続けに自分たちのヒット曲を2曲披露して一旦、掃けた。

※掃ける=ステージ上から引っ込むこと。

 

 

 

替わって、今、売り出し中のアイドルたちが、次々と登場。

 

今日の目玉はなんといっても『A-RISE』『アクアスター』そして『μ's』の競演だが、会場の観客たちは、彼女たちにも大きな声援を送った。

 

 

 

場内に設置された巨大ヴィジョンには、全曲歌詞が流れているので、お目当てのグループの曲でなくても、メロディーを知っていれば口ずさめた。

 

実はA-RISEが一番気を使った部分だった。

 

特に昨年は、μ'sのファンと自分たちのファンが、ネット上で不毛な中傷合戦が繰り広げたという、苦い経験がある。

 

それ故、それぞれのファンが、敵対心を持って憎しみ合うのでなく、同じ仲間としてみんなで盛り上がってほしい。

 

その想いが、この歌詞テロップに現れていた。

 

おかげで『推し』だ『アンチ』だという争いもなく、穏やかな雰囲気の中で折り返しを迎えた。

 

 

 

後半戦のスタートはAqoursからだ。

 

ラブライブ優勝チームとはいえ、さすがにこの中にあっては認知度は低い。

 

それでも彼女たちは今、持てる力を出し切り、臆することなく歌い切った。

 

少ないながらも、観客席からメンバー名のコールも聴こえた。

 

彼女たちにとっては、おそらくこれがAqoursとしての最後のパフォーマンス。

 

万感の想いを胸に、ステージを降りた。

 

 

 

ここで再びA-RISEが登場して、5分ほどのMCが挟まれた。

 

「…さて、続いては…来月、私たちの事務所からデビューする新人の登場です」

 

「実は彼女もスクールアイドル出身で、私たちとは旧知の仲なのよね!」

 

「とにかく歌が上手なんだ。その美声に酔いしれるがいい!」

 

3人に紹介されてステージに現れたのは『中目黒結奈』であった。

 

 

 

彼女の路線はアイドルではなく『シンガー』のようだ。

 

春から始まるアニメの主題歌として、そのサビはCMでも何度も流れているので、会場の観客も耳馴染みの様子だった。

 

彼女の透き通った声に、客席は静寂に包まれた。

 

聴き入っている…という表現が妥当だろう。

 

歌い終わった彼女には、万雷の拍手が送られた。

 

 

 

そして…

 

 

 

続いて、登場したのは『アクアスター』の2人。

 

ユニットとしてもソロとしても活躍しており、どの曲もヒットを飛ばしている…今回のライブの主催者A-RISEと並ぶ…若手アーティストの双璧。

 

 

 

彼女たちはまず…アクアスターとしてのデビュー曲…を披露したあと、はるかが自分のソロ曲を、めぐみの奏でるピアノで歌い…、めぐみも自分のソロ曲を、はるかが爪弾くアコースティックギターで歌い…会場を魅了する。

 

拍手が鳴り止むと、場内が暗転した。

 

 

 

おぉ~!!

 

 

 

何か大きなことが起こる予感。

 

胸騒ぎ。

 

 

 

暗闇の中から聴こえてきたのは…フラメンコを思わせる…掻き鳴らすような、荒々しいギター。

 

それを追いかけるようにキーボードが旋律を紡いでいく。

 

 

 

どぉ!っという声と共に会場が揺れた。

 

 

 

その音源の主をスポットライトが照らす。

 

場内に設けられたセンターステージには星野はるかと水野めぐみがいた。

 

この曲は『シルフィード』として2枚同時にリリースしたデビューシングル『スピードの向こう側』だ。

 

夢野つばさが音楽活動を休止してから、アクアスターの2人は一度もこの曲を披露したことがなかった。

 

故に、シルフィードの代表曲でありながら、幻の曲と言われていた。

 

 

 

それが…今…

 

 

 

ライブ仕様なのか…いつもより長めの前奏で、お互いの演奏テクニックをたっぷり魅せ付けたあと、ようやく1コーラス目を歌い始めた。

 

そして、間奏に入ったとたん、2人は演奏をピタリと止めた。

 

 

 

すると、どうだろう。

 

入れ替わるように、別のギターの音が鳴り響く。

 

 

 

センターステージに設けられたセリから上がってきた人影に、ライトが当たる。

 

 

 

長身の女性。

 

手にしているギターは左利き用…。

 

巨大ヴィジョンに映し出された彼女の顔に、大歓声が起こった。

 

 

 

彼女のギターが軽快なリズムを刻む中

「それでは、メンバー紹介します。星野はるか!」

とめぐみ。

 

「水野めぐみ!」

とはるか。

 

 

 

「そして…夢野つばさ~!!」

 

2人は声を合わせて絶叫した。

 

 

 

うぉ~~

 

この日一番の歓声。

 

 

 

一瞬、つばさの鳴らすギターの音は掻き消されたが、そこに、はるかとめぐみが音を重ね、再びメロディーが形成されていく。

 

そして3人で2コーラス目を歌い切った。

 

 

 

「みなさん、こんばんは!!」

 

「シルフィードです!」

 

 

 

どぉ~…

 

 

 

「なんと、5年ぶりに、夢野つばさがステージの上に帰ってきたよう!!」

 

「皆さん、お久しぶりです。夢野つばさです」

 

 

 

つばさ~!

つばさちゃ~ん!

お帰り~!

 

 

 

「どう?この雰囲気は?」

 

「オリンピックでPK蹴った時より緊張した…」

 

会場から笑いが起きる。

 

 

 

「今日はわざわざ?」

 

「うん、この日の為にドイツから戻ってきたんだ」

 

「試合は?」

 

「次は日本時間だと、今度の日曜日の深夜かな。みなさん、応援よろしくお願いします…というわけで…じゃあ、あとは頑張って!」

 

 

 

え~!?

 

 

 

「えっ?嘘でしょ」

 

「そうだよ!これで帰るなんて言わせないから…ねぇ?」

と、はるかが客席に問い掛けると、自然発生的に拍手が沸き起こった。

 

 

 

「せっかくだから、もう1曲歌っていこうよ」

 

 

 

そうだよ!

もう1曲!!

 

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

 

 

うわぁ~

 

 

 

水野めぐみがキーボードを奏で始めた。

 

 

 

これは…

 

 

 

シルフィードのもうひとつのデビューシングル『風の誘惑』である。

 

先ほどとは打って変わって、落ち着いた優雅な音色と、めぐみの澄んだ耳障りのいい声が会場に響く。

 

そして邪魔しない程度に折り重なる2台のアコースティックギターと、2人のバックコーラス。

 

特に3人のハーモニーが素晴らしく、場内は誰もがその歌声に聴き惚れた。

 

 

 

元々、圧倒的な歌唱力を武器に、この業界に入った星野はるかと水野めぐみ。

 

ここ数年の間、さらなる実力を付けて、今や彼女たちは『若手』という形容詞は外され、ただ単に『ミュージシャン』と呼ばれるほどとなっていた。

 

先に登場したアイドルグループと、年齢はそう変わらないが、もう充分にベテランとしての存在感、貫禄があった。

 

 

 

そしてつばさも…

 

 

 

長らく音楽の仕事はしていなかったが、サッカーの合間は常にギターを弾いていた為、その腕は落ちておらず、ブランクをまったく感じさせなかった。

 

むしろ、当時より今の方が上手くなっている感がある。

 

 

 

原曲とまったく同じアレンジで歌い終え、鳴り止まない拍手の中、3人は奈落へとゆっくり姿を消していった。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。