【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
アクアスターのサプライズゲストとして、夢野つばさが登場し…5年ぶりにシルフィードが結成された。
その興奮冷めやらぬ状態で、A-RISEが登場。
畳み掛けるように自身の『Private Wars』ほか3曲を熱唱した。
しかし開演してから2時間半近く経とうとしているが、いまだにμ'sの姿は見られない。
いくら引っ張ると言っても…
さすがに会場がザワツキ始めた。
そんな観客の心理を見透かしたように、綺羅ツバサが叫ぶ。
「次は、お待ちかね!ミュ…」
言い終わらないうちに、客席からの歓声…もの凄い音圧が、ステージに押し寄せた。
ツバサは、自分がその声に吹き飛ばされるのではないか…と錯覚に陥った程だった。
…さすがμ'sね…
…この人気、嫉妬しちゃうわ…
そんな呟きとは裏腹に、その表情は実に嬉しそうだ。
アクアスターのことも『良きライバル』だと思っているが、戦うフィールド、ジャンルが違う。
ツバサとしては、μ'sこそが、最強にして最高のライバル。
彼女の顔にはそう書いてあった。
メインステージのセリが上がる。
そこには、学校の制服風の衣装に身を包んだ、9人の姿があった。
会場にピアノのイントロが流れる。
♪I say…
彼女たちの歌声に『Hey! Hey! Hey! Start dash!』と会場が呼応する。
♪うぶ毛の小鳥たちも…
♪いつか空に羽ばたく…
♪大きな強いつばさで…飛ぶ…
1フレーズごとに歌い手が替わり、それに合わせて巨大ヴィジョンには、次々と彼女たちの顔が映し出される。
見事なカメラワーク。
その度に、各々のファンからウワァ~と歓声があがる。
ことり…凛…絵里…
海未…希…真姫…
そして…
♪明日よ変われ…
巨大ヴィジョンに映し出されたのは…
渡辺曜!
…ではなく…
よく見ないとわからないが…どちらかと言うと彼女よりも、ふっくらした身体付き…
小泉花陽だ!
紛れもなく本人。
ステージの袖ではAqoursのメンバーが、そのパフォーマンスに見入っていた。
♪悲しみに閉ざされて泣くだけの君じゃない
♪迷い道やっと外へ抜け出したはずさ…
彼女たちの歌声に合わせ、千歌も口ずさんだ。
自分をスクールアイドルへと導いた曲…。
それを、今、その本人たちが、自分の目の前で歌っている。
…夢じゃないんだ…
千歌の心は爆発しそうなほど、昂っていた。
そして曜も、その隣に並んで口ずさむ。
彼女が代役となるかも知れなかった曲は、千歌に動画を『何度も何度も繰り返し観せられた』ので、自然と頭にインプットされていた。
故に、にこからセットリストを見せられたとき『この曲なら歌えます』と答えたのだ。
…花陽さん、間に合って良かった…
…やっぱり、私があの中で踊るなんて…
♪Hey! Hey! Hey! Start dash!…
曲が終わった。
9色のサイリウムに彩られ、幻想的な世界を醸している観客席。
メンバーの名前が四方八方から飛ぶ。
「皆さん、こんんばんは~」
「μ'sです!」
9人が揃って挨拶をした。
歓声と拍手がしばらく鳴り止まず、穂乃果は次の言葉を喋るタイミングを待った。
「はい、まずは私たちμ'sにとっての、まさに最初の曲『START:DASH!!』を聴いていただきました」
「この曲を最初に歌ったときは、まだ私と穂乃果ちゃんと海未ちゃんの3人しかいなかったんだよね?」
とことり。
「そうですね。高校の講堂で披露したのですが…」
海未が相槌をうつ。
「幕が開いたら、お客さんが誰もいなくて…本当に泣きそうになったよね」
「はい!ですが…まさか、こんなに大勢の方々の前で披露する日が来こようとは…感慨もひとしおです!」
お帰り~!
オレたちも待ってたよ~!!
愛してる~!
「それも、私たちにとっては憧れだったアキバドーム…皆さんのお陰でここに立てたましたぁ!!」
うわぁ~!!
遅いぞ~!
おめでとう!
「それじゃあ…次は…μ'sは基本的に、海未ちゃんの作詩が多いんだけど…これは私が、この街のことを想って書いた曲です。私たちは、ここから沢山の元気を貰いました。そしてそれを、今日、皆さんと分かち合えたらいいなぁ…って思ってます」
「受け取ってください!」
♪Wonder zone キミに呼ばれたよ 走ってきたよ~
ことりのソロから始まったのは『Wonder zone』。
正直『歌ってほしいランキング』では、下位に沈んでいた曲。
アップされている動画は、派手な振り付けもなく、衣装も露出の少ないメイド服だった。
おまけにゲリラ的に行った路上ライブで、観客も少ないため、盛り上がりに欠ける。
その辺りが、票が伸びなかった要因と思われる。
だが、彼女たちが奏でるコーラスは伸びやかで美しく、ミディアムテンポの曲調と相まって、実に耳障りのよいナンバーだ。
♪どんなにくじけそうになっても泣かずに頑張らなきゃ
♪輝けないね…
そしてなにより、彼女たちがこの曲を選んだのは、ここがアキバドームだからに他ならない。
ここで歌ってこそ、意味がある!
そう思ったのだ。
♪Hi! はじまるよ(Wonder feeling)
♪不思議だよ 特別な夢さ
(Wonder feeling)…
そして曲は途切れることなく、次へと進む。
印象的なシンバルのカウントから、うねるようなエレキギターのイントロが流れた。
♪ココはどこ?
♪待ってなんて言わないで わかってる
♪夢に見た熱い蜃気楼なのさ
海外ライブで披露して、彼女たちを一躍全国区に押し上げた、μ'sの代表曲『Angelic Angel』だ。
膝の具合が心配された絵里であるが、堂々とセンターを務める、
♪Ah! 「もしも」は欲しくないのさ
♪「もっと」が好きAngel
♪翼をただの飾りにはしない
曲中、腰に差していた羽扇子を取り出し、クルクルと回すパフォーマンスは、大人の女性へと成長した彼女たちを、より妖艶に見せた。
♪明日じゃない
♪大事なときは今なんだと気がついて
♪こころの羽ばたきは止まらない…
曲が終わると、カットアウトで暗転した。
そして聴こえてきたのはシャン、シャン、シャンという鈴の音…。
それが遠ざかるのと同時に、クロスオーバーしきたのはピアノのメロディ。
ステージの照明がフェードインすると、彼女たちは白い衣装に早変わりしていた。
場内の『上空』からは、ヒラヒラと雪が舞い落ちる。
♪不思議だね いまの気持ち
♪空から降ってきたみたい
μ'sに歌って欲しい曲ランキングで一度もトップを譲ることがなかった『Snow Halation』だ。
客席のサイリウムが瞬く間に白一色になった。
季節は間もなく春を迎えるが、この会場だけは輝く銀世界へと変貌した。
そして…
♪届けて切なさには…
穂乃果がそう歌った刹那、ステージも客席も一気にオレンジに染まった。
壮観!!
余談になるが…照明の世界では、光の色合いのことを『色温度』と言う。
そして、それを表す単位を『K(ケルビン)』という。
色温度が高くなればなるほど、光は青白くなり、低ければ低いほど、赤みを増す。
通常、我々がオフィスや学校などで使用している蛍光灯やREDなどの照明は『昼白色(N色)』と呼ばれ5000Kくらいである。
最近は(少しトレンドが変化しているので、一概には言えないが)スーパーなどはそれよりやや高めの『昼光色(D色)』…6500Kくらいが使われることが多い。
一方、飲食店や服飾店など雰囲気作りに使われる照明は『電球色(R色)』で、3000K~2700Kくらい。
これにはちゃんと科学的な裏付けがあり、色温度が高ければ高いほど…つまり昼間の明るさに近づけば近づくほど…人の動きは活発になり、低くなればなるほど停滞する。
我々は夜行性の動物ではないので、当たり前と言えば当たり前である。
つまりスーパーなどは、客にサクサク買い物してもらい、回転率を上げたいので、色温度の高い照明を使うことが多く…逆に高級店などは居心地の良さを演出する為…人が落ち着く…色温度の低い照明を使う。
最近は全国各地、色とりどりのREDを使ったイルミネーションのイベントが盛んに行われているが、綺麗ではあっても、そこに暖かみは感じない。
そういう意味では、この観客と一体になって織り成す『スノハレ』の照明(演出)は、白く寒々しい世界から、我々の心の中に安心感、安らぎを与えるものだと言える。
恐らく、あそこで変わるイルミネーションが電球色でなかったら、ここまで心を打つ曲にはなりえなかっただろう。
ラブライブの予選で、A-RISEを破ることもできなかったかも知れない。
♪微熱の中 ためらってもダメだね
♪飛び込む勇気に賛成
♪まもなくStart!!
曲が終わると同時に、今度はドスッ!ドスッ!ドスッ!…とバスドラの重低音が会場に響いてきた。
センターステージのセリに照明が当たる。
そこから現れたのは…
ドラムセットと水野めぐみ。
彼女が規則正しいリズムで、バスドラのペダルを踏んでいる。
その傍らには、アコギからエレキギターを持ち替えた、夢野つばさと星野はるかがスタンバイしている。
「みんな~盛り上がってる!?」
メインステージから、穂乃果がセンターへと走ってきた。
衣装はオレンジを基調としたTシャツに、黒いデニムのジャケットとショートパンツへと変わっている。
「まだまだ終わらへんよ~!!」
「全力でいっくにぁ~!!」
「ラブアローシュートぉ!」
穂乃果と同じ衣装…自分のイメージカラーのTシャツを着たμ'sのメンバー…が、次々に会場を煽りながら走りこんでくる。
そして…
その後からツバサが…あんじゅが…英玲奈が…同じ衣装で現れ、シルフィードの3人を中心に、12人がぐるりと円を作った。
「それじゃあ、いくよ!」
穂乃果が、バスドラのペダルを踏み続けているめぐみに合図を送った。
「ワン…ツー…ワン、ツー、スリー、フォー…」
フォーのカウントで、はるかのエレキギターが唸りをあげた。。
♪Oh! Yeah!
♪Oh! Yeah!
♪Oh! Yeah!
♪一進一跳!
円を作った12人と、ギターを持った2人が、大きくジャンプした。
♪悔しいなまだ No brand
♪知られてないよ No brand
かつて、自虐的にそう歌った彼女たち。
しかし今は…
『スクールアイドルのカリスマ』『伝説』と呼ばれる存在。
当時…本人たちですら、こうなることは想像していなかったであらう。
♪勇気で未来を見せて
♪そうだよ 覚悟はできた
2コーラスを歌い終わり間奏に入ると、ギターの音が鳴り止み、再びバスドラの音だけとなった。
「みんなぁ…こぶしを大きく突き上げるわよぅ!」
「みんなの『Oh! Yeah!』聴かせてぇ!」
「準備はいいかぁ!?」
A-RISEの3人が叫ぶ!
こんな荒々しい彼女たちを、初めて見た。
ステージの15人は着ていたジャケットを脱ぐと、右手に持った。
そして
「Oh! Yeah!」
と叫びながら、そのジャケットを振り上げる。
会場から返ってくる5万人強の「Oh! Yeah!」
替わるがわるに、メンバーが観客を煽る。
Oh! Yeah!
「まだまだ~!!」
Oh! Yeah!
「もっと大きな声で!!」
Oh! Yeah!
「ファイトだよ!!」
Oh! Yeah!
「そんな大きさじゃ、ことりのおやつにしちゃうぞ!」
Oh! Yeah!
「ラストぉ!」
Oh! Yeah!
「ハラショー!!」
♪壁はHi! Hi! Hi! 壊せるものさ
♪Hi! Hi! Hi! 倒せるものさ
♪自分からもっとチカラを出してよ
♪Hi! Hi! Hi! 壊せるものさ
♪Hi! Hi! Hi! 倒せるものさ
♪勇気で未来を見せて
♪そうだよ覚悟はできた
♪Oh! Yeah!
♪全身全霊!
曲終わりはド派手な爆発音とともに火柱が上がり、天井からはキラキラとした紙テープが舞った。
パフォーマンスを終えた15人は、メインステージに戻ると横一列になり手を結ぶ。
その手を頭上に振りかぶってから
「どうもありがとうございましたぁ」
と深々と一礼した。
10秒…20秒…誰も頭を上げない。
そして、セリはそのまま下がっていき、やがてステージの照明は消えた。
その瞬間から、早くも会場からは『アンコール』の大合唱が起きる。
どれくらい経ったろうか…
ステージがうっすらと明るくなった。
そこに1人…2人と人影が集まってくる。
ざわめく場内。
顔は見えないが、全部で40人ほどとなったろうか。
そして弾むようなイントロが流れたのと同時に、明転。
これは…
今日の全出演者がステージにいた。
♪楽しいね こんな気持ち
♪笑顔で喜び歌おうよ
実質的にμ's最後の曲…アキバでのスクールアイドル合同ライブで披露した『SUNNY DAY SONG』だ。
♪SUNNY DAY SONG
♪SUNNY DAY SONG
♪口ずさむ時は
♪明日への期待が膨らんでいい気持ち
過去に踊ったことのあるA-RISEと中目黒結奈はもちろん、シルフィードも若手アイドルも…そしてAquorsも、みんな一緒に歌って踊っている。
それは歌詞と同様、心の底からステージを楽しんでいるようだった。
♪SUNNY DAY Wow! Sun power!
♪SUNNY DAY Wow! Sun power!
♪(歌うよ)
♪SUNNY DAY Wow! Sun power!
♪(こんな夢)
♪SUNNY DAY Wow! Sun power!
「今日は皆さん、本当にありがとうございます。私たちにとっても、こういった合同ライブというのは初めてで、すごく不安だったのですが…ここにいる出演者の方々が最高のパフォーマンスを魅せてくれて…そしてなにより、皆さんがグループの垣根を越えて、本当に一生懸命応援してくれて、盛り上げてくれて…最高でした!!ありがとうございます!!」
綺羅ツバサが時おり、言葉を詰まらせながら、挨拶をした。
「もっともっとこの瞬間を味わっていたいけど…いつまでも…ってワケにはいかなくて…次が最後の曲となります」
え~!?
終わらないでくれ~!
もっと聴かせて~!
「ふふふ…そうよね…ごめんなさい。またいつか、こういう日が来ればいいなぁって思ってます。じゃあ…」
ツバサの視線の先には、いつの間にかセンターステージに現れたグランドピアノ。
そこに向かって歩き出したのは、真姫と…
Aqoursの梨子。
2人はそのピアノに向かって、並んで座った。
「それでは、今日、集まってくれたファンの皆さんに」
「このステージを作り上げてくれたスタッフの皆さんに」
「この歌を送ります」
♪愛してる ばんざーい!
♪ここでよかった
♪私たちの今はここにある
全員での合唱。
そしてアカペラパートが終わると、ピアノの伴奏が始まった。
真姫と梨子との連弾である。
♪ら~ら~ら らら、ららららら…
総勢40人ほどが、グループ関係なく入り乱れながら、メインステージとセンターステージに散りばって、観客に手を振る。
肩を組んだり、握手をしたり、ハイタッチをしたり…。
中には感極まり、涙を流している者も見受けられた。
そして…
最後のワンフレーズ…
♪らら、らららら、ららら~らら~
♪らら、らららら、ららら~らら~
~つづく~