【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
チャリティライブが終わると、別会場で打ち上げパーティーが行われた。
ビュッフェスタイルの立食。
主催者であるA-RISEの事務所関係者や、イベントスタッフの挨拶のあと、乾杯の音頭を綺羅ツバサが取った。
テーブルは10台ほど用意され…初めこそ、各出演者の位置が決まっていたが…すぐにバラけて、思い思いの場所で談笑し始める。
その中で、せわしなくあちらこちらとテーブルを移動する人物がいた。
「この度はご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「そんなぁ、迷惑だなんて…」
「はい、私たちはμ'sの皆さんと共演できただけで幸せなのですから」
「いえいえ、本当になんと申し上げてよいやら…」
そう言って…小泉花陽…は、次のテーブルに移り、同じように出演者やスタッフに頭を下げた。
「かよちん、おかえり」
一通り周り終わり、ようやくμ'sのテーブルに戻ってきた花陽を、メンバーが出迎えた。
「アナタ、何も食べてないんじゃない?少しお腹に入れたほうが…」
心配して真紀が声を掛けたが
「うん、ありがとう。でも今は…」
と花陽は料理に手を付けない。
「もっと堂々としてなさいよ!アンタはどのアイドルよりも立場が上なのよ!」
「にこちゃん、そんなことないよ。花陽なんて、まだまだ駆け出しのクリエーターだし」
「はぁ…アンタっていう娘はどこまで、気弱な人間なのかねぇ」
「それより…渡辺曜さんって言う人は?」
スタッフを含めると100名以上いる会場。
立食である為、誰がどこにいるかを探すのは、それほど容易でない。
「あら…そういえば…あ、あそこじゃないかしら」
絵里は少し周りを見渡して、彼女を発見した。
「ちょっと、行ってきます」
「ウチも一緒にいく。言い出しっぺはウチやから」
希は花陽の意図を汲み取り、そこまで同行した。
「あの…」
「はい?あっ!…」
「改めまして、小泉花陽と申します。この度は多大なるご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした…」
「ほんま、余計な気を使わせてしまって…」
「そ、そんな…全然、気にしないでください。最初は花陽さんの代役なんて務まるかなぁ…って思いましたけど…途中から、これでお客さんを騙せたら面白いなぁ…なんて思ったりして、結構楽しんでましたから…」
「その為に一生懸命練習もしてもらっちゃったみたいで…本当になんと言っていいか…」
「何の問題もないですよ」
「いや、問題はなくないんだけど…開演時間を遅らせてもらって、曲順も入れ替えてもらって…」
「終わりよければ全てよし…です」
「ありがとう。そう言ってもらえると、ウチも気が楽になる…」
「千歌ちゃんなんて『μ'sの皆さんに直接ダンス指導してもらうなんて、曜ちゃんズルイよ』ってずっと言ってました」
「そこまで準備してたなら、1曲くらい、曜さんに踊ってもらえばよかったかな?」
「えっ?、いえいえ…舞台袖から皆さんのパフォーマンスを観させて頂きましたが…やっぱり私の入る隙なんてありませんでした。息もピッタリで…全然クオリティが違うっていうか…でも、アンコールとかで、一緒にステージに立たせてもらって、最高の想い出になりました。ありがとうございました」
「こちらこそ…」
2人はお互い頭を下げた。
…彼女はそれほど気にはしていない様子やけど、責任感の強い花陽ちゃんやから、これ以上思い詰めると神経が参ってまう…
「では、また…」
希は、一旦話を切って、花陽を自分たちのテーブルに連れ戻した。
「か~よちん!」
「凛ちゃん…」
「ジュースくらいは飲んだほうがいいにゃ」
「う、うん…ありがとう」
「どう?かよちんのソックリさんとご対面した感想は…」
「う~ん…みんなが言うほど似てるかなぁ…」
「似てるよ!」
「でも、曜さんの方がスタイルがいいし、運動神経も良さそうだし…」
「ほら、すぐ『ネガティブかよちん』になる。取り敢えず挨拶周りも終わったんだし、頭を切り替えて、いっぱい食べるにゃ!」
「ほうはひょ、ははほはん。へっはふははは、はべはひほ、ほっはひはひほ」
「穂乃果ちゃんは『そうだよ、花陽ちゃん。せっかくだから、食べないともったいないよ』って言ってます」
「ことりちゃん、よくわかるね…」
「…というより穂乃果!口に詰め込みすぎです!行儀悪いですよ!」
「ふひはへん」
「因みに今のは『すみません』です。ちゅん、ちゅん!!」
「お疲れ様」
「ふばははん!?」
「穂乃果!いいかげんにしなさい」
「ゴクン…失礼しました。ツバサさん!お疲れ様でした」
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
μ'sのメンバーが次々に彼女を労った。
「今日のライブ…すごく評判いいわよ。今、あんじゅと英玲奈が別室でネット見てるけど『最高だった』…ってコメントばかりだって」
「あ、あの、その今日は本当に…」
「もういいわよ、小泉さん。さすがに私も、ちょっとドキドキしちゃったけど…リハも無しで、いきなりあれだけのことをこなしちゃうんだもん…たいしたものだわ」
「余計なことを考えてるヒマが無かったっていうのが、正直なところで…」
「結果的にμ'sによるμ'sの為のライブになっっちゃけど」
「はい、すみませんでした」
「でも、それは私が望んでいたことだったのかも」
「えっ…」
「花道…って言えばいいのかしら?本当にこれが最後だなんて、もったいないわ」
「つばささん…」
「『No brand girls』は、私たちのライブじゃ絶対にやらないパフォーマンスだったけど、最高に気持ちよかったわ」
「私もあんなに激しく飛び跳ねているA-RISEを初めて見ました」
と穂乃果。
「うふふふ…そうね…」
ツバサは、少し恥ずかしそうに笑った。
「お疲れ様~」
「つばささん!!…あ、改めて初めまして…ですね!?」
穂乃果が代表して挨拶をする。
つばさはつばさでも、こちらは夢野つばさ…と、水野めぐみと星野はるか。
確かに…μ'sのメンバーはオリンピックでスタンドから一方的に観てはいたものの…(海未以外は)対面したのは初めてだった。
「あっ、そうね。初めまして、夢野つばさです。オリンピックの時はわざわざ観戦に来てくれたみたいで…なかなか直接お礼が言えなくてごめんなさい」
「いえいえ…その時はお互い色々大変な時期でしたし…」
「その節は…」
と海未は頭を下げた。
するとつばさは、スッと彼女に近づき
「どう?梨里とは上手くやってる?」
と耳元で囁いた。
「は、はい…お陰さまで…」
海未も周りに聴こえないくらいの声で返答する。
それを聴いて、つばさは「それはなによりね」といった表情で二度ほど頷いた。
「3人のドラムとギター、メチャメチャ格好良かったにゃ!」
「うん、凄かったよね!ありがとうございました」
穂乃果はつばさ、めぐみ、はるかの手を順に握った。
「ぶっつけ本番だったけど、失敗しなくて良かったわ」
「とんでもないです。完璧でした!」
「めぐみは自分たちのライブでもドラム叩いてるし、慣れてるかも知れないけど…私はもうドキドキしちゃって…」
とつばさ。
「私だって、他人の曲を叩くことなんてないもん。緊張しましたよ」
「それなら、私だって!…って張り合っても仕方ないけど」
はるかは、いつものように、あはは…と笑った。
「シルフィードの皆さんに生演奏してもらって…A-RISEと一緒に歌って踊って…最高のステージでした」
「うん、一生の宝物だよね」
ことりが満面の笑みで相槌を打つ。
「それは私も同じよ」
ツバサも大きく頷いた。
「そう言ってもらえると、私もドイツから帰ってきた甲斐があるわ」
「ありがとう。あなたにはだいぶ無理なお願いをしちゃって…」
「ううん…いい気分転換になったわ」
「でも聴いたでしょ?あなたが登場した時の歓声を」
「一番のサプライズやったからね…正直、ウチらもツバサさんからライブのプランを聴いたときは『無理や』って思ってたくらいやし」
「私も無理だと思ってた」
「私も。今日の今日まで来ないと思ってた」
「アレ?はるかもめぐみも?私って信用ない?」
「はい!」
「こらっ!」
「うひゃあ!」
アクアスターの2人も、つばさと久々に再会して、実に嬉しそうだ。
そんな様子に、μ'sのメンバーも目を細めた。
「でも、サッカーの方は大丈夫なんですか?」
「穂乃果!!」
海未が思わず叫ぶ。
「あっ、ごめんなさい…苦しんでるって聴いてたから…」
「そうね。結果が出てないのに『こんなことやってていいのか』…って叩かれそうだけど…」
「違うよ、本来は『こっちが本業』なんだからね!」
とはるかが突っ込む。
「ん?そうだっけ?」
つばさのとぼけた回答が、一同の笑いを誘った。
「まぁ、正直なことを言うと…今は我慢の時かな…って。でも元々、最初から上手くいくなんて思ってなかったし…毎日、新鮮な気持ちで挑んでるわ」
「世界で戦うって、大変にゃ~」
「別に私だけが特別大変なわけじゃないわよ…みんな、何かしらに戦ってるんじゃないかしら」
急につばさが真剣な顔をしたので、その場の空気が一瞬ピリッとした。
「つばささん!次の試合、絶対ゴール決めてください。応援してますから」
穂乃果は背筋を伸ばし、改まって言った。
「うん、出してもらえたらね…」
つばさは大きく頷いた…。
~つづく~