【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
『μ'sのみ』の打ち上げは、場所をカラオケ店に移して行われた。
最年少である花陽も、1ヶ月半前に誕生日を迎え、これでμ'sは全員飲酒できる年齢になった。
「ライブ成功、おめでとう~」
「カンパ~イ!!」
それぞれがカクテルやサワーの入ったグラスをカチン!と合わせた。
ちなみに体質的に合わない…というにこはノンアルのファジーネーブルだ。
「それにしても、かよちんが間に合ってくれて、本当に良かったにゃ~」
凛は花陽の胸元に、顔を擦り付ける。
「凛ちゃん、間に合ってはないよ…」
「でも、結果的に最初から歌えたんだし、間に合ったと同じにゃ」
ゴロゴロと花陽に甘える凛は、猫そのものだ。
「はい、予定より早く空港に着いたとのことでしたが…久々にドキドキしました」
「時差ぼけもあったと思うけど、さすが花陽ね」
「でもね絵里ちゃん…実はさっきの打ち上げでお料理食べたら、少し眠くなってきちゃって」
「そうやろね…う~ん、花陽ちゃんは寝ててもいいんやない」
「い、いえ…ひとりだけ寝るわけには…」
「大丈夫やって。ウチがちゃんと面倒みてあげるから」
「それが一番危ないんじゃないのよ!」
と、にこが希を睨む。
「心配いらないわ。花陽が寝ちゃったら、私が家から車を出してもらって送り届けるから」
「アンタね、こんな時にお金の力を見せ付けないでよ!」
「そういうつもりじゃないけど…って、凛はいつまでそうやって花陽にくっついてるつもり?」
だが「代わりなさいよ!」とは言えない真姫。
「いいなぁ!穂乃果も真姫ちゃんちの車に乗ってみたい!」
「穂乃果はどうして、すぐにそういう発想になるのですか」
「前に、花陽ちゃんと一緒に送ってもらったことがあるけど…あの時は緊張しちゃって何も喋れなかったよね?…って…あれ?」
ことりは花陽を見た。
「本当に寝ちゃったね…」
「相当、疲れてたんやないかな?」
「そりゃそうよ。長時間のフライト…会場に着いて、ぶっつけ本番でライブ…打ち上げ会場じゃひたすら頭を下げまくって…花陽じゃなくても疲れるわよ」
「そうね。私たちだけになって、ようやくホッとしたってことかしら。少しの間、このまま寝かせておいてあげましょう」
絵里は、自分の着てきたコートを彼女の身体に掛けた。
「それより、えりち…膝の具合は?」
「そうですね。予定外に通しのステージになってしまいましたから」
「ありがとう、大丈夫よ。アイシングもしてるし…。今日一日だけ!って思ってたから、本番中もまったく気にならなかったわ。もっとも…こんなステージが何日も続くようなら、きっと耐えられないと思うけど」
「やっぱり…今日が最初で最後のステージだったんだよね…」
「穂乃果…」
「私ね…まだドキドキが止まらないんだ。MCの時にも話したけど、ファーストライブのときは、お客さんゼロだったんだよ!ゼロ!…それがまさか、5万人の前で歌う日がくるなんて…」
「ことりも穂乃果ちゃんと同じ気持ちかな。ファーストライブの時は、目の前に誰もいなくて、泣きそうになったけど…今日は人がいっぱいいて泣きそうになっちゃった」
「はい、私も同じです。それにもう解散から何年も経っているのに、いまだにこんな愛して頂けているのかと思うと、本当に感慨深いと申しますか」
「だから何度も言ってるでしょ!古今東西、μ'sを超えるグループはいないのよ!そして、今日改めて思った。やっぱりアンタたちは最高の仲間だって!」
「にこっち…」
「だけどA-RISE主催のライブだったのに、結果的に私たちのライブみたいになっちゃって…なんだか申し訳ないわ」
「絵里ちゃん…私たちのライブだったんだよ、初めから」
「穂乃果…」
「だってさ、No brand girlsのコラボレーションとか、アンコールの2曲とか、全部ツバサさんがやろうって言ってくれたことだし」
「確かにそうですね。打ち合わせの段階から、ずっと仰ってましたものね。『あなたたちがこの先、活動を続けるのなら別だけど、これが最後なんでしょう?』と」
「うん。だから、これまでの集大成にしよう!…ってね」
「そういう意味では、A-RISEに感謝、感謝やね。彼女たちが声を掛けてくれなければ、今日のウチらはなかったわけやから」
「それを言ったら、海未ちゃんが高野さんと出会わなかったら…ってことだよね?」
「穂乃果ちゃんの言う通り。何がどう転ぶと、こういうことになるんやろか…これが『運命』って言うんなら、ホンマ、不思議やね」
「あ、あの…その件で…皆さんに報告が…」
「報告?」
「はい、ライブも終わり、一区切り付きましてので、そろそろ申し上げてもよろしいかと…」
「なに?なに?海未ちゃんに彼氏でも出来たの?」
「は、はい…実は…」
「えっ?えっ?う、うそでしょ?」
「いえ…本当です…」
「ま、まさか…お相手は…プロレスラー?」
「なんでですか!」
「いや、なんとなく…今、旬な話題だし…」
「はい?」
「ううん…なんでもない…。えっ、じゃあ、なにさ?」
「はい…私、園田海未は…この度、高野梨里さんとお付き合いを始めました。まだ、どのようになるかはわかりませんが、どうか温かい目で見守って頂ければ幸いです」
「え~!!」
と叫んだのは穂乃果。
「…って…アレ?驚いたのは穂乃果だけ?」
これには海未も意外そうな顔をした。
「凛たちは知ってたにゃ」
「ごめんね、穂乃果ちゃん」
「ことりちゃん…これって…ドッキリかなにか?」
「そんなわけ無いでしょ!」
「にこちゃんも知ってたの?」
「真姫!希!まさか…」
「私たちがバラしたわけじゃないわよ。ライブが始まる前、あなたたちがA-RISEに花陽の件で交渉に行ってるときに…Aqoursって娘たちが挨拶に来て…」
「その娘たちの友人が、海未ちゃんと初詣で会って…『頑張って』って言ってくれたことに対するお礼をしたいんやけど…って」
「それで、ことりたち、海未ちゃんとは一緒に初詣行ったけど…ってなって…」
「それじゃ2回行ったのかにゃ?って」
「じゃあ、誰と?って」
ことり、凛、にこがニヤニヤしながら、言葉を繋いだ。
「それで、バレちゃったんやな…」
「そうなのですか…」
「え~、そうしたら何で穂乃果に教えてくれなかったのよう」
「そうやね…それは…」
「えぇ…ライブ前に余計な心配を掛けるのは良くないと思ったの」
「でも、海未ちゃんもひどいよ!そんな大事なことをずっと黙ってるなんて!」
「すみません。隠しているとか、そういうつもりは無かったのですが…まだ、私自身も半信半疑なところがあり…それと絵里の言う通り、やはりライブ前に余計な心配は掛けたくなかったといいますか…」
「そ、そっか…そうだよね」
「すみません」
「あ、謝ることじゃないよ!海未ちゃんが、前々から高野さんのことが『好きかも』…って話は聴いてたし」
「…はい…」
「いやぁ!良かった、良かった!あっ、そうしたら海未ちゃんは『高野海未』になるんだね?…たかのうみ…お相撲さんみたいな名前だね…あははは…」
「穂乃果…」
「うぅ…ぐすっ…海未ちゃん…おめでとう!幸せになってね!」
「まだ結婚するわけではありませんから」
「ぐすっ…穂乃果のこと、いつまでも忘れないでね…」
「あほか…」
穂乃果のリアクションを見て、にこが冷たく言い放った。
「ん?ことりちゃん、モジモジしてどないしたん」
「えっと…どうしようかな?ことりも言っちゃおうかな…って」
「にゃ?」
「ついでだから、ことりも報告しちゃいますね?」
「?」
「ことりも…今、お付き合いしてる人がいます!」
「え~!!」
穂乃果はそのまま気を失ったように、後ろに倒れこむ。
それ以外のメンバーも、あまりに突然の発表に、声を失ったのだった。
「終わってしまいましたね…」
「うん」
打ち上げが終わって、宿に戻ったAqoursのメンバーたち。
布団の中で、就寝体制に入っていた。
「夢のような時間だった…」
「そうだね…」
千歌の呟きに、曜が応えた。
「ずっと起きていたいな…」
「千歌ちゃん?」
「だって、寝て起きたら、本当に夢だった…ってことになったら、寂しいもん」
「夢みたいでしたが、夢ではありませわ。ラブライブの優勝も、μ'sやA-RISEとの共演も」
「ダイヤさん…」
「そして、廃校を阻止できなかったということも…」
「鞠莉さん…」
「人生、いいことばかりじゃない。辛いことも沢山ある。だけど、一生懸命、何かを頑張れば、きっといいこともある」
「果南ちゃん…」
「千歌…ありがとう」
「えっ?」
「…あなたがしつこく誘ってこなかったら、私はただの引き篭もりになっていたと思うの」
「果南ちゃん」
「親の手伝い…それは嘘じゃなかったけど…それを言い訳にしてたのは本当だった」
「イエ~ス!果南のスマイルがアゲインしたのは、千歌っちのお陰で~す」
「私の力じゃないよ。私はただ、自分勝手にみんなを巻き込んだだけ。みんながいなかったら、何もできなかった」
「それはお互いさまですわ」
「はい。ルビィはずっとアイドルに憧れてたけど…でも、自分ひとりだったら、絶対そんなことできなかったし…千歌ちゃんがいなかったら、この夢は叶いませんでした」
「オラも同じズラ」
「ルビィちゃん…花丸ちゃん…」
「きっと善子も同じ思いズラ」
「ヨハネ!」
「こんな変わり者を個性と受け入れてくれたみんなに、感謝、感謝ズラ…」
「ズラ丸…随分なことを言ってくれるじゃない」
「私も、千歌ちゃんと出会わなければ…」
「梨子ちゃん…」
「犬嫌いが克服出来なかったかも…」
「そこ!?」
全員が梨子に突っ込んだ。
「なんて…。本当に突然だったけど…真姫さんが連弾に誘ってくれて…センターステージでピアノを弾いてるとき…私ね、音ノ木坂の音楽室にいたんだよ」
「えっ?」
「音ノ木坂の音楽室って、すごく日当たりが良くて、窓を開けておくと気持ちのいいそよ風が入ってきて…空気とか匂いとか…全てがあの時のように感じられたの」
「すごいね…」
「そして、大先輩が弾いていたあのピアノを、私が弾いていたんだ…その先輩が今、私の隣にいるんだ…って思ったら、時間さえ飛び越えた気がして」
「『時をかける少女』ズラ」
「でも…それもこれも…今日が最後なんだよね…。μ'sも解散をするときはこんな感じだったのかなぁ…」
「千歌ちゃん…」
「それは仕方ないズラ。諸行無常ズラ」
「花丸さん、それは違いますわ」
「ぬ?」
「確かに、物事は常に変化しており、ずっと同じということはありません。ですが、その日、その時感じたことは、いつまでも心の中に留まっているのです。ですから、今日感じたこの瞬間は…永遠に心の中で生き続けるのです」
「ダイヤさん…」
「千歌っち…」
「はい?」
「サンキュー ベリーベリー マッチです。これからも自分の道を見つけてシャイニーしてくださ~い」
「千歌、本当にありがとう。1年間足らずだったけど、とても楽しかったわ」
「千歌さん。私もお礼申し上げます。素晴らしい想い出を…最高の想い出をありがとうございます」
「違うよ、違う!」
「えっ?」
「まだ終わりじゃないよ」
「?」
「9人でのスクールアイドルはこれで終わりだけど…3年生のみんなは卒業しちゃうけど…これからもみんなでいっぱいいっぱい想い出を作っていくんだ」
「!」
「そうでしょ?」
「千歌!」
「千歌さん!」
「千歌っち!」
「千歌ちゃん!」
「うん、そうだよ。まだ、これで終わりじゃないんだ。だから…みんな、いくよ!!…せ~の」
「Aqours~ サンシャイン!!」
とん、とん…
「すみません、お客様…お静かにねがいますよ」
部屋の外から、仲居の声が聴こえた。
~つづく~