【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
海未の誕生日
「本当に忙しい下期になりましたね…」
「ん?」
「いえ…高校生の時ですか…『花陽』がそんなことを言ったのを思い出しまして…」
「花陽?…小泉さんのこと?」
「はい」
高野はまだ、μ'sの他のメンバーを下の名前で呼べるほど、親しくはなっていない。
今は海未以外、全員苗字で呼んでいる状態。
「小泉さんか…1回会ってみたいなぁ」
と高野は何気なく呟いた。
彼女は…彼が唯一顔を会わせていないメンバーである。
なぜなら花陽は、チャリティライブが終わると、その余韻も冷めやらぬうちに、早々と『帰国』してしまったからだ。
μ'sのみで行った打ち上げの際に「高野と付き合っている」とみんなに告げた海未。
メンバーからは
「だったら、今から高野さんも呼ぼうよ!」
と言われた。
海未と高野が出会わなければ、μ'sの再結成はなかったのだから。
そういう意味では、彼は『功労者』だとも言えた。
しかし、海未は断った。
ひとつは、やはりμ'sのメンバーだけで楽しみたかったから。
いくら高野がキッカケを作ったから…と言って彼を呼ぶとなれば…『凛』と…やはりこの時に交際宣言をした『ことり』の彼氏も呼ばなければ、スジが通らない。
実に海未らしい考え方である。
しかし、もうひとつ理由があった。
それは、高野の気が変わるのが怖かったからだ。
2人が付き合い始めて、その時点で実質2ヶ月あまりしか経っていない。
だから、海未には、高野が彼氏だという実感が薄い…というのは事実である。
そういう意味で『万が一』を考えるのは、彼女の性格からすれば当然と言えば当然だった。
加えて、高野のあの言動である。
彼が『口だけ番長』だ…ということは『夢野つばさ』から聴いていたし、実際、付き合ってみてそうである…ということは、海未も理解している。
良く言えば素直…悪く言えばデリカシーがない。
一緒に街を歩いていても「今の人、綺麗だったね」とか「凄い胸してたね」とか、平気で言う。
ところが海未も最近少しずつ馴れてきて「そうですね…」と返せるようになっていた。
昔の彼女であれば、一言一言「破廉恥です!」と言っては腹を立てていたことだろう。
だから、μ'sのメンバーに会ったところで、口では『あ~だ、こ~だ』と言うかも知れないが、高野が心変わりするとは、基本的には思っていない。
それでも、そう考えてしまうのは…海未自身、自分に自信がないからだ。
いまだに…本当に私でよかったのでしょうか…と問うている。
…私は高野さんが好きです…
…でも高野さんは…
高野の元カノである…夢野つばさ…の存在も大きかった。
2人が共に過ごした時間は長く、濃密だった。
ケンカをして別れた訳ではなく、今でもお互いがリスペクトしあっている間柄だ。
彼の心の中のその存在を、自分の色に塗り換えるのは、そう簡単なことではないと思っていた。
…果たして本当に、私は高野さんに相応しい女性なのでしょうか…
そんな不安もあり、μ'sの打ち上げに呼ぶのは、賛同できなかったのだ。
しかし、心配は杞憂だった。
アルコールが入り、テンションの高くなった穂乃果は、ムリヤリ海未のスマホを奪うと
「今から打ち上げに来てくださ~い!一緒に盛り上がりましょう」
と高野に電話を掛けた。
しかし、彼はそれを断った。
今日は自分が出る幕ではない…と。
それを聴き、海未は安心すると同時に、改めて梨里の誠実さに惚れ直したのだった。
そんな高野の性格は理解しているハズだったが…この時の海未は、彼の「1回会ってみたいな」…という呟きが、すごく気になったらしい。
「梨里さん!」
「ん?」
運転中の高野は、しかし一瞬海未に視線をやり、その表情を確認した。
「…違うよ、なにも疚しいことは考えてないっ…て!」
「私は何も言ってませんが」
「顔がそう言ってるけど?」
「梨里さんこそ、花陽の名前を言ったときに、いやらしい顔をしました」
「あれ、やっぱりバレちゃった?なんかよくない?ポワ~ンとした感じが…。東條さんとも、南さんとも…また、違った魅力があるというか…」
こうストレートに開き直られると、海未も怒る気になれない。
「はぁ…確かに、花陽はその場にいるだけで、癒しを与えてくれますので…わからなくはありませんが」
と言うしかなかった。
「…で、なんの話だっけ?」
「えっ、あっ…はい…下半期が忙しいという話です。花陽の誕生日も梨里さんと同じ1月ですので、昔、そんな話を…」
「へぇ、そんなんだ」
「ハロウィーンから始まって…クリスマス、お正月、梨里さんの誕生日…バレンタインデーがあって、昨日がホワイトデーで…」
「なるほど、それで今日が海未ちゃんの誕生日…と。確かにイベントが集中してるね」
「はい、今回はライブもありましたし…」
「だね!」
「だとすると、結婚記念日は夏がいいね」
「ゴ、ゴホッ!…け、結婚記念日ですか!ま、まだ…そんな…早すぎます…」
「ん?…あ、いや…オレとどうこうじゃなくて、今の流れからだと、そういう方がいいんじゃないか…って」
「は、はぁ…まぁ…」
「あははは…でも、確かに大変だねぇ…もし仮に海未ちゃんに子供ができたら、そこに卒業式やら入学式も絡んでくるしね」
「入学式は年度が変わりますけど…」
「そうか…。あ、でも、その子が女の子なら、七五三もあり~の…桃の節句があり~の…ってことだ」
「そうですね」
「さらに、その子が下期の誕生日だったら…」
「忙しさで目が回ります…」
「じゃあ、夏に生まれるように、子作りも計画的に行いますか?」
「はい。…ですが…こればかりは授かり物といいますので、そううまくいくかわかりま…って、なんで、すぐにそういう話になるのですか!」
「あ、ごめん、ごめん…」
「もう、知りません!」
海未は顔を真っ赤にして、下を向いた。
今日は海未の誕生日だ。
さっきまで花陽を除いたμ'sのメンバーと、パーティーをしていた。
高野も一緒だった。
彼はそこで初めて、凛、にこ、絵里…と顔を会わせ…故に対面していないのが、花陽のみとなったわけである。
チャリティライブの打ち上げ同様、カラオケルームの一室を借りて行われたのだが、高野は『海未の彼氏だから』とベタベタすることもなく、あちらこちらに気を配り、実によく『働いた』。
ドリンクの手配から、トークの回しから、精算まで…彼の『仕事』は本当に多岐に及んだ。
本人曰く
「体育会系の人間だからね…こういうことは慣れっこなんだよ」
とまったく意に介していない。
自分の彼女を差し置いて、周りの人にいい顔をするのは…(男性にこの表現が妥当かどうかは別として)…『八方美人』…と言えなくもない。
しかし「ベタベタするのは2人のときだけていい。みんなでいる時は、みんな平等に」と言うのが、彼のポリシーらしい。
だが
「海未ちゃんが、イヤだって言うなら考えるけど」
とも言った。
「そうですね…いくらμ'sのメンバーとはいえ、私たちだけが別世界にいたら、やはりいい気はしないと思いますので…」
「うん、うん…海未ちゃんならわかってくれると思った」
「ですが…あまり、親しげに話をされるのも…なんといいますか…」
「妬いちゃう?」
「いえ…あの…その…ことさら希や絵里とは楽しそうに話していたもので…」
「そうかな?まぁ、あれだけのメンバーに囲まれて、興奮しない方がおかしいでしょ!よく理性が保てたと思うよ。偉いぞ、オレ!…なんてね。あははは…」
と高野は笑った。
「それが普通なんです!別に偉くもなんともあり…」
「だから、これからの時間は、いっぱいイチャイチャしようね!」
「は、はい!お願いします!…あっ…」
高野の口車に乗せられた海未は、恥ずかしさのあまり横を向いた。
「…いえ…その…な、何てことを言うのですか!は、破廉恥です!」
そして、そう呟いた。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「それは良かった」
「素敵なお店を知ってらっしゃるのですね」
「…まぁ…多少なりとも、そういう世界にいたからね」
彼は今『無職』である。
しかし、ほんの少し前まではバリバリのJリーガーであり、彼女も有名人だった。
年齢は21歳になったばかりだが、それなりに華やかな生活をしていたことは、容易にわかる。
従って、こういった『高級店』での立ち振舞いも違和感はなかった。
「海未ちゃんは『和』のイメージが強いけど『フレンチ』でも絵になるね。テーブルマナーも完璧だし…」
「そうでしょうか…自分ではわかりませんが…」
「オレもあんまり、こういうところには来ないんだけど…今日は海未ちゃんの誕生日だし…と思って、ちょっと頑張ってみました」
と高野は笑った。
「無理をなさらずとも…」
「いや、いや…全然。昨日のホワイトデーも込みでってことで。デートの度に毎回…って訳にはいかないけどさ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、そこで…だ…」
「はい…」
「このあと、この上のホテルを予約してるんだけど…どうする?」
「…!!…どうする?…というのは…その…」
「選択権は海未ちゃんに預けるよ…イヤなら断ってもいいんだけど…」
「私の口から…そういうことを言わせるのですか…」
「…じゃあ?…」
高野の問い掛けに、海未は…こくっ…と黙って頷いたのだった…。
海未の誕生日
~おわり~