【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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サッカー留学(前編)

 

 

 

 

「イギリスに留学…ですか?」

 

高野の突然の申し出に、海未は目を丸くした。

 

「あぁ…正確に言うとイギリスじゃなくて、イングランドだけどね」

 

 

 

ご存知の通り、イギリスの正式名称は『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』だ。

 

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの王国から形成されている。

 

オリンピックなどでは、イギリスという国名単体で出場しているが、ことサッカーやラグビーに関しては、各々協会が分かれており『イギリス』とひと括りにはされない。

 

因みに現ジュビロ磐田の中村俊輔選手が所属した『セルティック』は『スコットランドリーグ』のチームだ。

 

サッカーに関わる者として、例え海未であってもそこは譲れない。

 

高野はやんわり指摘した。

 

 

 

ふたりが付き合いを始めてから、まる1年が経とうとしていた。

 

来週はクリスマス…そんな時に高野から聴いた言葉は、とてもサプライズプレゼントなどと呼べるようなものではなかった。

 

 

 

「本格的にトレーニングを始めて1年…お陰さまでトレーナーからフィジカルについては、もう問題なし!ってお墨付きをもらってるんだ」

 

「はい、それは聴いています…」

 

「あとは…試合勘を取り戻さないと…実戦をこなさないと…選手として復帰出来ない」

 

「それも聴いてますが…」

 

「うん、そうだね…。それで急と言えば急なんだけど…マリノスにいた時の大先輩が今、そのイングランドの…とあるチームでコーチ研修を受けててさ…」

 

「はぁ…」

 

「良かったらこっちで練習してみないかって、誘ってくれたんだ」

 

「いつのことですか?」

 

「今日の夜中…いや、もう明け方に近いか…」

 

「本当に急ですね…」

 

「向こうとは時差があるから…」

 

「そういう意味ではありませんが…」

 

「ん?」

 

「いえ…だからと言って…決断が早すぎませんか?」

 

「うん…そうだね…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「海未ちゃんも、この来春から高校の先生になるんだろ?自分のことで手一杯になって、オレの面倒見てる余裕なんてなくなるだろ?」

 

 

 

「面倒を見るなんて…私はそんなつもりで梨里さんとお付き合いしてません!」

 

海未はプイッと横を向いた。

 

 

 

「あぁ、ごめん…語弊があった。でも、余裕がなくなるのは確かだろ?」

 

「だからこそ、側にいてほしいといいますか…」

 

「海未ちゃんには、いっぱい助けてくれる仲間がいるじゃん」

 

「それはそうですが…」

 

「前にも言ったけどさ…ただ復帰するだけじゃダメなんだ。レベルアップして『おっ!コイツ、前と違うぞ!』って思われないと、結局、レギュラーにはなれない。そうじゃなきゃ意味がないんだ」

 

「わかりますけど…」

 

「だから…半年…いや、もしかしたら1年くらいかも知れないけど…待っててくれないか…」

 

 

 

「ときどき梨里さんは、私に有無を言わせないほど、強引になるのですね…」

 

少し伏し目がちに海未は言った。

 

 

 

「多少、男っぽいとこも見せておかないと…」

 

 

 

「…信じて…いいのですね?…」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「あの…その…つまり…」

 

 

 

「あぁ…そういうこと?大丈夫だって!オレは外国の女の人には興味ないから。それに、ほら…向こうのヤツらはデカいし…」

 

 

 

海未もその件(くだり)は知っている。

 

高野は…今でこそ176cmあるとはいえ、幼い頃は背が低く、相当なコンプレックスを持っていた…という話だ。

 

だから嘘か誠か、海未の身長…159cm…は「彼女としてジャストサイズだ」と彼は言っている。

 

 

 

そう言われればそうですね…と、この時の海未は思った。

 

しかし、あとから穂乃果たちに

「甘いよ!そんなわけないじゃん!だって、つばささんは海未ちゃんより10cmも背が高かったんだよ!」

と激しく怒られたりするのだが…。

 

 

 

「まぁ、オレも心配は心配なんだよ」

 

「えっ?」

 

「そりゃあ、先生になるとはいえ、μ'sの園田海未だもん。周りが放って置くはずがない…」

 

「そんな…それは買い被りすぎです…」

 

 

 

「正直に言うよ。本当は一緒に来てほしい!」

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

「でも、海未ちゃん、極度の海外恐怖症だから。連れていこうにも、連れていけない」

と高野。

 

その顔は半分笑っている。

 

 

 

「ひ、ひどいです!そんな理由で…」

 

顔を赤くして、拗ねる海未。

 

 

 

「うそ、うそ…それはうそだけど…本当のところは、さっき言った通り。来春から先生になるんでしょ?海未ちゃんは海未ちゃんで、そこはしっかりしないと…」

 

「…はい…そうですね…。それは梨里さんの仰る通りです」

 

「真面目な話、オレも真剣なんだ。練習生ではあるけど、イングランドっていうサッカーの本場で、学べるものは、すべて吸収してきたい。もしかしたら、回り道になるかもしれないし、うまくいかないかもしれない。でも…そうだったとしても、何も得られないってことはないと思うんだ…」

 

 

 

「梨里さん…」

 

海未は、彼の顔を見た。

 

 

 

「だから…頼む!オレに時間をくれないか?」

 

高野は海未を抱き寄せると、彼女の耳元で囁いた。

 

 

 

「…わかりました…」

 

海未はそう呟いて、静かに頷いた。

 

 

 

「…サンキュー…」

 

 

 

「…ですが…ですが、これだけは約束してください!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「絶対に…絶対に…ケガだけはしないと…」

 

 

「…あぁ…そうだな…。約束するよ」

 

 

 

「はい…」

 

 

 

「あ、それと海未ちゃんに、ひとつお願いがあるんだけど…」

 

 

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

 

「オレ、英語話せないからさ…」

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

「絵里さんに『専属の通訳になってほしいんだけど』って伝えてくれない?」

 

 

 

「…絵里にですか!?…さ、最低です!梨里さんは最低です!英語くらい自分で覚えてください!よりによって…絵里などと!」

 

 

 

「ダメなの?あぁ、じゃあ、希さんは?彼女も英語ペラペラなんでしょ?」

 

 

 

「希はもっとダメです!」

 

 

 

「もってダメって…あぁ、じゃあ、花陽ちゃんだ!彼女もアメリカ在住だし…」

 

 

 

「花陽もダメです!!…と言いますか、英語じゃなくて、胸の大きさで選んでませんか!」

 

 

 

「あははは…そんなわけないじゃん!…あ、でも…みんなそうか…あれ?海未ちゃんの海外恐怖症と、胸の大きさって…なにか関連があるのかな?」

 

 

 

「も、もう!本当に怒りますよ!まったく関係ありません!と、とにかく、μ'sのメンバーに手を出すのだけは絶対にやめてください!」

 

「わかってる…って…。出すわけないじゃん」

 

「信用なりません…」

 

 

 

「あれ?園田海未の選んだ男…ってその程度のヤツなんだ…」

 

 

 

「…ズルいです…そんな言い方…」

 

 

 

「ごめんよ…」

 

 

 

「い、いえ…別に…」

 

 

 

「だから、今日はいっぱいしていい?」

 

 

 

「な、なにをですか!?」

 

しかし、高野はその問には答えず、ただニヤニヤしている。

 

 

 

「な、な…どうして、すぐにそういう話になるんですか!」

 

 

 

「…ダメ?もう、しばらくできなくなっちゃうし…」

 

 

 

「えっ?…あっ…いえ…その…ダメでは…ないですが…」

 

 

 

「海未ちゃん…大好きだよ!」

 

 

 

「梨里さん…わ、私もです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで…いつ旅立つのですか?」

 

翌朝、深い眠りから覚めた海未は、先に起きてコーヒーを飲んでいた高野に訊いた。

 

 

 

「えっと…なんだかんだの手続きが必用だから…2月末くらいかな?」

 

 

 

…あと2ヶ月も先の話だったんですね…

 

…騙されました…

 

 

 

 

サッカー留学(前編)

~おわり~

 


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