【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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想い出① クリスマス(前編)

 

 

 

 

 

「『お母さん』…はい、これ…」

 

「なんですか、これは?」

 

「『みぃ』からのプレゼント」

 

「プレゼント…ですか?…ですが…今日はクリスマスでも、誕生日でもありませんが…」

 

「結婚記念日…でしょ?今日…20回目の」

 

「あっ…」

 

「『磁器婚式』って言うんだって!20周年は」

 

「磁器婚式ですか…」

 

「それでね…たいしたものじゃないんだけど…」

 

「開けてもいいですか?」

 

「もちろん!」

 

 

 

娘が手渡したのはジュエリーショップの紙袋。

 

その中に入っていたのは…薄いブルーのベルベットを纏ったハート型のリングケース。

 

母親はそれを手に取ると、ゆっくり開いた。

 

 

 

 

中から現れたのは翡翠の指輪だった。

 

大きすぎず、小さすぎず…それは上品な深い碧の光を放っていた。

 

 

 

 

「へへへ…なかなかセンスいいでしょ?」

 

「『みそら』…」

 

「な~んて…『陽菜』のお母さんに選んでもらったんだけどね」

 

「ことりが…」

 

 

 

「あのね…お母さん…お父さんと結婚してくれて…ありがとう!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「あ、ほら…2人が結婚しなかったら、私は生まれてなかったわけだし…その…」

 

 

 

「みそら…」

 

そう言ったまま母親は何も言えず、娘をギュッと抱きしめた。

 

 

 

 「や、やだなぁ…泣かないでよぅ…今の私に出来ることって言ったらさ…こんなことしかないから…」

 

 

 

暫くの間、それに応えるように、娘もまた、母親を強く抱きしめ返した。

 

 

 

 

 

「指輪なんてもらうの…何十年ぶり…でしょ?」

 

「何十年とは…それは言いすぎです…。ちゃんと梨里さんは記念日ごとにプレゼントしてくれましたよ」

 

 

 

どれくらい経ったろうか。

 

お互い昂っていた感情は少し落ち着き、娘が放った軽口に、母は笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 

「へぇ…そうなんだぁ…。あっ!じゃあさ、初めて指輪をプレゼントされた時のことって覚えてる」

 

「当たり前です」

 

「どんな感じだったの?」

 

「そ、それはですね…いえ、内緒です」

 

母親は顔を赤くして下を向いた。

 

「え~!なにそれぇ…いいじゃん、教えてくれたって!」

 

「ダメです!」

 

「娘だよ」

 

「ダメです!娘とはいえ、話せることと話せないことがあります」

 

「修羅場があったとか?」

 

「ありません!」

 

「じゃあ、話せることだけ話してよ!」

 

「…そうですね…まぁ、それなら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

園田海未は教職に就いて、初めての年末を迎えようとしていた。

 

春先に『イングランド』へサッカー留学した彼氏は、まだ戻ってこない。

 

「長くても1年」

 

その言葉を信じ「あと3ヶ月の我慢です」と自分に言い聞かせているのだが…仮装に浮かれるハロウィーンのバカ騒ぎが終わり、街がクリスマス一色となった途端、日に日に寂しさが込み上げてくる。

 

もちろん、その理由は街中がカップルで溢れているからだ。

 

それまで海未にとって、クリスマスは穂乃果やことり…あるいはμ'sのメンバーと過ごすイベントだった。

 

それほど他人…カップル…を羨んだこともない。

 

いや、そう言うとウソになるかも知れない。

 

自分もいつかは…という気持ちはあったし、その日を妄想していた。

 

しかし、気を紛らわすことができる仲間がいたから、ツラくはなかった。

 

 

 

しかし、今は…。

 

 

 

彼氏がいるにも関わらず、腕を組んで歩くことができないのだ。

 

その寂しさは、例えようがない。

 

だからと言ってμ'sのメンバーにそんなことを話そうものなら

「海未ちゃん、それはイヤミっていうものだよ」

などと言われるのがオチである。

 

 

 

…いるだけマシですか…

 

 

 

何度もそう呟いて、自分を無理矢理納得させたのだった。

 

 

 

 

 

思えば…高野に自分の思いを打ち明けたのは2年前のこの時期…横浜にある大観覧車の中だった。

 

今でもあの日のことを思い出すと、胸が苦しくなる。

 

 

 

「好きです」と伝えたいだけだった。

 

だが、それを言うことは許されない。

 

言ってはいけない。

 

彼を好きになることは『罪』…そう思っていた。

 

 

 

そんな葛藤の中…しかし彼は自分の気持ちの全てを受け入れてくれた。

 

すぐに破廉恥な言葉を口にするけれど…そのことを除けば、自分にとって贅沢すぎる相手だった。

 

そして…『この人の為に、自分の生涯を捧げよう』…そう思える人と気持ちがひとつになれたことが、なによりのプレゼントだと思った。

 

 

 

 

 

その次のクリスマス…つまり昨年…彼は『留学』を宣言した。

 

突然のことに困惑したが、お互いがお互いの夢を叶えるための決断。

 

反対は出来なかった。

 

 

 

彼がサッカー選手でなくていい。

 

海未にとっては、好きになった人がたまたまサッカー選手だったのだから。

 

 

 

でも、彼にとっては、そうじゃない。

 

サッカー選手として輝くことが、彼の真髄。

 

だから…認めた。

 

 

 

しばしの別れ。

 

今は、少し我慢の時。

 

 

 

そして、その日は…付き合い始めてから1、2を争うほどの…『濃密な夜』を過ごしたのだった…。

 

 

 

海未が大学を卒業したのと、ほぼ同時に、彼は海外へと旅立った。

 

それから一度も帰国していない。

 

周りは「いくらなんでも、それは酷い!」と言うが、海未はそうは思わなかった。

 

彼がサッカー選手として復活に懸けるその想いに、一点の曇りが無いことを知っている。

 

それだけの決意をもって渡英したのだ。

 

決して自分が蔑(ないがし)ろにされてるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

そして、付き合い始めてから今回が3度目のクリスマス。

 

頻繁に…というわけではないが、それなりに連絡は取っているし、声も聴いている。

 

それでも、隣に寄り添う相手がいないというのは

「こんなにも切ないものなのですね…」

としみじみ思っている。

 

 

 

しかし『イブ』の前日。

 

 

 

高野から「海未ちゃんにプレゼントを渡すよう『知人』に頼んでおいたから、受取ってね」と突然LINEのメッセージが入った。

 

12月24日、指定の時間に、東京駅で待っていてほしい…とのことだった。

 

 

 

「知人…ですか?どなたです?」

 

「それは…内緒!まぁ、楽しみにしてて」

 

 

 

…いわゆるサプライズということでしょうか…

 

 

 

海未は考えた。

 

 

 

…梨里さんと私と接点がある人物と言えば…

 

…やはりμ'sのメンバーでしょうか…

 

…もしもの時の為…ということで、LINEの連絡先交換はしておりますし…

 

…であるならば…

 

 

 

真姫を除けば、みんな社会人である。

 

そう自由に動けるメンバーはいない。

 

いや、それ以前に…いくら高野とはいえども、そう気安く頼めることじゃない。

 

もし、それをしたのであれば、頼む方も頼む方だが、受ける方も受ける方である。

 

自分の知らないところで、そんなに仲が良いのかと勘繰ってしまう。

 

 

 

…さすがにそれはないと思いますが…

 

 

 

それでもあえて可能性を探すなら

「ことりか希でしょうか…」

とひとり呟く海未。

 

双方とも仕事でロンドンに行っており、その際わざわざ『様子見』と称して高野と面会している。

 

2人とも「疚しいことは何ひとつしていない」と言っているし、海未もそれは信じている。

 

 

 

だが、その時にこの日の依頼をされた可能性はある。

 

もしくは、その面会をキッカケに、話を進めたのかも知れない。

 

 

 

…いえ、μ'sのメンバーとは限りませんね…

 

…その前にA-RISEの3人とも会っていますから…

 

 

 

…!!…

 

 

 

…ま、まさか…つばささん…夢野つばささん?…

 

 

 

…だとしたら…あまりに非常識です!!…

 

 

 

元カノを経由してプレゼントを渡される…そんなバカなことなどあるのだろうか。

 

海未は眉を顰めた。

 

 

 

いずれにしても、自分の知らないところで、高野が誰かと密かに打合せをしているのかと思うと、いたたまれなくなってきた。

 

ワクワクよりも…ソワソワというか、イライラというか…なんとも言えない気持ちで、その時間まで過ごすこととなった。

 

幸い、明日から高校は冬休みに入る。

 

こんな状態で生徒と接したら、きっと八つ当たりしてしまうところだった。

 

それは海未にとって…いや彼女たちにとって不幸中(?)の幸いだったと言えるだろう。

 

 

 

 

想い出①クリスマス(前編)

~おわり~

 


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