【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
サッカーの世界は、野球と違い、選手の出入りが激しい。
その要因のひとつはJ1、J2合せて40というチーム数の多さに起因している。
上から下まで『資金力の差』が激しい為(一概には言えないが)基本的には、優れた選手はどんどん『上のチーム』へと引き抜かれていくからだ。
故に、折角J2からJ1に昇格しても、そこで活躍した選手が移籍してしまい、戦力ダウン…結局、その穴を埋められないままシーズンが終わり、1年でJ2に逆戻りというパターンは良くあることだ。
高野梨里が入団した…湘南ベルマーレ…もそんなチームのひとつである。
J1、J2を行ったり来たり。
その様子から「エレベータークラブ」とも揶揄されることもあった。
イングランドに留学していた高野に、ベルマーレの関係者から連絡があったのは11月のこと。
J2に所属していたチームは、このシーズン圧倒的な強さを誇り、数試合を残して昇格を決めた…その直後のことだった。
しかし、この時点ですでに、チームの主力選手には、他チームからのオファーが掛かっていた。
特に…ゲームメーカー的存在だった『本間洋平』…が移籍することは、確実視されていた。
本間は…高野が出場するはずだった3年前のオリンピックで、彼に替わって追加召集された選手だ。
そして、その大会をキッカケに、以降は代表に定着。
いまや『日本の中盤』と言ってもいい。
「キミには彼の替わりをして欲しい」
それがチームの関係者の言葉だった。
…オレが抜けた穴に洋平が入って、洋平が抜けた穴にオレが入る…
…これが運命ってヤツなのかな…
提示された条件は年俸460万円+出来高払い。
ポジションによって異なるが、高野の場合『出場1分につき5千円』だという。
つまり、1試合フル出場すれば『×90分=45万円』となる。
それを高いとみるか安いとみるか…。
リーグ戦だけで計算すれば、フルフルで『×36試合=1,620万円』だ。
カップ戦、トーナメント戦も勝ち進み出場できれば、さらに上乗せがある。
それに1ゴール50万円、1アシスト25万円…その他、試合での貢献度、個人タイトル料などが加味される。
だが、2年以上もブランクがある高野。
オファーがあったからと言って、レギュラーが確約されたわけではない。
チーム内の競争に勝ち、監督の信頼を得てゲームに出られなければ、1円にもならないのだ。
イチかバチか…の賭けである。
しかし、贅沢なことは言えなかった。
…どのみち、やるしかないんだ…
むしろ「いち早く声を掛けてくれた」ことに感謝すらしていた。
実は…高野の留学先での評判はよく、日本国内でも日に日に注目が集まっていた。
獲得に数チーム動いているとの噂も流れていた。
とはいえ、やはりネックになったのは、ケガの状態と実戦経験の少なさ。
オリンピック予選では活躍したが、マリノスに、在籍中は控えに甘んじてきた選手。
年が明ければ24歳となる高野に、果たして伸び代がどこまであるのか、その見極めが二の足を踏ませていた。
そんな中、真っ先に動いたのがベルマーレ。
先に述べたチーム事情により、補強したいポジションがピタリと合致したということだろう。
背番号は『28』。
本間は『10』だったので、そのエースナンバーは、誰か別の選手が付けるということだ。
つまり、ベルマーレとしても、まだ、そこまでの期待はしていない…ということだった。
…でも、それでいい…
…これでダメなら、オレもそれまでってこと…
ピッチにさえ戻れれば、大暴れできるだけの自信はあった。
苦しかったリハビリ、トレーニング…そして、この9ヶ月間の留学を経て、そう言えるだけのものを身に付けた。
「宜しくお願いします」
高野は、こうしてJリーグに復帰することを決めたのだった。
そして1年が過ぎた。
開幕当初はベンチ入りできなかった高野だが…主力外国人選手の故障により、徐々に出場機会を増やしていき、前半戦を折り返す頃にはレギュラーを奪っていた。
元々のプレースタイルである…小刻みなステップで突き進むドリブル、キーパーのタイミングを外すシュート…それらは健在で、大いにサポーターを沸かせた。
そこに力強さが加わった。
復帰までに徹底的に鍛え上げた体幹によって、相手と競っても当たり負けしなくなったのだ。
それだけじゃない。
その成果は守備にも好影響を及ぼし、ボール奪取能力も高まっていた。
そこで終盤にはボランチのポジションを任されることもあった。
こうした高野の活躍もあり、リーグ戦は13位でフィニッシュ。
1年でJ2逆戻りは免れた。
出場24試合、1,627分、3得点、6アシスト(リーグ戦、カップ戦含む)。
この結果、彼の出来高払いは1千万円を超えたのだった。
天皇杯は早々に敗れてしまい、残念ながらチームとしても、個人としてもタイトルを取ることはできなかったが、それでも、この年から新設された『カムバック賞』には輝いた。
こうして彼は『高野梨里の名』を、サポーターやファンだけでなく、再び世間に知らしめたのである。
年が明けて1月3日。
ここ数年、正月は晴れが続いている。
この日も穏やかな、優しい日差しが降り注いでいた。
今日は高野の誕生日。
24歳になった。
『出会って4度目となる初詣』を済また、高野と海未。
彼の実家で着替えて一服したあと、車で江ノ島へと向かった。
県道467号を南下し『白幡の交差点』を左折する。
その先にあるのは『藤沢橋』。
半日前には箱根駅伝の復路を走る選手が、ここを通った。
駅伝ファンなら『遊行寺(ゆぎょうじ)の坂』の手前…と言えば、イメージしやすいかも知れない。
その応援の為…十重二十重の人波でごった返していた道…を選手が走った方向に車を走らせ、海岸線に出た。
海水浴シーズンではない為、今はさすがにそこまでの賑わいはないが…かといって閑散としているわけではなく…歩道と浜辺にはカップルが、海にはサーファーの姿が見られた。
高野は西浜の駐車場に車を止めると
「たまには散歩でもしてみる?」
と海未を誘った。
「寒いのは苦手じゃなかったのですか?」
「その為に、海未ちゃんがいるんじゃん」
「私はカイロですか?」
そう言いつつも海未はニコっと微笑み、高野の左腕に自分の右腕を絡ませ、グッと身体を引き寄せた。
たわいのない会話をしながら、砂浜の上を歩く。
そんな時間を過ごすのは、久々のことだった。
9ヶ月間、日本を離れていた高野。
だが、戻ってきてからもすぐキャンプに入ってしまい、それほどゆっくりしているヒマは無かった。
そしてシーズンイン。
通常、水曜もしくは土日が試合の高野。
土日が休みの海未。
なかなか、2人の時間は合わなかった。
「こんな風にして歩くのは、いつ以来でしょうか?」
「付き合って1年目の秋が最後かな?」
「そうでしたね…梨里さんは途中から私のことを放置して、砂浜ダッシュを始めたんですよね?」
「悪いと思ってすぐやめたじゃん」
「それはそうですが…デートに来てトレーニングをするとは思いませんでした」
「そういえば…海未ちゃん、波打ち際で転んじゃって、ビショビショになったよね?」
「あれは梨里さんが押したんです!」
「そうだっけ?」
「はい」
「自分でコケたんじゃなかったっけ?」
「いいえ!梨里さんが押したんです!下着まで濡れてしまい…大変だったのですから」
「そっか!それで服を乾かさなきゃ…って、そこのラブホに緊急退避したんだった」
「あっ!…」
海未は何かを察したように声をあげた。
「その再現…する?」
「言うと思いました!」
海未は組んでいた腕をサッと離そうとしたが、それより早く高野は彼女を抱き上げた。
「ま、待ってください!!だ、ダメです!!今は冬なんですから、風邪引いちゃいます!」
「そうしたら、ほら、あそこで焚き火やってるから、暖まらしてもらおう」
「そういうことじゃ!!わっ!わっ!!」
「いくよ~!イ~チ、二~の…」
お姫さま抱っこの状態で身動きの取れない海未を、高野は前後に大きくスイングさせた。
「きゃあ!!」
「…なぁんてね…」
「ひどいです…」
「あははは…」
「笑いごとじゃありません!」
「うん、ごめん」
「…っと…いつまで、この状態なのでしょうか?もう、降ろしてください」
「いや、この年末に食べ過ぎてないかな…って…体重測定中…」
「な…降ります!降ります!!降ろしてください!!」
足をバタつかせる海未。
「ってことは、思い当たる節がある?」
「ありません!ありません!」
「暴れない!暴れない!暴れるなって!」
ドサッ…
高野に海未の浴びせ倒しが決まった…。
「うぅ…まだ、背中がジャリジャリしてる…」
高野と海未は、浜辺に設けられたコンクリートの階段に腰を掛けた。
「すみません…」
「ちょっと、もう一回、砂、落としてくれない?」
と高野はシャツを捲った。
「はぁ…」
海未は持っていたハンドタオルで擦るようにして、背中に貼り付いた砂を払った。
「でも、梨里さんが悪いのですよ!あのようなことをしたのですから」
「あははは…あぁ、海未ちゃん、ほら夕陽が綺麗だよ」
「誤魔化さないでくだ…本当ですね…」
「逆初日の出?」
「今日は元日でもありませんし、普通に『日の入り』でいいと思いますが」
海未はふふふ…と笑った。
「なんかさ、海に沈んでいく太陽って見てると、すごく落ち着かない」
「はい」
「沈んだら、寂しくなっちゃうけど」
「そうですね…。でも、梨里さん…」
「ん?」
「私は『海で夕陽』と言うと、どうしても高校の時を想い出してしまうのです」
「高校の時?」
「当時の3年生…にこたち…に、μ'sの解散を告げたのが…この先の湯河原の方の海岸で…まさに太陽が沈む前のことだったんです」
「へぇ…」
「みんなで手を繋いで…『μ'sは…解散します』って叫びました」
「青春ドラマみたいなこと、してたんだ」
「たまたま、誰もいませんでしたから」
「いたら?」
「恥ずかしくて、できなかったかもしれません」
「それはどっちなの?いい想い出?それとも…」
「悪い想い出ではありません。ですが、そこに至るまで、相当悩みましたので…それを告げることがとても辛かったです。今でも、あの時のことを考えると、胸が苦しくなります」
「ふ~ん、じゃあ、ここで別の想い出を作ってみる?」
「はい?」
「オレも叫んでみようかな?海未ちゃんの想い出に残るようなこと」
「い…今、ここでですか?まだ、周りにいっぱい人がいますが」
「いいんじゃない別に。聴かれて困るようなことじゃないし」
「な、何を?…」
「よいしょ…っと」
高野は、スクッと立ち上がった。
「ま、待ってください!!」
海未は、高野の腕を引っ張った。
「ん?」
「いえ、やはり、やめましょう…。何かすごくイヤな予感がします」
「イヤなことか…そうだね。必ずしもハッピーなことじゃないかもね」
と高野は、再び腰をおろした。
「す、すみません…」
「ううん、ちょっと、驚かせてみただけだから」
「は、はい…」
「でも、大事なことだから、よく聴いてほしい」
「は、はい!」
そう言われて、海未は正座をして高野に向き直った。
「オレさ…たぶんね、これから先も『希さんとしてみたい』とか『絵里さんとしてみたい』とか言っちゃうかも知れない」
「…それは、もう慣れました…」
「『ことりちゃんともしたい』って」
「はい…」
「『花陽ちゃんともし…』」
「全員言わなくてもいいですから」
「恐らく、これからどんどん活躍するから、色んな可愛い娘と噂になっちゃうかも知れない」
「はい、そうなるくらい活躍してください」
「でもね…オレを支えてくれくれるのは…海未ちゃんしかいない…って思ってるから」
「えっ…」
「すごく勝手だってことは、わかってるんだけどさ…」
「はい」
「だから…これを受け取ってほしい」
高野はそう言うと、ポケットからリングケースを取り出し、海未に差し出して、片膝を付いた。
「オレが死ぬまで、一緒にいてほしい」
「…り、梨里さん…」
そういう流れになると、途中から気が付いた。
もしかしたら、この場で…と思っていた。
だが『それ』がここで出てくるとは…それは想定外だった。
「お!なんだ?なんだ?…」
高野のその姿勢を見て、周りのカップルが注目し始めた。
「あれ?ベルマーレの…」
さすが地元のJリーガー。
すぐに面が割れた。
海未は恥ずかしさのあまり、気を失いそうだった。
いや、いっそうこのまま倒れてしまおうかとも思った。
だが…
「謹んでお受け致します。不肖、園田海未、一生、梨里さんに付いていきます。不束者(ふつつかもの)の私ですが、何卒、よろしくお願い致します」
彼の差し出したリングケースを受け取り、頭を下げた。
いつか言うだろうと、練習していたセリフ。
まさか、このタイミングで…とは思っていなかったが、思いの外(ほか)スムーズに口から出てきたのだった。
「おぉ!!」
歓声と同時に拍手が沸き起こった。
「海未ちゃん…」
「当たり前です!つばささんに『バトンを渡された時』から、覚悟を決めていましたから」
アレ!タカ~ノリサト!
オ~!タカ~ノリサト!
ボン ジョカトーレ! リサト!
アレ!アレ!アレ!
手拍子と共に、チャント(コール)が始まった。
それに高野は、ゴールを決めたときと同様に、手を挙げて応えた。
そして海未は…正座の状態から立ち上がると、彼らに向けてゆっくりと頭を下げた。
表情を隠すかのように、ずっと下を向いていた…。
マスコミが2人の婚約を正式に報道したのは、それから1ヶ月後のことだった。
海で海未と
~おわり~
たぶん、次話で最後です。