【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

2 / 173



登場人物については、作品の中で紹介していきます。






意識回復

 

 

 

 

 

助けた相手が『元スクールアイドルの有名人』だった…と聴いたのは、オレが意識を取り戻した翌日のこと。

 

事故からは4日が経っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、まず医師から『今のオレの状態』について説明があった。

 

 

 

…取り敢えず、最悪な事態は免れたか…

 

 

 

それが率直な感想。

 

ショックがないと言えば嘘になるが、むしろ、その程度で済んだなら、御の字だ。

 

そう思った。

 

オレは決してポジティブ思考の人間ではないが、今回の件については、意外なほど割り切って考えることができた。

 

後悔はしていない。

 

それは『あの時の行動に間違いがなかった』という自信がそうさせているのだろう。

 

 

 

 

 

オレは意識が回復したことにより、ICUから個室に移され、条件付きだが、面会が認められるようになった。

 

話しは普通にできそうだ。

 

 

 

それでも、鎮痛剤やら、なんやらかんやらのせいで、頭はクリアな状態ではない。

 

ボーッとしている。

 

まだ、半分夢の中をさまよっている…そんな感じだった。

 

 

 

真っ先に対面したのは両親だ。

 

オレを気遣ってか、多くは語らなかった。

 

だが、そこは親子。

 

「とにかく余計なことを考えず、治療とリハビリに専念しろ」

と、そう言った。

 

それだけで何が言いたいかはわかったし、オレがどう思ってるかも、理解してくれたようだ。

 

 

 

その後、サッカー協会の幹部と代表監督、チーム関係者が見舞いに来たが…みんな一様に、オレよりも落ち込んでいた。

 

無理もない。

 

全治6ヶ月と聴けば、そうならざるをえない。

 

来月に開かれるオリンピックへの出場は絶望的だった…。

 

いや、どうやっても無理。

 

 

 

…まぁ、サッカーは個人種目ではないから、あとはみんなで頑張ってくれ…

 

 

 

今はそれしか言いようがない。

 

 

 

むしろオレは、自分のオリンピック出場云々よりも、助けた彼女の方が気になっていた。

 

「幸い、かすり傷程度で済んだみたいですよ…」

 

 

 

…そうか…助かったか…

 

 

 

事情聴取に来た警察から、そう聴かされ少し安堵した。

 

こっちは被害者だから、オレが厳しく追及されるようなことはなかった…が…それでも、彼女との関係性だったり、なぜ、その時間にその場所にいたのか…など、根掘り葉掘り訊かれた。

 

あまり気持ちのいいものじゃない。

 

向こうも仕事だから、それはそれで仕方ない…とは思うが、やはり、この職業の人たちとは…できれば関わりたくないもんだ。

 

 

 

彼女の名前は、その時に知った。

 

だが『そういうこと』に『疎い』オレは、そんな有名な人だとは、まるで気付かずにいた。

 

彼女については、あとから『チョモ』が詳しく説明してくれた…。

 

 

 

 

 

警察からは、同時に加害者の話も聴いた。

 

 

 

これは…もう…

 

何をどこに、どうぶつけていいのやら…

 

怒りとか哀しみとか…そんな感情を通り越して…

 

『呆れた』

 

一言で表現するなら、それしかなかった。

 

 

 

あとあと、刑事裁判とか民事裁判とか色々面倒だと思ったが、金で解決できる話じゃない。

 

失った時間は帰らない。

 

 

 

だが止まっていても仕方がない。

 

先に進むしかない。

 

取り敢えず、今、できることをやるしかない。

 

 

 

…先は長いな…

 

 

 

考えると気が遠くなるから、取り敢えず、寝ることにした。

 

まぁ、それしかできないんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…。

 

 

 

目を覚ますと、部屋にはチョモがいた。

 

「おじさんとおばさんは、一旦、家に帰る…って。…で、その間、留守を任されちゃった」

 

「…あぁ、そうか…悪いな…」

 

「ほんとに…こんな大事な時期になにしてるんだか…」

と、溜息混じりにヤツは呟いた。

 

「まったくだ…」

 

オレも同意した。

 

だが、すぐに

「いやいや、そこは『生きててよかったぁ!』からの…『チュウ』だろ、普通?」

と毒づいてみる。

 

「!!…それは…もう終わったから…」

 

「終わった…って…オレが寝てる間にか?…」

 

「ま、まぁ…」

 

ヤツは顔を赤らめた。

 

この『時折見せる女っぽさ』が、メチャメチャ、エロく見えた。

 

そこで

「じゃあ、もう1回!」

とねだったら『やだ、薬くさいんだもん…』と笑いながら返しやがった。

 

「可愛いげがないねぇ」

 

「今に始まったことじゃないでしょ?」

 

「そりゃ、そうだけど…」

 

 

 

「それに…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「今、ここでキスなんかしちゃったら…その続きもしたくなっちゃうし…」

 

つまり、チョモとオレはそういう関係だ。

 

 

「お?…おぉ…」

 

今度はオレが顔を赤くした。

 

確かにこの状況では、そういう気持ちになっても何も出来ないだろう。

 

勿論『して欲しい』気持ちはあるが、今は首から下の感覚がないから、オレだって何もしてあげられない。

 

 

 

「じゃ、じゃあ…退院したら、いっぱいしよう!」

と言うと、ヤツはいつものように『…ばか…』と呟いた。

 

 

 

「そ、それより大丈夫か?そっちは…」

 

気不味い雰囲気を変えようと、オレはヤツに問う。

 

「えっ?…う、うん。こっちはこっちでやるから…余計な心配はしないで」

 

「いや、なんにも、することがないからな…。余計なことしか、考えられない」

 

「じゃあ、テレビ…点ける?」

 

「いや…いい…。そもそも首が動かないから…観れない」

 

「音だけでも?」

 

「それならクラシックでも聴いた方がマシだ」

 

「プッ!…聴いたこともないくせに…」

とチョモが笑う。

 

「それはそうだけど…」

 

 

 

 

 

前日に比べれば、オレの頭はかなりクリアになっていた。

 

そのせいか、耳に流れ込む声や物音が、やたらハッキリ聴こえる。

 

身体が動かない分、五感が研ぎ澄まされてるのだろうか。

 

それ故、テレビから放たれる音声は、ただの騒がしいノイズにしか聴こえない…そう判断した。

 

今は遠慮したい。

 

 

 

理由はもうひとつ。

 

 

 

できれば、この事故に関するニュースや、日本代表の話題を耳にしたくない…というのもあった。

 

恐らく、これから暫くは、オレにとって『ネガティブな情報』しか耳に入ってこない。

 

色々な意味で。

 

こっちは『起きてしまったことに、どう向き合っていくか』という状況なのに、当事者でもない人間が「あーだこーだ」と騒ぎ立てる様子は、これまでの経験から容易に想像がつく。

 

 

 

だから、携帯もPCも見たくはなかった。

 

もっとも、身体が動くようになるまで、そんなこともできないのだが…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。