【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「絢瀬絵里です。趣味は…特にありません。今のところ、入りたい部活とかはありません。これから、探してみます…」
それが、のちに音ノ木坂の生徒会長となる…絢瀬絵里…の自己紹介だった。
4月。
この年の音ノ木坂の新入生は、約100人。
例年より、50名ほど少ない。
伝統ある学校なのだが、近くにできたUTX学園に人気を奪われているのが原因だ。
入学式が終わり、ホームルーム。
担任から自己紹介するよう指示があった。
出席番号(五十音)順で…ということになり、最初に挨拶したのが絵里だった。
…絢瀬さん…か…
…綺麗な人だな…
同じクラスになった…東條希…は、絵里に見惚れていた。
いや、他のクラスメイトもそうだった。
無理もない。
実際、絵里は新入生100名の中で、一際目立っていた。
それは『誰もが羨む美貌の持ち主』だからに他ならない。
長い手足、完璧なスタイル、碧色の瞳…そして金色に輝く長い髪…。
一目で『異国の血』が流れていることがわかる。
ただし、見た目の華やかさと違い、どこか…人を寄せ付けない…そんな雰囲気があった。
それは先程の自己紹介にも表れていた。
「私にあまり関わらないで…」
希には、そう聴こえた。
…ひょっとして、私に似てるかも…
彼女の姿を横目で眺めながら、希はそんなことを思っていた。
ほどなくして、自己紹介は希の番になったが、ボーッと絵里を見ていたので、そのことに気付かない。
「東條さん?」
担任に名前を呼ばれて、ようやく我に返った。
「あ、すみません…私ですね」
慌てて立ち上がり、前に進む。
「東條希です。希望の『希』と書いて『のぞみ』と読みます。趣味は読書と…占いです。入りたい部活は…まだ決めてないです…。宜しくお願いします」
恐らく、周りのクラスメイトの倍はしてきたであろう自己紹介。
それでも、特に気の利いたことも言えず、淡々と挨拶してしまったことに、終わってから自己嫌悪に陥った。
…あぁ、高校に入ったら積極的にならなきゃ…って思ってたのに…
席に戻って、軽く頭を抱えた。
希の父は有能な人物で、仕事で大きなプロジェクトが企画されると、その立ち上げ部隊の一員として、現地へと駆り出された。
その影響で、希はこれまで5回ほど引っ越している。
東京で生まれ、北海道、オーストラリア、奈良、栃木と移り住み、昨年東京に戻ってきた。
その父と母は、この春からタイへ。
しかし希は日本に残った。
タイには数々のパワースポットが存在する為(スピリチュアルな世界に興味がある希にとって)『魅惑の地』であることは間違いなかったが「そろそろ落ち着きたいな…」と考え、親元から離れることを選択したのだ。
そういう事情から、希には『幼馴染み』や『古くからの友人』と呼べる人がいない。
なにせ、数年もすると、その土地を離れてしまうのである。
「また会おうね!」などと約束しても、現実は厳しい。
なかなか、そうはならない。
そんなことが解り始めてから、意識的に『友達を作ること』を避けていた。
付き合いをまったくしない…ということではない。
ただ『親友』と呼ぶような仲間は、不要と考えていた。
…どうせ、すぐに別れちゃうんだし…
だから自ら誘って『何かをしよう』などとは思ったことはなく、ひとり静かに本を読むことが、彼女にとっての日常だった。
心境に変化が起きたのは、父のタイ行きが決まった…半年前…のこと。
国内の転居ならいざ知らず、今からタイと言われても…という感じだった。
向こうでの生活に不安がある。
何年後に帰国するかわからないのも、心配だった。
既に受ける高校も決めている。
もう、そろそろ落ち着いてもいいのではないか…と思った。
そして…『親離れ』したい時期でもあった。
結局、無理を言って国内に残り、ひとり暮らしをすることを、希は選ぶ。
そうなると…
友達のひとりやふたり、居てもいいのではないか…と思うようになった。
いや、居たほうがいい。
…このまま『親友』という存在ができないまま、大人になるのは寂しすぎる…
高校進学を機に、自分を変えよう!
それが希の決意だった。
…見つけた…
…私と同じ『匂い』のひと…
…自分の殻に閉じ籠って、他人にスキを見せないひと…
…絢瀬絵里…
…きっとあの人となら仲良くなれる…
…きっと…
そして、この日から希の…絵里に対する『ストーカー行為』が始まるのだった…。
「最後は…矢澤さん」
「は~い」
担任に名前を呼ばれた少女は、明るく返事をした。
「みなさ~ん、こんにちは~。矢澤にこです!一個じゃなくて、にこ。『ニコニー』って呼んでね!将来の夢は、宇宙No.1アイドルになることです!応援ヨロシクね!ニコッ!」
…最後の最後に、凄いキャラが残ってたわ…
…ちっちゃいけど…頭、悪そうだけど…ハートは強そうね…
…気持ちを強く持つこと…それは、見習わないと…
それが東條希の、矢澤にこに対する第一印象だった。
~つづく~