【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
夏。
さくらと綾乃のふたり…『C.A.2』…の仕事は順調だった。
さすがに『サクラー』『AYA-x』といったファッションの、爆発的なブームは落ち着きを見せている。
それでも、J-BEATの発行部数は落ちることなく、むしろ増加していた。
ちょうど海外でも日本の『カワイイ』が注目され始め、その追い風にも乗ったと言える。
さくらはJ-BEAT卒業後の女優デビューを目指し、着々と準備を進めていた。
こちらは綾乃の『Project A2』に対して『S.M.A.P(Sakura model→actress project)』と呼ばれている。
もちろん綾乃も、その日に向けて『特訓』を続けていた。
そんな中、綾乃はフットサルの試合に出場することになる。
芸能界の女子8チーム集まっての総当たり戦。
関西と九州からも、それぞれ1チームずつ参加した。
数年後には正式に『日本女子フットサルリーグ』が開幕する。
人気が下火になりつつあった女子のフットサルを盛り上げようと、久々に開かれた大きな大会だった。
綾乃は…フットサルを始めてから、わずか3ヶ月足らずで、チームの主力選手になっていた。
元来、運動神経はいい綾乃。
初めは足でボールを扱うことに苦戦していたが『左足』を使うことを覚えてからは、もの凄い勢いで上達していった。
もちろん本人の努力もある。
家に帰ってからリフティングや、足の裏でボールをコントロールするなど、影ながら練習を重ねてきた。
その結果、先輩たちを差し置いて、レギュラーに抜擢されたのである。
フットサルとサッカーでは、コートやボールの大きさ、接触プレーの禁止など、数多くの相違点がある。
しかし、一番わかり易いのは、5人でプレーすることだろう。
ポジションは『ゴレイロ』『フィクソ(もしくは『ベッキ』)』『アラ』『ピヴォ』と呼び、それぞれサッカーで言うところの『GK』『DF』『MF』『FW』に当たる。
綾乃が任されたのは、右のアラ。
コーチの石井は、綾乃の左足にある期待を持っていた。
その為の起用。
大会は横浜にあるアリーナで行われた。
綾乃たち有名モデルや、アイドル、お笑い芸人が一同に会すること…入場料が安価なこと…抽選で豪華景品があたること…などの理由により、会場は満席となった。
綾乃たちの初戦は関西のチーム。
芸人が主体となっているが、プレーは真面目で、歴史もある強豪だ。
この大会のオープニングゲームでもある。
多くの業界関係者とファンが見守る中、綾乃たち『Deusa da vitória(デウーサ ダ ヴィットーリア)』と関西芸人チーム『Kami-Goddess(カミガッダス)』…ともに『女神』を名乗るチーム同士の試合が始まった。
だが、開始早々アクシデント発生。
相手チームのゴレイロが倒れこんだのは、ホイッスルが鳴ってすぐのことだった…。
なぜか。
中盤でパスを受けた綾乃が、左足を振り抜く。
その瞬間…
おぉ…という、どよめきが会場から起きた。
観戦していた関係者たちも、思わず声をあげる。
綾乃の左足から放たれたボールは、低い弾道でゴールに一直線に向かい…
相手ゴレイロの顔面を捉える…。
そのこぼれ球を山瀬寧々が冷静に押し込み、ゴールネットを揺らした…。
Ddv(デウーサ ダ ヴィットーリア)先制!
「なんだ、今のシュートは…」
「日向小次郎のタイガーショットだ!」
「いや、松山光のイーグルショットだろ!」
「いずれにしても、あんなシュート見たことない…」
ざわめく観客たち。
「名付けて『キャノン砲』…いや『K-アヤノ(ん)砲』…」
ベンチで石井が呟いた。
うまい!と言いたいところだが、Kの意味は不明…。
狙い通りだった。
練習で綾乃のシュート力を…まさに『身をもって』体感した石井は、この戦法でイケると踏んでいた。
ゴールを決めたのは寧々だったが、ほぼ綾乃の得点と言っていい。
フットサルではあり得ない…セオリーを無視した、掟破りのミドルシュート。
コートの狭いフットサルでは『人口密度』が高い為、遠目からシュートを打っても(敵味方関係なく)ボールがブロックされてしまう可能性が高い。
しかし綾乃は、長年ウィングスパイカーとして培ってきた『コースを見極める目』…つまり、どこにスパイクを打てばよいのか…を瞬時に判断できる能力…を持っていた。
それが、ここでも活かされる。
漫画に「ゴールが見えたらシュートを打て」という有名な台詞があるが、綾乃の場合は「コースが見えたらシュートを打て」だった。
仮にシュート自体が決まらなくても、枠に飛べば、そのこぼれ球を狙うことが出来る。
そういう意味では、さっきの先制点は理想的な展開だった。
綾乃をアラ(MF)に置いた理由はミドルが打てることだが、もうひとつ。
ピヴォ(FW)に置いた場合、至近距離からのシュートは、あまりに危険…そう判断したからだ。
それでも…
「あのキーパー…立ち上がれないけど、大丈夫か?」
「バカ!知らないのか?フットサルじゃ、キーパーじゃなくてゴレイロって言うんだぜ」
「どっちでもいいよ…あ、担架が運ばれてきた…」
「モロ、顔面いったもんな」
「かわいそうに…」
…ということで、Kami-Goddessは早くも選手交替を余儀なくされる。
負傷退場した選手が出てしまったことは本意でなかったが、これで綾乃たちは完全にゲームを支配した。
あんなシュートを見せられれば、当然、綾乃へのマークは厳しくなる。
逆を言えば、他の選手へのマークが甘くなるということ。
綾乃にパスが渡れば、シュートを狙うフリ…フェイントをして、ボールを叩(はた)く。
こうして自由にボール回しながら、ポイントゲッターである寧々が、ゴールを狙っていく。
それこそが石井の意図するところだった。
結局、この試合は6-0で完封勝ちを納める。
綾乃の放ったシュートは、初めの1本。
得点はゼロ。
アシストは1。
しかし結果以上に強いインパクトを残したことは間違いなかった。
たった1試合…いや試合開始1分でAYAこと藤綾乃は、フットサル界において、一躍注目の人となったのである。
~つづく~