【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

30 / 173
ときどきμ's ~真姫の葛藤~

 

 

 

 

秋。

 

 

 

『西木野真姫』は放課後の音楽室でピアノを奏でていた。

 

それに聴き惚れるのは、数人のクラスメイト。

 

 

 

真姫が曲を弾き終わると、拍手が起こった。

 

 

 

「やっぱり、いつ聴いても素晴らしいわ」

 

「そう?」

 

「もう、せっかく誉めてるんだから、少しくらいは喜びなさいよう。まったく無愛想なんだから…」

 

「別に、誉めてくれなんて頼んでないし…」

 

「まぁ、そういう媚びないところが真姫らしい…って言えばそうなんだけど」

 

クラスメイトのひとりはそう言って笑った。

 

「ねぇ、それで将来は音大に進むの?医大に進むの?」

 

「えっ?あなたたちには関係ないでしょ」

 

「でもねぇ…興味あるじゃない。医者の娘で、お金持ちで、容姿端麗で、頭脳明晰…ピアノも上手…こんな絵に描いたお嬢様が、将来どうなるのか、気にならないわけがないわ」

 

「何年かしたら、美人女医とか言われて、TVに出てるかもね」

 

「やめてよ。私は外見だけで判断されるのキライなんだから…」

 

「それじゃ、高校はどうするの?」

 

「高校?」

 

「ほら、そろそろ志望校考えなきゃ…でしょ?受験までは、まだあと一年あるけど、そろそろ進路指導もあるし…」

 

「私は音ノ木坂に行く予定…」

 

 

 

「音ノ木坂!?」

 

そこにいた全員が、揃って声を上げた。

 

 

 

「そんなに驚くこと?」

 

真姫は少し不満げな表情。

 

 

 

「えっ!あ…いや…てっきり私立のお嬢様学校みたいなところに行くのかと…」

 

「ママ…母がね、あそこは由緒正しい伝統校だから、礼儀作法も身に付くし…って、やたらに推すの。まぁ、勉強は家庭教師に教えてもらってるから、私は別に、高校なんてどこでもいいんだけど…」

 

「でもさぁ、音ノ木坂って『危ない』って噂でしょ?」

 

「そうそう!年々、入学希望者が減ってて、あと何年かしたら廃校になる…って聴いたことある」

 

「来年廃校になるわけじゃないんでしょ?」

 

真姫は興味ない…と言った口調。

 

それを受けて

「廃校にしたところで、あれだけの場所に、あれだけの土地を放置しておくわけにはいかないから『買い手』が付くまでは存続せざるを得ない…とは聴いてるけど…」

と、その中のひとりが言う。

 

「近くにUTXとかできたしね」

 

「パンフ見たぁ?凄くカッコいいよねぇ」

 

「私はあんまり、好きじゃない」

 

そう言うと、真姫はスッと立ち上がり

「じゃあ、帰るから…」

と部屋を出た。

 

「えっ?ま、真姫?」

 

突然のことに戸惑うクラスメイトたち。

 

 

 

だが…

 

 

 

「いつものことって言えば、いつものことだけど…」

 

「ホント、気分屋なんだから…」

 

「根は悪い人じゃないんだけどね…」

 

「コミュ障ってやつ?」

 

「なのかな…」

 

…などと言われていた。

 

 

 

 

 

真姫は…いつからかだろうか…自分の立場について、葛藤していた。

 

 

 

医者の娘として生まれ、何ひとつ不自由なく暮らしてきた。

 

それどころか、質、量とも有り余る物を与えられてきた。

 

 

 

しかし、ある時、ふと気付く。

 

それが『普通ではない』ことを。

 

 

 

そして、それは親が築いた地位や財産によるものであり、自分の力ではないことを。

 

 

 

確かに高価なものを身に付けてはいるが、それをひけらかすつもりはないし、自慢もしない。

 

「それ高いんでしょ?」なんて言われても、自分が誉められてるわけではない。

 

それよりも頭の良さとか、ピアノの上手さとか、自分の才能や実力を認めてほしい。

 

お金だけの人間と思われたくない。

 

 

 

そんな警戒心から、自分の心にバリアを張って生きてきた。

 

できれば、静かにしていたい。

 

 

 

友達は欲しいと思っている。

 

でも、うわべだけの友達ならいらない。

 

医者の娘などという『ラベル』を無視して、付き合ってくれる友達。

 

 

 

いる…。

 

いない…。

 

 

 

真姫はいつも、それで悩んでいた。

 

そして、相手にそんなつもりはなくても、ついつい、冷めた態度をとってしまい、あとあと自己嫌悪に陥るのだった。

 

 

 

…もっと、素直にならなくちゃ…

 

 

 

それは永遠の課題なのである。

 

 

 

 

 

父親の仕事上、似たような環境の子供と会うことがあるが、誰も彼も『見栄の張り合い』で、正直ウンザリしていた。

 

UTXに進学する生徒は、みんな、そういう人ばかりだと、真姫は勝手に思い込んでいる。

 

 

 

音ノ木坂に進学しようとしているのは、決して母親が推しているからだけではない。

 

なんの柵(しがらみ)のない、穏便な学校生活が送れるハズ…。

 

そう考えたからだ。

 

 

 

しかし…

 

 

 

つい親に甘えてしまう自分。

 

それを否定したい自分。

 

そのアンビバレントな心情が、真姫を苦しめていた。

 

 

 

それはまた『医者になるという規定路線』と『音楽を続けたい』という相反するふたつの気持ちに、どう決着を着けるかという戦いでもあった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。