【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
例年よりも暖かかった冬が終わり、季節は春へと移り変わる。
3月は卒業のシーズン。
ふたりは「また、いつか会いましょう」とJ-BEATの誌面で読者に別れを告げた。
綾乃もさくらも無事に事務所との契約更新をして、来月から高等部に進むことが決まった。
しかし、ふたりとも、その上位誌にあたるSuper-Jのレギュラーモデルは務めない。
先述している通り、さくらは女優へ転身する。
事務所が水面下で進めてきた『S.M.A.P』が奏効し、すでに何本かドラマや映画の出演が決まっていた。
その初めの一歩は、清涼飲料水のCM出演だ。
さくらは、卒業してすぐ…4月を待たずに撮影の為、海外へと旅立った。
そして4月…。
新年度に合わせて、彼女が起用された清涼飲料水のCM流される。
いまや、浅倉さくらの名を知らない人はいない。
しかし、これまでモデル活動に専念していた為『動くさくら』を見るのは新鮮だった。
彼女にしてみれば、満を持してのCM。
この日の為に、みっちりと勉強してきた。
その清々しくも、堂々とした演技はたちまち評判となり、まずは上々のスタートを切った。
時を同じくして、一際、異彩を放つCMが話題となる。
それはオートレースのCMだった。
日本の公営ギャンブルは4つある。
競馬、競輪、競艇…そしてオートレース。
以前、トップアイドルがレーサーに転向したことで話題になったが、一般的にオートレースは…4つの中で一番マイナーだと言っていい。
これに対して、協会が勝負に出た。
知名度アップと観客数増加を狙って、これまでにない大規模なプロモーション活動を展開したのだ。
夏には、いわゆるイケメン俳優を集めて撮影された、オートレースに懸ける男たちの映画が公開される。
近年の邦画は、この手の『マイナー競技』にスポットを当てるのが、ある種の流行りとなっている。
この映画もご多分に漏れず、内容はステレオタイプの青春ストーリーだが、素人(特に女性)の入門編としては、それで十分だと言えた。
併せて、CMも何パターンか作られた。
そのうちのひとつが『仮面ライダーたちがレースをする』というものだ。
サイクロンやハリケーン、クルーザーやジャングラーに跨がった昭和ライダーたちが、オートレース場でしのぎを削る…というコント仕掛けのストーリー。
シュールな映像が笑いを誘う。
※他にウルトラマンver.もあるが、これはもっとシュールである。
そして、もうひとつのパターン。
こちらは映画公開を意識した作りになっており、その映像が組み込まれていた。
ここで注目を集めたのは、そのCMで流れている曲だった。
女性ボーカルの美しい歌声とハーモニー。
熱い戦いを繰り広げる男たちの映像とは真逆の…まるで子守唄のような優しいメロディ。
ことさら音量が大きくなりがちのCMの中で、一瞬『時が止まった』かと錯覚するような…静かな、しかし、確実に心に溶け入る曲…。
歌手名も曲名も公開されていない為、放送直後から協会へ問い合わせが殺到した。
だが「まだ秘密です」と、その正体を明かさない。
いわゆる『覆面歌手』である。
それを受けて、すぐにネットを中心に正体探しが始まった。
歌声から複数いるだろうことは、容易に想像が付く。
では誰か?
現役のアーティスト?
往年のアイドル?
いやいや実は演歌歌手ではないか?
ボーカロイドだろ?…という意見もあった。
ワイドショーでは『候補』と呼ばれる歌手たちの声紋分析まで行い、正体探しは過熱の一途を辿る。
それはいつしか、国民の関心事となっていた。
CMが流されてから、半月後。
webでフルコーラスが公開されるが、その反響は大きく、アクセスが集中。
すぐにサーバーがダウンした。
※営業的戦略により、敢えて公開を打ち切ったという噂もあるが、真偽は不明。
そして日本中が焦れ始めた、まさにそのタイミングで、ついに協会はその正体を明かすXデーを発表した。
次のGW…暦的には飛び石連休の平日になる木曜日…の夕方6時から…ミニライブの形式で行うとのことだった。
~つづく~