【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「うわぁ!そうきたか!!」
協会が発表した『Xデー』について聴かされたTV局の報道デスクは 、誰しもそう思ったに違いない。
GW中とはいえ、暦の上では…平日…となる木曜日の夕方6時。
通常は、ニュースを放送している時間帯だ。
協会は、いまや国民の関心事となっている『覆面歌手の発表』を、敢えてこの時間にぶつけてきた。
しかも、単なる記者会見ではなく、本人登場でミニライブを行うという。
それは生中継せざるを得ない。
他局も同様に考えているだろう。
NHKがどう出るか…はわからないが、自分のところだけ録画…というわけにはいかない。
…となれば…
その時間帯における(TVの)占有率は、かなりのものになると予想される。
下手をすると、各局の合計視聴率は、70%とか80%を超えるかもしれない。
「これこそ、まさに電波ジャックだな」
とあるディレクターは、そう呟いた。
そして当日…。
マスコミが集められたのは、小さなライブハウスだった。
ステージ上には、2本のアコースティックギターと1台のキーボードが置かれている。
18時。
時間ピッタリに、進行役の男性が登場した。
「大変お待たせしました。それでは定時になりましたので、早速、ライブを開催させていただきます。CM曲の『風の誘惑』、そして映画『オートレーサー』の主題歌『スピードの向こうへ』の2曲です」
進行役の男性は、そう案内して袖に捌(は)けた。
入れ替わりにステージに現れたのは…
眼鏡を掛けた長身と…少しふっくらした色白と…小柄だがスタイルのいい…
3人の少女だった。
会場が、少しザワつく。
…えっ?誰だ…?
そんな反応。
しかし、一部の人間はその顔を知っているようだった。
彼女たちは、一列に並んで一礼すると、向かって左から長身が左利き用のギターを、色白がキーボードを、そして小柄が右利き用のギターを準備した。
「皆さん、こんばんわ。『夢野つばさ』です」
と長身。
「『水野めぐみ』です」
と色白。
「『星野はるか』です」
と小柄。
「『シルフィード』です」
最後は3人声を合わせて言った。
「それでは聴いてください。私たちシルフィードのデビュー曲…『風の誘惑』です」
夢野つばさの紹介で、水野めぐみがイントロを奏で始めた…。
優雅なメロディと、メインボーカルを務める水野めぐみの、やわらかい歌声が会場に流れる。
それはまるで、上質なクラシックコンサートを聴いていたかのような時間だった。
演奏が終わると、会場に詰めかけた報道陣から、期せずして拍手が起こった。
「ありがとうございました。それではもう一曲、お聴きください。映画の主題歌…『スピードの向こうへ』です」
次は一転して、星野はるかの…掻き鳴らすような激しいギターリフから始まった。
フラメンコを思わせる情熱的なメロディ。
メインボーカルの…星野はるかの力強い歌声を、夢野つばさと水野めぐみのギターとキーボードが追いかけていく。
疾走感溢れる曲。
会場の熱量が一気に上がった気がした。
「ねぇ、ねぇ、ことりちゃん。この『夢野つばさ』ってさ、モデルの『AYA』って人じゃない?」
「うん。眼鏡を掛けてるけど、そうだと思う」
「まさか、あの歌を歌ってる人だとは思いもよりませんでしたね」
穂むらでTVを観ていた、穂乃果とことりと海未。
「華麗なる転身!っヤツだよね」
穂乃果は、自分のことのように興奮していた。
「かよちん、この人、フットサルの時に見たモデルさんにゃ!」
「AYAさんだね!」
こちらは凛と花湯。
「カッコいいにゃ!カッコ良すぎにゃ!」
「うん、スゴいね、凛ちゃん!」
「かよちんもいつか、あんな風にステージに立てたらいいね!」
「花湯は無理だよ。楽器なんて出来ないし」
「それは、練習するにゃ!」
「そ、そうだけど…」
…あんなに堂々と人前で歌えたら、どんなに気持ちいいだろう…
花陽はその映像を見ながら、ステージで歌う姿を投影していた。
「えりち、どうやった?」
「音楽のことはよくわからないわ…でも…」
「でも?」
「ちょっと感動したかも…」
「へぇ…」
「なに?」
「えりちにも、そういう感情があるんだ」
「当たり前でしょ…私だって普通の人間なんだから…」
「にひひ…」
「だから、なに?」
「そうやって、普段も、もう少し喜怒哀楽を出した方がいいんやない?人間なんやから…。えりちはクールすぎるんよ」
「よ、余計なお世話よ…」
絵里は希の言葉に、少し顔を赤らめて下を向いた。
にこは自宅でその様子を見ていた。
音ノ木坂に入学して、すぐにアイドル研究部を設立、自ら初代部長に就任した。
同じ趣味を持つ仲間を引き入れ『ラブリーエンジェル』を名乗り、スクールアイドル活動を始めるものの…
ひとりは転校してしまい、ひとりは『方向性の違い』から辞めてしまった。
アイドルに『なりたい』と、アイドルを『観たい』。
アイドルが好きには違いないが、その差は大きかった。
進級して、ひとり部員集めに奔走しているものの、ここまで成果なし。
そんなときに観たのが、この中継だった。
…確か…あれはモデルのAYA…
…ひとつ下だったハズ…
…浅倉さくらとならんでカリスマと呼ばれた彼女が、それに飽きたらず、新しいことに挑戦している…
…そうよ、落ち込んでる場合じゃないわ…
…アタシは諦めないわよ!…
…ひとりでも…
にこは、拳をギュッと握りしめた。
そして真姫は…
我、関せず。
これだけの騒動にも関わらず、なんの興味も示していなかった…。
~つづく~