【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
12月中旬。
大晦日に行われる紅白歌合戦の、出演者が発表された。
しかし…
そこにシルフィードの名前はない。
『シルフィード、紅白落選!!』
民放では速報が流れ、新聞は号外が出た。
これまでシングル4枚、アルバム1枚はすべてチャートの1位を獲得し、この年の音楽市場を席巻してきたシルフィード。
年末にかけて、音楽界の賞レースでは、新人賞を総なめにした。
しかし、授賞式に顔を出すことはなく、コメント等はビデオで済ませてきた。
それだけ露出が極端に少ないとあって、ファンならずとも、紅白は生で観られる滅多にないチャンスだった。
しかし、落選…。
世間の落胆の声は大きかった。
この日、NHKにはクレームの電話が鳴り止まなかったという。
だが、それは新たな憶測を生む。
『サプライズゲストでは?』
なるほど、それはあり得る話だ。
これまで、何かと極秘裏に動いてきたシルフィード。
最後まで何が起こるかわからない。
それが大方の意見だった。
さらに、その噂を裏付けるかのように…こちらも各演劇界の新人賞を総なめにした『浅倉さくら』がゲスト出演するとの情報が流れてきた。
シルフィードとさくら。
この二組はドラマで『共演』している。
可能性はなくはない。
…であるなら(就労法の関係で)21時までの前半戦に出演するハズ。
俄然、注目が集まる。
12月30日。
レコード大賞の新人賞を授賞。
だが相変わらずのビデオ出演。
その方針はブレない。
徹底している。
そして迎えた大晦日。
19時に紅白歌合戦の放送が始まった。
ステージに彼女たちの姿は…やはりない。
番組は淡々と進み、1時間が経過…。
「それでは、ここでスペシャルゲストの登場です!」
総合司会者がそうアナウンスすると、会場のボルテージは一気に高まった。
「あの『国民的アニメキャラ』が紅白の為に…」
その瞬間「あぁ~…」という声が響く。
ブーイングこそ起きなかったものの、かつて登場してこれほど残念がられたゲストがいただろうか…。
会場も、視聴者もジリジリしながら時が過ぎるのを待つ。
だが、一向にその気配がない。
諦めムードが漂い始めた20時50分…。
ここで再び司会者が、ゲストを呼びんだ。
浅倉さくらだった。
これは!
一気にボルテージが高まる。
さくらへの歓声も大きかったが、この時ばかりは、どうしてもその先の展開への期待の方が大きいように感じられた。
NHKらしく当たり障りのない…つまらないやりとりが交わされる。
「…ところで、さくらさんはモデルさんから女優さんへと転身されて、大変なご活躍だったわけですが、ご出演されたドラマの主題歌を、お友達が歌われたとのことで…」
「はい」
「…呼んで頂けないでしょうかね?」
「えっ?今ですか?…」
「無理ですか?」
「応えてくれるかな…やるだけやってみましょう…『つばさ~』『めぐみ~』『はるか~』」
さくらが大きな声で呼び掛ける。
「は~い!」
会場に流れたのは、つばさの声だった。
それだけで、どぉぅ…という、地鳴りのような声。
「さくらだよ!」
「あ~、さくら!つばさだよ!」
「めぐみです」
「はるかです」
「ドラマの時はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ…」
「レコード大賞 最優秀新人賞授賞、おめでとう」
「ありがとう!さくらもエランドール新人賞おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ありがとう…って、ごめん。身内の話をしてる場合じゃないんだ。今、どこにいるの?」
「えっと、今は…スタジオ」
「新曲のレコーディングが終わったところです」
「そっかぁ…じゃあ、今から来てなんて無理だよね?」
「どこに?」
「NHKホール」
「…ひょっとして、紅白歌合戦?」
「そう」
「それは出たいけどね…」
「行きたいですけど…」
「いろいろ無理ですよね…」
「じゃあ、そこからでも歌ってもらえないかな?」
「ここで?」
「そう」
「会場の皆さん…どうですか?」
「歌ってもいいですか?」
「聴きたいですか?」
うわ~っという声と、拍手が沸き起こる。
「…わかりました!」
「じゃあ、ちょっと準備するので…」
「少々、お待ちを…」
3人がそう言うと、ステージは暗転した。
そして…
流れてきたのは、あのCM曲『風に吹かれて』のイントロ…。
それと同時にステージ中央にスポットライトが当てられると…
そこにいたのはシルフィードの3人だった。
生シルフィードに、会場が揺れた。
ワンコーラスを歌い終える。
「こんばんわ~!シルフィードです」
「皆さんに呼ばれて、NHKホールまで来ちゃいました~」
「いやぁ、すごい盛り上がりですねぇ」
「このまま調子に乗って、もう1曲いっちゃって、いいですか?」
うぉ~!!
「それでは聴いてください…『スピードの向こう』」
はるかがギターをかき鳴らすと、めぐみが観客に手拍子を求める。
たちまち会場はライブハウスと化した。
「ありがとうございました~!!」
歌い終わりと同時に時刻は21時となり、映像はニュースへと切り替わった。
実にNHKらしい演出ではあったが、それでも出演したことに対しての評価は高かった。
シルフィード効果。
NHKが彼女たちの出演をギリギリまで引っ張ったことにより、前半戦の平均視聴率は、前年比で5ポイントほどアップした。
そしてシルフィード登場時の視聴率は…実に67%を記録。
今の時代ではあり得ない数字を叩き出したのだった。
その煽りを受けたのが後半戦で、こちらは逆に、前年比で3ポイントほど落ち込んだ。
~つづく~