【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
『チョモ』から『オレ』に連絡が来たのは、世間はまだ正月気分が抜けきれていない、1月7日のことだった。
オレは元日から『初蹴り』をしているから、あまり関係なかったが。
メールに気付いたのは、練習が終わったあとだった。
〉お久しぶりです、チョモです。
〉相談に乗ってほしいことがあります。
〉近いうちに会えますか?
〉藤 綾乃
最初はイタズラだと思った。
芸能人を装って、メールをやりとりして、多額の金額をせしめる『アレ』だ。
そもそも、オレのアドレスを知ってるハズがない。
そう思った。
だが、よくよく見直してみる。
…チョモです…
…チョモ…
…ん?…チョモ?…
そんな呼び方を知ってるのは、ほんの一握りしかいない。
それも『AYA』でも『夢野つばさ』でもなく、本名の『藤綾乃』名義で送られてきた。
…ということは?…
オレは半信半疑ながら、返信してみる。
〉前に会った公園、どこだか覚えてる?
すぐに戻ってきた。
〉○×公園だよね?
本物だった…。
それにしても、一体どうして?
オレの心は複雑だった。
今や国民的人気アーティストである夢野つばさが、わざわざピンポイントでオレにメールをよこすなんて…
何かウラがあるに違いない。
…そうだ、あれだ!…
…ドッキリだ!…
…ドッキリ?オレに?…
…あ~…訳わからん…
…だけど…
…ちょっと期待しちゃうじゃねぇか…
…いや、待て待て…
…そりゃあ、確かに昔に比べりゃ女っぽくなったし、綺麗だと思うが…
…よく考えろ…
…相手はチョモだぞ、チョモ!…
…三つ子の魂、百までも…っていうし、性格なんてそう変わるもんじゃない…
…見た目に騙されちゃいけない…
オレは、ヤツに多少惹かれつつあることを認めたくない気持ちと、そう思えば思うほど意識してしまう感情との間で揺れていた。
「お前は乙女か!!」
オレは自分自身にツッコミを入れた…。
チョモと会ったのは、それから1週間ほど経ってからのことだった。
オレのアドレスは、小学校時代の友人…オレと同じ中学に進んだ女子…から訊いたらしい。
呼ばれたのはヤツの実家だった…。
何年ぶりだろうか。
小学校の頃に何かの用で3~4回訪れたことがあったが、それ以来だ。
少しだけ迷いながら、ヤツの家に辿り着いた。
おぼろ気ながらではあるが、当時の様子を思い出す。
…確か…お母さんがメチャクチャ綺麗で、なんとなくドキドキしたような…
ひとり顔を赤らめる。
緊張しながらインターホンを鳴らすと、そのお母さんの声で返事があった。
「はい」
「あ、高野です…」
「高野くん!どうぞ…」
玄関を開けると、ヤツとお母さんが出迎えた。
…ヤベェ…
…お母さん、相変わらず綺麗じゃん…
…しかも、なんか、いい匂いがするし…
確かオレの母親より、5歳ほど若いはず。
どうしても比較してしまう。
「いらっしゃい」
「お、お久しぶりです…」
「さぁ、入って…」
「し、失礼します…」
…なんだ、この緊張感は…
「いつ以来かしら?」
「多分…小6ですかね?…発表会の打ち合わせかなんかの時に、お邪魔したのが最後だったかと…」
「あったわね…そんなこと…。あ、自分の部屋に行く?」
お母さんはジュースとお菓子をお盆に乗せながら、チョモに訊いた。
「うん」
ヤツはそう返事をすると、オレを自分の部屋へと連れていった。
オレはヤツに続いて部屋に入った。
当時は、バレーボールのユニフォームがハンガーに吊るしてあるだけで、かなり殺風景な感じだったと記憶している。
それが、今は…
すっかり女子の部屋だった…。
薄いピンクを基調としたカーテンやベッドカバー。
窓際に並んだ沢山のぬいぐるみ。
それと、几帳面に整理されたカラフルなアクセサリー。
ドラマのセットか、モデルルームか…。
そんな印象。
唯一、壁に立て掛けてある2本のギターが不釣り合いで、違和感を覚えた。
…あぁ、そうか。今やアーティストだもんな…
数年前には想像も付かなかったこと。
TVでさえ、生でお目にかかることができない『夢野つばさ』が、ほんの数十cm先にいる。
不思議な感覚だった。
「漁らないでね」
「するか!」
…と言ってみたものの、そりゃ、物色してみたくなるシチュエーションではあるよな…
「ごめん、その辺に座って…」
「あ、あぁ…」
オレは促されて、部屋の中央にあるガラスのローテーブルのそばに、腰をおろした。
「前に会った時は…モデルになる前だったか…」
「うん…」
「すごいな…あれから超人気モデルになったかと思ったら、まさかの歌手デビュー…」
「まぁね」
「紅白まで出ちまうし」
「それについては、私が一番驚いてたりして…」
「オレの周りでもすごい人気だぜ」
「ありがとう…。ちなみに高野くんは誰推し?」
「えっ?オレ?…オレは…水野めぐみ?おっぱい大きいし…」
…本人を目の前にして『つばさ推し』とは言えないだろ…
「スケベ!」
ヤツはそう言うと、オレを見て笑った。
「それにほら、誰かと違って優しそうだし…」
「そうね。私は胸がなくて、性格がキツいもんね」
「いや、チョモ…じゃない…夢野つばさは、女子人気高いぞ。ほぼ全員、つばさ推しって言っていいくらい」
「それって誉め言葉?」
「…のつもりだけど…」
「あ、そう…ありがとう」
…なんだよ、随分丸くなったなぁ…
…昔なら、こっちが反撃できないくらい強い口調で攻め立てきたのに…
「それより、わざわざ自宅って?」
オレは疑問のひとつをぶつけた。
「うん、ここなら人目を気にしないで話ができるでしょ?」
「あ…あぁ、まぁ…」
「自惚れてるわけじゃないけど、外だと色々気を使うし、ゆっくり話せないから…」
「なるほど…。ってか、自宅に男を連れ込むことの方がマズくない?」
「その為にお母さんがいるんだもん」
「ほほう…」
「そうすれば、変な気を起こさないでしょ?」
…そういうことか…
…いや、そのお母さんにも、変な気を起こしそうなんだけど…
「シルフィードってね、風の妖精なんだよ。知ってた?」
「あ、いや…。女子のサッカーチームに、シルフィードってあるのは知ってるけど」
「えっ!?知ってるんだ!『大和シルフィード』」
「そりゃあ、地元だし」
「やっぱり高野くんに来てもらって良かった」
「ん?」
「実はね、相談はそのことなんだ」
「あぁん?」
「誘われてるの、シルフィードに」
「はい?」
オレは何を言ってるか、まったく理解できなかった…。
~つづく~