【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
※本文に登場するチームは実在しておりますが、もちろん本作品とは一切関係ありません。
『大和シルフィード』。
オレたちの地元にあるアマチュアの女子サッカーチームだ。
全国的な知名度は低いが、なでしこジャパンの選手を何名か排出している、知る人ぞ知るクラブ。
※後書きに詳細を記載してます。ご参照ください。
…そのシルフィードに誘われた?…
「キャンペーンガールかなんかで?」
「ううん、選手として…」
「マジか!」
「それが、本当なの…」
「いやいや…それはいくらなんでも無謀だろ。そもそも、どうして…」
「私ね、今、フットサルやってるの」
「あぁ、それは知ってる。…まだ、続けてるんだ?」
「うん」
「何でもデビュー戦で『えげつないほどの左足』のシュートを放って、お笑い芸人の歯を折ったとか、折らないとか…」
オレはそれを知った時、小学生の頃のヤツを思い出した。
ドッジボールで顔面にボールをぶつけられた被害者が、何人いたことか…。
だから、リアルタイムで見ていなくても、なんとなく、その様子は想像できた。
「折れたんじゃなくて、欠けたの!」
「似たようなもんだろ?その左足は『かのん砲』って呼ばれてるらしいじゃん」
「『K-アヤノ(ん)砲』ね。『かのん』だと『水野めぐみ』になっちゃうから」
「何の話だ?」
「何でもない。…でも、詳しいのね?」
「まぁ、一応は…。スポーツ新聞にも載ってたし」
「それでね…私のチームのコーチが…元Jリーガーなんだけど…その人が『是非サッカーに挑戦するべきだ』って。『フットサルじゃ、もったいない』…って」
「石井だっけ?」
「うん」
「怪我が無ければ、代表までいった選手だよな?」
「そうなんだ?」
「それは知らないんだ?中盤の底をやってた選手で、とにかくマークがしつこい…って…おい、全然興味無さそうだな…」
「ごめん…」
「まぁ、それはいいとして…いくら女子とは言え、そんな甘いもんじゃないだろ」
「だよね…」
ヤツはうん、うんと二度ほど頷いた。
「それで?まさかと思うが『シルフィード繋がり』で、声が掛かったとか?」
そんな単純な…と思いつつ訊いてみた。
「実は…そうなの」
…図星か…
「大和シルフィードの社長さんが…今はアマチュアチームなんだけど、数年後には『なでしこリーグ入りを目指す』みたいで。『名前が一緒なのは何かの縁だから、一緒にイベントをしないか』って事務所に声を掛けてきたのが始まりなの…」
「まぁ、それなら話はわかるが…」
「これも偶然なんだけど…私が生まれ育った街のチームだし…」
「あぁ、それは確かに…」
「それで、たまたま、私がフットサルやってて…名前が『つばさ』で…」
「待て、待て!名前が『つばさで』…って…『キャプテン翼』か?」
「うん…私はあんまり知らないんだけどね…」
「それは『こじつけ』だろ?」
「やっぱり?」
「普通はそう思う」
「そうね…。まぁ、そこから石井コーチの薦めもあって『だったら選手に挑戦してみれば』…って」
「強引過ぎないか?」
「そうだよね…でも…やってみようかな…って」
「えっ?」
「サッカー」
「いやいや…さっきも言ったけど、それは無謀だって。確かにお前が運動神経いいことは認めるし、フットサルでもそこそこ活躍してるらしいことは知ってる。だけど、そんな今から始めて通用するほど甘くないし、それはこれまでやってきた人への冒涜だと思うぞ」
オレは少しムッとした。
バレーボール、モデル、アーティスト…フットサル…。
ここまでの経歴は見事だと言わざるを得ないが、ことサッカーに関しては、オレの『本業』だ。
簡単に「頑張れよ」とは言えない。
それを察してか
「怒るよね、普通…」
と、チョモは苦笑いした。
…なんだよ、その寂しそうな笑い方は…
「いや、怒ってるわけじゃないけど…」
その顔を見て、一瞬、気持ちが揺らいだ。
「ううん、そうだと思うんだ」
「まぁ、挑戦する、しないはチョモの勝手だけど…相当、叩かれるぞ」
「うん。やるからには全力で取り組むつもり」
「そうか…」
「でね…」
「うん?」
「教えてほしいんだ…サッカー」
「あん?」
「入団は3月なの。だからそれまでに、やれることはやっておきたい」
「え…あ…それは構わないけど…なんでオレ?」
「だって、今、サッカーの代表なんでしょ?」
「U-18の…な。あ、いや、だけど…」
「それに前に会った時、言ってくれたじゃない」
「ん?」
「『なにかあったら力になるよ』って」
…言ったっけ?…
…言ったな…そういえば…
…っつうか、よく覚えてたな…
「…しかたねぇなぁ…そういう話なら断れねぇな」
…その記憶力に免じて協力してやるか…
「ありがとう」
ヤツは正座をすると、三つ指をついて深々と頭を下げた。
「フットサルとサッカーはまったく別物だぞ」
「うん」
「まぁ、サッカーゲームでもやって、ルールからなにから、ひとつひとつ覚えていくか…」
「うん」
「時間ないぞ」
「わかってる」
「責任重大だな」
「よろしくお願いします」
改めてチョモは頭を下げた。
「ところで、オレはなんて呼べばいい?…つばさ…かな?」
「ふたりの時は…チョモでいいよ…」
「そうか…。オレからすると、背はそう変わらなくなったから、もうチョモ…っていうほどの差は感じてないんだけどな」
「でも、つばさだと、ちょっと…」
「了解!それならそれでいいや。オレもつばさだと緊張するし」
それからオレは時間を見つけて、ヤツにサッカーのレクチャーをした。
~つづく~
※大和シルフィードは、私の出身地にあるサッカーチームであり、当時、そうなればいいな…という願望を込めて書いていましたが、数年後、現実となって嬉しい限りです。
【大和シルフィード】
1998年4月に創設。当初は全員が中学生で構成された。
U-15年代には約70名の選手が所属しており、2013年のU-15選手権の全国大会では3位を獲得した。
日本女子代表の川澄奈穂美や上尾野辺めぐみ、杉田亜未など多くの女子サッカー選手を輩出している。
2012年6月、特定非営利活動法人(NPO法人)資格を取得し、2013年度より加入。
2014年3月1日には日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)への参入を目指し、トップチームを設立。
その際、元日本女子代表の小野寺志保が現役復帰している。
2019年になでしこリーグへ昇格することを目標としており、神奈川県女子サッカーリーグ1部に加入。
2014年11月に行われたチャレンジリーグ参入決定戦にて、2015年からのチャレンジリーグ昇格が決定した。