【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
夢野つばさが、サッカーチームの入団発表を行ったその日…
矢澤にこは、忸怩(じくじ)たる思いで、秋葉原の駅前にある巨大ヴィジョンを眺めていた。
…本当ならアタシが、ここに映し出されるハズだったのに…
にこの視線の先には…
『ラブライブ』優勝チームの『A-RISE』が、軽快なステップでダンスをしていた。
にこの憧れの存在。
だが、彼女のプライドを傷付けたのもA-RISEだった。
…今に見てなさい!…
にこの心は、ファンと敵対するライバルとの間で揺れていた。
遡ること、十ヶ月ほど前…
世間では覆面歌手がどうのこうの…と大騒ぎになっている頃、密かにあるイベントの開催が発表された。
それは『ラブライブ』と銘打たれた、スクールアイドルたちの大会だった。
スクールアイドルという…サークルとも部活とも言えるグループは、これまでにも存在していた。
しかし、それに対する『確固たる定義』があるわけではなく、各々バラバラに活動している為、世に知られることは余りなかった。
にこも、そのスクールアイドル活動を行っているひとりである。
しかし高校に入学してすぐ、アイドルに憧れる『仲間』と共に『ラブリーエンジェル』というユニットを組んだものの…1年もたずして解散。
※詳細は#82486『Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~』の『にこ編』を参照願います。
新たな仲間を探している最中に入ってきたのが『ラブライブ開催』のニュースだった。
全国のスクールアイドルが、そのパフォーマンスを競い合う初めての大会は、ネットに動画をアップして、視聴者からの投票で優勝チームを決めるとのこと。
参加資格は以下の四つ。
プロでないこと。
高校生であること。
サークル、もしくは部活として活動しており、参加に際しては学校に届け出て、許可を得ること。
そして複数人数(グループ)であること…。
※この時点ではオリジナル曲でなくても構わなかった。
スクールアイドルである為には、学生であることを証明しければならない。
それはつまり、学校名が公表されること。
だからこそ、所属する学校に許可をもらう必要がある…。
そんな理屈だ。
しかし…
音ノ木坂のように、伝統的な…言い換えれば古風な学校から、ラブライブ参加の許可を得ること自体、とてもハードルが高い。
いや、それよりも…
一番のネックは、やはり『複数人数であること』ということだった。
1人単独での参加を認めてしまうと、エントリー数が際限なくなる…ということは、容易に想像ができる。
それに個人の戦いならば、カラオケ大会でもやればいい。
しかし、ラブライブの趣旨はそうではなかった。
イメージするところは高校野球…甲子園か。
だから個人参加だと『学校対抗』『地区代表』的な意味合いも薄れてしまう。
仲間と協力しながら作品を仕上げていく…そんな青臭い…ある意味、大人が『理想とする若者像』が、主催者にはあった。
…ふん!アタシひとりで充分なのに!…
参加資格を満たしていないにこは、そう毒付いた。
辛うじて『アイドル研究部』ではあるものの、今は他に部員がいない。
参加するには、急ぎ仲間を集める必要がある。
エントリーの締め切りは、夏休みが終わる8月末。
その後、専用サイトにアップされた映像に、閲覧者が投票。
最終的に得票数の多かった…ランキング1位のチーム…が優勝となる。
2年生に進級したにこは、新入生を中心に、必死に部員の勧誘を行った。
強風でビラが飛ばされても…雨にその文字が滲んでも…。
それでも、成果は得られず…
無情にも春は過ぎ…あっという間に夏休みも終わってしまった。
にこはこれにより、夏が終わったばかりだというのに、部室に籠り、半年近くも冬眠のような放課後生活を送ることになる。
ラブライブはというと…エントリーは締め切られ、いよいよ投票開始。
その直後から、とてつもない勢いで票を伸ばしていったのが『綺羅ツバサ』『結城あんじゅ』『統堂英玲奈』の3人組…音ノ木坂とは目と鼻の先にある高校…UTX学院のスクールアイドル…
『A-RISE』。
にこの最初の印象は…
「『シルフィード』の二番煎じじゃない…」
…だった。
この時、シルフィードは既に正体が明らかになり、日本中に旋風を巻き起こしていた。
確かにA-RISEの3人は、容姿だけを見れば、雰囲気が似ていると言えなくもない。
スラッとした長身の『英玲奈』が『つばさ』、色白で胸が豊かな『あんじゅ』は『めぐみ』、小柄な元気者『ツバサ』は『はるか』…と、それぞれがどことなく『キャラ被り』していた。
…これで、この長身の名前が『ツバサ』だったらモロなんだけど…
冷ややかな目で動画を眺める、にこ。
しかし、すぐに最初に持った印象を、全面否定することになる。
…スゴいわ、この人たち…
…ダントツじゃない!…
途中経過ながらランキングの1位をひた走る彼女たちの、パフォーマンス…クオリティの高さに目を奪われた。
…これがスクールアイドル?…
…まるでプロ…
にこは自分の『アイドルスキル』に絶対の自信を持っていた。
ルックス、飛びきりの笑顔、愛らしい仕草…歌やダンスがそれほど上手じゃないことも含めて『でも、それがアイドル』…そう思っていた。
だが…
一瞬でその概念を吹き飛ばされてしまった。
…アタシ、この人たちに一生ついていく…
矢澤にこが、A-RISEに心を奪われた瞬間だった。
「かよちん、なに見てたにゃ?」
花陽の部屋に遊びに来た凛は、机の上に置かれている開きっぱなしのPCを見て、彼女に訊いた。
「あ、これ?えっと…『ラブライブ』っていう、スクールアイドルたちの大会だよ」
「ラブラブ?凛とかよちんのことみたいにゃ」
「ラブライブだよ」
「ふ~ん…」
「ごめんね、凛ちゃんには興味ないよね?すぐ消すから」
花陽は慌ててPCの画面を消そうとする。
「見てる途中なら、凛も一緒に見るにゃ」
「うん、じゃあ、ちょっと…この『A-RISE』だけ」
「わかったにゃ…って、この人たち、誰?」
「何を隠そう、この人たちは、あのUTX学院のスクールアイドルなんだよ!」
花陽は、なぜか自慢気に言った。
「へぇ!スゴいにゃ!!…って…スクールアイドル?」
「あはは…だよねぇ…。あのね、凛ちゃん、スクールアイドルとは、基本的に学校の中でアイドル活動してる人たちのことを言うんだよ」
「部活?」
「う~ん…部活だったり、サークルだったり…ただ単にお友達同士だったり…」
「何をするの?」
「何って…本物と同じような衣装を着て、同じように歌って踊って…アイドルを疑似体験する…っていうのかな…」
「かよちんもやってみたい?」
「う~ん…私は見てるだけで充分なんだ…」
花陽は両の手を胸の前で組むと、モジモジしながら人差し指を擦り合わせた。
「かよちん…」
…凛、知ってるよ…
…それは、かよちんが嘘を言うときの癖なんだにゃ…
「あっ、ち…違うの、凛ちゃん!凛ちゃんにも、この人たちを見てほしいんだ」
凛が自分の手元をジッと見ていることを悟った花陽は、ひとり言い訳をした。
「このUTX学院の人?」
「そうなの!!この人たちね、A-RISEって言うんだけど、他のスクールアイドルと較べて、歌もダンスもプロ級で…って…ごめん…つい興奮しちゃった」
「ううん、凛はアイドルを熱く語るかよちんも大好きにゃ~」
凛はいつものことと、気にも止めていない。
むしろ、好きなことに夢中になる花陽を見る方が、凛は好きだった。
…いつか、凛にも、これくらい夢中になってくれたらいいのににゃ…
花陽の顔を見るたびに、凛はそう思っていた。
「凛ちゃん?」
「にゃ?」
「どうかした?」
「ううん、別に…あ、でも、かよちんがそこまで言う…ってことは、相当スゴい人たちなんだね」
「うん、なにもかも…今すぐデビューしてもおかしくないくらい」
「そうなんだ…かよちんがそう言うなら間違いないね!あ、ねぇ、かよちんもUTXに行けば、この人たちに会えるんじゃない?」
「えっ?」
「高校…」
「…」
「えっ?凛、おかしなこと言った?」
「あ…ううん、そんなことないよ…。お母さんはUTXに行けば…って言ってくれてるんだげど…」
「ダメなの?」
「ダメってわけじゃ…」
「だったら…」
「うん、そうなんだけど…花陽にはちょっと合わないかな…って…」
「なにが?」
「校風っていうのかな?」
「あぁ、それは凛もわかるにゃ!なんかみんな、意地が悪そうな感じがするもんね…」
「そこまでは言ってないけど…。それで凛ちゃんは?」
「凛は…かよちんと同じところに行くにゃ!」
「花陽は音ノ木坂に行こうかと思ってるんだけど…」
「うん、じゃあ、音ノ…にゃ?…音ノ木坂?」
「う、うん…」
「にゃあ!む、無理にゃ~!凛には無理にゃ~!」
「あ、無理して同じ学校じゃなくてもいいんじゃ…」
「…うぅ…酷いにゃ、かよちん!かよちんがいない学校生活なんて、ラーメンのないラーメン屋さんみたいなものだよ!凛には、そんなのあり得ないにゃ!」
「う、うん…ごめん…。わかったような、わからないような例えだけど…」
花陽はちょっと困ったあと、軽く微笑んで凛に言った。
「それじゃあ、凛ちゃん。もう少しだけ、お勉強頑張ろう!わからないところは花陽が教えてあげるから…」
こうして、凛の受験勉強はスタートしたのだった…。
A-RISEが優勝を決めたのは、大晦日のこと。
シルフィードが紅白に出演する、数時間前…。
にこと…花陽(と凛)は、行き交う人に紛れながら、秋葉原駅前の大型ヴィジョンに流れる『祝 優勝』の文字と、彼女たちのパフォーマンスを見て、地味に盛り上がっていた。
その日、その時、その場所で、3人が居合わせていたことは、数年経ってから発覚するのだった…。
~つづく~